46話 女子話(じょしばな)
今回も、萌々花視点となります。前々回からの続きの内容です。
女子話を書いてみたかったのですが、大満足です。
おかみさんはくすくす笑いながら、「ご注文が決まりましたら、このボタンで呼んでくださいね?」と説明し、厨房の方へ戻って行く。私も、やっと笑いのツボが収まってきたので、「何を注文しようか?」と3人で一緒に、メニュー表を見つめていた。部活の後で、少しお腹が空いているから、サンドイッチにしようかな?
「でも、驚いたぁ。壊す気ないけどぉ、偶然でも壊しちゃったら、どうしようかと思ったよ~。」
「いや、偶然になんて壊れないからね。何で壊すのが前提なの?」
「傷つけたりして弁償になったら、うちの家、破産するわ。」
「いや、何で、何もしていないうちから、弁償なの?2人共、今までに、似たような事とか、何か覚えがあるの?」
「「…」」
うわ~。まさかの肯定なの?2人共、一体何を遣ったのよ?冗談だよね?と何度か問い直したら、ナルちゃんの方は冗談だった。私が笑ったことに対しての、意趣返しだったようだ。ふう、冗談でよかったよ。これ、冗談だとしても、笑えないよ?
でも、郁ちゃんは本当に覚えがあるようで、「えへ。子供の頃にちょっとね。」とか言ったんで、私とナルちゃんは、思わず白い目で見てしまった。
…反省してないのかい。そう思って疑いの目で見つめていると、その時は本当に偶然だったらしく、だから、弁償はしなくて済んだようで…。う~ん。偶然でも、そんなことあるんだろうか?
「もしかして、郁ちゃんって、結構ドジっ子なの?」と、私が思ったままに聞いてみたら、「萌々ちゃんほどじゃないよ。」と、郁ちゃんに言われてしまって。
…ちょっと~。私、そこまで、ドジっ子じゃないからね!北岡君に、偶々見られていた事でそう捉えて、それが重なったから、そう言われてるだけなんだからね!
やっと、3人の注文が決まった。いつもは、おかみさんが注文を聞きに来てくれていたのに、丁度今、会計の処理中みたいで、代わりに、アルバイトと思われる人が聞きに来た。初めて見る若い男の人だったから、私は勝手にそう思っていた。
何か、物凄く感じが悪い人だった。口調もどこか偉そうで、接客態度もなっていなくて。あんな人を、店長さんは雇ったのかなぁ?ナルちゃんも郁ちゃんも、口には出していないけど、特にナルちゃんは、注文時にムッとした顔をしていたよ。
郁ちゃんだけは、全く気にしていないみたいだった。でも、あんな態度じゃ、ナルちゃんが怒るのも、当然だと思うよ。折角、お店のこと、気に入ってもらえそうだったのに…。あの人のお陰で、台無しかもしれないな…。
注文した軽食は、3人共、サンドイッチと飲み物だった。「お待たせしました。」と言って持って来てくれたのは、おかみさんだったので、ホッと一安心する。
ナルちゃんも、あの注文の後は、いつも通りに何もなかったかのように、してくれていた。だから、またあの人が持って来ていたら、険悪だったかもしれない。
おかみさんはにこにこして、注文した品をテーブルに置いていく。立ち去る前に、おかみさんは悲しそうな、若しくは、困ったような顔をして、爆弾のような一言を落として…。
「ごめんなさいね。さっき注文取りに来たのは、うちの馬鹿息子なの。今日は、いつものバイトの子達が、大学の都合で急に来れなくなったから、人手が足りなくて困っていたのよ。珍しく、息子が手伝うって言うから、任せたんだけど…。やっぱり、他のお客さん達も怒らせたようなの。手伝わせるんじゃなかったわ…。」
おかみさんは、ここで言葉を切って、私達の顔を見回す。
私は内心、「ええ~!あんな感じ悪い人が、こんな感じのいい店長さんとおかみさんの息子!?」と、目が飛び出さんばかりに驚いていたのだ。
「あなた達にも、何か失礼な事を言わなかったかしら?接客態度が悪くて、本当にごめんなさいね。私が代わりに謝りますから、この店を嫌いにならないでね。」
「いいえ。何もありませんでした。ただ単に、態度や言葉が横柄だっただけですから、気にしないで下さい。逆に、従業員じゃなくて良かったぐらいです。」
「大丈夫ですよぉ。私、心臓に毛が生えているんで、ちょっとぐらいじゃ気にならないですぅ。」
「そうです。おかみさんは何も悪くないです。お店は大好きですから、また来たいと思ってますよ。だから、気にしないで下さい。」
おかみさんは、そう言って謝りながら、頭を下げて来る。すると、あの人に、1番怒っていた筈のナルちゃんが、真っ先にフォローしてくれている。郁ちゃんも同じく、フォローしてくれているし、本当に、2人と一緒に来れて、良かったと思う。
私も、すぐさまフォローを入れる。だってさ、おかみさんの息子だと言ったって、どう見ても私達より年上だと思うし、もう完全に本人の責任だよね。
多分、さっきのあの人、成人になっている、20歳過ぎた大人だと思うよ。
例え、大学生だとしたって、高校生には絶対に見えなかったんだもん!
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結局、あの後すぐに、息子さんには手伝いを止めてもらったようだった。
バイトがいなくて忙しそうだったけど、これ以上は関わってはいけない事は、自分でも分かっているつもりだ。私も、所謂、同業者の関係者になる立場だからね。
手伝うという事は、その店の内情も、ある程度は知ってしまうことになるんだ。
ナルちゃんは割と、人が困っていると手を貸すタイプだと思うけど、今回は動かなかった。これは、後に知ったことだけど、ナルちゃん家も自営業をしているので、下手に商売関係の他人に手出しすると、ちょっと手伝うだけのつもりでも、トンデモないようなトラブルになったりするそうだ。…よかった。実は、咄嗟に言いそうになったんだよ、手伝いましょうか、って。何とか踏み止まったけど。
「今日、北岡君達、来てなかったんだってね?」
「うん。そうなのぉ。今日のヒロインは千明君だし、相手役も箕村君だったからねぇ。内部生の演技は物凄く上手いから、外部生が下手に見えちゃうんだってぇ。だから~、もう暫くは、別々で上演するらしいよぉ。」
「そうだね~。私も、北岡君は、物凄く上手いと思うよ。」
「北岡君は別だよぉ。北岡君のアドリブの演技に付いて行くのは、内部生さえ大変みたいだよぉ。」
私達3人は、映像部の話で盛り上がる。それに、北岡君の話が出て来る度に、悪い気がしないのよね。何だかもっと、聞きたくなっちゃう。確かに、私もバイトのお金を貯めて、毎回何とか上演や上映を全部見ているけど、内部生の部員の演技は、テレビドラマを見ているような感覚がする。
そのぐらい、演技力があるという事だろうなあ。北岡君や未香子さんって、凄いんだなあ。女子生徒が皆、憧れる気持ちがよく分かるよ。ただ、普段の北岡君を見ていると、普通の人と変わらないと思ってしまう。そう言えば、さっきから、ナルちゃんが話に入って来ない。映像部の話になった時に、「そう言えば、___って、映像部だったっけ。」と小さい声で呟いていた。
私は隣に座っているから、ちょっとだけ聞こえたんだよ。誰かのことでも、言っているのかな?それとも、全く違うことだったのかな?私が不思議に思って、暫くナルちゃんを見つめていたから、彼女は私の視線に気が付いて、まるで何かを誤魔化すように、全く違う話を振ってきた。
「そう言えば、萌々ちゃんはバイトしているんだよね?今度、そのバイト先に、お邪魔しに行ってもいい?」
「いいよ!大歓迎だよ!その時は、折角だから沢山食べに来てね。バイト先は、私の親戚が経営しているから、少しならサービス出来るよ。」
「わあ~、ホントぉ?じゃあ、私も行っちゃう~!」
「うん!来て来て。実はさ、昨日は、北岡君達も来てくれたんだよ。偶然だったんだけどね。私も、ビックリしたんだよ。」
「「ええっ ‼ 何それ!そんな話、初耳!」」
ナルちゃんの予想外な先手に、私は、さっきまで考えていたことをすっかり忘れ、バイト先に来たいと言われて大喜びした。だって「お店に遊びに来てね。」って、どうやって誘おうかと思って、迷ってもいたんだからね…。然も、郁ちゃんも行きたいと言ってくれて。2人が行くって言ってくれて、ついつい嬉しくなって、昨日の事を2人に話してしまった。北岡君に許可取ってないけど…、よかったかな?
でも、この事実に驚き過ぎたのか、郁ちゃんはいつもの口調じゃなかったよ。
何だか、目がランランと輝いている。いつもは余り興味のないナルちゃんも、今回は興味津々のご様子で。私は、昨日起こった出来事を、2人に詳しく話していた。話が全部終わると、郁ちゃんが何故か拗ねていた。
「萌々ちゃんばかり、狡~い。私、同じ部活の部員なのに~、まだあの男子3人とは、全く話してないんだよ~。」
「そうだよね。萌々ちゃんばかり、狡いよね~?」
ナルちゃんは、完全に面白がっているようで、郁ちゃんの乗っかかるように話を振ってくる。郁ちゃん自身は、三次元の男子には全く興味がないのかと、思っていたのに、恋愛面では別だったのね…。郁ちゃんも、そういう部分では、私達と同じなんだね。二次元ばかりの話しかしないから、ちょっと安心したよ。
「私、興味ないなんてぇ、一言も言ってないよぉ。ただねぇ、興味の中身が他の人と違うだけよぉ。別に、恋愛したいとかじゃないから~。」
つまり、アニメや漫画や小説に出て来るとか、出て来ないとかが、そういう事が今は1番興味を惹かれているらしい。実写版になったら、こういう人物かな、とかそういう意味の、である。彼らがタイプとかでは、ないそうだ。
「じゃあ、どんな人がタイプなの?」って聞いたら、「『麻琴』みたいな男性!」という答えが返って来て……。やっぱり、二次元の人物がタイプなのね…。
…う~ん、郁ちゃんの恋愛は、まだまだ遠いのかもしれないね?
萌々香視点でのお話は、やっと今回で終了出来ました。
何だかお話が、どんどん膨らんで。
「自分でもキャラがこう動くとは、思わなかった」風な事が、よく小説の後書きとかにあるのですが。
筆者もそうなるとは…。やっと、作者さんの気持ちが、本当の意味で理解出来たと思いました。
さて、萌々花には頑張ってもらわねばならないので、萌々花の自慢エピソードとして、41・42話の出会いも絡めてみました。でも、郁と鳴美が相手では、本気で羨ましがらず、「いいなあ~」程度終わりましたが…。
※また新キャラ男子『箕村』君、外部生1年生が登場予定です。
詳しくは、追加の登場人物一覧の時に、纏めます。
今回は名前だけですが、そのうち登場させるつもりです。
一応、フルネーム脇キャラの予定でいます。