40話 ライバル宣言?
夏休み中のお話ですが、学苑での部活のお話となっています。
新追加キャラの『千明』君が、いい塩梅になっているかと。
「だから~、あなたには負けない!って言ってるの!」
「…行き成り、何のお話でしょう?」
「もう!兎に角、あなたには絶対に負けないわ!」
「………。」
今いる場面は、学校の渡り廊下である。ココに2人の少女が、向かい合った形で立っている。1人の女子高生が、ある少女の姿を見つけた途端、急に走り寄って来て、勝手にライバル宣言をしたのだった。
ライバル宣言された少女は、一体何のことか分からないという顔である。
勝手に宣言をされて、困っている様子である。
すると、ライバル宣言した少女は、言うことだけを言って満足したようで、相手である困った顔の少女を放置して、サッサと走り去って行った。
1人残された少女は、呆気に取られた表情で、見送っているしかなかった。
「カット!一時、休憩。次は、15分後に再開するから。」
助監督である諒先輩の声で、私はホッと息を吐く。
実は、今はビデオでの撮影中である。諒先輩の声で、これまで息をするのも我慢していた風の部員達が、一斉に息をして動き出す。
先程の会話は、無論、役柄でのセリフである。私の役は、ライバル宣言されていた少女で、今回もヒロイン役である。そして、今回は、ヒロインの相手役が、北岡君こと、夕月なのですわ。ですから、今回はヒロインでも、構わないのです。
寧ろ、他の人がヒロインになるのは、イヤですもの!例え、それが女装男子でも、絶対に譲れませんわ!
そして、ライバル宣言した女子高生は、何と、その女装男子の千明君なのです!
う~ん、女子役がよく似合っている…。しかも、ちゃんと女子なのよ…。
一瞬、お芝居しているのを忘れて、この子って本当に男子?とか考えてしまいましたわ…。
今日の撮影は、学苑の廊下で撮っているので、一応は生徒会に許可を取っている。
その上で、観客たる生徒が見学に来ないよう、裏方の生徒達が、交代で見張りに立っている。夏休み中なので、余り生徒はいないけれど、油断は出来ない。
夕月はその裏方の人に用があるというので、私は1人で休憩していた。
すると、私の隣に腰を下ろした千明君が、私に話を振ってくる。
「いやあ~。ミカちゃんって、やっぱ、上手いよね?」
「えっ?ミカちゃん!?…え~と、何の事??」
「芝居だよ。余りにも、ミカちゃんの演技が、鬼気迫るものだったからさあ。俺、一瞬、セリフ忘れるところだったわ。」
そうかな?そんなに鬼気迫るほど、真剣な表情とか、だったのだろうか?自分ではよく分からないのだけれど…。そういう千明君も、結構な鬼気迫る勢いだったと、私は思うわよ?
「俺、正直、演技には自信あるんだけどね。…いやあ、北城さんとミカちゃんには、負けたよ。ハハハ。」
「…え~と。はっ!それより!何で、『ミカちゃん』呼びなの!」
「え~。可愛くていいじゃん!」
いや、男子から『ミカちゃん』呼びなんて、ちょっと気持ち悪いのですが!
それより、あなた、本当に男子ですか、千明君?男子が苦手な私のセンサーが、全く働かないとは…。ん?もしかして…、千明君って、…男子が恋愛対象とか?
そのような私の心の声が、聞こえる訳がないというのに、千明君は、顔を思いっきり顰めている。あれ?どうしたのかしら?
「あのね。君が考えていることぐらい、見ていたら分かるからね。俺、ちゃんと女子が好きだからね!いくら女装しているからって、男子になんか、絶対に興味ないからね!」
千明君の言葉に、私が思わず、間を取ろうと横にズレると、慌てたように手を横に振って、「違う、違う。」と言って来る。…うん。違ってほしいわ。私も、あなたに少しも興味ないから。
でも、不思議ね。普段はちゃんと男子の千明君に、割と平気なのですもの。
「好きな子が居るって、ことだから!ミカちゃんのことは、お友達として仲良くしているだから!」
へえ~。千明君って、好きな女の子が居るんだ。千明君が好きになるような女の子って、どんな子なんだろう?もしかして、うちの部にいる子とか?それとも…。
う~ん。想像できないな~。ん?もしかして、夕月みたいな子がタイプではないでしょうね?…というより、夕月本人では、ないですわよね!?
私は、段々と不安になって来て、1人で赤くなったり、青くなったりしていたみたいだった。私が慌てているのを見て、逆に冷静になったらしい千明君が、苦笑いをしながら話し掛けてくる。
「ミカちゃんって、お芝居の時の演技は物凄いのに、普段はすぐ、顔に出るタイプなんだね。ホントに分かりやすいや…。大体、何を考えているかが、分かるよ。でも、ミカちゃんが思っていることとは、絶対に違うからね。」
「それでは、相手って、誰ですの!?」
「‼……いや、ここじゃ話せないし。…それに…教えたくない!」
私は、千明君に詰め寄る勢いで、食い気味に聞いてしまった。だって、否定される程、怪しいと思ってしまうものよ。でも、この様子だと思い違いのようね。
私が相手の名前を聞いた途端に、彼の顔が真っ赤になったもの。
彼は、両手を顔の前で振って、アタフタと動揺している。今までは何を言っても、堂々としていたのに…。意外な一面を見たわ…。
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「どうして、私じゃダメなの?『京香』さんと、どこが違うの?」
「朝陽…ごめん。好きになるのに、理由はないんだ。」
『京香』とは、私の役柄の名前である。私は、女子の役ばかりなので、役柄が異なっていても、この名前で統一されているのよ。
夕月は男子の役もあるので、男子役は全て『北岡』で、女子役は『小雪』で統一されている。そして、千明君は主に女子役しか演技しない、と決定したようで、『朝陽』で統一されている。
他の部員達も、皆同様であり、役柄の人物が変わっても、役柄の名前はいつも同じである。これは、中等部から変わらない。
当初は私達も、役柄の名前を毎回のように、役柄が変わる度に変えていたけれど、お芝居本番で、結構な間違いが続出していた。今は映像部だから、撮影の方は取り直しが出来るけど、お芝居では取り直しが出来ないのだから。
練習で幾ら間違えていなくても、本番で何かあるとそれだけで、集中力が飛んでしまうことがあったりする。まあ、本番のお芝居で間違えても、実際には、観客側はあまり気が付かなかったりする。役柄が違っても、同じ名前を使用していると思うぐらいで。怪我の功名って、ことよね。
それからは、敢えて同じ名前を使いまわしする、っていう事になったの。
私達もミスする原因が減って、演技しやすくなったから、結果オーライよね。
名前が一緒だと、役柄を勘違いすることは稀にあるけれど、この方が何とか誤魔化しが利きやすいし。
さて、今は演技中であり、千明君こと『朝陽』と、夕月こと『北岡君』の一場面なのである。そう、私達は、北岡君を巡っての三角関係という間柄の役である。
既にいい雰囲気の『京香』と『北岡君』に、2人の恋の邪魔をする『朝陽』。
『北岡君』の幼馴染である『朝陽』が、彼に恋していて、自分を選んでくれない彼に、詰め寄っているシーンであったりする。
「どうしても彼女じゃないと、ダメなの?」
「朝陽のことは、妹みたいに大事に思ってる。彼女は、僕にとって支えたい人なんだ。…ゴメン。」
先程から、シリアスなシーンが続いている。今は、裏方の皆も全員、お芝居に釘付け状態である。観客のように、ポ~となって鑑賞している者は、此処にはいない。
皆、真剣な表情で、他の演技者の技術を評価するような、厳しい目付きである。
中等部のように、お芝居の練習風景を見て、きゃあきゃあ騒ぐ女子もいない。
特に今は撮影本番中なので、お芝居の練習時とは違い、ボソボソ声ですら録音されてしまう。それでも、以前の、中等部部員だった練習意欲のない連中ならば、我慢出来なかったに違いない。
しかし…。何度も言っている気がするけれど、千明君って、本当に男子?
何でそこまで、女子らしい演技が出来るの?
このような演技をしていて、好きな子に嫌われないの?大丈夫?
お姉さん(私のことよ)、心配でしてよ?
映像部の撮影シーンを書いてみました。観客が現役高校生なので、映像部では恋愛もの、友情ものに絞ってお芝居を作っています。
勿論、女子向けを対象に作っていますが、男子も楽しめるよう、アクションシーンやコメディシーンも場面によってはあるようです。
それと、女子だけでなく男子も、出場する部員は全員、見栄えが映えるようにと、薄くお化粧しているほど、本格的にやっています。
そのうち、本文でもそういう記述があるかもしれません。
未香子が自分を『お姉さん』と語っているのは、千明が12月生まれなので、単に誕生日が早いからです。他に意味はないです。
(今後に出す人物一覧で、彼の設定もあり、誕生日も記載される予定です。もう少しお待ちください。)
≪補足≫
千明について
身長はそんなに高くないけど、中性的な顔のイケメンなので、女子からも人気があります。
但し、恋愛的な人気はあまりなく、友情的なものに近いかと。
明るいキャラなので、男子の友達も沢山います。女子友の方が多いけど。
女性的な声も出せるので、普段からどちらとも言える声質だから、一人称は敢えて『俺』と話します。
女装趣味はなく、演技面で面白いからと遣っているだけ。中身は、完全に男の子です。
という人物像です。何れ、人物一覧を追加として出す予定でいますので、その時に設定として一部使用するかも。
前回の伊阪部長と共に、何れ更新予定です。




