31話 暗躍 ~赤羽根部長~
今回のお話は、部長の視点の続きとなっています。
前回は、部長が演劇に入る切っ掛けのお話でした。今回は、部長が演劇の世界に入ってからのお話となっております。
また、あの2人と他1名が、登場しています。
中等部に上がってすぐ、私は演劇部に入部した。演劇自体は、見るのも演じるもの好きだったから。
最近は余り、忙しくて養成所に行けなくなってきた。小学部の発表会で、『北城』と『九条』の演技を見てからは、久しぶりに自分も演じて見たくなったのだ。
しかし、この当時の演劇部は、部員の人数も少なめで、演劇に対する熱意の欠片もない人達が、殆どであった。他には、何人かの幽霊部員が存在ようだったし…。
実際に、演劇を披露する機会も全くなくて、名ばかりの部活であったのだ。
1年生が幾ら「芝居の練習をしましょう」と言っても、完全に黙殺されるだけ。
夏休み頃までは、私もすっかり諦めてしまっていた。やっと、受験で3年生が部活を辞めた。2年生が居ない為、3年の部長の推薦で、遂に私が部長になったのだ。
これ幸いと、私は、色々と演劇部の為に、暗躍することになる。それからの1年半は、北城と九条が来るのを、只管待っていた。彼女達の為に、色々と準備して…。
中2になった時、演劇部を一新するつもりで、やる気のない&熱意のない幽霊部員には、御退場願った。入部希望者だけでは、部員が圧倒的に足りないので、私も自ら、積極的に勧誘しまくった。少しでも演技に見込みがある人材が見つかると、土下座してでも勧誘していた。
その成果もあって、部員の人数も最低限はカバー出来た。演劇を披露する機会も、生徒会が認めてくれて、そこそこ満足出来る『演劇部』となった。
そして、私は中3になった。やっと、北城と九条が、中等部に上がって来たのだ。さあ、今度は、この2人を絶対に勧誘するわよ!
勧誘当初は、2人に何かと断られ続けた。それでも諦めずに、勧誘し続ける。
中でも、北城が中々の難関であった。九条を落とせば、北城も落とせるかも、と踏んで策を練る。
「北城さんと一緒に入部すれば、北城さんの男装が見放題、かもしれないわよ。どう?魅力的だと思わない?」
「えっ!?…う~ん。…私は、夕月が入部するなら…入部してもいいです。」
九条が困ったような表情で、少し首を傾げさせては、北城を見上げている。
どうやら、普段から北城の男装を見慣れていても、九条はそれでも見たいようだ。
よし、よし。思い通りにいったわ。これで、北城が反応してくれたら、いいけど。
北城は、この仕草に弱い筈…。
事前に、2人の関係を、詳しく調べて置いて良かったわ。九条の反応は、女子同士でも、十分に可愛い仕草だと思った。やはり、北城は、九条のお願いにかなり弱いようだ。九条の顔を見つめて、困り顔になっている。
思った通りだと、ほくそ笑む。そして、到頭、北城が折れたのだ。
「未香子が入部するのなら、私も入部するよ。…赤羽根先輩、以後よろしくお願い致します。」
「あの、私も入部します。これからよろしくお願い致します。」
ああ!この2人の言葉を聞いた時は、天にも昇る気持ちだったわ。何と言っても、あの有名な2人を落としたのよ。後は、もう少し1年生を勧誘しなくちゃ!
確か、『飛野君』という男子は、北城に気があると噂だし。他にも、イケメン男子の『木島君』と『田尾君』も欲しいわね。
ところが、それから1か月経つ頃には、私は大失態を犯してしまう。北城の初舞台で、男装した北岡を見て、爆発的に受けてしまったのだ。そして、我が演劇部に入部希望者が殺到した。
私は、有り得ない程の入部希望者数に、すっかり浮かれていた。入部理由をしっかり確認せずに、部員数限界まで受け入れてしまった。その結果、殆どが、北岡目当ての部員ばかり。真面目に稽古する気さえない。
そう、私は、演劇部を大きくしたい、という欲が出たのだ。
すぐに後悔する事となる。「一度は、入部許可を出した筈だ。それなのに、また直ぐ退部させるのは、認められない。」と、生徒会役員の羽柴に、承諾されなかったのだ。羽柴は、現在の生徒会長だ。部活の入部届けや、部活の活動に関する申請は、必ず生徒会に提出しなければならない。つまり、羽柴に認められないと、生徒会からの承諾が得られないのだ。
確かにそうだなと思い直したけど…。今後の事を考えると、頭が痛い。私の様子を見ていた羽柴に、「何か問題が起きれば、部長が退部させることも可能だ。」とも諌められたので、取り敢えずは様子を見ることにする。
その後、部活内での虐めの問題が起こった。羽柴の助言通りに、虐め首謀者達を退部させ、やっと少しだけ部員を減らせたけど…。学苑側も虐めた生徒に問題があると、転校するように通告したようだった。それでも、所属部員は大勢いた。
私が中等部を卒業してから、2年ぶりに新1年生の入部を許可したらしい。
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高等部でも演劇部に入部した。中等部の演劇部とは違い、それなりの真面な活動を行っていた。
私は、中等部とは異なる演劇部を創ろうと、映像でもお芝居を撮りたいと思った。そう思い付いた時、映像部に変更した方が、利点があると気付く。
それからは、徐々に、映像部にする為の準備をして来た。私は、新たな野望を見つけたのだ。何れ高等部に来る、北城達の為の布石を打つ。
その為に、暗躍すると決めていた。
高1では、新1年部員として、情報収集に徹して。
高2では、まず自分の弟である『諒』を、男子校から有無を言わせず編入させた。周りにも周知する為に、『映像部』のアピールを表立って行った。
高3では、部長となり、正式に『演劇部』から『映像部』に変更した。これで、『演劇』と『映像』の両面から、堂々と活用出来るようになった。
何故、映像部にする必要があったのか。それは、この学苑独特のシステムに根拠がある。部活の中で、何かしらの方法でお金を稼ぎ、部費としても利用可能とした有効活用等もすれば、学苑卒業時の成績に加算されるシステムだ。
私は、このシステムの加算の為、映像の上映とお芝居の上演の両方から、入場料として部費を稼ぐことにしたのである。
中等部までは、お金を稼ぐことは禁止だ。高等部では、私達のように、兄が家業を継ぐ場合、自分はどこかの企業に就職する事となった時、特に専門職のアピールが少しでも優位になるようにと、考えられたのが加算なのである。
つまり、大学を他所の学校にする人間には、必要ない加算もあるが、この学苑の大学に進学するのなら、就職時に有効となる加算である。
兄のように家業を継ぐ者、アピールが関係ない者にとっては、あまり関係がない。
そかし、高等部からは一般の生徒もいるので、そういう一般の生徒には、就職時に大いに役立つというのは、有難いものだろう。
私自身も加算が欲しいのもあるけど、私が行ったこのやり方を続けるだけでも、下級生達にも卒業時の加算になるから、決して自分自身だけが得する訳じゃない。
さらにやり方を変えて儲けを増やせれば、実行した生徒には加算が増える。
だから、これは映像部の部員にとっても、決して損にはならない事なのだ。
「姉さん。新1年の入部届け、本人より先に、勝手に出していいのか?」
去年、うちの部員になった私の弟、諒が「本人達が、入部しないって言ったらどうすんだよ?」と、愚痴を言ってくる。
そう、私は北城と九条以外にも、中等部で部員だったうちの真面なメンバーは、全員入部させようと思って、既に無断で入部届けを提出した。
「いいのよ。このメンバーは、以前にも私が勧誘した部員ばかりだし、高等部でも勧誘するのだったら、一緒でしょ?」
「いや、だからって…。勝手に入部届けを出すのは、ダメでしょ…。弟の俺だけじゃないのかよ…。」
最後の方はブツブツ言っているけど、しっかり聞こえてるわよ。彼らとは、一応信頼関係あるから、怒りはしないと思うわ。呆れるぐらいだと思うのよ。
隣にいる弟はまだブツブツと、「これが問題になったら、また元輝兄さんに怒られるからね。」と、また愚痴を言っている。
う、生徒会長の羽柴、五月蠅いからな~。
まあ、皆が文句言わなければ、問題ない。…多分、大丈夫。
まだ何か、腑に落ちない様子の弟を放っておいて、別の作業をすることにした。
よし!っと、気合い入れる。新入生から、演劇に適した勧誘したい人物を、見つけねば。私は先程教師から手に入れた、新1年生名簿を確認する作業に入った。
前回からの続きのお話となっていた部長視点は、今回で終了です。部長編、如何でしたでしょうか?
部長は、演劇に関した眼力でもあるのでしょうか?中等部で、入部希望者を沢山入れた時の失敗を見ると、人を見る目があるという訳でもなさそうですね。
でも、失敗したからこそ、実力がなくても今後大物になりそうな人を、見つけられるようになったのかも。
案外、部長の弱点は生徒会長かもしれません。




