20話 癒しのペア・アクセ
前回からの続きのお話です。
連休中の、学苑がお休み中の、出来事となっています。
ちょっとした喧嘩と言うか、暴力的な場面が出て来ます。
流血事件のようなものはありませんが、こういう場面が苦手な人は、お気を付け下さい。
※現在、見直しの為、改稿しております。当初より600文字強程度を追加しております。内容も分かりやすくなるように、心掛けました。
改めて、よろしくお願い致します。
『癒しのアクセ』と呼ばれるアクセサリーは、ネックレスとブレスレットの2種類のタイプがある。夕月が買ったのは、ブレスレットタイプであった。
ショップのレジで、すぐ使用するからと説明して、値札を取り外してもらう。
夕月は、その場で私の腕に装着してくれる。だから、夕月の腕には、私が装着したのよ。うふふ。何だか、擽ったい気分ね。
「今、レジに来たあの2人、可愛いカップルだね。」とか、「お似合いだよね。」とか、「やっぱり、付き合ってるのかな?」とか。ボソボソ喋っている、ショップの若い店員さん達の話し声が、聞こえてくる。…しっかり聞こえてますよ、店員のお姉様方。私達、お似合いだって!嬉しいけれど。
私の顔が火照ってきた。真っ赤になっている自信がある。夕月も聞こえている筈なのに、全く顔にも態度にも出さない。少しぐらい照れてもいいのに!
カップルに見られているのは、本当に嬉しい。まさか、夕月が男装している女子だとは、絶対に思わないだろうな。
周りで買物していた同年代ぐらいの女子達も、「いいなあ。」とか、「ペア・アクセ、私も(彼氏から)プレゼントされたい!」とか、こちらをチラチラ見ながら話しているようで。
今の私は、優越感で一杯である。えへへ。夕月が優しい彼氏とか、理想の彼氏みたく褒められると、私も嬉しいなぁ。
ショップを出ると、また手を繋いで歩く。お揃いの今買ったばかりのブレスレットを着けて。気分は、映画のヒロインだわ。
その後に行ったメリーゴーラウンドでは、私が木馬に乗って、夕月は外から手を振ったり、スマホで写真撮影してくれた。
メリーゴーラウンドの後は、ティカップにも乗ったの。夕月も、同じカップに乗ってクルクル回すから、私は少し目が回ってしまった。
「ふっ。ごめん、ごめん。調子に乗り過ぎた。」と、笑いながら謝ってくれるのだけれど。何でそんなに元気なの?目を回していないの?
あと、幾つかのアトラクションにも行った。映像とリンクした乗り物や、恐怖の館とかにも行ったのだけれど…。正直怖かったわ。迫力あり過ぎでしょう?
もう少し緩いと思っていたので、ちょっぴり後悔しましたわ。
「1番最後は、やっぱり観覧車に乗りましょう?」と、私がお願いすると、夕月は「OK。観覧車が最後だね。」と、約束してくれる。その前に休憩することにして、広場にある室外の休憩所までやって来た。
ここでは軽食も取れるので、夕月は「クレープと飲み物を買ってくるよ。」と言って、私を置いて離れて行く。私は1人、席に座って待つことにした。
暫くは待っていただろうか?スマホを弄っていたので、気付くのが遅れてしまう。
人が近づく気配がしたので、もう戻って来たのかなと思って、目線をスマホから放して顔を上げると、私のすぐ目の前に、知らない男性が2人立っていた。
えっ?何、…この人達?
「やあ、1人?よかったら一緒に遊ばない?」
「君、超可愛いね。高校生ぐらい?すぐそこの『高崎』って大学、知ってる?俺達、そこの学生なんだ。」
私と目が合うと、明らかに下品な笑顔を浮かべた大学生2人組。下心があるのが、見え見えで…。気持ち悪い…。私の顔は、多分引き攣っていると思う。
高崎大って言ったら、この辺りでは、割と有名な私学の大学である。確か…偏差値も高い筈でしたよね?でも…、こんな下品な学生もいるんだと思うと、嘆息する。
「…いえ、私には連れが居ますから、結構です。」
「え、もう1人いるの?だったら、俺達も2人だから、一緒に回ろうよ!」
「そうだな。その子も一緒に!行こうぜ!」
私に連れ(=相手)が居ると言っているのに。何を都合よく、勘違いしているのでしょうか?女子2人組と思い込んでいるなんて…。呆れてしまう。
普通、女子が言う『連れ』は、彼氏でしょうに…?相手が女子の場合は、『友達』と話す筈でしょう?若しくは友人とか。『連れ』と話したのですから、カップルで来たと思う筈よね?この人達、どれだけお馬鹿さんなの?
私が、碌に相手にしてもいないというのに。都合よく捉えただけではなく、大学生のうちの1人が、私の腕を掴んできて、私を椅子から強引に立たせようとした。
その時点で、私にとっては、この男達等の行動は暴力行為である。
「いや ‼ 話して下さい!」
「大丈夫だよ。友達は、こいつが後から連れて来るから。先に俺と行こうよ。」
そう言ながら無理矢理、腕を引っ張ってくる。何とか足を踏ん張って、立たないようにしているが、手加減なしの力で、腕が悲鳴を上げそうだった。
立ってしまったら、相手の思う壺になる。力の差があるから、引き摺られて連れて行かれるのは、まず間違いない!
いや ‼ 怖い!誰か、助けて ‼ 心の中でも必死に叫んでいた。何しろ、怖くて怖くて、声が上手く出せなかったのだから…。必死に抵抗しているけれど、ほぼ大人の男性に、力量で敵う訳がない。こうして抵抗出来るのも、時間の問題だった。
「ゆづ!たすけて ‼ 」
やっと声が出せたようだけれど、自分でも何を叫んでいるのかさえ、よく理解出来ないでいる。その時、突然、男の手が離れて、私の腕が自由になった。不思議に思って顔を上がると、男のすぐ後ろに夕月が立っていた。
涙目でぼやけて見えにくい。でも、間違いない ‼ 夕月が来てくれた!
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私の腕を掴んでいた大学生の手を、夕月が掴んで後ろ側に捻っていた。もう1人の男の方は、何が起こったのか分からない、という様子である。
「痛ッテ~ ‼ 行き成り、何しやがる ‼ 」
「おいっ!大丈夫か?…お前、誰だ!」
すると夕月はフッと笑い、大学生を馬鹿にしたような表情をしてから、すっと表情を全て消す。これは、夕月が本気で怒った時の顔なのだ。
捻っている大学生の手を、更に後方に捻りながら、大学生の背中側にその腕を回す。当然、先程の痛みどころではないだろう。でも、同情は一切しないわよ。
「痛っ、ててててっ ‼ 」
「おい、放せ ‼ 暴力行為なんて卑怯だぞ!」
「立場が分かっていないようだけど?君達が先に、僕の連れに手を出したんだ筈だよね?自分達よりも年下のか弱い女性の手を、無理矢理引っ張るような理不尽なことをして…。自分達の行為は正当化する気なんだ?」
言葉の端々に棘がある、夕月の言葉に、大学生達が一瞬固まって黙り込んだ。
腕を捻られている学生も、唸りながらも小声になっていく。疚しい事をしたという、自覚があるのでしょうね。確かに、それで間違いないもの。
自分達の遣ったことを言われては、黙るしかない。そして、漸く私の連れが、自分達の目の前にいる男子だと理解したのだろう。
驚いたような顔をして、「こんなガキっぽいのが……。」とか呟いているけど。
ちょっと ‼ 聞き捨てならないですわね!しっかり聞こえていますから!
結局はこの2人、反省していないようだった。キッと夕月を睨みつけて、「お前のような優男が、モテるから悪いんだ!俺達が悪い訳じゃない!」と叫びだす始末である。今まで傍観していた方の男が、呟いた次の瞬間、今度は叫ぶ。
そして、夕月に殴りかかろうとしたのだ。私は思わず「危ない!」と叫ぶ。
そう、叫ばずには言られなかったのよ!
夕月はそれに対し、腕を掴んでいた男を、思いっきり足で払って転ばせてから、殴りかかって来る男の方を向いた。ニカッと意味有り気に笑って、向かって来る男の攻撃を躱す。男の腕を掴み、柔道の要領で思いっきり投げ飛ばしたのだ。
男は、強かに背中を地面に打ったのか、気絶したようだった。先に転ばせた男は、夕月がもう1人を余りに簡単に倒したので、目を見開いて呆然としている。
そんな呆然とした男の前まで、夕月はゆっくりと歩いて行く。地面に座ったような状態の男を、すぐ目の前で立ったまま、無表情の顔で見下ろした。
その男は、まだぼ~としたまま上を見上げ、無表情の夕月と目が合って、「ひっ‼」と小声で叫ぶと戦慄き、身体をガタガタと大きく揺らし始める。
「おい、お前どうする?まだ遣るの?遣るなら手加減、出来ないけど?」
「ひぃぃ~ ‼ もうしないから、許してくれ!」
夕月は、態と口調を悪くして言い放つ。呆然としていた男は、夕月の挑発めいた言葉に大慌てで、何度か転びそうになりながらも、片割れの男の許に走り寄った。
気絶している男の身体を揺すり捲って、「おい、起きろよ!早く行くぞ!」と何とか起こすと、まだ覚醒していない状態で、引き摺るようにして連れ去って行った。
いつの間にか、周りには大勢見物人が居たようで。すっかり囲まれている。周りの人達から「わ~ ‼ 」と、大歓声が起こった。「よくやった!」と拍手も。
どうやらココに居る誰かが、遊園地の警備員さんやら職員さんやらを、呼んでくれたみたい。暫くしてから、駆けつけて来てくれた。
「お客様、大丈夫ですか?ケガとかは無いですか?」
「僕は大丈夫です。未香子は大丈夫だった?来るのが遅くなって、ごめんね。」
「私は大丈夫だよ。…私も、腕を掴まれただけです。凄く痛かっただけで…、特にケガは無いと思います。」
「では、私は取り敢えず、今逃げた2人組を追いかけますので、一度失礼致します。また後ほど、ご連絡致します。」
「当遊園地でこのような事態が起こり、また怖い思いをされた事、誠に申し訳ありません。」
「「いえ、この遊園地の責任とは思っていません。」」
夕月は、常よりも目尻に皺を寄せて、心底心配げな様子で話し掛けてくる。夕月が悪い訳でもないし、戻って来るのも遅過ぎた訳でもないと思う。
でも、今は遊園地の職員さん達が居るので、手短にケガが無いことを伝える。
私達が大丈夫だと確認してから、警備員さんは急ぎ足で去って行った。
職員さんには、他の客に絡まれた事は、園内で起きた事件だからと謝られた。
しかし、私も夕月も、遊園地には責任を感じていない。
改めて、職員さんに何が在ったか聞かれたので、絡まれた時の事情を私が話すと、一応念の為に、病院に行くことを勧められた。
職員さんは私達の連絡先を聞いてから、「今日の事で、お2人方のご両親に、後日こちらから連絡させて頂きますね。」と言われ、再度謝られたのだった。
職員さんが立ち去った後、夕月はまだ心配そうに、私の顔を見つめてくる。私も夕月を安心させる為と、私自身も甘えたくなって、思いっきり抱き着くことにした。
「知らない下品な男達に腕を掴まれた時は、物凄く怖かったよ。でも、夕月が助けに来てくれたから、怖いのが吹き飛んだみたいだわ。」
「…ごめん。注文して待っていたら、遅くなった…。こっちが騒がしくなってから、気が付いたんだ。すぐ走って来たんだけど、遅かったよね…。」
しょんぼりした口調で私に話しかけ、それから私をぎゅ~と抱き締めてくれた。
夕月の胸に、思いっきり顔が押し付けられた感じ…。うん、私より大きくて羨ましい。…じゃなくて!夕月に抱き締められた途端に、安心するわ。
…若干、夕月の胸で、息が止まりそうになったけれど。
異性に声を掛けられた時から、声や身体が震えないように我慢していた。本当は、相当緊張していたの…。
元々、男性恐怖症だったこともある。声を掛けられた時点でガタガタ震えてしまい、腕を掴まれた時点で気を失っていても、おかしくなかったのよ。
夕月は、以前私に何が在ったか、幼馴染で当事者でもあるから、よく知っている。また私が倒れたりしないかとか、とても気に掛けてくれているのだろう。
少々、心配性過ぎるとは思うけれど、ね。
ある意味、家族よりも心配を掛けているかも、しれないわね…。
「私には、夕月が居るから大丈夫よ!」
「…そうだね。僕は、君のナイトだからね。」
「それにね、今日はこれがあったから、私、いつもより頑張れたのだと思うの。夕月、プレゼントしてくれてありがとう!」
私は自分の腕を上げて、手首に装着したブレスレットを見ながら、お礼を伝える。
夕月も、私と自分のペア・アクセを見て、やっと微笑んでくれた。
とても綺麗な笑顔で。
「どう致しまして。僕のお姫様。」
前回からの続きのお話で、主人公達のプライベートな話でしたが、どうでしたでしょうか?
夕月が少しでもカッコイイと思って頂けると、嬉しいです。
さて、やっとタイトルを、本文中に出すことが出来ました。
題名はこういう遣り取りが在って、当初からここから取ると決めていました。
今流行りの長いタイトルは苦手なので、短い題名にしようとは思っていました。
どうして2人が『お姫様』と『ナイト』になったのかは、何れ書こうとは思っています。




