6話 入学式の代表は?
やっと登場人物がまとまってきたので、徐々に出てくる予定です。男子も、何人か出てきます。
今週も2話続けての投稿となります。登場人物がある程度で揃うまでは、2話ずつの予定でいます。
※現在、見直しの為、改稿しております。当初より1000文字程度を追加しております。内容も分かりやすくなるように、心掛けました。
改めて、よろしくお願い致します。
愈々《いよいよ》、入学式が始まる。体育館に集まり、ざわざわと騒いでいた生徒達も、式が始まった途端にシンと静まっていた。
校長先生の長い挨拶も終わると、あっという間に入学式は終わりとなる。因みに、校長先生は、中等部と兼任であり、中等部の入学式・始業式は既に終了している。
『名栄森学苑』の理事長、つまり、遠縁の小父様が理事なのですが、表に顔を出すことは滅多にないのです。生徒達だけではなく、教師陣も一部の人間しか、小父様のことは知らないと思う。
遠縁の小父様は、仕事に対してはやり手である人なのに、人付き合いになると苦手な気儘タイプであり、小父が就任してから、理事長の挨拶がなくなったらしい。
入学式は終了し、少し休憩が入ってから、引き続き始業式が始まる。新入生の保護者が退場してから、在校生達が入場してくると、再び騒がしくなる。
始業式が始まって会場が静まった。2度目の校長先生の長い挨拶があり、順調に進んで行く。始業式の最終段階となり、先ず、在校生代表が呼ばれた。
「在校生代表、羽柴 元輝」
代表の在校生は、中等部で生徒会長だった人で、私達もお世話になったこともある先輩でもあり、現在3年生である。実は、意外な人の知り合いでもあったりする。
羽柴先輩は大きな声で返事をして、階段を上がって舞台の上に立った。
2年ぶりに会った先輩は、まだ幼さが残ってはいるけれど、今は男性という感じが強くなり、背も伸びていて、声も一段と低くなっていた。
相変わらず眼鏡が印象的な人で、名前を呼ばれていなければ、誰だか気付けなかったぐらいに、顔つきが大分変わっている。
この高等部でもそうなのだけれど、生徒会は、中等部では部活動と同じと見做す存在である。つまり、生徒会に入れば、他の部活に入れない。その逆も、また然りである。私達は、演劇部に所属していたので、予算の関係で交渉したことがあった。
部長が交渉に苦戦していたので、夕月が知恵を貸したこともある。
以前のことを懐かしく思い出している間に、羽柴先輩の挨拶は終わったようだ。
「新入生代表、北城 夕月」
夕月は、すぐ舞台下の椅子に座っていたようで、大きく返事した後に立ち上がる。階段を上がって舞台の上に立つ。隣に座っていた夕月が、入学式が終わった後に「暫く、席を外すよ。」と、始業式が始まる前に退席していた。
その為、始業式開始からは、隣の席は空席になっている。
あぁ、やはりそうだったのね。何も聞かされていなかったけれど、夕月が新入生代表になったのね。夕月はずっと首席なのだから、当たり前ですわね。
A組だけではなく、内部生の新入生も、そして在校生まで、新入生代表が夕月だと分かると、ざわざわと騒がしくなる。まあ、仕方ないですわ。内部生で知らない人は居ないくらいの、有名人なのですから。
夕月が舞台上に現れると、キャーキャーと叫んでいる女子生徒も大勢いた。
「北岡く~ん」と呼ぶ『北岡コール』が、あちこちで起こっている。
相変わらずだなぁ。私は苦笑しながら、高みの見物の気分である。
夕月が綺麗なお辞儀をすると、途端に静かになった。
こういうところは、本当に皆、令息令嬢らしくてお行儀がいいのです。
夕月は、まるで何もなかったかのように、新入生の挨拶を読み上げる。
口調も丁寧でふざけた様子もなく、ごく普通の挨拶である。
夕月の場合は、全て暗記している為、紙も開かずに静かに読み上げて行く。
声も、本来の声である、女性らしい声の範囲内である。真剣な真面目な表情で、暗記している挨拶を、感情を込めて読み上げて行く。
そして、挨拶の口上が全て終了したと思われた、その瞬間、突然打って変わって、いつもの低めの声と口調で、元気よく言い切ったのである。
「高等部では、演劇部改め、映像部の『北岡』をよろしく!」
一瞬の間の後に、体育館は「わ~」とか「きゃー」とかの大歓声が起こり、それはもう今まで以上の騒然となった。もう、割れんばかりの拍手と喝采である。
夕月は、この状況を目視してから、満足したような表情をして、階段を下りて来ると、舞台下の椅子に着席した。
私の立場から一言言わせてもらうと、「あら、まあ。やらかしましたわね?」と、いう感想になる。これで、この高等部でも、1番の有名人になったことでしょうね。進行係がこの騒がしい真っ只中、「これで始業式は終わります。」と告げる。
あれって、映像部の宣伝ですよね?何をしていますの?夕月~。
今は、クラスごとに順に体育館から退席している。H組から退場しているので、A組はまだまだである。その最中に、やっと夕月が隣の席に戻って来た。
A組の生徒達は、夕月と元々同窓生なので、「目立ってたぞ!」とか「挨拶、凄く良かったわ。」とか、よくやったな、という感じの好意的である。
ただ、女子の皆さんの会話には、ハートマークが付いていますわね?
「ん?あれは、映像部部長から頼まれただけ、なんだけどね?」
「え?映像部の部長って、中等部の時の演劇部部長のこと?」
クラスの生徒に返答した夕月の言葉に、私は耳を疑う。映像部部長から頼まれたなんて、私は初耳だったのだから…。高等部の『演劇部』が、部の名称を『映像部』に変更したのは、知っているけれど…。
えっ、まさか?あの部長?私達の部活の部長だった人?
「そう。赤羽根部長だよ。あの人も、相変わらずだよね。」
そう…、そうなのね。やっと納得出来ましたわ。あの人ならそういう人ですわね。
使える物なら、何だって使う人だもの。だからって、私達の入学式の挨拶を、利用しないでほしいわ。はぁ~。ドッと疲れが…。
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あれから、A組の生徒達も教室に移動となった。このクラスでは、夕月と私を知らない人なんて居ない。但し、私の方は、若干顔だけ見覚えある人とか、顔も知らない人とか、結構居るのです…。特に男子は、全く覚えていません。
そういう訳で、担任がクラスに来ると、必ずといって始まるのが自己紹介である。
「さて、このA組は、中等部からの持ち上がりの内部生ばかりのクラスだ。当然だが、知り合いばかりだろう。しかし、それでも一部の生徒が、名前を知らない者も居るかも知れないからな。一応、念の為に、これからクラスのみんなに、自己紹介をしてもらおう、と思っている。」
担任が、ここで一旦言葉を切って、教室内を見渡すように顔を動かした。
「ではまず、私から、見本がてら自己紹介をしよう。私の名前は『本田 愛彦』だ。担当は数学。趣味は、数独やクロスワードなどを解くことだ。3年間の間クラスが変わることはないが、担任も同じく変わらないからな。これからの3年間、よろしく頼む。」
担任の自己紹介が終わると、すぐに生徒達の自己紹介が始まった。まず男子ア行から順に始まり、男子が終了次第、女子の番となる。女子も同じくア行から進み、遂に夕月の番が来た。夕月の次は、私の番になる為、緊張で手が震えてくる。
「北城 夕月です。得意科目は、特になら体育。趣味は、…今はバイクに乗ることかな?最近、免許を取ったので。以上、宜しく。」
いつもの口調で、さらりと自己紹介する。拍手と共に「おー、スゲ~な。」とか、「かっこいい。」とか、クラスの生徒がガヤガヤと騒ぎ出す。また女子の会話はハートマークが付いていますわ!女子の皆さん、瞳がウットリしてますもの。
担任教師は「バイク、持ち上げられるのか…。」と感嘆していらっしゃる?
夕月が、本来なら1学年上であることは、教師陣は兎も角、生徒達にも割と知られている事実だったりする。だから、バイクの免許を取ったと話しても、誰も疑問に思わない。
さて、愈々、私の番である。お嬢様らしく、なるべく静かに立ち上がり、背筋を伸ばして自己紹介する。私は九条家の娘、と繰り返し心の中で唱えながら。
「九条 未香子と申します。得意科目は、国語と音楽ですわ。趣味は、ピアノを弾くことと、読書ですの。以後、よろしくお願い致しますわ。」
ふう~。緊張したわ~。拍手を聞きながら、再び椅子に着席する。
クラスの誰かが「流石、九条家のお嬢様。」と、話していたみたいなの。
別に、ピアノを弾くことが趣味ぐらいで、お嬢様扱いしないで欲しいですわ。
やっぱり1番反響があったのは、夕月でしょうね?
まぁ元々、始めから皆の注目度が違うのですから、他の生徒と比べること自体が、おかしいのですけれど。
こうして、自己紹介は無事終了したのである。
次回から、時々、主人公達以外の人物視点があります。(脇役視点です。)
主人公(夕月)目線は、そのうちあるかもしれません。




