番外 ある姉弟の裏話
※いよいよ、明日、「クリスマス特別編」投稿となります。よろしくお願い致します。
今回は番外編です。しかも、あの姉弟のお話で、姉視点となっています。
漸く、姉の気持ちの一部が、初公開されることになりました。
然も、弟の気持ちも一部、姉が暴露しています。(姉が見た目線での弟なので、弟自身の気持ちとは違うかも?)
※現在、見直しの為、改稿しております。当初より少しだけ追加しております。
内容も分かりやすくなるように、心掛けました。
改めて、よろしくお願い致します。
5月の連休になって直ぐの休みの日、学生寮に入っている弟が帰省した。
大人と違い、学生の私達は、連休中にも登校する日があるのに、中学の頃から、弟はどういう訳か、登校する日も寮に帰らないで、ずっと続けて帰省している。
寮に帰るのは、大人と同じように連休最終頃である。
「おかえり、葉月。今年も、連休の登校も休んで、うちに居るの?」
「勿論、そうだよ。その為に向こうでは、そういう努力をしているんだからね。そうじゃないと、実家に帰省出来なくなる。それに、僕だって、少しでも実家で休養したいしね。」
「何か交換条件でも、してもらってるわけ?」
「そうだね。似たようなもんかな。」
大体は、目を見れば分かるんだけどね。考えていることも、分からなくはないけど、敢えて聞くようにしている。毎日、会っていないのだから、余計に。
葉月も、理解されていると知りつつ、敢えて答えてくれている。
双子だと、こういう時に、ホント便利なんだよね。
余計な言葉を言わずに済むし、本音が理解されないと、イライラせずに済む。
特に『おとうと』は、私の為になることであれば、全力を尽くすタイプだし。
姉である、私の行動を理解出来ない、と言いながらも、しっかりと理解してくれている。そして、姉には激甘なのである。
「何かと『四条』の名が、効くんだよね。縁を切っているというのは、表向きの話だし。」
「あのさぁ。そんな事ばかりしていると、『お祖母様』が出て来られるよ。」
「分かってるよ。『お祖母様』が出て来ないほどほどに、名乗っているから。」
呆れた顔になって注意してやれば、然も当然のような顔で、答えを返してくる。
性格は、私と葉月では、真逆に近い筈なんだけど、私も弟も、似たような事をやっている。まあ、それも仕方がないことであるが…。そうなるように、振舞っている部分もあるのだからね。
それに、お祖母様も、私達が遣っていることを、実は気付いているようなのだ。
要は、見て見ぬ振りをしてくれているわけ。ありがたい事である。
「そういう夕月こそ、まだ『ナイト』役をしてるんだ?」
「約束だからね。まだじゃなく、まだだよ。」
「いい加減に、危ない事は、止めて欲しいんだけど?」
「だったら、葉月こそ。いい加減、家に戻って来たら?」
何時もの不毛なやり取りである。弟は帰省する度に、毎回のように同じセリフを言うのだ。だから私も、前回と全く同じセリフを言い返す。その度に、葉月は肩を竦めている。いい加減、自分の気持ちに向き合って欲しい、と思っている。
私達は性格は違っても、行動原理はほぼ同じなんだから。
葉月の気持ちも、理解出来ない訳じゃない。私と同じく、私の気持ちを分かっているくせに、理解出来ないフリをする葉月。
私が、葉月の気持ちに気付かない訳がないんだよ。そして逆に、葉月も、私の気持ちに気付かない訳がないんだよ。
それでも、葉月は敢えて、何も気付こうとしない状態でいる。私も敢えて、葉月の事には、これ以上口を出さないでいる。私達は双子だからこそ…。
双子と言えど、自分であって自分ではない他者なのだから…。
双子であればこそ、お互いが、それ以上の干渉はしてはいけないのだ。
干渉し過ぎれば、お互いに依存し過ぎて、お互いに居なければ、生きていけなくなる、かもしれないのだ。私達は一生、一緒に居る訳にもいかないのだから。
私は『あね』であり、『おとうと』を守る立場なのだ。例え、数分の差だろうと、何時間の差だろうと。先に生まれた者として、全てに於いて優先権がある代わりに、守る責任もあると感じている。
反対に、葉月は、自分が『おとこ』だから、『おんな』である姉を守るのが、当然だと思っている。例え、何歳差でも、弟ならそうするのであろう、と思えてくる。
葉月は、私と違って変に真面目過ぎるから、こういう時に融通が利かないのだろう、と…。今すぐ、全てが変わるとは思っていない。
でも…、「僕が代わるよ。」の一言で、全て解決するだろうに。
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彼の名は『北城 葉月』。私の双子の弟で、学生寮のある男子校に通っている、高校2年生だ。因みに、私が1年生なのに、2年生の双子の弟とはどういう事だ、と思うだろうね。ただ単に、私が、学年を1年下げているだけである。
本来なら、私も当然高2である。なぜ弟が高2なのに、姉の私が高1なのかは、複雑な理由があるからだ。この話には、幼馴染の未香子が関係している。
未香子と知り合ったのは、彼女が幼稚園に通う頃だった。当初、私は年齢通りの学年で、幼稚園に通うことになっていた。
しかし、未香子と友達になってから、未香子がある事件に巻き込まれ、その時、私は、未香子を守る約束をしたのだ。完璧に守るなら、同じ学年の方が都合がいい。
私と葉月は、2月10日生まれの早生まれ。だから、私の学年を1学年下げても、特に問題がないと思ったのだ。
また、私達家族は、父の仕事の都合で、其れまで海外で暮らしてきた。私達双子は、向こうで生まれてから、一度も帰国したことがない。
父の帰国の目処が立ったので、日本で幼稚園に通うことになり、この時に初めて帰国した。未香子は、日本で出来た初めての友達であり、とても大切だったのだ。
両親は驚いていたが、反対は全くされなかった。私が一度決めたことに退かないのは、よく理解してくれていた。だから、何も言わず、手続きをしてくれた。
まあ、呆れた顔はされていたわけだが…。
弟の葉月には大反対されたが、葉月が未香子を守ることが出来ない以上、認めるしかなかったのだ。その頃の未香子は、私以外を全て拒否していたからね。
私が、ケンカが強いのも、男子を相手して、多数でにも勝てるのは、武術を習っていた葉月が、秘訣と一緒に教えてくれたからである。
葉月もこの頃から強いが、当時は、男子にしては小柄であったので、頭脳を使って喧嘩をするタイプだった。売られた喧嘩は、買うタイプでもある。
私は葉月よりも小柄な上、所詮は女子ということもあり、力技だけでは男子(もしくは男性)には、全く歯が立たなかっただろう。当然、かなりの無理をしたが…。
よって、秘訣を使う上でも更に、十分に頭をフル回転させる必要がある。
まあ、私には、得意分野ではあるのだが。
勿論、鍛錬も必ず欠かさないように、努力をしている。そのお陰で、体育の成績もトップである。今のところ、誰にも負けたことがない。無論、男子にも。
但し、惣元お祖父様、葉月、あともう1人の人物には、本気でやっても勝てないだろうけれど。向こうも、本気にはなれないだろうし。
葉月が小学生の頃から、学生寮のある男子校に入学したのも、未香子が一時的とはいえ、男性恐怖症になったことが原因であった。
あの頃の未香子と言えば、自分の父や兄、身内でさえ恐がっていた。そして、一部の女性でさえも…。つまり…、人間不信に陥っていたようなのだ。
誰も、近づけなかったほどに…。
唯一の例外が、私だったのである。どんなに男の子っぽくても、異性ではない私だけが…。
幼稚園の男子達から揶揄われた時、あの事件の時、助けたのが私であったから…。
「…で。連休中、どこかに出かけたりするんだよね?」
「まあね。多分、何処かには…。」
「じゃあ。連休中の予定、逐一教えて?」
そう話すと、葉月は、これ以上ないくらいの笑顔になる。これは去年同様、付いて来るつもりだな。毎年の恒例行事のようなもの、に成りつつある。
しかし、その笑顔、未香子の前でも見せたら、どうなの?
少しは、警戒されなくなると思うよ。
彼女にバレないように、後を付いて来るのは良いのだけど…。
不審者とかに間違われないように、気を付けなさい、ね?
どうせ、2人一緒なんだろうけど…。いい加減、溜息吐きたいよ。はあっ。
読んで頂き、ありがとうございます。夕月視点は、如何でしたでしょうか?
実はこれ、未香子視点でカバー出来ない部分の、伏線を敷く形となっておりまして…。
そして、このお話は以前出て来た、未香子視点の裏話にもなっていますが、何話かお気付きになりましたでしょうか?
今現在、何話か気付かれていなくても、今後のお話ではっきり分かるでしょう。
そうなんです。夕月視点の番外編、暫く続きます。楽しみにして頂けると嬉しいです。




