53話 譲り合い?
夏休み中のプライベートなお話、Part2です。未香子視点が続きます。
皆さんのお近くの水族館を思い出してもらって、その水族館にこの4人が遊びに来た、とご想像くださいませ。(お気に入りの水族館があれば、そちらで)
さて、兄達に追いついた私は、早速、お兄様から夕月を奪うようにして誘い出し、お土産を一緒に見に行ったの。ふふっ。今度は、お兄様に勝ったわ。
夕月はいつもとは異なり、とてもお淑やかなお嬢様になっていたのですけれど。
私には、素敵な笑顔で応えてくれるの。うふっ。
やっぱり、私は、どのような夕月でも大好きなのですわ。私の隣に居て、1番安心が出来る人なのだもの。改めて、そう思ったのよ。
それなのに…、何かと私達の邪魔をする、お兄様と葉月。思わず、睨み付けてしまったぐらいだわ。それを見ていた夕月が、くすくす笑っている。楽しそうに。
いつもの夕月を知らない人から見れば、どこかの有名な家のお嬢様とか思うだろうなぁ。まあ、実際、血筋はそう通りなのですけれど。
『四条家』は、うちよりも大きな家柄であることは、私でも知っている。
そして、その『四条家』は、もっと上位の家柄の分家であることも。
一応、学苑の生徒達には内緒にしているのよ。だって、学苑では、1番上の家柄になってしまうのですからね。折角、夕月が親しみやすい性格をしているのに、見えない壁が出来てしまうわ。それが嫌で、夕月本人も、教師陣にも黙っているのに。
そして、いつもの夕月だけを知っている、学苑の生徒達から見れば、今の夕月の姿は想像がつかない程でしょうね。お嬢様姿を知っている幼馴染の私でさえ、別人に見えるぐらいに、変わってしまうのですものね。
飛野君が、この夕月の姿を知ってしまったら、大ショックを受けるのかしら?
だって、彼は…、飾り気のない夕月こそが、好きなのですもの。
またあの後すぐ、車に戻って来てから、今は再びドライブ中である。
お兄様の運転は、運転手の車に慣れた私でも、安全運転で殆ど揺れのない、快適な運転操作であった。余りに快適過ぎて、私は、途中で眠ってしまったようで…。
…夕月に揺すり起こされるまで。ううっ。熟睡してしまったわ。…恥ずかしい。
何だか…遠くまで来ているような…。見慣れない景色に、私は首を傾げる。
どこなのだろう?ここは…。う~ん、全く見覚えがないですわね?
私の様子に、お兄様がクスッと笑い出す。葉月も、してやったり顔をしている。
夕月はと言うと…、ここが何処なのか、同じように考えているように見えた。
「ここは、水族館だよ。去年の冬にオープンしたばかりの。」
「そうそう。2人共行きたいって、言ってたよね?特に未香子が。」
あっ!思い出しましたわ。そうそう。新しくオープンすると聞いて、両親にもおねだりしたのでしたわ。本当は、去年オープンした直後に、行きたかったのですが、防犯上無理だと言うお話でしたので、お兄様にも葉月にも反対されたのですわ。
今年になってからは、高等部入学で忙しくて、すっかり忘れておりました。
「そうでしたわ。もう、すっかり忘れていましたわ。」
「そうですわね。私も、すっかり過去の産物として、捉えておりましたわ。」
夕月も、たった今思い出したとばかりに、拳骨にした片手をポンと、もう一方の手の平の上に置く。実はこの動作、いつもの夕月の癖のようなものなのですが、意外と、今のお嬢様姿の夕月にも合っていた。今の夕月、幼く見えて可愛いです。
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「…どうして、こうなったのかしら…?」
「何が?…あっ、あれ。未香子が見たかった熱帯魚だろ?」
私が何とも納得出来ずに、ブツブツと文句を言っていれば、すぐ隣から能天気な声が聞こえてくる。思わず顔を見上げて、キッと睨み付けてしまったわ。
隣の人物は、私に睨み付けたというのに、キョトンとした表情をした後、首を傾げている。そのように夕月と同じ顔して、同じ動作しないでくださいな!
その動作は、あざと過ぎますのよ!態とではなくても!
「もう。葉月は悔しくないのですか?夕月を、お兄様に取られたのですのよ!」
「ああ…。そのことなら、仕方なくない?ジャンケンで負けたんだから。」
「………。」
そう、お兄様が何故か、「ジャンケンでペアを決めよう。」とか言い出されて。
意味ありげな顔をされるから、私達は皆、反対できなかったの…。
だって、こういう時のお兄様って、何か重い圧力とかの要素があるのです。
単に逆らいたくなかったのですわ。
そうして、私と葉月は負けた者同士として、同じくペアを組んだのです…。
今の私は、不満がタップリなのですわ!…お兄様、絶対謀りましたよね?
妹を謀るなど、言語道断ですことよ ‼ 一生、お恨みしますわ?!
「はあ~。そう怒んなって。偶には、朔兄にも譲ってやろうよ?こういう時ぐらいしか、朔兄は夕月と接点ないんだしさ。」
「……それは、そうなのですが…。葉月は、その…、嫌ではないの?」
「う~ん。そりゃあ、いい気分じゃないけどさ。…でも、相手は朔兄だからね。偶には良いんじゃないかな?」
「えっと…、そうでは、な…くて……。」
葉月の譲歩しようよ、という宣言には、私の方が驚いてしまった。だって、いつもの反対なのですもの。いつもだったら、夕月にべったりしているのは、葉月の方である筈なのに…。今日はどうしたのだろうか?…何かにでも、ぶつかったりして、頭でも打ったの?確かに、…他人に譲るぐらいなら、兄の方が数段マシではある。
でも……。葉月は、その、…私と一緒で、嫌じゃなかったのだろうか?
だって、いつもいつも、夕月を巡っては、口喧嘩ばかりしているというのに…。
だから、ストレートに訊いてみたつもりでしたが…。こうも、言いたい事が思うように言えないとは…。葉月に対しては、初めてだと思った。
ところが、葉月は勘違いしているようで。私の質問の意味を、兄と夕月が一緒に居ること=嫌なこと、と思ってしまっている。う~ん、どう説明しようかしら?
夕月は大体、私の言いたい事の意味を、理解してくれているのです。
でも、…葉月には通じないようなの…。
葉月は、私をじっと見つめていたようで、「ああ。そういう事か。」と1人で納得している。こういうところは、やっぱり双子なのね。
二卵性の双子だと言う割には、2人は本当に、顔も性格もよく似ていると思うわ。
流石に、男女の違いで背丈と体付きは、全く違いますけれど…。
それに、当然ですが、髪型も異なっている。夕月は、背中まであるロングヘアですし、葉月は、男子学生のよくある髪型、ベリーショートヘアである。
男装をする夕月も、髪だけは切らなかったのよ。勿論、家族中から反対されたからですが。それからは、その長さに保っているようなの。
「…未香子は勘違いしていると思うけど。僕は、別に、未香子を嫌っている訳ではないよ。夕月を盗られるのが嫌だったから、飽く迄邪魔していただけで。未香子が口喧嘩吹っ掛けて来るから、僕も返しているだけで…。ただそれだけなんだよ。それに…、未香子が僕を嫌っているのは、分かっているつもりだよ。でも、僕としては…、未香子の事は、全く…嫌ではないよ。」
別の事を考えていた私に、今頃になって、先程の問いに対する返答が返って来た。お陰で…、私は物の見事に固まりました。葉月の言っている意味が、正直理解出来なくて…。目を大きく見開き、葉月を凝視する。…え~と。何を言っているの?
意味が全く分からない。葉月が、私を嫌っていない?あのように…邪魔をしてくるのに?夕月を取られるのが、嫌なだけですって?
だって、葉月は、夕月が好きなのでしょう?恋愛的な意味で…。
私の気持ちと同じだと気付いたから、そう思っていたのよ?
それとも、違っていたの?…はあ?私が、口喧嘩を吹っ掛ける?先に葉月が吹っ掛ける、の間違いでしょう?あれ、でも…。…私が悪いの?そう言えば…、何だか、身に覚えがあるような…。私が、葉月を嫌っている?
う~ん、正直どうなのでしょうか?よく考えたことがないので、分からない。
そして、葉月が私を嫌いじゃない?はあっ???ウソでしょう?
あの態度のどこが、嫌ってないの?えっ?ええっ??
もう、私の頭は、大混乱中である。その時、葉月は、不思議そうに首を傾けたかと思ったら、私の顔を覗き見てきたのだ。
ぎゃあ ‼ ちょっと!それ、止めてくださいな!
夕月と同じ顔と同じ動作、し・な・い・で!
…お頼みしますから。お願いします!
副タイトルの意味は、タイトル前に『夕月の』という言葉が付く、といったところですかね…。
それにしても、夕月と全く同じ態度をする葉月に、前回から、未香子は振り回されていますね。
今後、この2人の関係は、どうなって行くのか、とても気になります。




