43話 夏休みの帰省
今回は、前半と中盤と後半の3部に分かれており、それぞれ視点の主が異なります。
前半は、部活等の内容になっていて、後半がこの副タイトル通りの『帰省』に纏わる内容です。
今日は、部活のない日であった。部活はほぼ毎日、数時間ずつのお芝居のお稽古か、若しくは撮影を行っている。私達、中等部からの演劇部員は、ほぼ一発合格をもらっている。その為、特に演技指導をされたり、演技の遣り直しをさせられることは、滅多にない。但し、ツカちゃん先輩が絡んだ場合は、別なのですが…。
それは、脇役陣も同じで、一発ではなくとも、数回でOKが出るレベルである。
中等部での演技指導は、本格的な指導者を招き入れていたこともあり、相当厳しかった。赤羽根部長がいた頃は、部長が指導しており、まだマシであった。
しかし、赤羽根部長が卒業した後は、脇役陣はグタグタになったものだから、次代部長が赤羽根部長の家のコネを利用して、専門家を部活顧問に招いたのである。
お陰で、練習に真面目に取り組んでいた部員に関しては、演技力がグンと上がっている。主役級の私達でさえ、それなりの演技指導を受けていたのだから、脇役陣にとっては、かなり厳しい指導だったことだろう。
そんなに厳しければ、今まで殆ど練習しなかった邪魔な部員が、激減しそうなものであるが、全くという程、部員の数は変わらなかった。何しろ、その専門家の顧問は、練習しない部員には全く指導しないという、ただ放置するだけだったのだ。
やる気にない者には、教えても仕方がない、怒るだけ無駄だと思っていたそうで。
そういう意味では、さぞ緩い顧問に見えただろう。
それは、あなたには期待を全くしていないという、顧問の教え方でもあった。
放任主義とは似ているようで、少し違っている。顧問は、部員達生徒に色々と任せて、責任を持たそうというタイプではなかった。それよりも、色々と手を出し口を出して、より良く改善しようとするタイプだったのだ。だから、やる気のない者に教えてはくれない。やる気のない者は上達しない、と知っているからでもあった。
中には、自分で考えるように促す、指導者もいると思う。でも、うちの顧問は、それすら時間の無駄だと、促さないのである。何よりも、考えることよりも動くことを優先させ、身体全体で覚えるようにと教える。セリフを覚えてなければ、アドリブで乗り切るように教える。動きが遅れてしまって、演技に支障が出るよりもマシだと、セリフよりも動きを重視させた教えであった。
アドリブで演技するには、場数を踏んでの練習から学ぶしかなく、練習をする度に如何に対処すればいいか、自ずと理解出来て来るものだと、段々分かって来た。
要は、アドリブを本能的に察知する、みたいな感じである。まあ、舞台上で、ただ単に突っ立つということだけは、絶対にやってはいけない事なのである。
流石に、脇役陣に、アドリブを期待している訳ではない。
脇役は元々、セリフも短かったり少かったりするのだから、間違える事も少ない。ただ、舞台経験が少な過ぎると、緊張して失敗することも多い。
だから、下手に考えさせるよりも、沢山の練習の中で手取り足取り教えた方が、芝居の上達も早くて、結果的に緊張も少なくなり、失敗も減ったのだった。
私達主役級も、一からお芝居の指導を受けたお陰で、より演技が上達したもの。
感情を込めているつもりであっても、「それは、つもりでしかない。」と顧問から指導されて、やっと気が付けたのだ。部長でさえ、気付いていなかったのに。
夕月のアドリブに付いて行けるようになったのも、こういう指導のお陰でもある。
厳密に言うと、私達主役級である演技組は、今日は部活がお休みの日である。
昨日の撮影で、ケーちゃん達3人は登校していなかったので、今日が部活に参加する日なのだろう。(部員皆のスケジュールまでは、覚えられません。)
因みに、脚本係のツカちゃん先輩と補助の郁さんも、昨日は居なかったわ。
ツカちゃん先輩達も、今日は部活に参加する筈なので、昨日の私達よりも今日のメンバーの方が、脚本指導が必要だったのだろうと思う。
但し、撮影や編集、監督などに関わるメンバーは、ほぼ毎日部活に出席することになっている。(これらの補助をする1年生は、今年は交代で出席するみたい。)
兎に角、一番大切な役割なのだから、仕方ないと思う。でも、毎日は大変ね…。
赤羽根部長も、今年の夏が最後だから、毎日顔を出して見守りつつ、手伝いに徹しているようである。主要演技組が部長に選ばれると、演技との両立は大変になる。なので、今後も私達は、そういう大役には選ばれないだろう。
部長は部の運営にも関わるので、自分が舞台で演技をしている暇がないのだ。
赤羽根部長も演技が上手なのだけど、そう言えば、いつも指導の方に回っていたのよね。監督係も時々、副部長に任せて、走り回っていることもあったようだし。
そういう意味では、監督係も裏方みたいなものよね。
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「今日、朔兄と一緒に、そっちに帰るよ。」
「そう。了解。」
早朝から、私のスマホに電話が掛かって来た。私の弟、葉月からであった。
私が返答すると、「じゃあ、後で。」とすぐ電話が切れる。
相変わらず、突然の連絡である。もう少し、早めに連絡できないのかな?
いや、…出来ないのだろうな。はあぁ。
帰宅出来ると分かってすぐに、連絡を入れている筈だから、仕方がない。
まあ、そろそろ帰宅する頃だと思っていたから、別に驚いてはいない。
未香子のお兄さんである朔斗さんは、未香子に連絡すら入れていないだろう。
妹が怖がらなっていないか、気にしているのだろう。
今は、大分あの頃の恐怖は、薄れてきたようだから、気にし過ぎだと思うけどね。
葉月と言い、朔斗さんと言い、何でこんなに慎重なんだろうか?
もっと身軽に構えて欲しいよ、全く。周りがこんなに慎重過ぎるから、未香子も中々変わっていけないのも、無意識に封じている事実があるからだと言うのに。
葉月も朔斗さんも2人共、舵を切る方向を間違えているんだよ。
2人の立場からすれば、確かにあの時にあのように拒絶されたのは、ショックが大きかったんだと思う。特に朔斗さんは、未香子の実の兄だからね。幾ら事件の所為だとしても、愛する妹から、行き成り完全拒絶された訳であり…。
でも、あの時の未香子は、男性という全ての異性に対して、恐怖を持ってしまったいた。実の兄だけでなく、実の父親までも、拒絶していた時期があったのだ。
彼女が唯一受け入れられたのが、彼女と同性の女性のみだった。
しかも、あの事件の時、未香子を助けたのは、私であってそうではない。
彼女は、あの頃は知らなかったことだから、単純に忘れたという訳ではないのだが…。知っている事実まで、忘れてしまっているのだけど。
彼女は、単に勘違いをしているだけなのだ。
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僕も朔兄も、小中学校は、寮のある男子校に通学している。
朔兄は今年、高等部を卒業したばかりで、現在は同じ系列の大学に通学している。
相変わらず、同じ寮には住んでいるのだが。
やっと、帰宅するための折り合いがついた。僕も朔兄も忙し過ぎて、中々目処が付かなかったのだ。1日でも早く帰宅出来るよう、出来ることは全て何でもどんな手を使っても遣ってやる。…でもこれで、やっと帰ることが出来るんだ。
夕月の許に。僕の大事な双子の姉で、それ以上に大切な人。
そして、1番僕を理解してくれる人で、僕が1番理解出来る人。
夕月とは、5月の連休に会っている。家族以外には、誰にも会わないように気を付けていたから、その時は、未香子には1度も会っていない。
帰省していたのも知らないだろうな。未香子には、異性というだけで嫌われているので、会う必要もなかった…。しかし、夏休みはそういう訳にもいかない。
未香子の兄である朔兄も、一緒に連休には帰省している。流石に、2人は兄妹だから、会っていると思うけど。僕は…、会う必要がなかったからね。
僕は、夕月にさえ会えれば、嬉しいのだからね。
未香子にちゃんと会うのは、半年くらい前になるだろう。本当に久しぶりである。
彼女には、何を言われるだろうな。彼女とは、何を話したらいいだろう。
毎回、同じような問答を、頭の中で繰り返している…。
彼女と再会する時は、会うまでの間、いつも動揺していて。
会ったら会ったで、口喧嘩ばかりしているのに。夕月の取り合いをしてばかりで。
どっちが、より夕月を理解しているかとか、張り合ったりしていて。
夕月がどちらかを優先すれば、優先されなかった方は寂しさを感じている。
今年の夏休みも、多分、今までと同じようにそうなるのだろう。
今回は、前半が未香子視点、中盤が夕月視点、後半が葉月視点の内容となっています。中盤と後半は、前半よりも短めです。
後半は、初の葉月視点です。夕月の双子の弟ということで、男女の差は若干ありますが、言葉使いに特に違いはありません。ただこれは、夕月が男子化している上での事なので、彼女が完全に女子に戻れば…違いがあるかも?(今はこれでご勘弁を)
蛇足ですが、双子は、親も双子という家系が関連していることが多く、一般的な家庭に中々生まれないようです。
病院の不妊治療を受けた家庭では、よく多胎妊娠されていますね。
しかし、自然的な流れでの出産では、両親のどちらかの家系で、双子が出産されたことがないと、実際には生まれない場合が多いようです。
遺伝とかが関係しているのでしょうね。
今でこそ、双子は可愛いとか言われていますが、昔の日本でも、他の外国でも、双子は異端と考えられることが多かったようです。
例えば、先に産まれた子供が迫害されたり、どちらか1人しか生まれていない扱いをしたり、しています。
宗教的に、双子は悪魔のような扱いを受けたようです。
身分に関係なく、また実の親でさえ、迫害していたようで…。只、双子で生まれただけなのに。
今でも、国によっては、何か差別があるかも知れないですね。