68話 真実 ~萌々花~
今回も、前半・後半共に、萌々花視点となっています。
『ある人物』が乱入した状態から、スタートしています。
内容は、やや深刻めの内容が入っています。
私達が今居る教室の扉が、いつの間にか知らない間に開けられていた。そして、その開けられた扉に凭れ掛かるようにして、ある人物は立っていたようだ。
しかし、その人物は、身体を折り曲げる様にして、何故か大爆笑をしていたのだ。え~と…。何で…この人が、ここにいるのだろうか?会長さん達に、この人も呼び出されたのだろうか?振り返って見ると、会長さん達も大きく目を見開いていた。
…あっ、これは…違うな…。一体…何処から、話を聞いていたんだろうか?
この人は、何がそんなに可笑しいのか、私達と目が合っても大笑いしている。
ここに居る私以外の女子生徒は、全員固まっていた。それは…そうだろうね。
だって…笑っているこの人は…、今の話していた中心人物なんだもん…。
「…そこで何してるの?北岡君…?」
「ふっはははは……。…ん?…何って、物騒な事件が起こるかなって、聞いたんでね。くくくっ……。」
「…え~と…物騒な事件?」
会長さん達が、完全に固まっているので、私が代表して訊いてみた。勿論、呆れ顔で、何を笑っているのとばかりに…。それなのに、北岡君は全く気にせず、まだ笑い足りないという雰囲気なのだ。
北岡君は笑いながらも、その合間に答えてくれたけど、意味が分からないよお。
眉を顰めて訊き返せば、漸く真面目な顔に戻って、折り曲げていた身体を起こす。
教室の扉に凭れたまま、こちらを真っ直ぐ見つめてくる。
う~ん。北岡君、ホントに女子なの?無駄にカッコイイポーズなんだけど…。
分かってやっているのかな?…う~む。女子だと分かっていても、カッコイイよ。
この学苑の内部生の女生徒達が、憧れる気持ちがよく分かる。
そうか…そうだよね?北岡君とお近づきになりたい生徒は、沢山いるわよね?
女子友として考えていた私は、周りから完全に浮いてるのかも。
「…会長達が、物騒な密談をしていたって聞いてね?まさかと思って、一応確認しに来たわけ。そしたら…さっきの話が聞こえてね?いやあ…君達って、話が全く噛み合ってないからさ。萌々が天然っぽいとは思っていたけど、これ程までとは思ってなくてね…。可笑しくて…。こんなに大笑いしたのは、久しぶりだよ。」
「…ええっ?!物騒な密談って…私達のことなの?……。」
北岡君の言葉に、会長さん達全員が、顔を見合わせて驚いている。自分達は、そういうつもりもないんだから、ビックリだよね?…うん、今なら分かるわ。
彼女達は、混合リレーの練習前に、私と北岡君が仲良く話していたのを、きっと見ていたのだろう。それを見て、虐めになるかもと心配してくれた。
きっと私を呼び出す前に、何処かで話し合っていたんだね。それを誰かに見られて、誰かから聞いた北岡君が…心配してくれたのかな?そう思うだけで、胸の奥から温かくなる。…うん?…今、北岡君、私が天然とか言わなかったっけ?
疑いの眼差しで、ジッと北岡君を見つめていると、一瞬だけ目線が合う。
でもすぐに北岡君は目を逸らし、ファンクラブ会員というより、会長さんに目線を合わせてから、また話し出す。
「大丈夫だよ。萌々は、裏が全くない子だからね。馬鹿正直というか、天然と言うか、鈍臭いと言うか、兎に角、未香子に対しても悪意を持っていないよ。それに、彼女はあの子と違って、自分の意見をはっきり言うタイプだしね。そういうことだから、心配しなくても大丈夫。」
「…北岡君が、そう仰るのでしたら、私達はもう…何も言うことはありませんわね。単なる杞憂で良かったですわ。」
…え~と。私、帰ってもいいかなあ?…。もうっ!北岡君、言いたい放題言ってくれて…、フォローされたのか、馬鹿にされたのか、複雑な気分になる。
褒められたようにも思えないし、貶された感が強いんですけど…。北岡君が女子でなければ、一発殴りたい気分だったかも…。
ある意味、女子にしておくのが勿体ないぐらい、清々しているよね?
私が不穏な空気を放っている間に、会長さん達は全員、教室を去って行った。
残されたのは、私と北岡君の2人だけで…。暫くの間、教室は静まり返っていた。
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「…北岡君。…もしかして、助けに来てくれたの?…そういうことなら、心配してくれて…ありがとう。」
「…ん?…まぁ…ね。お礼を言われる程のことは、何もしてないよ。多分…彼女達なら、大丈夫かと思ったんだけどね。一応、知った以上は、確かめないと…ね。確認だけにしようと思って来たんだよ。なのに…お互いの話がかみ合ってないし、お互いに意思疎通が出来てないしで…。ふっ…面白過ぎるよ…。くくっ…。」
今は、教室の中には、私と北岡君しかいない。暫くはお互いに無言だった。それに耐え切れなくなった私は、何か話さなきゃと言う感じで、北岡君に話し掛ける。
そう言えば、助けてくれようとしてくれたんだよね?まだお礼言ってなかったよ。私は、慌ててお礼を言う事にした。礼儀を知らない子だと、思われたくないもん。
でも、北岡君の返答は、別にないもしていないから、気にしないでいい、という返答だった。然も、私達の会話をずっと聞いていたみたいで、面白過ぎって、何よ!
また軽く笑い出した北岡君に、私はムッとした顔をする。確かに…噛み合っていない感じはしたけど、そんなに笑うところ?……むうっ。…北岡君って、ただ単に、笑い上戸だけなんじゃないの?
「…くくっ。いや~、でもさ。良いんじゃない?…萌々は、それで。」
「…えっ?…何のこと?」
私は頬を膨らませ、それなりに怒っていた。しかし、北岡君の言う言葉に、意味が分からず聞き返す。北岡君は、唯々、笑顔を返してくるばかりなのよね…。
ホント…北岡君って、頭良すぎて何考えているのか、イマイチ分かりにくい。
未香子さんも、よくこういう北岡君に付き合っているよね?
学苑の入学式以来、北岡君に振り回されてばかりな気がする。正真正銘の女子の筈なのに、話しているうちに、男子といるような気がしてくるからね…。
本当に、不思議な人だよね。…北岡君って。変わった人だと思っても、心底嫌いにもなれないよお…。
「私もそろそろ…部活に戻らないとね。萌々も、部活があるんじゃないのかい?参加しなくていいの?」
「……あっ ‼ そうだった!部活に行くとこだったんだ!」
部活に行かなくていいのかと、北岡君が訊いてくれたお陰で、やっと思い出した。ココに来る前に、部活に行こうとしていたのを。…すっかり忘れてた!
慌ててスマホを取り出し、時刻を確認して見れば、思ったよりも大分時間が過ぎていた。ヤバい!部長に怒られる!うちの部長、遅刻に厳しいのよね。どうしよう。
…絶対に怒られる。今日は、何周か校庭を走ることになりそうだわ。
私の頭の中は、既にパニックに近い状態だ。どうやら、私、相当態度にも出ていたみたい…。また、クスクスと笑う声が聞こえてくる。
…北岡君。他人事だと思って、笑っているんでしょ?
「陸上部の部長は、相当厳しいみたいだね?遅刻したのは、私の所為でもあるから、一緒に行こうか?」
「えっ?…北岡君も部活あるんでしょ?」
「うちの部は、そういう事には寛容だからね。それより、陸上部の部長には、私から話を通した方がいい。」
「…ありがとう。助かるけど…。でも、いいの?内密の話なんでしょ?」
「それは、大丈夫だよ。陸上部の部長は内部生だから、ある程度の事情は知っている。それに、内密とは言うけど、内部生なら皆、知っている話だよ。」
「…えっ…そうなんだ。………。」
北岡君は、うちの部長の厳しさを知ってるみたい。一緒に行こうと言ってくれる。
でも…悪いなあと思って、断ろうとしたんだけど、如何やら北岡君は、自分の所為だと責任を感じてくれていて。うちの部長のこともよく知っているのか、説明をしてくれるようで、正直助かるなあ~。
しかし…内密の内容が、内部生なら誰でも知っているとは…。虐められた人は当然だけど、虐めた人までも、何だか可哀そうな気がして…。ちょっぴり同情してしまう。そんな私の気持ちに気が付いたのか、北岡君はきっぱりと言い切った。
「もしかして…同情とかしてる?それなら、必要ない。首謀者の子達は、例えどんな理由があろうと、同情の余地はないよ。多勢に無勢の状態だったあの子は、誰にも言わずに、只管自分の演技を磨いて、あがり症も克服しようとしていたんだ。
だからこそ、あの子とは正反対の態度だった、首謀者の女子生徒は、自分勝手な傲慢でしかなく、私個人としても、今も許す気にはなれない…。多分、覚えてる限りは…ね。それにあの子は、単に両親の海外転勤で転校しただけで、学苑が嫌になって去った訳ではない。萌々が気にする必要は、ないよ。」
私に向けて話をしている筈なのに、北岡君の目は…私の目と視線が合わず、どこか遠くを見ているようだ。いつもとは違い、人の好さそうな笑顔が消えた無表情で、終始冷たい口調で鋭い言葉を言い放つ。話し終わる頃に、やっといつもの微笑みを浮かべ、私には気にしなくていい、と言ってくれるけど…。
そんな様子の北岡君が、話し終わってからも、…私は何も言えなかった。
北岡君の冷ややかな仕草に、圧倒されていたのだ。
…こんな冷たい北岡君は、……初めて見る。
意外な人物=夕月が、やっと登場しました。
前半は大爆笑していた夕月が、後半は凍り付くような夕月となり、萌々花も固まるぐらい冷たい状態で。それ程、重い思い出ということですね。
中等部の虐めの話は、実は、お正月企画の為に作成していた作品で、現在は没となっています。ある程度まで具体的に作り上げているので、その話を元にして、この話が出来上がりました。
いずれ、機会があれば、中等部編として何話か、その作品も一緒に投稿出来たらいいなあ、と思っています。