44話 女子の友情
今回は、未香子視点ではなく、萌々花視点となります。
少し前に、萌々香の気持ちをいつか書こうかな、というような事を後書きに書きました。
こんなに早く書くことになるとは…。
「萌々ちゃん!」
私は今、陸上部の部活の練習で、タイムを計ってもらっていた。走り終わって、今のタイムを確認していたら、後ろの方から誰かに声を掛けられたのだ。
振り返ると、郁ちゃんが、運動場のすぐ手前の方に立っていて、私に向かって大きく手を振っていた。どうしたんだろうと思いながら、私は他の部員に声を掛けた後に、郁ちゃんの所まで走って行く。
「郁ちゃん、どうしたの?」
「うん?どうって、私も部活なんだよぉ。今、休憩中なんだあ。」
「部活って、映像部の?」
「そうだよぉ。部活だも~ん。」
今日の郁ちゃんは、私服姿であった。だから、何か取りに来たとかなのかなあ、と思ったんだけど、部活に来ていたんだね。じゃあ、もしかして、北岡君も来ているのかな?そう思って、期待を込めて訊いてみたら、部活は交代で出席している為、今日はお休みらしかった。残念。今日は、会えないんだね。
映像部の練習風景は、上演・上映の内容がバレるからという話で、練習風景の公開がされていなかった。こっそり覗き見るのも、禁止されている。
実際に見ようとした者もいたそうで、覗き見した者は、当分の間はチケットを購入不可となるらしい。実際、この罰は効果抜群らしいよ。
練習が見れないのならばと、偶然を装って鉢合わせするとか、特に女子達は皆、そういうのを期待している。だから、あちこちで女子生徒が、固まっていたりする。
北岡君が、今日は来ていないと知ったら、皆がっかりするよね。私自身も、昨日あまり話せなかったから、今日話せたらいいな~、なんて思っていた。
映像部が、ほぼ毎日登校しているのは、周知された事実だから…。
「私も、北岡君が来ていない日に、態々来たくないんだけどさ~。脚本係として色々先輩から教わるのは、とっても楽しいんだよねぇ。だからさぁ、寧ろ全然嫌じゃないんだよねえ。」
「そうなんだね。郁ちゃんなら、きっとそのうち、いい脚本が書けるようになるんじゃないかな。」
「ありがとう~!あっ、そうだったぁ!今日は、ナルちゃんも来てるんだよ~。さっき、会ったんだ~。」
「ナルちゃんも来てるの?じゃあ、帰りに、3人でどっかに寄って行かない?」
「いいねえ。じゃあ、私が、今からナルちゃんに伝えておくね~。」
郁ちゃんがそう言って、じゃあねって手を振って、校舎の方へ走り去って行った。
私は、再び部活の練習に戻った。それからは、只管走り込んではタイムを計って、の繰り返しであった。練習中は何も考えず、走る事だけに集中した。
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夏休み中の部活だからか、平常時よりも早めに終了した。腕時計を見ると、まだ3時半になったばかりだ。体操着から制服に着替える為、女子更衣室に移動する。中学までの公立には、女子更衣室がなかったのよね。男子更衣室もなかったけど。
それに、更衣室の部屋まで、至れり尽くせりって感じの豪華さだある。
やっぱり、私学ともなると勝手が違うわね。
他の部員達と一緒に、更衣室を出てくると、廊下には既に、ナルちゃんと郁ちゃんが待ってくれていた。私は慌てて、他の部員(主に同期)にさよならの挨拶をしてから、2人の方に早足で歩いて行く。
「ごめんね。もしかして、ずっと待ってくれていたの?声を掛けてくれれば、もっと早く着替えたのに。」
「ううん。そんなに待ってないよ。私も、3時半過ぎまで部室に居たから。」
「そうだよぉ。私も~、3時までは部活だったしぃ、その後はナルちゃんの部室に居たのよねぇ。部員さん達とお話してたのよぉ。楽しかったわぁ。」」
2人は、話しながら待ってくれていたようだった。私が部室から出てくると、私に合図するように手を振ってきた。もしかして、大分待たせたのかなあ。
別に無駄話していた訳じゃないんだけど、明日も部活があるから、その予定を確認したりしていたんだよね。
私が申し訳なさから、両手を合わせて、謝るポーズをしながら話し掛けると、私の着替え中に到着してから、そんなには待っていないらしい。2人は首を振って、否定してくれた。それよりも、郁ちゃんがナルちゃんの部室で待っていた話に、切り替わっている。ぷはっ、郁ちゃんはマイペースだもんね。
「郁ったらね、30分以上も、ずっとうちらの部室に居たんだよ。まるで、自分の部活です、って言ってもおかしくないぐらいに、うちの部員とお喋りしてたんだからね。」
「え~、いいじゃん。部員さん、歓迎してくれてたじゃん。」
「あれはね、歓迎してたと言うより、呆れてたんだよ。苦笑いしてたの!」
2人の遣り取りが可笑しくて、ついつい釣られて笑ってしまっていた。
最初こそ、ナルちゃんも「郁ちゃん」と呼んでいたのに、いつの間にか、最近は呼び捨てになっている。今はもうすっかり、郁ちゃんの扱いに慣れているという雰囲気だ。そうだよ。いざという時、止められるとはナルちゃんしかいないよね?
郁ちゃんが、漫画とかの趣味の話を始めると、自分の世界に入ってしまい過ぎて、皆が適当にしか聞いていなくても、聞きたくない素振りをしても、本人が満足するまで、話しが止まらないのだ。お陰で、興味のない人は皆、苦笑するしかない。
ナルちゃんも、初めて知り合った頃は、かなり戸惑っていたようなのに、割とすぐに慣れた様子で、もう数日後には、「はいはい、そこまでにしようね。」とか言って、郁ちゃんを止めさせていた。最近は…、段々と扱いが雑になっているみたいな感じで、「はい、終わり。」と言って、終了させている。…凄い。
郁ちゃんも、そんな雑な扱いをされて怒るかと思いきや、寧ろ嬉しそうに、ナルちゃんに懐いているのだ。まるで、姉妹のように何でも言い合えるような、関係だと思う。郁ちゃんからすれば、姉のように親しみを感じているのかな?
何だかんだ言ったって、郁ちゃんの話に付いて行けるのは、ナルちゃんが1番だと思うのよね。ナルちゃんって、それなりに、漫画やアニメに詳しいみたいだし。
郁ちゃんも、遠慮なく話が出来る友達が出来て、嬉しいのかもしれないね。
「これから、どこに寄って行く?」
「はい!私、お薦めのお店があるの。其処に行かない?」
「萌々ちゃんのお薦め?じゃあ、そこに行ってみる?」
「う~ん、行く、行く~。萌々ちゃんのお薦めのお店、楽しみ~。」
ナルちゃんが、どこ行こうかと訊いてきたので、私がお薦めの店を知っていると提案してみたら、郁ちゃんも大賛成してくれる。勿論、お薦めのお店は、私のバイト先の親戚のお店ではなく、別のお店だよ。だって、親戚のお店に連れて行くのって、やっぱり何か照れるし、結構勇気がいるのよね。だから、今日は、違う機会にそれと無く、宣伝するつもりでいる。その方が、無理強いにならないし、私もバイト姿見られても、恥ずかしくないものね。
今から行こうとしているお店は、親戚のお店とは違って、落ち着いた雰囲気の大人っぽい軽食店だ。2人が気に入ってくれると、いいんだけどな。そう思っている一方で、頭の中の片隅では、昨日の出来事を思い出していた。
それにしても、やっぱり何につけても、内部生と外部生には壁があるんだなあ、と考えていた。だって、男子の内部生と話をしたのは、昨日が初めてだったんだよ。
別に、内部生の男子と特別仲良くしたい、なんて思っていた訳じゃないけど、さ。
だから余計に、北岡君とは男子っぽいけど、女子だと思うと、何だか気が置けない人だと感じている部分はある。外部生の私達にも、気さくに話し掛けてくれているし、冗談とか揶揄ってくることもあるけど、嫌みのないものだし…。
北岡君は、親しい人との軽い遣り取りを、好んでいるみたいだよね?
だから、私のことも親しく思ってくれているのかな、…なんちゃって。
明日も私は部活だから、明日こそ会えたらいいなぁ。
北岡君とは、もっと仲良く出来たらいいな!
久しぶりに、萌々香視点でのお話となりました。
萌々花が、こんなにも気にしていて、相手が男子であったら、『恋』だと言い切れるのでしょうね。ただ、相手が相手だけに微妙ですが…。はてさて、これが『恋』心なのか?それとも、これから『恋』に発展していくのか?それとも……、どうなっていくのでしょうね。
鳴美に、適当に遇われている郁を、実際に見てみたいです。いいコンビだと思いませんか?
萌々花も、何かと揶揄って来る夕月に、鳴美と郁のようなものを、感じているのかもしれませんね。




