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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第一幕 名栄森学苑1年生編【2部 夏の巻 編】
57/199

50話 一方で、学苑では…

 今回のお話は、痴漢事件後に登校した学苑での出来事となります。

前半と中盤が、未香子視点で、後半はかなり短めですが、赤羽根部長視点となっています。

未香子視点が尽きたので、他の人物視点に交代させました。


ところで、今回で50話達成です。祝、50話!(番外編とかも含めると、既に越していますが。)

此処までこれましたのは、読んで下さっている皆さま在ってのことだと、思っております。

ありがとうございます<m(__)m>。

 案の定、学苑に登校すると、私達の今朝の出来事が話題に(のぼ)っていた。

学苑に到着した途端に、登校している生徒達が作業を中断してでも、私達の方を振り返って見つめて来る。近くを通りかかる時には、何か話しかけた気な顔をしていたり、遠目からは興味有り気に眺めて来たり。


女子生徒達は、いつもよりもキャッキャッ言って騒いでいる。男子生徒でさえも、私達を見つけた途端に、「おおっ!」と声を上げてくる。

明らかにこれは、一昨日に部活の登校していた時とは、様子が異なっている。

間違いなく、朝の電車での出来事が、学苑中に広まった証拠ではないだろうか?


かく言う私達も、平常とは異なる態度を取っていた。…だって、夕月(ゆづ)()()()手を繋いでくれているのだもの…。勿論、今は恋人繋ぎではないわ。流石に、女子同士の姿では難しい。…非常に残念だわ。まあ、私の気持ちは置いといて、夕月(ゆづ)は、まだ私の事を、心の底から心配しているのだろう。私が怖がると思っているのよね。


あの時、電車を降りてからはずっと、私を支えるようにして、背に手を回してくれていた。駅員さんやお巡りさんとお話をした後も、事務所を出てからは、また私の手を取っては手を繋いでくれていた。それからずっと、夕月(ゆづ)からは私の手を放そうとしない。私も手を繋いでいたいから、私から手を離すことはないのよね。

そして、今現在も手を繋いだままでいた。このままだと多分、手を繋いだままで部室に行くことになるだろう。


学苑の生徒達の視線が、物凄く痛く感じられた。女子生徒も男子生徒も、夕月(ゆづ)に声を掛けたそうに、うずうずしているのがよく分かる。それでも、何故だか、声を掛けてくることはなかった。それはきっと、私の態度からではなく、夕月(ゆづ)の態度の所為であると思われた。()()()()夕月(ゆづ)には、声を掛けづらいよね?


では、何故、夕月(ゆづ)に声を掛けづらいのか?…つまり()()()()()なのです。

普段の夕月(ゆづ)は、いつも私の横に並んで歩き、私に歩く速さを合わせてくれているのです。ところが、今の夕月(ゆづ)は、自らが先に先導するように歩いていて、私を軽く引っ張るような形で、私の目の前を歩いているのであった。だから、私も自然と早足になっている。


勿論、私が駆け足にならないよう、夕月(ゆづ)が気を付けてくれているのだろう。

先に歩く夕月(ゆづ)の顔は、後ろを歩く私の方からは全く見えず、今はどういう表情をしているのか…、正直分からない。でも、私達は長年の付き合いであり、その経験から、今の夕月(ゆづ)の表情が、私には手に取るように分かっている。ふう~。(溜息が)

…そうなのよね。夕月(ゆづ)は…、()()()()()機嫌が悪いのであった。


思い返しても、昔から夕月(ゆづ)は、私の事になると、()()()()()()神経質な態度に変貌してしまうのだ。これは…、自意識過剰とかではなくってよ。

本当に事実なのですわ。多分、こうなった原因は、昔の私の事に関わっているのよね…。間違いなく…。夕月(ゆづ)が、…心配性になった原因でもあるのです。


要するに、夕月(ゆづ)としては、私に昔の()()出来事を思い出させたくない、と思っていて、夕月(ゆづ)自身もその昔の出来事は詮索されたくない、と思っている節があった。

なので、昔の真実を知らない他者が、色々と訊いて来たりして詮索するのを、異常に嫌っている。例え、最近の出来事であっても…、言いたくない程不愉快な出来事であれば、夕月(ゆづ)から語ることはないのだろう。


今回の件も、夕月(ゆづ)自身の口からは、何も語られることはないだろう。そして、同じく私の口からも…。だって…、笑い話にするほど、私は強くないのよ。

他に見た人がいるのなら、これ以上自分の口から話してでも、恐怖を思い出すようなことをしなくても、いいでしょう?


今の夕月(ゆづ)の態度は、怒っているというよりは、生徒達の関心を鬱陶しく思っているのは、確かであるだろう。推測するに、夕月(ゆづ)の今の表情は、無表情の冷たい感じの表情なのだと思うわ。怒っている時と異なっている点は、その表情が、伏し目がちで悲し気な表情に、見えていることだと思うの…。


私も勿論、その表情を何度か見たことがある。夕月(ゆづ)の場合、煩わしく思う時や怒った時は、いつも似た顔つきになっていた。それでも、夕月(ゆづ)を長い間ずっと見ているうちに、微妙な違いに気が付いて。それが、今言ったような微妙な違いである。


一見、悲しんでいるみたいで、怒っている時と同様に不機嫌そうで、やや無表情になっていて。ただ単に、素早く人を掻き分けて去りたいと、無意識に思っている為もあってか、顔をやや俯けているから、憂い気のある表情に見えるのです。


ある生徒には、夕月(ゆづ)が悲しそうに見え、また違う生徒には、夕月(ゆづ)が怒っているようにも見え、また、夕月(ゆづ)が憂いているように見えたりと、色々な意味で声を掛けれなかったのであろう。


夕月(ゆづ)のことだから、()()を狙って遣っている…、という行動の可能性も捨て切れないわね。まあ、私も、不用意に声を掛けられたくなかったのだから、不満は全くないのですわ。…夕月(ゆづ)…、ありがとう。




         *************************




 学苑の渡り廊下など、いつもよりも長く感じて歩いていたが、漸く部室に到着したようである。学苑に着いてから、たった10~15分くらいのことだったのに。

因みに、まだ手を繋いだままのその状態で、夕月(ゆづ)が部室のドアを開けると。

その途端、部室に居た部員の生徒達が、一斉に振り返ってきた。


夕月(ゆづ)は何も言わず、部長の許に歩いて行く。私の手を引いて…。その間、皆の視線が、私達に突き刺さるように感じた。うわっ。針の筵って、こういう状態なのね。

部長からは何も話し掛けようとせず、私達が近づくのを待っているようだった。

他の部員達も、まるで石になったかのように動かず、ただ私達を見つめている。


 「すみません、部長。諸事情で、遅くなりました。申し訳ありません。」

 「あなた達が、謝る必要はないわよ。多少の事情は、現場を見ていた他の部員から聞いているわ。…大変だったでしょ?ゆっくり準備してくれたらいいわよ。」

 「…はい。今から、準備してきます。」

 「ええ。疲れているとは思うけど、そうしてくれる?ああ、そんなに慌てなくてもいいからね。まだ2人のシーンは、後回しにするから。」


部長の有難い許しを得て、私達2人は奥の部屋の方に向かう。荷物は、この奥の部屋の方に置くことになっている。今日は、2人共、撮影にも使用できる私服を着用しており、特に着替えは必要ない。準備と言っても、持参した台本とか小道具ぐらいを用意するだけ。結局、準備という()()で、休憩していいよという意味なのよ。

だから、部長の言う通り、心の準備をしっかりしてから、出て行くことにしたの。


奥の部屋から2人して出た時には、部員達の態度はいつものように、変わらない態度となっていた。部長が何か、忠告とかしてくれたのだろうか?

兎にも角にも、部員達の態度が変わらなかったことに、私はホッと安心していた。


その後は、誰1人として、今朝の出来事について、何も聞いて来たり話題にしたり、して来なかったのである。お陰で…、逆に申し訳なく思っていたぐらいだわ。気を遣わせたみたいね…。私は、心の中で感謝した。皆…、ありがとう。




         *************************




 部長である私は、部員達の中では1番早く、学苑に登校していた。3年生は残り時間が余りない。時間が幾らあっても、足りないぐらいだ。少しでも時間が勿体ない、そう思っていたのよ。何しろ、この夏休み中に、部員達に後を任せられるように、鍛えねばならないし、私の役割は沢山あるのよ。


今朝も同じように1番に登校して、色々と1人でも準備をしていた。

そして、後から登校した飛野(ひの)達3人から、北城(きたしろ)九条(くじょう)の事情を訊いて、2人に何があったのかは、大体の事情を知っていた。だから、他の部員達にも、事前に話をして置いたのだ。くれぐれも騒がないように、と…。


北城も九条も、騒がれたり事情を訊かれたりするのを、()()()嫌がっているのは、過去の事件で知っている。この高等部には外部生もいて、そういう事情を知らない者も多いのだ。私が部長として、注意しなければ…。


…やはり、部員達に話を付けて置いて、正解だったわ。

北城の顔を見た瞬間に…、私は、自分の考えが()()()()()ということを理解する。

はあ~。あれで、北城は結構、扱いが難しい()()()()()なんだから…ねぇ。



###こうして、赤羽根(あかばね)部長の苦悩は、続くのであった。

 前回同様、未香子視点で書いていたら、煮詰まりました。なので、前回同様に、別の人物視点の後半部分となり、短めです。

こうやって見ると、遣りたい放題の部長のようでしたが、結構部員に気を遣っているんですね。まあ、こういう人でないと、部員が一致団結みたいに纏まらないでしょうね?


副タイトルって案外大事なので、考えるのが毎回キツイです。今回のは特にきつかったかも。でも、これで50話になったかと思うと、この副タイトルもまあいいかと…。長いような短いような。あっと言う間でした。



(注)一番最後の『###』の後の言葉は、部長の言葉でも、誰の言葉でもありません。第三者視点(筆者)の『締め括る言葉』としてお考え下さい。

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