番外 ある日の裏事情 その1
今回も番外編です。あの姉弟のお話として、姉視点としています。
前回のお話を、引き継ぐ内容となっています。前回が何話の裏話か分からなければ、今回ではっきりする事かと。
※現在、見直しの為、改稿しております。当初より少しだけ追加しております。
内容も分かりやすくなるように、心掛けました。
改めて、よろしくお願い致します。
それは、5月の連休中のある日の出来事。
連休中に、何処かへ遊びに行きたがっていた、未香子。
偶々、ご両親が仕事の付き合いで貰ったからと、「遊園地のペアチケットがあるから、明日出掛けませんこと?」と、彼女から誘われた。
そのチケットは、5月連休中の期間限定ものであり、連休が終わると、使用不可になる代物であった。要するに、連休中に行かなければ、使用出来なくなる。
しかし、実を言うと、このチケットは、葉月が裏で手配したもの、だったりする。連休になる少し前頃から、彼女が遊園地に行きたいと呟いていたのを、しっかり聞いていたからね。多分、自宅でも無意識に呟いていたのだと思う。
この話を知った葉月が、自分に心当たりがあると言い出し、何処からかチケットを手に入れて来たのだった。まぁ、葉月に限って、悪いことはしていないと思うから、特に詮索はしないで置く。
未香子のご両親には、一通りは説明済みである。快く、私達の悪巧みに、協力して下さっている。有難いことに…。
未香子のご両親も、私も葉月も、実は未香子にかなり甘いと、言ってもいいだろう。ご両親や私は兎も角、葉月は、ああ見えて、未香子にとても優しい。
陰では、なのだが…。年頃の男子だからか、テレがあるのだと思う。
葉月と私は双子姉弟であり、物心ついた頃には、私達2人は既に仲が良かった。
以心伝心のような感覚的なものがあり、言葉にしなくても、お互いの事が理解出来ていた。生まれた時には、既に…。
自分達には、それが至極当たり前のことであり、疑問に思ったこともなく。
私達は一卵性ではないけれど、何故か相手の心の中が、自分の事のように読めると言ってもいい。具体的な考え方は細かく言えば違うけど、双子であるからか、相手の気持ちは自分よりも理解出来ている、というぐらいには。
幼い頃の私達は、いつも一緒に居たので、一番自分を理解してくれる相手でもあった。だから「一生一緒に居ようね。」なんて、思い合っていたこともあった。
その関係が変わったのが、日本に帰国して、未香子と知り合ってから。私達の間には、誰も入れないと思っていたのに、未香子が間に入って来て…。
私は弟として、一番自分を理解する相手として、大事なのだと理解して。
だけど弟は、私を姉以上にも求めていて。
双子だけど、想いが違うことに、今更ながらに気が付いた。体良く、大人達の思惑もあり、引き離されていた私達。これを利用して、私も葉月も、未香子と各々仲良くなっていった。ただ、彼女は、はっきり憶えていないようだけれど…。
その後に、あの事件が起こり、私達も当事者という形で巻き込まれて、私達姉弟の間は、より複雑化してしまった。葉月は、未香子が自分から私を引き離した、という結果的な思い込みをしており、中々素直になれないようである。
それと同時に、自分は未香子から嫌われている、とも思い込んでいる部分がある。
それは、未香子の男性嫌いが治らない、と思っているから、でもあるのだろう…。
私が未香子を大事にするものだから、自分も大切に思うのだと…。
私を巡っては、自分は、未香子とはライバルの位置関係なのだと…。私の想いに気付いても、理解しない矛盾が生じる。
真面目過ぎて、今は、拒否状態に近いのではないだろうか?
葉月は、私と同様、そんなに鈍くないと思うのだが…。恋は盲目と言う言葉もあるのだから、それと似たようなものなのか…。
対して私は、面白い事に惹かれるタイプであり、苦痛な事でも、何でも楽しい事に変換する楽天的な部分も、持ち合わせている。真面目な弟とは、ほぼ真逆である。
だから、男子として振舞うことに、葉月が思うほどに、大変だとは思っていない。
そして、思ったこともない。確かに鍛錬はきつい時期もあったけど、自分で決めた上で、楽しんで振舞っていることでもある。
その事については、葉月と言えど、これ以上、口出しされたくない!
そう、思っている…。
****************************
私と未香子は、未香子の家の車で出掛けている。葉月は、多分、あの人の運転する車で、付いて来ていることだろう。
あの人とは、未香子のお兄様である『朔斗』さん、のことである。
葉月とは、小学部から同じ男子校に通っていた先輩・後輩の間柄なので、いつも一緒に帰省して来るのだ。
朔斗さんは、今年から大学生なので、最近免許を取ったばかりだという。
まるで、この2人の方が兄弟だと思うほど、昔から仲がいい。朔斗さんは、私にも妹のように優しく接してくれる、理想的なお兄さんである。
私や未香子の事になると、この2人は、タッグを組むことが多いと思う。
お互いに心配してくれているのだろうけど、過保護すぎるのは止めて欲しい。
今も2人で、何処からか此方を監視していることだろう。思わず、溜息を吐きそうになり、隣に未香子が居ることを思い出し、気を引き締めた。
その表情が、彼女には険しく見えたのかもしれない。
「どうしたの?遊園地じゃ、楽しくない?」
「そんなことないよ。十分楽しんでるよ。ただ、周りに気を配らないとね。」
「あっ‼そうよね。夕月は、私の護衛も兼ねてるのに…。私…、完全に足手纏いだったわ。ごめんなさい。」
私は、何時もより考え込んでいたようだ。未香子が、私の顔を見上げて覗き込んでくる。未香子に要らぬ心配を、掛けてしまった。
しかも、自分が足手纏いだとしょんぼりして。本当に可愛いな、未香子は。
全くそんなことないのに。保護欲を誘う仕草だと思う。
私は、性別こそ女性ではあるけど、もし本当に男性だったら、本気で付き合いたいタイプかな。恋愛的な意味で。恋人にしたいと、思うぐらいに…。
男性として生まれなかったのは、いろんな意味で残念だと思う。
実際には、私は如何足掻いても女性であり、残念ながらこの先は有り得ない。
性別を超えても、好きだとは思っている。誰にも負けないぐらい、物凄く大事だと思っている。しかし、未香子には悪いけれど、何れ別々の道を歩くことになる。
私は、其れまでの代理でしかない。
だからと言って、其れまでの守る役は、絶対に誰にも譲れないが…。
「ふっ。じゃあ、僕は護衛に徹して、ナイト役は、誰か他の人にしてもらうことに、しようかな?」
「ダメ‼そんなの駄目だから!私は、夕月が良いんだから!」
「くくくっ。では、お姫様。僕でよければ、お手をどうぞ。」
余りにも落ち込んでいる様子なので、私は皮肉るように語り掛ける。そんな事を言うと一緒に出掛けないよ 、と。すると、彼女は急にアタフタして、否定して来る。
何これ?可愛すぎるわ。未香子は、よく我が儘なお嬢様だと、他者から思われているらしいけど。私からすれば、可愛い我が儘でしかないんだよ。
私に対しての我が儘なら、許容範囲だよ。但し、未香子に限るけどね。
皆、勘違いしていると思うのだが、私は元々、未香子の為の騎士であって、他の女子の為にではない。表向きも兼ね、面白いからそう振舞っているだけで…。
冷たいようだが、私は、他者から望まれることは、あまり好まない。
本当の意味で、皆に平等に優しいのは、弟の葉月の方であり、私ではない。
私は単に、そういうキャラを演じているに過ぎない。
私がそう思いながら、未香子に向かって、左手を差し出す。未香子は、恥ずかしそうに顔を赤くして、「…はい。」と言って、自分の右手を私の手のひらに載せる。
私はその手を握って、指と指の間に自分の指を挟んで、敢えて恋人繋ぎにする。
今の私の外見は、完璧な男子の姿だから、何も問題ない。
未香子が期待していると、私は知っていたからね。それに、答えた形なのだ。
あとは、周りを牽制する意味も込めて、かな?
前回の番外編の、一応は続きとなっています。只、副タイトルは、別タイトルとしました。
このお話は、ある1日の完全な裏話となっています。その為、セリフなど被りますが、一部抜粋のような感じで、全く同じにはしていません。
未香子視点と夕月視点は、別の感情と感想になる訳ですから、ニュアンスが異なるのは当然だと思います。
そういう意味を込めて、敢えて一部変えておりますので、ご了承下さい。
クリスマス特別編、お読み頂き、ありがとうございました。お正月特別編も予定しておりますので、よろしくお願い致します。詳しくは、活動報告の方で、ご報告になるかと思います。




