62話 2学期の始まり
今回からは、学苑のお話に戻りました。と言っても、他の生徒達は出て来ず、会話も少ないです。
2学期序章と言った内容の感じとなりました。今回は、全て未香子視点となっています。
※連休中の追加投稿は、今回までとします。次回から、通常通りの投稿回数となります。
昨日で夏休みが終了した。到頭、本日から2学期が始まることになる。
今日からいつも通り、学苑には通常登校なので、電車とバスの移動となった。
無論、車での送迎が許されているのは、夏休み中だけのことである。
あれ以来、久しぶりに夕月と一緒に電車に乗車した。いざ乗ろうとした時、少し恐怖が蘇り、気付いた夕月がしっかり手を握ってくれて。それからは、平気になって怖くなくなったのである。また、今日からは朝早い登校になる為、女性専用車両にも乗れる時間帯での通学となる。
因みに、葉月は予定通り、昨日の朝早くに寮に帰ったらしい。自分のバイクで。
そうなの。葉月も夕月同様、16歳の誕生日を迎えてすぐに免許を取っていた。
夕月が免許を取ることは、私も知らされていた。でも、葉月のことは全く知らされていなくて。まあ、私がそれだけ、葉月に興味を示していなかったのでしょうね。
実は、葉月が免許を取ってから初めての帰宅時に、北城家にバイクが2台あるのを見て、夕月がもう1台購入したのかしら、と思ったぐらいなの。まさか、葉月のバイクだとは、夢にも見ていなかったのですもの。バイクも色違いという以外では、全く同じ物でしたのよ。葉月。気が付かなくて、ごめんなさいね。
満員の電車に乗るのも、久しぶりな気がします。女性専用車両ですからね。
男性はいませんから、痴漢の心配もありません。ただ、女性ばかりだからと、安心ばかりも出来ませんが。色々な意味で…油断出来ないのです。
稀に、お金を掏られることもあるそうですからね。勿論、相手は女性ですよ。
それに、痴漢がいなくても、乗車外で男性に絡まれることもありましたし…。
夕月が一緒に居てくれるから、私も安心して出掛けられるのですわ。
乗車中には相変わらず、他校の女子高生&女子中学生達が、夕月を熱心に見つめてくる。「こっち向いてくれないかな?」とか「きゃあ!私の方を見たわ!」とか、「違うわよ。私を見たの!」等々、エトセトラ。
夕月は慣れたもので、普段は話し掛けられない限りは、完全無視で通していて、ここぞという時に笑顔で対応するのである。電車の中で囲まれてしまい、下車出来ない時は「急いでいるから、先に行かせてもらえる?」と、笑顔で話し掛けて、女子達に「どうぞ~。」と快く退いてもらう。う~ん。扱いが慣れ過ぎてます…。
逆に、夕月にはいい顔をしている癖に、私に意地悪しようとする質の悪い女子も、時々いるのですわ。そういう時は必ず、夕月が毎回気が付いて、対処してくれるのです。そういう女子は、2度と私達の前には表れません。夕月に嫌われたと思っているでしょうね。当たらずとも遠からず、ですが。
夕月は、端から興味がないのです。あなた方のことなんて…。
私達が電車を下車する時、「帰る時にも会えるかな?」と、他校の女子高生達が、明らかに残念そうな口調で、ボソボソと話している声が聞こえた。
残念でしたわね。今日は部活がありますから、帰宅時間は遅くなりますのよ。
私は、心の中で彼女達に話し掛けている。私は…時々性格が悪くなる。
このような事を心の中で考えている私を、夕月に知られれば、どう思われてしまうのだろうか?夕月にだけは、絶対に嫌われたくないと思う傍ら、意地の悪い事を考えてしまう時がある。特に、この前のデートの件で、イライラしている時には…。
ふと…萌々花さんなら、どう反応するのだろうと気になって。
私と萌々花さんを、比べても仕方がない。しかし、あの時から、ふとした時に彼女ならどうするのだろうと、そればかり考えてしまう。愚かな自分が、嫌になる…。
「未香子、どうした?何か、あった?今日は、元気がないみたいだよ?」
「…ううん。何もないですわ。今日のことを、考えていただけですもの。」
「…そう。それなら、いいんだけど…。今日は、始業式の後に部活があるけど、…大丈夫?参加出来る?」
「大丈夫。今日は、大事な上演会があるのですもの。」
私がずっと考え込んでいたから、夕月に気付かれてしまったみたいね。明らかに、私の嘘に気付いている様子であったのですが、私が何も言い出さないと思ったのでしょうね。それ以上は、追及されなかったのですが…。
私は、顔に出てしまうようです。上手な嘘が吐けないのも、辛いですわね…。
もっと上手に嘘が吐けたら…、夕月に心配を掛けずに済みますのに…。
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今日の午前中は始業式だけで、午後1時からは映像部の上演会がある。
上演チケットは全て完売しており、生徒の殆どが帰宅せず、学苑に残って上演会を待っている。お昼はどうするのかと言えば、調理部が作った菓子パンなどを販売しており、それを昼食にする生徒も多いらしい。
実は、夏休み前に、調理部から映像部の方に、とある提案があったのである。
今日のように学食のない日は、映像部の上演等に合わせて、調理部の手作りのパンを販売したいと。調理部も、部費を稼ぐ算段を考えた時、閃いたとのことでして。
勿論、これはいい案だと、赤羽根部長は即提携を願い出ていたわ。内部生は学食派が多いですからね。お弁当を持参するのも、面倒でしょうしね。
調理部部長が睨んだ通り、夏休み前の終業式後の上映で、手作り菓子パンは中々の好評でしたわ。私も購入してみましたが、素人作とは思えない程の美味さでした。また食べたいと思わせるような、味わいのあるパンでしたわ。
他のお金持ち学校と比べれば、この学苑の学食は、高級レストランのような学食とかではありませんが。学苑の学食は、外部生も気軽に食べれるようにと、庶民的な料理から一般的なレストラン料理まで、各段階が揃っている。
但し、食材を無駄にしたい配慮がされていて、日替わりで選択可能なメニューが、変更される。毎日同じ物ではないので、飽きないと好評でもある。
学食の食堂は、全生徒と教師陣が入っても、まだ余裕がある程度には広い。
よくあるあるの、席が埋まっていて入れなかったという事態は、この学苑では起こらない。また、お弁当も持ち込みOKであり、学食の食事ではなく、お弁当を持参して食べている生徒も、結構居たりする。私と夕月も、そうなのですよ。
食堂の席も、家柄等で暗黙の了解があるとか、よく世間では聞くお話ですが、この学苑では一切禁止されている。何年か前に、内部生と外部生の間で揉めたそうで、当時の生徒会が、特定の生徒の独占行為を禁止したそうである。それ以降は、空いている席の好きな場所から、到着の早い順に席を取ることが、可能となっている。
それでも、揉める原因を作る生徒には、学苑側からの転校を言い渡される事態に、発展するかも…。この学苑の生徒会の決定は、それぐらいに絶対的なものである。兎に角、生徒会を敵に回してはならない。その為にも、生徒会の委員には、理事長自らが許可を出した者しか、生徒会役員になれないという決まりがある。
権利を悪用されたら困りますものね。
さて、お話を戻しましょうか。要は、学食のない日は、調理部のパンを購入しましょう、ということですね。抑々、調理部も午前中に調理することは、学生である以上不可である。その為、今日の分のパンは、事前に完全予約制となっている。
調理部は、昨日のうちに登校して、学苑で調理して用意したようである。
学苑では、休暇中も何が起こるか分からないという理由から、年中日夜関わらず、専門の警備員が派遣されている。一部の教室は年中一定の温度で保たれていたり、また温度を調整出来る保管室もあったりする。その為、調理した大量の食べ物も、保管室に入れて置ける。ですから、前日に料理を作っても、全く心配がない。
その保管したパンも表向きは、完全予約とはなるのですが、多少余分に作ってあるみたいです。お弁当も予約も忘れた人の為に、念の為のものですが。
お陰で、私達映像部も、学食のない日にも、上映や上演が可能となりましたのよ。調理部も被服部同様、外部生が多い部なのですが、こうやって内部生と外部生が協力する関係となり、それも悪くないと思いましたわ。私達の映像部でも、部活後のミーティングで食べようと思い、部員全員がパンを頼んでいましたわね。
夕月は、あっさりしたパンが好みなので、塩パンとか甘みの少ないパンを、注文していましたわ。飛野君は、餡がタップリ入ったパンを、幾つか頼んでいましたわね…。…見ただけで、お腹が一杯になりそうでしてよ…。私は、フルーツ系の入ったパンが好きですから、今日はパインが入ったパンを頼んでみましたの。
今回初めて食べますから、楽しみにしていますわ。
これは…他の生徒達には内緒なのですが…、夕月のパンと私のパンを、一口づつ交換して食べるのも、楽しみなのです。「私も交換したい!」と、他の生徒達に知られれば、確実に騒がれますからね。バレないようにしなければ、なりませんわね?
これは…私だけの特権なのです。うふふふっ。
今回、学苑の他の部活(調理部)が出て来ますが、部員の名前は出て来ない予定です。さらっと流して終わりにしようと思いまして。
このお話を書き始めて、ふと葉月の免許についてかいてなかったなあ、と思いついたので、今回のお話に入れました。
当初、夕月もバイク持っているんだから、葉月も持っているよね?的な簡単な発想で、書いていました。なので、今回気が付いて良かったです。




