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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第一幕 名栄森学苑1年生編【2部 夏の巻 編】
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52話 初ドライブ

 夏休み中のプライベートなお話となっています。いつも通り、未香子視点です。

副タイトル通り、ドライブでのお出掛けでの出来事となります。

 あれから、兄が、()()()()状態になってしまったようである。毎日のように、今日は部活があるのか、何処かへ出かけるのか、等々…と訊いて来たりして。

流石に、「お兄様、超ウザいですわよ!」と言ってしまったのは、…後悔致しましたわ。お兄様が明らかに、凹んでしまわれたのですもの。


それでも、部活登校時は、「夏休み中は、車で登下校しなさい。理事長や教師陣には、既に許可を取ってあるから。」と、言われてしまった。こう見えても、兄は、言い出したら聞かないタイプなので、仕方なく真姫(まき)さんにお願いして、登下校時は車で行くことになっている。勿論、夕月(ゆづ)も一緒ですわよ。


 「はあぁ~。どうして、うちの連中は…、こうも五月蠅いのかな?」

 「そうだよね。私も帰宅して、お兄様が出迎えて下さった時は、物凄くビックリしたのよ…。葉月(はづき)も、同じく知っているとは、思わなかったわ。本当に、どうやって2人共、お知りになったのかしらね?」

 「…う~ん。それは、知らない方がいいと思うよ。世の中にはね、()()()()にした方がいい事も、多いからね。」


あの痴漢事件の翌日に、私と夕月(ゆづ)は、一緒に勉強をする約束をしていた。

私の部屋に夕月(ゆづ)が訪ねて来たので、お兄様が何故か知っていた、という話をしたのである。すると、驚くことに、葉月も知っていたのだと言うのだ。

その上、夕月(ゆづ)は、滅多に怒らない筈の葉月に、お説教を食らったとのこと。

…うん、()()()()()のようですわね。


実は、これって、初めてのことではないのよね。私に何かある度に、兄から電話が掛かって来たり、心配し過ぎて飛んで帰って来ることもあるのよ。

今のように、自宅に帰省されている時は、私の部屋まで飛んで来る始末なのだ。


葉月も、うちの兄と同様のようである。夕月(ゆづ)からは、一々報告したりしないと言うのに、葉月は双子の勘とやらで、毎回のように勘付いては、私の兄と以下同様という始末なのである。当然、この後に、葉月から事の顛末を聞かされるお兄様。

つまり、事の話を()()知るのは、いつも葉月のようなのよね…。


でも、今回は、()()先に知ったようなのよ。だから、情報源は何処からなのだろうと思って、疑問を口にしたのだけれど、夕月(ゆづ)は何かを知っている口振りである。

なのに何故か、知らない方がいい、謎のままがいい、と言って誤魔化そうとする。

一体どういう意味だろうか?更に疑問に思って、訊いてみたのですが。


 「?? 夕月(ゆづ)は、何か知っているということ?」

 「ねぇ、未香子(みかこ)。知っているという事は、()()()()真実とは限らないんだよ?」


私の質問に対し、夕月(ゆづ)は謎の言い訳のような言葉を口にして、(けむ)に巻こうとする。要するに、訊かない方が良い、ということなのかな?

夕月(ゆづ)の迫力ある笑顔に押され、私は、これ以上訊くのを止めることにした。

この笑顔は、そういう意味だと思うし、私が知ると不味いのかもしれない。


でも、私も無理に訊いて、()()ましい思いをするのは、もっと嫌だった。

夕月(ゆづ)が、はっきりと教えてくれないのは、そういう意味合いなのだろう。

私だって、訊かなくていい事を、態々(わざわざ)訊く気はないのである。

私って結構、楽天家でもあったのね。






         *************************






 もうすぐ、お盆休みに入るものだから、その前に撮れるだけ撮ろうという話になって、目が回るぐらいに忙しかったですわ。まあ、これで、部活も暫くお休みとなりましたわね。お盆休みの後は、いつもの演劇の稽古になる予定である。夏休み明け早々に、上演会が決定しているものだから、部員達も皆張り切っているのだ。


今日は、お兄様からお誘いがあって、夕月(ゆづ)と葉月も一緒に、お出掛けの予定なのである。初めて、お兄様の運転で、4人だけでお出掛けする予定なの。

楽しみのような、ちょっぴり緊張するような。ふふっ、ワクワク。毎年、4人でのお出掛けとして、初詣とかにも行くのだけれど、正直、4人だけでのお出掛けは全くなかった。今までは、いつも誰か大人が一緒にいたので。


大抵それは、運転手さんと兼用という扱いで、こういう時は、真姫さんや幹人(みきと)さん以外の大人の人であった。主には、篠田(しのだ)さんが多かったかも。

護衛も必要であった為、流石に小学生や中学生の時は、護衛としても何人か外部からも雇っていて、1台は私達が乗り、もう1台には護衛達が乗っていたこともあったかな。その頃は、まだ幹人さんも真姫さんも、学生であったことだし…。


若しくは、私とお兄様、夕月(ゆづ)と葉月、で2組に分かれて、それぞれに護衛が同乗して、2台の車で行くこともあったかも。その時は、夕月(ゆづ)達は『四条家(しじょうけ)』の車を使っていたし、護衛も『四条家』に仕えている人達だったみたいね。

あの頃は、夕月(ゆづ)達も、護衛の前では妙に余所余所しくて、私だけでなくお兄様も、少し戸惑っていらしたわね。


今思えば、あれは『四条家のお祖母(ばあ)様』の監視も兼ねていたのかもしれない。

多分、一から十まで報告されていたのだと思う。だって、護衛というよりも、お側付きの人達みたいだったもの。あれこれと、2人の世話をしていたものね。

2人は全く動揺すらしていない雰囲気で、いつも適当に()()()()()いたようね。


だけど、私達も高校生になったものだから、お兄様も今年免許を取られて、やっと4人だけでのお出掛けが認められたのよ。

葉月は、助手席に乗るようだから、私達は後ろの席に2人で座って、夕月(ゆづ)と内緒のお話も出来そうね。と言っても、葉月もお兄様も、「何の話?」って必ず訊いてくるのだから、実際には内緒話は出来そうもない。


 「お兄様。今日は、どちらに連れて行って下さるの?」

 「ははっ。()()内緒だよ。着いてからのお楽しみ。」

 「そうだよ。折角、朔兄(さきにい)といいプランを考えたのに…。今から教えたら、全く意味がなくなるよ。」

 「未香子、私も教えてもらってないから、大丈夫だよ。」


そう言えば、まだ行先を聞いてなかったわね?そう気が付いてすぐに、兄に確認したというのに、葉月までが同意して、内緒だと言って教えてくれなかった。

文句を込めてぷくっと頬を膨らませると、その私の頬を指でチョンチョンつつきながら、私も知らされてないからとフォローし、夕月(ゆづ)がウインクしてきた。

くう~。非常に残念ですわね…。


今日の夕月(ゆづ)の服装は、女性らしいワンピースを着ていて、完全な女子らしい格好であった。どうも、葉月がご所望したらしいわ。多分…、お兄様も、1枚噛んでいるに違いない。葉月もお兄様も、女性らしい夕月(ゆづ)が好みなのですもの。

お陰で、私の()()()()度が、半減してしまったみたいだわ。


夕月(ゆづ)がウインクしてくることなんて、滅多にないチャンスなのに…。くすん。本当に残念ですわね…。今は車の中にいるから、夕月(ゆづ)は、いつもの男子言葉に近いけれど、人目のある場所では、お嬢様言葉になってしまうだろう。

まあ、仕方がない。女性の姿で、いつもの口調では完全に浮いてしまうのだから、当然といえば当然なのである。


ただ、夕月(ゆづ)が嬉しそうにしているので、今日はこれでいいのかなぁ、みたいな気持ちにはなっている。基本、私は夕月(ゆづ)が隣に居てくれれば、()()()姿()()()()わないのだと思う。夕月(ゆづ)が楽しんでいるのなら、私も楽しいに違いない。

やっぱり、夕月(ゆづ)には笑顔が1番似合っている、と思うわ。


お兄様の車がピタリと止まったようなので、目的地に着いたのかと思っていたら、まだ目的地ではなかった。休憩の為に、サービスエリアに寄っただけでした。

そう言えば、お兄様しか運転出来ないものね。運転に疲れても、誰も代わって差し上げられないのだったわ。


車から私達全員が降りると、周辺に居た人たちが、何気にギョッとした顔をして見つめて来る。はて?何なのでしょう?何も、おかしなことはない筈なのですが…。

それとも、何かおかしなことでも、してしまったのかしら?理由がよく分からず、首を傾げていた。すると行き成り、()()()手を掴まれて歩き出すことになり…。


前を歩くその人を見てから、その人の横顔が見えたので、「何だぁ。夕月(ゆづ)だったのね。」と、一瞬、そう思ってしまう。しかし、すぐ、それこそが違っていることに気が付いて…。驚き過ぎて、目を大きく見開いて…。歩いていた足も止めて、完全に立ち止まってしまっていた。


そうなると、今度は前を歩く()()()も、同じく歩くのをめて、私の方を振り返る。そして、私の顔をじっと見つめてきたのだ。


 「……ごめん。手を引っ張って歩いていたから、…痛かったよね?其れとも…、歩くのが早すぎたかな?」

 「………。はっ!えっ、ち、違うのよ。そうじゃなくて…、夕月(ゆづ)だと思っていたから、…ちょっと驚いてしまっただけで……。」


如何(どう)やら、葉月は、私に気を遣ってくれていたようである。別に、手を無理矢理引っ張ってもいないし、歩くスピードも歩幅も丁度いい。

私の歩幅に合わせて、ゆっくり歩いてくれていたに違いない。それでも、私が急に止まったものだから、気に病んでくれているようだった。


しかし、私が、夕月(ゆづ)と勘違いしていて、驚いたと分かったことで、一瞬だけど、葉月は、確かに顔を歪めていた。…()()()葉月、初めて見る。私は、すっかり戸惑ってしまっていた。この後、一体どうゆう態度を取ったらいいのか、分からない…。


 「…夕月(ゆづ)なら、朔兄と先に行ってるよ。…と言うか、朔兄が連れてった…。」

 「えっ… ‼ ……お兄様に先を越されたわ!」


夕月(ゆづ)はお兄様に盗られた、という葉月の返答に、慌てて周りを見渡した私。

すると、兄と夕月(ゆづ)が、私達の遥か前方を歩いている。しかも、葉月の言う通り、兄が、夕月(ゆづ)の手をリードするような形で。ああっ‼ 完全に油断してしまったわ。

お兄様に、完全に先を越されてしまった!お兄様ったら、こういう機会を狙っていたのではなくて?!


 「ふっ、あははは。いつもの未香子だ。ホント、未香子らしい。はははは。」


如何(どう)やら、心の声が漏れてしまったようで。何が可笑しいのか、葉月がお腹を抱えて笑い出す。何、笑ってるの!と言う意味を込め、葉月を睨み返しても…。

葉月は、暫く笑い続けていた。失礼な!もう!何なの、一体!?


 副タイトルですが、『朔斗さんの運転での』という意味が含まれています。運転手付きでのドライブは、何度もあるようですので。


朔斗さん、今のところ、まだ影が薄い感じです。まあ、仕方がないですね。余りにも、兄が妹達にベッタリでも気持ちが悪いので、葉月よりも距離を置いています。


(注)未香子は、葉月を愛称呼び出なく、呼び捨てで呼んでいます。これは、幼馴染であり、夕月の弟としてであり、そういう意味で呼んでいます。今のところ、特別な感情はありません。

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