65話 体育祭の練習開始
今回は、体育祭の練習風景がメインとなっています。
しかし、後半は趣が異なり、不穏な流れとなっています。読まれる際には、お気を付けください。
前半は、未香子視点となっています。後半は、……誰?
今日は、2学期最初のテストの日であった。テスト範囲は、夏休みの宿題・課題の中から出題されるものが多く、ある程度復習していれば、そう難しいものではなかった。私も、夏休み中に、夕月とばっちり勉強した為、手ごたえは大いにあったと思っている。ケーちゃんも、夏休み中に部活中の休憩時間で、一緒に勉強していたから、今回は手ごたえを感じているようね。
でも…このテストに関しては、平均点は高くなりやすいですから、僅差で順位が決まることになるでしょうね。ケーちゃんが歓喜する為、夕月もせっちんもよっちゃんも誰も、言い出せなくなりましたの。少し…心配になって来ましたわ…。
そして本日から、体育祭の練習が始まることになる。ううう…。練習と言えども、本気で嫌ですの…。体育なんて永久に…、この世の中からなくなればいいのに…。
そう思うぐらいには、嫌いなのですわ。何でも熟せる夕月が、羨ましい…。
この時ばかりは知らないうちに、夕月を睨みつける自分がいて…。
そして、タイミング良く、夕月とバッチリ目が合って、大爆笑されるのです…。
毎年…これを繰り返しをしておりますのよ…。
今もすぐ近くで、大爆笑する。夕月の姿が…。もう ‼ こんな時にも、近くに居なくていいですからっ!そう言っても、夕月が好んで近くに居る訳でもなく、競技の練習場所が、ただ単に近かっただけで。夕月が悪い訳では、ないのですけれどね。
…あ~もう!神様の意地悪!…などと心の中で悪態をつく私…。
「あれっ?…北岡君も、学年別リレーに出場するの?北岡君って、足が速いの?それなら、もしかしたら、アンカーに選ばれたりするかもね?」
「…うん?萌々も?まあ確かに、去年までは毎年リレーのアンカーには選ばれているけどね…。」
「えっ!毎年?!マジでそんなに速いの?!…でも、今回の学年別リレーって、確か…男女混合だよね?毎年アンカーで走っているんだったら、今回もアンカーに選ばれるのは、確実だよね?」
「ハハハ…大袈裟だよ。取り敢えずAクラスで1番速く走れるから、選ばれただけなんだよ。今年もアンカーになるとは、限らないよ。」
「それでも、凄いよ!超ビックリしたよ。どれだけ速いか、見て見たいな。私、陸上部の部員だけど、流石に男女混合のアンカーは、無理そうだもん。」
…本当に神様は、意地悪である。突然、夕月の目の前に、萌々花さんが現れた。
学年別リレーの選手だということは、学年の代表として走るということである。
本来なら、男子と女子と別れるけれど、高等部からは混合で走ることになる。
ですから、各組から男女2名ずつ、足の速い人物ばかりが集まってくる。
E組の女子代表の1人は、萌々花さんなのだろう。
一応、A~DとE~Hで分かれて、走ることになるらしい。A~Dは内部生で皆、誰が速いかをよく知っている。ですから、夕月がアンカーに選ばれるのは、必然となることでしょう。E~Hは全員が走ってみてから、アンカーを決めることになるでしょうね。私は…すぐ隣のエリアで待っている為、夕月と萌々花さんの2人のお話が、聞く気がなくても聞こえてきてしまう…。
特に萌々香さんの声って、高音でよく響きますのよ。
私が居るエリアには、借り物競争の出場の選手が集まっている。そして、すぐ隣のエリアに夕月が居て、借り物出場選手も、チラチラと隣に視線を送っている。
更に、萌々花さんというイレギュラーな存在の登場に、皆が興味津々である。
「あの子、誰?北岡君とどういう関係なの?」という雰囲気で、数人の女子生徒が殺気立ちつつあった。1対1で、夕月と対等に会話している彼女に、許容外の反応になりつつある。これは…少々不味いのでは…。
私に関しては、暗黙の了解を得ていて、最近は誰も文句を言って来ない。
しかし、他の女子生徒ならば、許せなかったりするようで…。
これは、1人だけ抜け駆けしていると思われても、仕方ないだろうな。
彼女に、その気がなくても…。周りの女子には、そう見えているだろうし…。
実際に、少し離れた所からも、こちらの方に強い視線を感じる。皆、気になって仕方がない様子である。中等部でこのような風に接していたら、間違いなく萌々花さんは、虐めに遭っていますわ。
2人は気にしないのか、気付かないのか、ずっと楽しそうに話し込んでいる。
夕月が、全く気付かない筈もないのに…。萌々花さんの方はある意味、心臓に毛が生えていらっしゃるのでは、ないかしらね?
練習が始まれば、2人は別々のチームになり、その後はチームで練習をしていたようである。私達もやっと練習が始まり、自分の練習に集中していたので、私はすっかり忘れてしまっていた。他の競技に出場する周りの生徒達も、練習が始まっていますから、時折視線を感じるぐらいで…。私が見られているのかと思えば、相変わらず、夕月達を見ている感じでしたし、特に気にも留めなかった。
夕月が見つめられるのは、いつものことなのですもの。
しかし、これが今後波紋を呼ぶことになるとは…。
まだ私も、何も知らないことなのでした。
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「…ねえ、皆さん。さっきの光景…見ましたぁ?」
「ええ…。見ましたわ。何、あれ…。図々しいことですわね。」
「本当に…。ねえ、あの子、誰なのかしら?知らない顔でしたわ。」
「どうやら、外部生のようですわよ。何でも、特待生とか…。」
「外部生!道理で…勝手な事をしていると、思いましたわ。暗黙の了解があることを、知らない訳ね…。…それならば、誰かが教えてあげる必要が、ありますわよね?…ねえ、皆さん?皆さんも、そう思わなくて?」
放課後の体育館の裏にある裏庭で、数人の少女達が集まって、何かコソコソ話し込んでいる。内容がちょっと物騒だなあと思い、校舎の壁に隠れて、彼女達の話を聞いていた。丁度、自分の競技の練習が終了したので、体育館倉庫に道具を仕舞いに来たのだ。その倉庫からの帰りに、倉庫から出て少し歩いた場所で、彼女達を見かけ、様子が変だと思って、見つからないように隠れたのが、今の現状だ。
誰のことを話しているのか、何をしようとしているのか、全く理解出来ずにいた。
しかし、何か物騒な予感がするのは、確かなんだ。今更出て行けば見つかりそうだし、大人しく壁に身を隠したままでいた。暫く密談したのち、漸く彼女達は去って行った。一体、何だったのだろうか?
誰かに教えようにも、注意しようにも、相手が誰なのか、彼女達が何を見たのか、全く分からなかった。ただ、外部生の生徒が標的にされたのだと、理解する。
一体、何が起こっているんだろう?
「顔は…見えなかったな。あの生徒達は、多分、内部生だよな…。」
「君……。何してるの?こんな場所で…。内部生がどうかした?」
どうやら俺は、独り言を言っていたようだ。後ろから声を掛けられて、超ビックリだな。おい…。行き成り、真後ろに立つなよ…。怖いだろうが!
そう思いながら振り向くと、そこには意外な人物が立っていた。顔を見て、驚いてしまう。今までも、殆ど話す機会がなかったしな…。
今日、話をするのが…初めてだったよな。
「君、確か…同じ部の箕村君だったよね?…で、どうかした?」
「…ああ。俺が、体育館倉庫に競技の道具を返しに来て、出て来た時に、丁度、この場所に数人の女子が集まっていたんだ。徒ならぬ雰囲気を感じて、校舎の壁に隠れて聞いていた。そしたら…、何だか物騒な事を話していてさ…。これからどうしようか、と思っていたところだったんだ…。」
俺の名前…知っていたんだな?まだ共演したこともないし、芝居の練習も別だったのにな。取り敢えず、コイツ……勘が良さそうだし、話して置くか。
何か気になることがあるのか、柔和な雰囲気で、有無を言わせない雰囲気で話し掛けて来た。内部生同士ならば、何か知っているかもしれないもんな。
そう思って事情を話し出せば、俺の言葉に引っ掛かるのか、訊き返してくる。
「…物騒なこと?……具体的に何を話してた?」
「俺自身が、何のことかよく分かんなくて、理解出来なかったんだよなあ……。さっきの光景を見たとか見ないとか…?あの子が誰だって話で…、外部生とか特待生とか…?暗黙の了解を知らないとか?教えて遣ったらどうかとか?…そんな内容の話しだったかな?」
「………。」
物騒なこと、と話した俺の言葉に、俺の目の前に立つ相手は、眉をギュッと顰めて首を傾げた。しかし、真面目な顔つきで、具体的な話をと続きを促してくる。
俺は思い出しながら、幾つかのキーワードを語ってみる。すると、コイツは片手を顎に当て、もう一方の片手で、その腕を支えるようなポーズを取り、さっきよりも深く考え込むような仕草をした。終始無言で…。
暫く目を瞑り、深く考え込んでいる。何か、思い当たる節でもあるのだろうか?
数分が立った頃、やっと、コイツは目を開けて、そして…。
俺の目を、強い意志のある瞳で真っ直ぐに見つめて来た。たった一言「話してくれてありがとう。」と礼を言い、立ち去ろうとした。俺には何も事情を話さずに…。
「おい!お前…大丈夫なのか?心当たりでもあるのか?」
「…あぁ。大丈夫。後は、こちらで何とかする。…騒ぎにしたくないんでね。」
俺が手伝わなくてもいいのか、と確認したのだが…。コイツには、必要ないと言われたようなもので…。一度だけ振り返り、そう返答すると、後ろ手に手をひらひらさせて、去って行く。俺は、ただ茫然と、その後ろ姿を見送っていたのだった。
今回は楽しいお話から一転、暗いお話になりそうな感じになりました。
今回の「後半視点の人って、誰?」と思われたことでしょうね。
この人物、実は以前、名前(苗字)のみ出て来た、一応は新キャラなのです。今回行き成り、本人視点が出て来て、まだフルネームの紹介すらしていません。
さて、その新キャラと話す謎の人物、『意外な人』ということですが、誰だか分かりますでしょうか?本編中に、色々とヒントが隠されていますので、良かったら誰だか推理して下さいませ。




