55話 ペア・アクセに纏わる事情
夏休み中のプライベートなお話、Part4です。Part1~全て、未香子視点です。
副タイトルは、ペア・アクセに纏わる事情です。タイトル通りの内容となっています。
さて、あれからどうなったのかと言うと、私と葉月は、表向き仲良く手を繋ぎ、海の生物を鑑賞して回っていた。何だか、葉月の動きが妙にぎこちなくて、私は、にこにこと笑顔を向けて話し掛けては、彼の態度に面白がっていたのです。
そのぐらいのものですのに、葉月は、怪しいぐらいに動揺していましたわ。
最後の辺りでは、夕月とお兄様ともいつの間にか合流して、一緒に観賞したり、お土産を見たりしたのだった。始めのうちは、どうしようかと困惑していたのに。
自分でも知らぬ間に、それなりに楽しんでいる自分がいた。
意外な葉月を見れたから、かもしれないわね。
葉月が、こんなに動揺している様子は、私が知る限り今回が初めてだと思う。
葉月は、もっと近寄りがたい存在だと、私は勝手にそう思っていたみたい。
それに…、学苑の男子である飛野君や木島君や田尾君とは、誰と比べても全く違っていた。この感情を何と言ったらよいのか、自分でもよく分かっていない…。
私にとって身近なお兄様とも、全然違っていると思う…。
一時期の間、私は、確実に男性恐怖症になっていた。だから、お兄様やお父様でさえ、怖いと思ってしまう時期があり、男性自体が全く受け付けられなくなった。
当然、その時は異性全般がダメなのだから、葉月にも会うことさえ拒否していた。
その間に、兄と葉月は全寮制の学校に入学してしまい、長期休暇にしか帰宅出来なくなっていた。
現在の私は、夕月の男子っぽい振る舞いや仕草で、嫌な過去も癒されて行き、徐々に男子にも免疫がついたようで、男子から不用意に話し掛けれたり、触れられたりしなければ、割と平気になってきた。勿論、父や兄に対しては一時的なものだったようで、あの後すぐに、恐怖は感じなくなっていた。…そう言えば、葉月に対してもそうであったわね。葉月のことは、何故か、昔から怖いと思っていない。
やはり、幼馴染だからなのだろうか?夕月の弟として、元々、気を許していたのかもしれない。双子なのだから、顔も性格もとてもよく似ていますもの。
何と言えばいいのか…。葉月は、他の男子や男性とかとは、知り会った当初から全く違う存在というか…。元々、平気であった訳でもあり…。
そう、そう。そう言えば…、今日のお兄様は、どこかいつものお兄様ではない感じでしたわ。何と言ったら上手く伝わるのでしょうか?私に接している時のお兄様とは、微妙に違っていましたのよ。兄の纏う雰囲気も笑い方も話し方も…全てが…。
どことなく少しづつ異なっている気が…、私にはしたのです。
どこが違うのかと訊かれれば、それはよく分からないとしか、答えられない程度のようなのですが…。
お兄様に対して、夕月は、普段と余り変わらない感じでしたの。完璧女性バージョンの夕月ですが、それでよく分からないという事ではありませんわ。
ただ単に、普段とそう変化が見られなかったのです。
どちらかと言えば、お兄様の行動やセリフに対して、目を丸くしたり苦笑いをしたり、という動作が多かったような感じでした。間違いなく、兄が原因ですわね。
ねえ、お兄様。一体、夕月に何をお話になって、困らせていたのですか?
夕月が偶に、呆れたような表情になって、お兄様を見ていたのをご存じですか?
あまり夕月の前では、妹馬鹿にはならないでくださいましね?
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「ねえ、夕月。お兄様とは、何をお話していたの?」
「ええ。別に、特に大したことではありませんわ。」
今、私達こと私と夕月は、一緒にお土産を見ている最中であった。兄と葉月とは、何故か別行動中である。何か用があったらしく、兄が葉月を連れ出して行ってしまったのだ。残された私達は、お土産を見たりして時間を潰している。
夕月は、大勢の人の目があるので、兄達が居なくても、お嬢様言葉で話してくる。
「あっ!ココにもペア・アクセ売っていますわ。」
「あら?本当ですわね。…そう言えば、この前の遊園地の時に、朔斗さんにも、ペア・アクセをプレゼントしましたの?」
「いいえ。お兄様には、別の物をプレゼントとして買いましたの。」
「…やっぱり購入しなかったのですね?態と買わなかったのでしょう?どうしてですの?朔斗さんのことですから、きっと喜ばれるでしょうに…。」
「お兄様と…ペアにしたくなかったの。だって…、時々ウザいのですもの。」
この水族館にも、ペア・アクセが売っている。今年は、流行っているのかしら?
今日も、夕月とペアで買って、お揃いにしたいなぁ、と思っていた時に。
これを見て思い出したというように、夕月が訊いてきたのである。
お兄様とのペア・アクセを買ったのかどうかを…。確かに、お兄様は喜んでくださるだろう。そうと分かっていても、私は少しも嬉しくなかったのである。
実際に、前回の遊園地のお土産を渡した時にも、私からのプレゼントだと言って、家中の皆に見せて回ったのよ、お兄様は…。お父様とお母様は兎も角として、三千さん達お手伝いさんや、運転手の人達にも、触れ回っていたのですもの。
「朔斗さん…、報われていないのですね。…お可哀そうに。」
「違うの ‼ お兄様ったら!家中の者達に自慢されるの!全員に見せて回るのですから、…恥ずかし過ぎますわ。」
ペア・アクセだったらと考えると、どれだけ言い触らされるかとか、考えたくもないですわ。恥ずかしいから、絶対に嫌です!そういう経緯を詳しく話せば、夕月は、一瞬目を丸くして苦笑していた。
「ふふふ。それは、結構恥ずかしいですわね?朔斗さんらしいですわ。」
「笑い事ではないの。本当に恥ずかしいの。皆の温かい視線が…。」
そうなの。恥ずかしいのは、触れ回っているお兄様の様子ではない、のである。
話を聞かされた皆が、私へ生暖かい視線をぶつけて来る、それこそが本当に嫌な原因なのであった。微笑ましく見つめてくる者も居れば、苦笑して見つめてくる者も居て、将又、自分は貰ってないと嘆く者⦅お父様のことだけれど⦆も居る。
そういう視線が、こそばゆい。本当に、居た堪れない気分になってくるのである。
隣に居る筈の夕月が、急に黙ってしまった。どうしたのだろうか?疑問に思って、夕月の方を仰ぎ見てみると…。夕月はハンカチで自分の口元を押え、小刻みに震えている。何も事情を知らない人が一見したら、ただ気分が悪くなったのかと思うことだろう。しかし……。私は事情を知っている…。
私の位置からは、夕月の顔がはっきり見えていた。確かに、ハンカチで口元を隠してはいる。しかし…、目元は笑っているのが分かった。…明らかに。
声に出さずに笑っているから、小刻みに震えているのであろう。流石に、この公の場所で、お嬢様姿の人物が大爆笑する訳にはいかない。苦肉の策である。
う~ん。やっぱり葉月とは、反応が違っているなぁと、夕月を見つめながら考え込んでいた。葉月って、普段からお兄様に対しての反応も、結構涼し気な態度だったと思うのよね…。今の夕月みたいに、笑い転げるような感じではないような。
…って、夕月はまだ笑っているし…。…これは、ツボに入っていますわね。
先程、葉月と2人で見て回っている時のことを、私は思い出していた。
あの時は、余りにも暇でしたから、私は自ら、珍しく葉月に話し掛けていた。
私の話の合間のその途中で、葉月がふと思い出したように、この前のペア・アクセの話しをしてきたのである。
「この前のペア・アクセだけど…。アレ、未香子がプレゼントしてくれたんだよね?…ありがとう。」
「あっ!あれ、ね。お礼を言われるほどではないわ。夕月にもプレセントされたものだから、絶対葉月が拗ねると思って…。ただ、それだけの理由なのよ。」
「いや…、理由は分かってる。夕月が買って来たんじゃなかったから…、正直驚いたんだよ。僕にまで、気を遣ってもらえるとは、少しも思っていないからね…。その…、理由に関係なく、気遣いが嬉しかったんだ。」
「…夕月に理由を聞いたのでしょう?本当に、気を遣ったつもりではないの。」
「夕月からは何も聞いてないよ。理由が分かっているからこそ、驚いたんだよ。未香子は、僕を嫌っていると思っていたし…。例え…どんな理由であっても、僕に気遣いをしてくれたのも嬉しかったよ。それに、未香子からチョコとかは毎年貰っているけど、こういうプレゼントは…初めてだったからね…。」
葉月は、照れたようにお礼を言ってくれたけれど…。しかし、私は何でもないことだと言って、さっさと躱そうとしたのですが…。ところが、葉月は、真剣過ぎる顔つきで、真面目に話し掛けてくるのよ。あまりにも生真面目な様子に、私の方が恐縮してしまうわ…。
何とかこの雰囲気を変えようと、自虐ネタ的な兄の話を、葉月にも振ってみた。
夕月にも語った先程の話である。葉月は、最後まで黙ったままで、真剣な顔で話を聞いている。こういうところ、生真面目ですわね。私が話し終わってから、「朔兄らしいな。」と苦笑して…。そして、また冷静な表情に戻ったかと思うと、今度は何か思うところがあるらしく、「はあ~。」と溜息を吐き、「朔兄には、僕から一言忠告しておこう。」と…。
…そうね。葉月って…、真面目過ぎるのだわ。夕月が、性格は真逆であると語っていた通りね。今更ながらに理解出来ましたわ。
葉月…。今まで色々と勘違いしていて、ごめんなさい。
副タイトルは、いつも意味のある言葉にしていますが、今回はしっくりくる感じがします。
朔斗さん、何だかイメージ壊れ始めてるかも?こんな筈ではなかったのに…。
葉月は、真面目過ぎて、何だかめんどくさそう?




