64話 一目惚れは難しい?
今回のお話は、少し趣向を変えています。訳が分からない始まり方ですよね?
前半は誰視点でもありません。後半のみ未香子視点となっています。
※次回から、連休前同様に、通常回数の投稿とする予定です。(週に2回程度)
「あのね。私…、光太郎君に一目惚れしちゃったみたいなの。…ということは、京香とは、今日からライバルなのよね?」
「えっ!小雪?……。」
小雪の言葉に、京香は、驚いたように目を見開いている。一方、京香に突然のライバル宣言した少女こと、小雪は、「絶対に、京香には負けないからね。」と、にこにこと笑顔になって話している。小雪の唐突なライバル宣言に、京香は困った顔をして、小雪を見つめ返していた。京香が、何か言おうと口を開きかけた時、誰かが小走りで2人の許に掛けつけて来た。
「あ、居た居た!2人共、こんな所で、何してるの?もうすぐ授業始まるよ。」
「あっ、千夏。もう、そんな時間なんだね。行こう?京香。」
「…うん。…。」
2人の少女の許に走って来たのは、同じクラスの少女・千夏であった。3人は、いつも一緒にいる仲良し3人組である。そのうちの友人2人が、同じ男子を好きになってしまった…。然も、京香が長い間片思いしている男子を、あろうことか、小雪までもが一目ぼれしたと言うのである。
そして、女子3人がその場を立ち去ると、辺りが暗くなり場面が一転して、明るくなった時には、1人の男子生徒と京香が歩いて出て来た。
「光ちゃん。話って、何?」
「…うん。あのさ…、京香。俺と…付き合ってくれないかな?」
「…えっ ‼ ……本当に?…冗談ではなくて?」
「…こんなこと、冗談で言えないよ。昔から、…本当は好きだったんだ。」
「嬉しい…。私も…ずっと好きだったの。」
京香は泣きそうな顔になり、『光ちゃん』こと光太郎からの告白に、OKの返答をして。すると、そこに先程の友達である少女、小雪も都合よく現れて…。
告白後の2人の姿を見て、思わずショックを受けた顔になっていた。やっと想いが通じ合った京香と光太郎は、小雪の存在に全く気が付かないまま、そのまま嬉しそうに手を繋いで去って行った。
その場には、小雪1人だけが取り残されていて。小雪の許には、もう1人の少女・千夏が、舞台袖の方から現れると、小雪に近づき、彼女の肩にそっと自分の手を乗せて、慰めようとしていた。
「小雪にも、きっと…ううん、もっと素敵な人が現れるよ。だから落ち込まないで。男は彼だけじゃないんだから、大丈夫だよ。」
「…うん。ありがとう、千夏。元気出て来たよ。私、光太郎君より、もっと素敵な人を見つけるわ!」
小雪が失恋から立ち直るように、そう宣言したその瞬間に、誰かがクスリと笑う声が聞こえて来た。2人が慌てて振り返ると、見知らぬ男子生徒が、すぐ近くを通り掛かろうとしていたようで、2人の傍を通り過ぎて行く。
「慎次~、早く来いよ~!」と、遠くから呼ぶ声が聞こえて来た。それに応えるように、「今、行くよ!」と、この男子生徒が返事をして、声が聞こえた方に走り去って行った。その後ろ姿を見送っていた小雪は、ポ~となっていて…。
「千夏。…私、彼に一目惚れしちゃったみたい…。」
「…はい?!……一目惚れって…早過ぎでしょ?…はあっ……。」
小雪の立ち直りの早さに、もう1人の少女こと千夏が、溜息を吐きながら、呆れた顔でブツブツ言っている。小雪が男子を追いかけようとしたところで、…幕が下りて終了となったのである。
上演会が終了したと同時に、拍手喝采が巻き起こっている。今回の上演会も、大盛況のようですわね?
特に今回は、小雪の道化振りが受けたようでして、爆笑を誘っていましたわ。
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これは、今日のお芝居であり、私が『京香』でヒロイン、ライバル『小雪』が夕月で、もう1人のお友達『千夏』が千明君である。他には、私の相手役の『光太郎』が田尾君、最後に出て来た『慎次』が飛野君である。彼の出番は少めですが、夕月に一目惚れされる役で満更でもないようです…。
今回の夕月の役は、すぐ一目惚れするという軽い雰囲気の女子で、尻軽っぽい女子だった。つまり、男子でいうところの三枚目っぽい、女子の役柄なのでして。
私とは仲良しであり、ライバルでもある。
失恋後に、また他の男の子に一目惚れする、惚れっぽい少女である。
実はこの役柄は、かなり難しい役であり、存在感が強烈でなければならない。ヒロインよりも、別の意味で目立つ必要もあった。感情移入が難しい役柄でもある。
脇役は、出番もセリフも少ない代わりに、しっかりした役柄を持って、主人公達を引き立てなければならない、という役割がある。
京香と光太郎は幼馴染であり、ずっと片両思いであった。その2人が、一気に距離を詰めることが出来たのは、小雪が割って入ろうとした為である。今回夕月が演じたコミカル少女役は、その為の大事な役どころであった。この演技は簡単に見えるかもしれないですが、夕月ほど上手く演じられる人は、他にはいないでしょうね。
人格がコロコロ変わる上に、相手に気に入られる為なら、何でも出来てしまうぐらいに、気持ちが変化する少女、という設定である。自分の好きな相手に合わせるのならば、出来なくもないであろう。しかし、演技では…限界があると思うのです。
その上、人を笑わせる演技はかなり難しい。特に失恋シーンは、シリアスになりやすいので。それでも爆笑させる為、本人が落ち込みながら、笑いを誘うような…、そのようにコミカルな演技をする必要がある。私達の殆どは、そこまでの高みに到達していない。
夕月はその人物に成り切ることで、演じ切るらしい。本人から聞いた話によると、一応見本になる人物がいるようで。誰を見本にしているのでしょうか?
私達の周りには、見当たらないのですが…。…実在しているのかしら?
夕月と幼馴染と言っても、それは、北城家が日本に帰国してからの関係なのです。それ以前の頃の事は、詳しくは聞かされていない。お友達のことも何も、全く聞いたことがないのです…。夕月にしろ葉月にしろ…2人共、自分達の事は全く語らないのですからね。私も今までは、何も気にする必要がなかったから…。
でも…よく考えましたら、夕月が外国に居た頃のお話は、殆ど聞いていなくて…。
要するに、私は、夕月の過去を何も知らされていないのね?…どうして何もお話してくれないの?それとも…お話したくないような嫌な事でも、ありましたの?
ただ単に、話すタイミングがなくて、忘れていただけでしたら、私も諦められる。でも…本人がお話出来ない過去があるならば、…私からは聞けないですわね。
葉月なら…知っているのでしょうね?それとなく…訊いてみようかしら?
舞台の幕が一度降りた後、私達は幕の外側に、整列して横に並ぶ。これから、上演終了時の挨拶をすることになっていた。お芝居に出場した裏方兼任を含む、部員達は全員で、後は監督・助監督係、脚本係である。裏方専門係と映像編集係の部員達は、挨拶に出なくていいので、並ばなくて良い。
初上演時の挨拶にウケて、今では上演時に毎回行っている。この後に、出演者との会話と握手が、個人的に出来るというリップサービスをしており、これが大人気なのである。それに、夕月だけではなく、案外と出場者全員が人気なのですわ。
そのお陰で、毎回凄い人数が押し寄せるものだから、今回からは申し込み順となりましたの。不公平にならないよう、人数制限で毎回同じ人ばかりにならないように、と気を付けて。飽く迄公平にをモットーに、我が映像部は、過去の過ちを繰り返さぬよう、努力しているのですわ。
そして、握手を求めたり、「頑張って下さい。」と話し掛けに来たり、私の所にも男女問わず来てもらえるのは、正直嬉しいと思います。出演者の誰でもいいとか、例えそういう理由だとしても、そういう奇特な人もいてくださって、有難いと思っていますのよ、本当に…。ポツンと1人立っているのは…、寂しいですものね。
見に来てくれる観客がいなければ、お芝居したって意味がない訳で。
出来得る限りは、観客の要望に応えるのも、我が部の心得でもあり。
決して驕り高ぶってはいけないのです。
要望に応える1つの策が、お芝居での衣装のまま、役柄に成り切って握手や会話をするとかも、所謂ファンサービスとして行っているものなのですわ。そのような簡単なことだけでも、意外とウケるものなんですね。ただ…最近、スマホで一緒に写真を撮って欲しい、と願望されることも多々ありまして…。
今のところは、部長がお断りしているという現状なのです。
部長が丁寧に理由も付けてお断りしている為、まだ揉めたことはないのですが、限界も感じている次第で。この学苑の生徒には、悪用するような生徒はいないと、信じたい。でも…、根拠がなくてはいけない事もある訳で。
部員を確実に守る為には、正当な理由や対策が必要なのでしょうから。
部長は時々突っ走る人ではありますが、きちんとした理屈も持った人なのです。
それだから、私達は、全てを任せてもいい人だと、安心している訳で。
偶に、その行動力には呆れても…。人望が厚い人、それが『赤羽根 翔子』という人だから、観客の要望も、彼女に任せたいと思えるのですよ。
当然、お芝居風景から始まります。誰の話だろう、と思われたことでしょう。
後半部分にもありますが、誰がどの名前を使用するかは決まっていて、役柄が違っても同じ名前を使用します。
夕月=小雪(女子時)&北岡(男子時)、未香子=京香、千明=千夏、晶麻=慎次、柊弥=瞬司、光輝=光太郎となります。
夕月だけ2つ名前があり、何故か男装時は苗字です。千明に関しては、本人が女装しか希望していないので、女子時の名前のみです。
他の部員も同じく、演技名が1つだけ決まっています。男女共に演じる夕月だけ、例外なんです。




