60話 心に刺さった棘
夏休み中のプライベートな2回目のお話、Part4です。Part4も、誰視点かが、前半と後半で違います。
前回で、一応暴力的なものは、終了していますが、話の内容が読む方によっては不快に感じるかもしれません。
お気を付けください。
その頃、私は、夕月に言われた通り、ずっとこのお店の中で待っていた。
待っている間、お店の商品を見ていても、気になって仕方がなくて…。
ずっと店内でそわそわしていたら、お店のお姉さんが外を見て来たようで、落ち着きのない私に話し掛けて来た。
「もう、大丈夫みたいよ。話し合いだけで解決したみたいだから、心配しなくても、彼氏さん、もうすぐ戻ってくると思うわよ?」
「…あっ、はい。あの…、お、教えて下さって、ありがとうございます。」
お店のお姉さんは、私の連れが助けに出て行ったのを、知っているみたいだった。心配する私に、状況を教えてくれたばかりか、…『彼氏さん』だって言われてしまいましたわ!何とかお礼を告げ、平静なフリをしようとしては、どうしても顔の表情が自分の意志とは逆に、勝手に若気てきてしまって…。
そう、『彼氏』と言う言葉は、私にはもう嬉し過ぎる偉大な言葉ですの。
その時、外で、女性の悲鳴めいた声が聞こえる。後は、もうすぐ夕月が戻って来るかとうずうずと待っていたのに。あれ?解決したのではなかったの?
不思議に思っていた。そしてすぐに、悲鳴の意味が違うことを知ることになる。
悲鳴が聞こえた後、店に入って来た若い女性陣が、「あれって、頬っぺにキスしてたよね?」と話している声が聞こえて来て。私の気分は、一気に下降した。
…目の前が真っ暗になる。…嘘よ ‼ デタラメですわよ!幾ら何でも、夕月が知らない女性に、そんなことを行き成りしないですわ!…そう思っていても。
不安が押し寄せてきて、…1分1秒が、途轍もなく長く感じていたのである。
漸く、夕月が私の所に戻って来た。元気がない様子の私を見ると、夕月は心配そうに、私の傍に歩み寄り…。私の顔を覗き込むようにして、話し掛けてくる。
「待たせて、すまない。…未香子は、大丈夫だった?」
「うん…。大丈夫だったよ。…もう、済んだの?」
「あぁ、もう済んだよ。それより…、驚いたよ。2人の若い女性が、不良に絡まれていたと思っていたら、偶然にも、萌々と深水さんだったんだよね。」
「えっ!?…萌々花さん?夕月が助けたのは…、萌々花さんなの?」
「うん。正確には、萌々と深水さんの2人だよ。僕が誰か、全く分からなかったみたいでね?ふふっ、あの2人の反応は、愉快だったよ。」
私は、一気に血の気が引いていく。夕月が助けに行ったのは、萌々花さんだったのだ…。そういうことでしたら、頬にキスをした相手とは、萌々花さんということになる。相手が萌々花さんならば、それも有り得ると思ってしまう…。
夕月は、やけに、萌々花さんのことが気に入っているようですもの…。
有り得ないと思っていましたのに…、有り得る話になってしまったのです…。
夕月は、先程の萌々花さんの反応を思い出しているのか、クスクス笑ってご機嫌な様子である。余程、彼女のことを気に入っているのね。反対に、私の気分は、どんどん沈んでいく。心の中は、暗闇のように真っ暗になっていく。
だから、気付けていなかった。夕月が、何度も「萌々と深水さん」と言っていたにも関わらず…。その時の私の頭の中では、深水さんの存在は、なかったものにされていたのだから……。
私は、この時確かめることが出来なかった。確かめれば、私は、こんなに落ち込まずに済んだのだろう。一言訊いていたら、…あんな酷い態度を、…萌々花さんに当たるようなことは、しなかったと思う。でも…、この時の私には、絶対に無理だったのです。夕月に確かめるなんて、…怖くて出来なかったの。
だからフタをしてしまった。今の私の気持ちを、全部閉じ込める為に…。
この後、私達は、今の出来事がなかったかのように、2人で楽しく過ごしていた。表向きは…なのですが。夕月は、あの後も変わらず、私の『彼氏』として振舞ってくれる。あの事さえ気にしなければ、いつもと変わらない関係で。
兎にも角にも、先程の私の気持ちを、無理矢理押し込んだお陰で、私は無事に平静を装うことが出来たのであった。
*************************
あれから、私とナルちゃんは、北岡君と別れ、別の場所でお茶をしていた。
ナルちゃんは、北岡君がいる時から、何故か余り話さなくなっていた。
だから私も、黙々とお茶菓子を食べている。食べながら、先程のことを少し考え込んで。あの時、北岡君が助けてくれなかったら、どうなっていたんだろう、と。
後から気が付いたんだけど、ナルちゃんは、声も出せないような怖がり方だった。周りの野次馬も、皆巻き込まれるのを恐れて、誰も助けてくれなかった。
あのままであったなら、あの不良達に、何処かへ無理矢理連れて行かれたのかもしれない。そう思うと、今更ながらに恐怖が湧いて来るのだ。
…本当に、北岡君には感謝し切れないわ。
しかし…。今の私には、北岡君に耳打ちされたことだけが、ずっと頭に残ったままでいる。あの時、北岡君は確かに、「未香子のご褒美を兼ねてるから」と語っていたわよね?ということは、今日は未香子さんと一緒に、街に遊びに来たのだろう。未香子さんの為に、濃い化粧で完璧男装とやらをしてまでも……。
そう考えて、私は、胸に何か詰まったような気がした。一体、どうしたんだろう?何だか、暗い気持ちになってくる。
「___。__ちゃん。…萌々ちゃん!」
「 ‼ 」
突然、叫ぶように自分の名前を呼ばれて、ビックリしてしまう。呼んでいたのは、前の席に座ったナルちゃんだった。さっきまで、ナルちゃんも黙ったままだったから、油断していた。驚きでビクッと身体を震わせて、私はナルちゃんを見た。
ナルちゃんは、私と目が合うと、ホッとしたような顔になっている。
一瞬、またさっきの不良が、現れたのかと思ったぐらいに驚いたよ…。
「もう、さっきから呼んでるのに~。全く気が付かないから、どうかしちゃったのかと思ったよ。」
「ごめんね、ナルちゃん。私…少し考え込んでいたみたいだね?…心配かけて、ごめんね?」
そう、私はだいぶ長い間、考え込んでいたみたいだった。ナルちゃんが黙っていたから、ココがどこかさえ忘れていたようだ。ナルちゃん、ホントにごめん…。
ナルちゃんの方が怖がっていたのに、今まで放って置いてごめんね。私は、心の中で手を合わせて詫びていた。
「別に、それはいいんだよ。どちらかと言うと…謝るのは、私の方だよね…。私…怖くて体が動かなくなっちゃって…。何にも出来なくて、助けすら呼べないなんて…。ホント、ごめん…。」
「そんなの、ナルちゃんの所為じゃないよ。私こそ、巻き込んじゃって…。私がぶつからなきゃ、…こんな怖い目しなかったのにね。私こそ、ごめんね。」
ナルちゃんは、ずっと気にしていたのだろうな。自分が動けなかったことに…。
でも、仕方がないよ。それだけ怖い目に遭ったんだから、当たり前なんだよ。
私の方が、あの不良少年達にぶつかった本人なんだから、私が怖い目に合うのは、仕方がないと思う。ナルちゃんを巻き込んじゃった、私が全部悪いんだよね…。
だから、私も頭を下げて謝った。
「萌々ちゃん。私、やっと冷静になって、さっき気が付いたんだけどさ!あれ、彼奴らが態とぶつかったんだと思うよ。」
「えっ!?どういうこと?…不良達が先にぶつかって来たってこと?」
「違う、違う。そうじゃなくて、彼奴らは待ち伏せしていて、萌々ちゃんからぶつかるように仕向けたのよ。きっと、間違いなくそうだよ!」
「それじゃあ、…最初から狙われたってこと?」
「…多分、そうだろうね。」
私が謝ると、ナルちゃんが意外な話をして来た。ナルちゃんの言う通りだったら、と考えれば考える程、北岡君が来てくれなかった場合、本気でヤバかったのかもしれない。そう思うと怖くなってくる。だからついつい、「良かった。北岡君が助けに来てくれて。」と、呟いてしまって。すると、ナルちゃんが、何とも言えない困ったような顔をする。どうしたんだろう?
「萌々ちゃん。あのさ、北岡君のこと、どう思ってるの?」
「えっ!何でそんなこと訊くの?勿論、お友達だよ?」
「……。今の萌々ちゃんってさ、何だか、恋する人の顔をしているように、見えるんだよ、ね。」
「……。」
「あのね、萌々ちゃん。北岡君の本来の姿は、…私達と同じ女性だと本当の意味で分かってる?…それに、北岡君には九条さんがいるってことも…。郁ならただの憧れで済むかもしれないけど、萌々ちゃんはそうじゃないでしょ?萌々ちゃんってさ、時々よく分ってないと思うんだよね?お節介かもしれないと思うけど、よく考えてから結論出しなよ?」
57話からの続きのお話です。前半が、いつも通り未香子視点で、後半は、萌々香視点となっています。
全体的に少し暗めというか重いというか、今迄とは違う雰囲気の話になりました。これから、話しが進むにつれて、こういう内容の話も増えるかと思います。
今回、会話で終了となっていますが、この会話の続きは、特にありません。あるとしても、萌々花視線で、になるでしょうね。
そしてこのプライベートなお話も、今回で終了です。




