48話 女子の敵
今回は、少しだけ暴力表現があります。あと、気持ち悪い事件が…起こります。
体調悪くならないように、お気を付けください。申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
夕月の朝食が済み次第、後片付けは葉月に任せて、私達はすぐに登校することになった。夏休み中の為か、走行する車も歩く人も、何処も彼処も全体的に少ない感じがする。駅でも、電車を待つ人が疎らで少なかった。
ただ、いつもよりも時間が遅いのも、原因であるかもしれない。
電車の中も、いつもなら混み混みなのに。席も若干、空いているような所もあり。
私達は、いつもは女性専用車両に乗り合わせているのだけれど、流石にこの時間帯には、女性専用車両はなかった。止む無く、私達は、男性が余り居なそうな車両を選んで、乗り込むことにしたのだった。
1人なら怖いけど、夕月と2人なのだから、ちっとも怖くないですわよね?
夕月が居なかったならば、私、きっと電車通学が出来ないことだろう。
今は、だいぶ恐怖が薄れて来たのだけれど、昔は怖い夢も見てしまって、よく夕月に来てもらっては、一緒のお布団で眠っていたのよね。
今でも、大人の男性に近づくと怖いと思う。…前ほどではないだけで。
男子生徒にはやっと慣れて来たわ。でも、まだ大人の男の人には、良く知っている人以外は、全く近寄れないし、近寄ってもらいたくないと思っている。
だから正直に言うと、専用車両以外には乗りたくなかったの。しかし、そうなると時間を早めてもらう必要があり、私は我慢するしかなかった。夕月は、本当は心配していたのだけれど。私が早い時間に変更してもらえば、他の部員にも早朝に登校してもらうことになり、多大な迷惑を掛けてしまうもの…。私の我が儘で、皆を振り回したくなかったのよ。多分、夕月が居るから大丈夫よね?
そう自分に暗示を掛けて、電車に乗り込もうとしていたのに…。それでも…、電車に乗る時に、私は、少し躊躇していたのかもしれない…。
夕月が珍しく、登校時に手を握ってくれたのだった。(恋人繋ぎではない。)
登下校時は、そういうことは全くしない人なのに。これ、私の為なのよね?
突然のことに、私は驚いて夕月の顔を見上げると、夕月は優しく微笑んでくれた。
まるで勇気を分けてくれるみたいに…。一瞬で、恐怖が和らいだわ!
私達は手を繋いだまま、一緒に電車に乗り込む。私達が乗り込んだ車両は、男性も居るけれど、女性も大勢乗っている。よかった。肩の荷が下りた感じである。
これなら、大丈夫だと思って、安心していたのかもしれない。
どのくらい経った頃だろうか?席は空いていなかったので、私達は、車両の中の通路に立っていた。ふと気が付くと、私の後ろに、誰かが立っている気配がする。
しかも、くっ付くようにピッタリと…。そう気が付いた途端に、身体中が震え出して来て、気分が悪くなる。吐きそうだと思った。
男性だとすぐに理解した。あまり混んでもいないというのに、くっ付くように後ろに立とうと思うのは、異性だとしか有り得ないと…。そう理解すると同時に、もう怖くて、怖くて…。体が全く動けなくなる。声も…怖くて出せそうになかった。
どうしよう…。怖い…。誰か…、助けて……。…夕月、助けて!
心の中では、必死に誰かに助けを求めていた。そして…、夕月にも。
その時、隣で同じように立っていた夕月が、行き成り動いたのだ。私の後ろ側だから、気が付いてないのだと思っていた夕月が。夕月は、怖くないようにと、今の今まで、私と手を繋いでいた、その手を唐突に放して、後ろに振り向くと同時に、今度はその手を、私の後ろ側の方へ動かせて…。
ここまでの動作の流れは、あっという間の出来事であったけれど、いつもだったら絶対に動きについて行けなった筈なのに、この時はまるでスローモーションのように感じるほど、夕月の動きがはっきり見えていた。多分、恐怖を感じていたからだろうと思う。
そして、夕月が手を後ろに向けたその直後、私の後ろに立っていると思われる男性が、「うぎゃあ ‼ 痛~ ‼ 」と、悲鳴と思われる大声を上げたのだ。
私自身も、物凄く驚いて、ビクッとしながらも後ろを振り返る。同じ車両に乗車している乗客達も、ギョッとした顔でこちらに顔を向けていた。座席に座って眠っていた乗客も、この大声で飛び起きたようで、慌ててキョロキョロと顔を動かす。
「痛てててっ ‼ 放せ!何しするんだ ‼ 」
「へえ?自分が何しようとしたか、分からないの?」
「…何も、してない…痛、ててっ!」
「混んでもいないのに、…女性の後ろにピッタリくっ付いても?」
悲鳴を上がる男性に対して、詰問する夕月の声が、いつもより数段低くなった。
これは、かなり怒っている証拠である。その証拠に、男性の手を捻っている自分の手に、更に力を入れて捻り上げている。…これは、相当痛いだろうな。何もしていないと否定しながら、男性は、何とか体を動かそうとして、暴れる。男性は暴れながらも、掴まれていないもう一方の手を、夕月に向かって掴もうとして伸ばす。
しかし、夕月がそれを許すこともなく、男性の手は空を掴む。その自身の勢いで自らの身体が傾き、転びそうになっていた。夕月が、強く捻り上げている片手のお陰で、実際には転ばなかったのだけれど。夕月の目は、更に冷たいものとなり、男性のこの行動に、キレているのか、無表情の顔に口元だけが笑みを作っている。
「みっともない悪足掻きだな…。自分は…、若い女性のおしりを触ろうとしてたくせに?…何もしてないだと?それがすんなり通るとでも?」
「…ほ、本当に、何も…してない…。しょう…証拠も、ないくせに…!」
男性は苦しそうな声を出して、それでも何もしていないのだと話す。確かにくっ付く以外には、まだ何もされていなかったかもしれない…。それでも、私は…、しっかりと恐怖を感じていた…。今も思い出すだけで、震えて来そうだった。
電車のガタゴト揺れる音だけが大きく響き、周りの人々は身動き一つ出来ないというように、ただ成り行きを見守っている。
「それじゃあ、この手は、一体何だろうね?私は、彼女の臀部に、触ろうとした寸前の手を、掴んだんだよ?つまり、ずっと見張ってたんだよ。おっさん?」
「 ‼ …ち、ちがっ………。」
夕月が、睨み付けるように男性を見下ろしながら、この手が証拠だと、掴む手に力を入れたようで。痴漢の男性は、まだ言い逃れをしようとしたのか、顔を上げた後
に、夕月の冷徹な目と合った途端、恐怖を感じたように真っ青になる。
この頃になると、電車の乗り合わせた乗客達も、こそこそと話し出しては、男性に白い目を向けている。特に私と同性の女性達は、女性の敵という雰囲気で睨み付けていた。この状況に、やっと男性は観念して、大人しくなったようである。
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誰かが呼んでくれたのだろうか?他の車両から、車掌さんが移って来た。
慌てて駆け付けて来て、夕月が簡単に事情を話し、車掌さんに男性を引き渡す。
夕月が男から手を放し、やっと私の方に向き直って、眉を下げる。
「…ごめん。証拠がないと、くっ付くぐらいだと言い逃れされるから…。捕まえられないと思ったから、少し様子を見てた…。」
「何で、夕月が謝るの?夕月は私を助けてくれたんだから、悪くない ‼ 」
「…でも、震えてた。怖かったよね……。」
私は、夕月の言葉に目を見張る。…気が付いていてくれたのね。私は誰かに助けを求めたくても、身体も動かなければ声も出なかった。どうしようもなかった。
それなのに…。夕月が責任を感じるなんて…。夕月は絶対に悪くないわ ‼
私はそのことを伝えようと思い、口を開きかけたのですが。周りから「わ~!」とか「凄い(ぞ)!」とかいう歓声が、突如として起こり…。同時に拍手も起こる。見ていた乗客達が、「よく捕まえたな!」と拍手喝采で、夕月を褒めている。
今日の夕月の格好は、まだ女子だと分かる服装スタイルであり、乗客達は皆、相当に驚いていた様子である。
運が良い事に、次の駅は丁度私達が乗り換える駅でもあり、そこで一先ず降りることになる。車掌さんに、詳しく事情を訊きたいと言われたからである。痴漢行為は犯罪であり、事情次第で警察に突き出す為であろう。各駅停車しない急行に乗っていたので、痴漢を捕まえてからは、まだ駅に到着していなかった。
駅には既に数人の駅員が待機しており、車掌さんは、男性を駅員に引き渡した。
駅員さんに付いて来るように言われ、私達は無言で後ろを付いて行く。
その途中、降りた駅に見知った顔を見つけた。飛野君、萌々香さん、あとは…誰かしらね?今の私は、夕月に支えられるようにして、歩いていた。知っている顔の人達は、皆、何故か驚いた顔をしていて…。
部活には、遅刻することになるだろう。学苑に到着する頃には、この話は有名になっているだろうと、私は憂鬱な気分になっていた。
やっと書きたかったお話が、今回書くことが出来ました。
このお話の場合、暴力なしでは進まないので、このお話にとって、大切な部分でもあります。
申し訳ありませんが、ご理解願います。
筆者も、自分で痴漢の話を書いていて、想像しているうちに、何だか気持ちが悪くなりましたよ。
あまりいいお話ではないですが、夕月のかっこいいところを見せるには、仕方ないのですよね。
でも、筆者の表現力で、カッコ良さは伝わっているのでしょうか?…不安です。




