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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第一幕 名坂学苑1年生編【1部 春の巻 編】
39/199

33話 波乱の予感

 副タイトル通り、波乱の展開となっております。いつも通り、未香子視点です。

今回のお話には、新キャラが登場しています。脇キャラの中ですが、今後ちょくちょくと出番が多くなりそうです。


 結果としては、本格的な上演は大盛況であった。夕月(ゆづ)の役柄に多少のブーイング(因みに今回のは、北岡君が可哀そうと、擁護する方でのもの)が起きたものの、『小雪』の演技に圧倒されたとの高評価であった。北岡君派の女子ファン達からも、渋々ではあるけれど、受け入れられた。私も、渋々ではあるけれど…。


あれから舞台が終わって直ぐには、機会がなくて謝れなかった。役のスイッチが切れてからも、夕月(ゆづ)は、何もなかったかのように、振舞うものだから…。

やっと、2人きりになって帰宅する時にも、タイミング的に中々言い出せず…。

他の人の目もあったから、中々言い出せなかったの…。


電車を降りてから歩く帰宅途中の路上で、私は足を止め。夕月(ゆづ)の方を向いて頭を下げながら、「ごめんなさい!」と、切り出す。暫く沈黙が続き、顔を上げて夕月(ゆづ)を見上げる。夕月(ゆづ)は、驚いたように目を丸くして固まっていた。

行き成り、何事なのか?という表情だった。


 「どうしたの?急に謝って…。何で謝るのかな?」

 「だって、私…。演技の途中なのに、思わず目を瞑っちゃって…。別に、夕月(ゆづ)が怖かった訳じゃないの!ただ驚いて…。ただそれだけで……。」


自分でも、何が言いたいのか分からなくなってくる。頭の中は大混乱である。

兎に角、謝まろう、としか考えていなかった。

どう謝ればいいのか、自信がなくなってきて、自分の顔が段々と下を向いていく。


夕月(ゆづ)が近づいた気配に、ハッとして顔を上げようとして、気がつけば、ギュ~と抱き締められていた。

えっ??何が起こったの?まさか、抱き締められているの?夕月(ゆづ)に?

私の目の前は、夕月(ゆづ)の胸で圧迫されていた。ぎゃ~!夕月(ゆづ)の胸で窒息する~!?


 「私こそ、ごめん…。幾ら、役柄に成り変わっているとはいえ、役の人物に飲み込まれて、善悪の区別さえ失くすところだったよ。」


私の耳元で、少し掠れた低めの声がする。苦し気な胸の内を明かすように、告げられる。何とか顔を上げて、夕月(ゆづ)を仰ぎ見る。

夕月(ゆづ)は私の方を見ながら、苦虫を噛んだような顔をしていた。私は、このような顔を見たかった訳ではないのに…。


そして、私の髪を優しく撫でながら、「でももう、()()()同じ轍は踏まないよ。」と決意を込めた強い意志を含んだ瞳で、宣言するような口調で言い切った。

例え役柄に成り変わっても、自分の意思を通そうと出来るとしたら、夕月(ゆづ)ぐらいだろうな。そういう器用な事が出来るのは。


 「夕月(ゆづ)は、私の嫌な事は、()()()致しませんわ!だから、思い詰めないで下さいね。」

 「ふふっ。ありがとう。私のお姫様。」


私はホッと息を吐く。良かったですわ。いつもの夕月(ゆづ)に戻っていますもの。これ以上、余り自分を責めないで欲しいですわ。

夕月(ゆづ)は、私のことになると、神経質なぐらいに自分の責任だと、思い詰めるところがあるから、心配ですわ。…別に、自惚(うぬぼ)れではないのです。


本当はよく分かっている。夕月(ゆづ)にとっての私は、ただの()()()()()()()()でしかないことを…。いつかは、私から離れて行ってしまうことを…。

そう遠くない未来に、別々の道を歩むことを…。別れが来ることを…。

それでも今は未来の事は考えない。考えたくない。

今はまだ、夕月(ゆづ)と一緒に居たい。


夕月(ゆづ)から手を離すことはない、と知っている。私から手を離さなければいけないとは、分かっているのに。本当に、私は卑怯だと思う。

それに今、私にはまだ、夕月(ゆづ)の代わりになる人が、見つけられていない。

そもそも、夕月(ゆづ)に成り代わるような人が、私の心の中に現れるのでしょうか?


私にそういう人が現れなければ、夕月(ゆづ)は決して認めないと思う。

夕月(ゆづ)が心底安心して、1人の女子に戻る時が来れば、多分そういう時であろう。

今でも男子が苦手なのは、変わらない。だから、どうしても夕月(ゆづ)と比べてしまう。

夕月(ゆづ)の代わりになれるのかを、考えてしまっている。


私は狡い。今の夕月(ゆづ)は、私の理想を押し付けた結果、応えてくれた人物だというのに…。()()()()()がいい、と思ってしまっている。

それでも狡くて弱い人間の私は、夕月(ゆづ)に甘え切って生きている。

もう少し、このままで居たいと………。




        ****************************




 今回のヒロインには、何と、外部生の子が大抜擢された。何でも、公立の中学で演劇部に所属していたという、私達の同類である。

元演劇部員だけあって、流石に演技は迫真の演技なのである。


対して、私の今回の役は、珍しくヒロインではない。私は久しぶりに、ヒロインの友人役を演じている。ヒロイン以外の他の役柄は、久々である。そして、その友人の中には、夕月(ゆづ)も含まれている。残念ながら、今回も女子役なのですが…。


今回の夕月(ゆづ)の役は、また異なる新たな役柄である。面食いな()()()()女子を演じていて。これがまた迫真の演技で、部員も観客も圧倒されている。

一体どこから、こんな演技の技術を磨いているのだろうか?このような夕月(ゆづ)を見るのは初めてで、目が点になってしまう。馬鹿っぽいところとか、天然っぽいところとか、兎に角、リアル過ぎて()()()みたい。


ただ、今回の夕月(ゆづ)の演技はコミカルなもので、前回のシリアス傾向を覆し、時々観客の笑いを誘っている。本人も本番前から楽しんでいて、ノリノリだったし。

前回とは違う意味で、とてもいい演劇内容ではあると思う。

脚本係のツカちゃん先輩も、舞台の袖から覗き込んでは、「うん、うん」と満足げに1人で頷いていた。


お見事!としか言いようがないわね。今回は友人役だから、とっても気が楽だわ。

ヒロインも、夕月(ゆづ)に上手く合わせていて、中々の演技力である。

序でだから、前回のヒロイン役とかも、今後は彼女じゃダメかしら?

こんなに上手なら、夕月(ゆづ)の成り切り演技にも、合わせられるのではなくて?


今日のヒロインのお相手役は、飛野(ひの)君である。お話自体もコミカルな軽いものになっており、こういうのが得意な彼が演じている。

そんな彼に、夕月(ゆづ)が役柄と言えど()()()()とは、皮肉ですわね。

『ツカちゃん』先輩は知らずに書いたようで。皆で苦笑いしていましたの。

飛野君は、その事に全く気が付かず、練習時に夕月(ゆづ)に「好きです!」と言われて、本気で真っ赤になっていましたけれど。う~ん、ジーザス…。


それから、これは後で分かったことで、結果、ヒロイン役の交代は無理ですわ。

だって()()()()()()()()だったの!本当は男子だったのですもの!

実は男子だと知り、観客も部員も皆、ショッキング過ぎて呆然としていて。

何故分かったのかと言えば、演劇最後の挨拶で、ヒロイン(かれ)はこう言ったからなの。


 「みなさ~ん、俺の()()どうだった?似合ってたでしょう?」


その瞬間に、観客だけでなく部員達も皆、目が飛び出しそうなくらいに驚き、ヒロイン(かれ)を凝視しましたわ!「ウソだろ?」とか「はっ?!何の冗談?」とか、後ろの部員から呟き声が聞こえる以外は、会場はシ~ンと静まって。

私も、嫌な汗が噴き出してきて。だって、本当に男子だと知らずとは言え、演技上で手を握ったりしていたのよ。誰か、ウソだと言って!


 「ふっ、あはははっ!よく今まで、皆を騙し切ったよね。勿論()()として、私は気が付いていたけどね。」

 「あっ、やっぱり?()()()()みたいだから、気が付くかなぁとは思っていたけどさ。それで時々、笑っていたんだね?」

 「ふふっ。女子にしては色々とね、無いものや有るものなんかで違和感を感じてね。だから、すぐ気が付いたよ。」

 「あ~あ。何だあ。『北岡君』騙せたたと思っていたのに~。もう、完璧だと思ったんだけどな~。」


夕月(ゆづ)が突然、笑い出しながら話し掛け、ヒロイン(かれ)もそれに応答している。

夕月(ゆづ)が「くくっ。残念だったね。」と返答すれば、悔しそうな顔になる。

何だかとっても、夕月(ゆづ)に似ているのだけど…。男子版夕月(ゆづ)みたいで。

…途轍もなく不安を感じる。映像部に所属する変な輩が、また1人増えたわ。

何でこう、曲者ばかりなのかしら?


ふと赤羽根(あかばね)部長の方を見ると、してやったりな顔をしている人達が、数人いた。

これは…、知っていたのよね。私達には、隠していたのね…。

赤羽根部長は、やり兼ねない人だと思う。ただ、ツカちゃん先輩と(りょう)先輩と西先輩まで、関わっているのは止めて欲しい…、切実に。


 「それで、本当の君の名前は?」

 「え~、俺は1年F組の『門倉 千明(かどくら ちはる)』と言います。今までも、公立中学の演劇部でも、()()演じていました~。」


夕月(ゆづ)が代表して訊くと、それに答えるように話し始めたヒロイン(かれ)は、ここで一旦話を切って、観客側を見渡した。観客達は徐々にザワザワし始める。


 「観客受けがいいので、()()は自分でも可愛くって、気に入ってま~す。どうぞ、よろしく~。」


とうとう、観客席のざわめきが大きくなっていく。驚いている者が多い中、面白がっている雰囲気も感じられる。特に、女子が…。

多分、これで()()(男子だけど)は、受け入れられることだろう。

うん、間違いない。これは、性別逆パターンの夕月(ゆづ)()()さんのようですね。

…はあぁ、波乱の予感が…。


 新キャラが、また増えることとなりました。女子と見せかけて、実は男子なんです。

他にヒロインと考えていたら、こうなりました。男装女子がいるなら、女装男子のいいかも?という軽いノリで生まれたキャラです。


女装するぐらいのキャラなので、明るい性格(裏表なしのタイプ)の男子にしています。

余りキャラを増やすと出番がないだけなので、フルネームの脇キャラは増やしても、あと2~3人いるかどうかですかね。

(当初から、物語後半で出す予定の人物は、別扱いです。)



※夕月と同等扱いをしていますが、男装と女装の重みは違うと思います。ですが、このお話では深く重くしないよう、為るべく軽く考える方でお願いします。

※前回より、イケメン男子達他、男子達に、未香子視点で全て『君』付けをしています。未香子の言葉使いを、よりお嬢様風に変更した為、呼び方も変更となりました。

(実際に、未香子が、本人達の苗字を呼ぶ際には、元々『君』付けで呼んでいます。)

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