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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第二幕 名栄森学苑2年生編【波乱の幕開け】
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閑話1.とある日の出来事①

 今回は本編の内容から、逸れたストーリーとなっています。学苑内の展開ではありますが、ちょっと本筋から外れた展開に……

 季節は瞬く間に移り過ぎ、夕月の双子の弟である葉月が、夕月の通う高校へ転校してから、早1か月を過ぎた頃のこと。葉月もすっかりと学苑の生活に慣れ、周りの生徒達も徐々に北城家の双子を、()()()()()()()頃でもあるだろう。


新入生達は部活に入り、高校生活を満喫し始めていた、そういう時期でもあるだろうか。この時期は雨の降る日が多く、学校の行事も特にない時期となる。本来は運動場で練習する部活が、朝練を含め体育館を使用する場合、生徒会へ事前に申し出る必要があった。日頃から体育館で活動する部活の為にも、生徒会が割り振る順番通りに、使用せねばならない。


 「…うう~ん。やっと…俺達の部活の時間かあ…」

 「お先に失礼しますわね。」


 「いいなあ…。俺たちの部活は、一番最後だよ…」

 「俺達は部室で、これからミーティングだ。まだ当分帰れないかも…」


自分達の割り振られた時間に、体育館が空く時を今か今かと、待つ部員達。伸びをする者もいれば、溜息や欠伸をする者もいた。今日部活のない生徒は、授業が終了した時点で帰宅している。学校に居残る生徒の殆どが、割り振られた順番を只管待つばかりだった。


この学苑の生徒達は、礼儀正しい生徒が多いようだ。交代の時間となり、多少騒ぐことはあれど、生徒会が勝手に割り振ることにも、文句を言う生徒はいなかった。体育館での部活を終え、今から部室でミーティングする部もあれば、雨が酷くなる前に帰宅しようと、即解散となる部活もある。


 「…そろそろゲームを止めて、体育館に移動した方がいいかな?」

 「それが、さっき見に行った奴がいたんだが、片付けで若干時間が押しているようだったぞ。」

 「俺達の部は次の次だし、まだゲームしても良さそうだな。」


学校でのスマホの持参・使用は、何処の学校も禁止しているだろう。校則を設けてまで禁止とする、学校も多いはず。ところが名栄森学苑では、有力な家柄の令息令嬢も在籍するにも拘らず、こうした校則は一切存在していなかった。


名栄森学苑では、生徒の自主性を一番に重んじており、生徒達各個人に判断を委ねる形を、取っている。スマホを学校に持参し、公共の場で使用することも、敢えて禁止ずに。勿論、授業中に使用しないのは、()()()()()()()()()か。


但し、学期ごとの試験のカンニング行為、トイレや更衣室での盗撮など、これらは犯罪行為でもあることから、違法行為が判明した際には、停学か若しくは退学処分となるだろう。他にも、別の生徒に悪影響を与えた場合には、問題を起こした生徒は卒業するまで、持参・使用を禁止されるようである。


教室で待機する生徒は、スマホでゲームなどをして時間を潰し、体育館前で待機する生徒は、スマホでSNSなどを利用したり、ネットで何らかの情報を調べたりと、各々暇つぶしをしていた。


 「あれっ?…お前達の部が、まだ待っている…ということは、俺達の部はまだ待つようだな…」

 「…ふう、辛うじて間に合ったようですわ。もう少しミーティングが長引いていましたら、練習時間も減りましたわね…」


先に部室でミーティングを済ませ、割り振られた時間に遅れたとすれば、当然ながらその遅れた分だけ、練習は短くなる。そういう理由もあってか、雨期の時期は練習のみとする部もあれば、逆に普段から行うべきだとして、毎日ミーティングを行う部もあるようだ。


割り振られた時間に開始し、同様に終了したとしても、その通り時間ピッタリとはいかず、時間一杯まで練習していれば、片付けの時間も短くなる。こうして各部で時間調整ができないと、結局その分だけ延長していく。全ての部活がそうではなかったけれど、順調に練習できたとして早めに終了しても、殆どの部活が制限時間を過ぎてしまっていた。


 「体育館で練習できますならば、遅くなっても構いませんわ。」

 「…まあ、雨期の時期は仕方がないか…」


それでも、学苑生徒の中で文句を言う者は、誰もいなかった。寧ろ、練習さえできれば何処でもいいと、捉えているらしい。運動部は特にこの時期は、練習不足となりがちでもあるし、それだけは絶対に避けたいはず。毎日部活の練習を熟しつつ、厳しい練習を乗り越えた上で、筋力や体力が落ちてしまえば、これまでの努力が無駄になってしまう。


毎日じゃなくとも週に3回ぐらい、自主練も含め練習したいところだ。少なくともそのぐらい練習していれば、後は他のトレーニングなどでカバーしつつ、体力を保てるだろうか?


 「それにしても…此処の生徒達は皆、大人しいな。それなりの家柄の子息子女が多いとは言え、優等生ばかりが集まっているようだ。…いや、偶然集まったというよりも、態と()()()()()()()()、しっくりくるような…」






    ****************************






 「あれっ?…北城弟君は、まだ帰らないのか?」

 「………君には、関係ないだろ。」

 「いや、単純に気になるだろうが…。部活に入ってないくせに、態々自主学習までして時間を潰した上で、誰かさんを待っていたんだろ?」

 「…………」


部員達が時間を潰す教室以外で、待機中の自分に声を掛ける、意外な人物の顔を確かめようともせず、葉月は素っ気なく答えた。にも関わらず相手は、何も気にした様子もなく、おどけた調子でズバズバと言う。


顔を上げずに(こた)える葉月を、相手も臆した様子など微塵もなく、ジ~と無言で見つめていた。その視線を居心地悪く感じたのか、葉月はパタンと音を立て、分厚い本を閉じた。その時、偶然にも本の表紙を見た相手が、「うへぇ~」と嫌そうな声を出し、眉を思い切り顰める。てっきり教科書かと思えば、こんなものを見る奴がいたとは…と、言いたげな顔付きで。


 「…何だよ、それ…。お前…よくそんな、鬼畜な本を読むよな…?」

 「…いきなりやって来て、何を言ってる?…君が読まないからって、誰も読まないわけじゃない。」

 「……そんな堅苦しい本、人間の()()()()()()()っつうの…」


おぇ~と吐く如く大袈裟に振る舞う相手に、葉月は白い目をやった。現実に読んでいる最中なのだが、そんなことぐらいで怪物扱いするなと、言いたい。別に葉月自身が、傷付くわけでも怒るわけでも、ないけれど……


 「僕は、読めるけどね。勿論、夕月(ゆづ)も読むし…ああ、朔兄…もだな。」

 「…………お前ら揃って、普通じゃねえ……」


葉月は平然と言い切った。あまりに当然のように告げられ、返す言葉を無くしたのか、目の前の人物は絶句する。暫し呆然とした後、呆れた風な口調で返した。彼らのことを分かっていつつ、失念していたと溜息を吐きたくなる、と。少なくとも彼らは以前にも、顔を合わせたことがあるのだろう。


 「…それより、何しに来たんだ?…学苑の内部まで潜り込むとは、ね…」


普段よりもやや低めの声音に、もし他の生徒達が聞いていたとしたら、驚愕したかもしれない。幸いにも此処にいるのは、彼ら2人だけであった。そういうわけで、多少強気な態度を見せても構わない、と思っていそうだ。


 「…俺は連絡したんだぞ。姉にバレる行動を取るなと言いつつ、お前は暫く来ないとか言うからさ、寧ろ俺が学校に行く方がマシだろうと、態々此処まで出向いてやったんだからな。…ったく、年上を使いっ走りさせんなよ。」


これに対して相手は、特に怯まず肩を竦めるだけだった。然も、飄々とした態度で本音を告げる、図太い神経の持ち主であるらしい。それより、今の会話の内容が正しいのなら、元々学苑の生徒ではない人物が、学苑内に潜り込んだということに、なり得るわけで。


 「…ああ、そうでしたね。忙しくて貴方に会いに行けなかったから、他校に潜り込むという()()()()()()()()、報告しに来てくださったと、いうことなんですね。これはこれは…僕が至らず、大変申し訳ありません。」

 「……うぇ~っ!…胸糞悪いぞっ!…こんな時だけ態とらしく、丁寧語で話してくんなよっ!…普段通りに話せっつうの…」

 「……ふう。それほど嫌なら、朔兄に報告しに行けば良いものを…」


明らかに機嫌の悪い顔をにっこり微笑ませ、年上を敬うような態度へと、がらりと豹変させた葉月を見た瞬間、青褪めた顔で吐きそうになるも、心底嫌だという口調で暴言を吐く。葉月を恐れたようには見えないが、それはまた葉月も同様だろうと思われる。


年上を敬う言い方に聞こえても、実際は相手を下に見たと分かる、そういう口調である。相手もそれを十分理解し、丁寧語で話すという真逆な態度に、嫌悪感を持ったようだ。今にも吐きそうに見せつつ、年上扱いをされない方がまだマシと捉え、噛み付く。いいや…それよりも、態と吐きそうな顔をしたという線が、濃厚ではなかろうか?


 「彼奴(あいつ)だけは…嫌だ。彼奴よりお前らの方が、まだマシだぞ。彼奴に会いに行くぐらいなら、まだ多少の危険を冒してでも、お前に会いに行く方が絶対に、俺の精神状態は安定するだろうなあ…」

 「…う~ん。君の言い分も、分からないわけではない。だが、そんな単純な理由で危ない橋を渡るとは、驚くよ。…まあ、朔兄は本当に容赦ないし、な…」

 「はっ!…彼奴は容赦ないんじゃなくて、鬼畜そのものだぞ!」

 「…それ以上言わない方が、いい。()()()()()()()()としても、朔兄ならおかしくないからね…」

 「…むぐっ?!………」


朔兄を恐れるくせに、全く理解できていないのでは…と思う傍ら、葉月は何とか話を逸らそうとするも、目の前に立っている鈍感な相手は、朔兄を煽るつもりなのかと思うぐらいに、言いたい放題である。葉月がはっきり忠告すると、相手はおかしな声を出して固まった。


 「………ガムを呑み込むところ、だった…」


今日もガムを噛んでいた人物は、漸く理解するに至ったようで、思わず息を呑み込んだ時、ガムを呑み込みそうになったのか。空気の読めないボスに同情しつつも、葉月は無言でスルーした。


 「……で、一体何しに来たんだっけ?」

 雨期の時期は特に何も思い浮かばず、あまりに先に飛ばすのもどうかと、番外編として書いた次第です。今回学苑に忍び込んだ謎の人物は、敢えて名前を出していません。…まあ、誰かはバレバレですが……



※振り仮名のない『夕月』は、全て『ゆづき』読みとなります。それ以外の読み方になる場合には、フリガナを振ってあります。

※更新が遅れ気味で、誠に申し訳ありません。今後も頑張って更新をしていきますので、宜しくお願い致します。

※自作小説の補足など、『無乃海の小部屋』で呟いています。

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