45話 それぞれの休息の日には
勉強会後テスト期間中、テストが終了した最終日のストーリーです。主人公達は多分、テストは大丈夫だろうけれど……
「ねえ、今日のテストはどうだった?」
「今回のテストさ、山勘当たってラッキーだったよな。」
「…ああ、俺は逆に赤点かも…」
学校内の全生徒達の3分の1ぐらいは、テストが絶好調だと浮かれ、残りの一部の少数の生徒達は、奈落の底に落ちたかの如く落胆し、その他の大部分の生徒達は、普段より順位が前後する程度なら、大丈夫だろうと淡々と振る舞っていた。
絶好調と浮かれるほどではなく、奈落の底に落ちるほどでもなければ、多少騒ぐ程度で落ち着いた生徒も、多かった。自分は許容範囲だし、この程度で怒られないというところか。
「あと数日で、夏休みかあ~。今年は来年の分まで、遊ぼうぜ!」
「夏休み中にご一緒に、買い物に行きませんこと?」
1学期のテストが終了し、夏休みに近づいていた頃でもある。生徒達の会話は既に学期末テストから、夏休みに関する話題へと移っていた。但し、今回赤点の可能性のある生徒達や、前回も赤点ギリギリの生徒達は、夏休みの計画を立てる余裕も、ないようであったが……
「北岡君!…九条さんもご一緒に、カラオケに行きましょうよ!」
赤点の心配のない生徒達は、今日がテスト最終日でもあることから、今日は思い切り羽を伸ばすとばかりに、この後は友人達と遊ぶという計画を、立てている。夕月達も同じ部の女子3人から、遊びに行こうと誘われた。
誘ってきた相手は、勢木・吉乃・ケーちゃんの3人だ。彼女達は小学部からの友人でもあり、現在は3人共に映像部に所属し、脇役と小道具係を兼ねている。最近の夕月達は、萌々花達3人と一緒にいることも多く、部活仲間や小学部・中等部からの友人とは、殆ど遊んでいなかった。
「そうだね。久々に、行こうかな…」
「わたくしも、参りますわ!」
この5人で集まるのは久しぶりだと、夕月も未香子も即OKした。偶には、気心の知れた昔からの友人達と、遊ぶ時間も必要だと考えつつ、当たり前のように2人でワンセットのように、捉えてくれた友の存在に感謝する。
お嬢様が大声で歌うイメージは、ありそうでありえないことだろう。お嬢様だからこそ、唯一無二のストレス解消の一例として、カラオケは特に人気がある。家では礼儀作法も五月蠅く、学校や外では常に人目を気にして、日頃から上品に振る舞うお嬢様達も、こうしてカラオケで発散していた。
それでも、カラオケ店なら何処でも、良いわけではなかった。それなりのお金持ち向けを謳った、数少ないカラオケ店を利用する。最早そうした初期段階から、一般市民と何もかも異なるが、それも致し方がないだろう。
一般人向けと何がどのように、違っているのかと言うならば、室内の設備が豪華になるほど、代金も高くなる。個室の中も倍以上広い上、建物全体を貸切ることもでき、室内は全て一流ブランドで揃え、食事はイタリア料理のフルコースなど、至れり尽くせりとも言える。
監視カメラは、敢えて設置されていない。利用客はそれなりの家柄という、身元が十分に保証されている。故意に壊す可能性は、低そうだ。例え問題が起きたとしても、弁償は十分に可能だと思われた。信頼関係もあるだろうが、お嬢様は人の目を極力嫌がるのが、一番の理由であるらしい。礼儀正しいお嬢様だからこそ、人前で歌うことに抵抗がある。店員に見られることを、屈辱的に感じるほどに。
「さて、今日は何を歌おうかな?」
「北岡君。一緒にデュエットして、くださいな!」
「夕月。後でわたくしとも、歌ってくださいまし。」
何故か令嬢達には、デュエット曲を好む傾向が見られた。男女パートに分かれて歌うのが、お嬢様の恋心を擽るらしい。毎回誰かが男性パートを受け持ち、女子1人ごとに必ず1回ずつは、デュエットする。
普段から男子っぽく振る舞う夕月は、カラオケ店に来ると必ず、男性パートを何度か歌うことになる。同行した他の女子全員に、デュエット曲を持ち掛けられ、その全てを男性パートで歌う。その後は各自好みの曲を歌い、夕月は男性歌唱の曲も披露し、場を盛り上げていた。
「北岡君が歌唱する曲は男女共に、低音でしっとり落ち着く曲も多くて、聴く方も毎回楽しみですのよ。」
「本当に…。男性歌手の高音の歌声も、北岡君の声で聴いてしまうと、うっかり恋に落ちてしまいそうです…」
「夕月は歌うのも、お上手ですもの。感情を込めた悲しい歌声は、本当に泣きたくなりますから…」
「…ふふっ。未香子さんは意外と、涙もろいのよね…」
最近は未香子も萌々花達と、良好な関係を築いているものの、旧友には気が置けて楽だなあ…と、改めて友情を感じる。久しぶりだったからこそ、余計に身に染みたとも言えるが。
「それより…今はこの曲が、随分と流行っているみたいです。」
「あら、この歌詞は…。わたくしにはとても、歌えませんわ…」
「…確かにこれは、言葉使いが…悪過ぎますもの。」
「…はははっ!…それじゃあ代わりに、私が歌ってみようかな?」
「……北岡君が歌うなら、是非っ!!」
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「北城。この後、用事ある?…俺達と一緒に来ないか?」
「ああ、いいよ。丁度暇になったし、付き合うよ。」
令嬢が歌うには問題がある曲も、夕月の悪ぶる姿も見てみたいと、お嬢様達が自らの願望に逆らえない裏側では、夕月達女子が学校を出た頃と、丁度同じ頃に葉月もまたクラスメイト達に、誘われていた。
葉月を誘ってきた相手は、諒だった。現『映像部』の部長で、元赤羽部長の実弟である。葉月は夕月とは違って、女子生徒とは自ら関わらないものの、男子生徒とは良好な関係を築いている。その中でも諒とは、特に親しくなりつつある。というのも諒の方が葉月を、気に掛けているという感じでは、あったけれども。
「それで、何処に行くつもり?」
「映画の試写会を観に行くんだよ。一般的な映画と違って、映像を取る側の視点で作った、映画らしいんだ。将来の参考にもなりそうだから、親父からチケットを沢山もらったんだよ。」
「…ああ。君の父親さんは、映像関係の仕事をしているんだっけ?」
「そうなんだ。部活の休みは今日までだから、あと何人か誘って行こうと、思っていたところなんだ…」
何処に行くのかと訊ねた葉月に、『西 京太』が応えてくれる。如何やら彼が父親から、試写会のチケットをもらったそうで、部活の部員を中心にして、誘うつもりでいたようだ。珍しく葉月がまだ教室にいたので、誘ってくれたらしい。
「興味がない人でも、それなりに楽しめるそうだ。撮影場所とか風景とか、俺達も良く知ってる場所でも、撮っていたらしい。」
如何やら諒の説明では、有名な著名人の作った映画ではなく、マイナーな作品とでもいうべき、映画らしい。地元を舞台にした作品で、高価な機材を一切使用せず、様々な工夫を凝らし撮影したとか、映像部の部員なら一度は見たい、そういう映画ということだ。
「ふうん。特に興味があるわけじゃないけど、嫌な類でもないよ。」
葉月の言葉は、嘘ではない。特別に興味もなかったが、観たくもないほど嫌じゃないと、いうことだ。寧ろ、滅多にお目に掛かれない内容だし、然も無料で観られるのだから、ラッキーだ。小遣いはそれなりに貰っていても、北代家は一般的な家庭であることから、九条家と比べたら月とスッポンであろうか。
……あの例の茶店は元々、四条家が所有している。既に閉店した店だが、四条家及び北代家の関係者だけが、特別に利用できるんだ。あの日夕月が、速攻で四条家に手配をしたお陰で、店主役も間に合ったけど……
四条家が管理しているので、飲み物を頼んでも支払う必要はない。テスト勉強で集まった日も、夕月が支払いは要らないと言うと、初めて利用した萌々花達3人は、とても驚いていた。どうもあの3人は、夕月が支払ってくれたとでも、勘違いしていたようだったが。
「そろそろ時間だし、行こうか。」
諒の掛け声で、ぞろぞろと男子数人が移動する。諒と京太が誘った部員も合わせ全員が、外部生である。内部生の内の殆どは、将来は親の仕事を継ぐか、親のコネを利用する者が多くて、映画や演劇関連に進む生徒は、ほぼいなかった。
葉月も同様に外部生なので、気が楽でいい。この前は夕月達に、無理して合流してみたけれども、男子生徒3人が自分を警戒している、と何となく気付いてはいた。その上、夕月と未香子以外の女子3人も、自分をどう扱っていいのか、というような雰囲気を漂わせており、居心地が悪かったと言えた。
…夕月には「そんなに、気になったわけ?」と、揶揄われた。双子の姉には、本当に敵わない。特に何の会話もしなくとも、お互いの気持ちはお見通しだ。夕月の方が姉だから、僕は絶対に勝てないんだよ。
その上…未香子にまで、「葉月?…大丈夫?」と何故か異常に、心配されているようだ。夕月によって覚醒させられ、葉月も自分がどう向き合ったらいいのか、判断できずにいたのだから。彼女に心配されると余計に、自分らしさを見失って冷静でいられない。だからつい、夕月のような振る舞いをして……
「いやあ~。今日の映画は、色んな意味で面白かったな。」
「うん、そうだな。夢を叶える、参考になったよな。」
「北城は、その…暇つぶしくらいには、なったのか…?」
もしかしたら…無理に誘った所為で、退屈だったかもしれないな…と、不意に心配になった諒は、京太が他の部員達と話すのを機に、葉月に声を掛けた。不安の入り交じる問う声に、葉月もまた気付いたけれども、素知らぬフリをして答えた。
「そうだね。其方の分野に興味がなくとも、興味深く感じたよ。」
簡潔明確な答えだったが、少なくとも退屈ではなかったと、感じる。これを切っ掛けにして彼らも、より一層親近感を持つようになっていく。双子の性質が異なるのは、何となく感じ取っていたから。
……掴みどころがない北岡と違って、俺は…北城の方が親しみやすいな……
やっと1学期の最終テストも終わって、ホッとしたひと時でしょうか。誰もが気も抜けて、遊び倒そうとする日では、ないでしょうか?
そういう意味で双子のそれぞれの休息を、書いてみました。流石に女子会だからと姉に断られ、葉月は暇を持て余していたようです。諒と葉月と京太も、今後仲の良い友達になりそうな予感…。
※振り仮名のない『夕月』は、全て『ゆづき』読みとなります。『ゆづ』読みの部分のみ、ふりがなを振っています。




