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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第二幕 名栄森学苑2年生編【波乱の幕開け】
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40話 双子が向かう先にあるもの

 前回の続きです。今回は、誰が誰を振り回すのか……


※今回は、振り仮名のない『夕月』は、全て『ゆづき』と読みます。それ以外の読み方は、フリガナを付けました。

 「……えっ!?……北岡君、聞いてたの?!…私の話を一体、どこから…聞いていたの?!」

 「うん?…何処からってそれは、君達の背後からだよ。着替えを終え、未香子と教室に向かっていたら、丁度此処で君達が話しているのが、聞こえたんだよ。」

 「…う、嘘…。聞かれていたなんて、恥ずかしい…」


聞いていないと言いながらも、ちゃっかり肝心な部分は聞いたのか、初耳だとしながら驚く様子も、皆無である。友人が知らないことも、その上で真相に気付かないことにも、知っていながら()()()()()()()()、確信犯だと思われる素振りで。


話を全て聞かれた当人は、聞かれた事実には気付けても、相手が確信犯かどうかを疑う様子は、微塵も見られない。それ以前に、自分の話が聞かれたことが、何よりも気にかかる素振りだ。夕月に自分の会話を聞かれて、単に恥ずかしがっているだけで、他は一切目に入らないようだ。


夕月達2人のやり取りを、暫し無言で見ていた葉月と未香子は、ハア~と溜息を落とす。双子の弟である葉月と、幼馴染で長年の親友でもある未香子は、夕月が態と惚けたとお見通しだ。少女を騙すことなど、夕月には朝飯前のはず。


惚けた夕月に、全く気付く様子のない少女を、葉月は残念に思う。夕月と少女の会話は、噛み合っているようでいて、実際には噛み合っていないのだが、思い込みとは何とも恐ろしいものだ。夕月に向ける葉月達の視線には、当然ながら責めるような視線も、ちょっぴり含まれている。


 「…それで夕月(ゆづ)は僕達の会話を、何時(いつ)から聞いていたの?」

 「あれ?…やっぱり葉月には、バレバレだったようだね…?」

 「いや、当然でしょ。僕達は双子なんだし、分からないはずもないよ。何時(いつ)来たのかも大体、見当は付いてるし…。未香子も気付いたのだから、誤魔化される方がおかしいと思うよ。」


誤魔化されないぞとでも言いたげに、夕月を信じる少女の代わりに、仕方なく葉月が改めて問う。舌をペロっと出しそうな様子で、夕月はニヤリ微笑んだ。悪気のなさも全くない、すっとぼけた口調で話す。そこには、反省の色がなく。


夕月の言葉に騙される方がおかしいと、如何(いか)にも萌々花が騙されたと、言いたげな口振りであった。呆れる風な口振りで、反論を返す葉月を前にして、夕月が動じる欠片もなかった。それどころかそんなことは、最初から分かり切っているとでも、思っていそうな顔をしている。


 「未香子さん、おはよう!…北岡君と弟君の2人って、()()()()()()()()()見えるけど、本当は仲良いんだよね?…弟君が転校して来た日、北岡君があれだけ怒っていたし、仲が悪いのかと思っちゃったよ。」


夕月と葉月が言い争う隙に、萌々花はススス〜とさりげなく、未香子の側まで移動してきた。夕月達姉弟が安易に隙を与えるはずもなく、萌々花が移動しても危害はないと、判断したからだろう。それでも、未香子は萌々花の行動には、何時(いつ)何時なんどきも驚かされてばかりいる。


 「…おはようございます、萌々花さん。夕月(ゆづ)と葉月の仲が険悪など、絶対にあり得ません!…夕月(ゆづ)は揶揄っていらっしゃるだけで、葉月もそれはご存じのことですわ。逆に姉は弟を弟は姉を、溺愛されておられますもの。」


萌々花が秘密話のように、コソコソと耳元で告げてきて、未香子も内緒話を打ち明けるような、ヒソヒソ声で応じてしまった。葉月は兎も角として今もきっと、夕月は耳を攲てているに違いない。結果的に、知らぬは…唯1人か?


 「…ふうん、そうなんだね。本当は姉弟仲は、凄く良いんだね。2人の仲が悪いのは嫌だし、仲良しで良かった…」

 「お2人の仲の良さは、わたくしが保証致します。ですが、萌々花さんが嫌だと仰るとは、意外でしたわ。貴方にとってもその方が、都合も良いのでは…?」

 「…ん?…特に理由はなく、都合が良いとも思わないよ。敢えて言えば、大好きな北岡君とその家族が、然も…実の弟と仲が良くないなんて、寂しいもん。北岡君が悲しいと、私も悲しくなっちゃうし…」

 「…………」


未香子が双子の仲を保証すると、萌々花は心底ホッとした顔をした。兄弟や家族で仲が悪いのは、この世の中には実際に其れなりに、いるだろうと思われる。例えどんなに萌々花が嫌だと思ったとしても、どうしようもないことだ。


萌々花の想いは、未香子の心にしっかと響いた。双子の関係をよく知っている彼女には、()()()()()()()思いもしなかったこと。確かに…双子の関係性を知らなければ、萌々花と同じ気持ちになっただろう。但し、萌々花のように素直に受け取るかどうかは、彼女にも自信がない。都合が良いと、思うかどうかも……


…流石は正直な、萌々花さんらしいですわ。自らに都合が良い以前に、好きな人が悲しむからという理由で、真っ先に家族愛を信じられますのね。彼女自身も家族愛をご存じだからこそ、真っ直ぐに信じられたのでしょう。






    ****************************






 未香子も双子達も、家族から十分に愛されている。だからと言って、萌々花のように忖度なしで考えることが、純粋だということでもない。彼らには忖度ある行動も、当然の権利である。別に無理矢理強制されたものではなく、そうせざるを得ない状況に、()()()()()()()()で。


 「北岡君達は3人一緒に、登校したんだよね?…2人は、何処にいたの?」

 「私達は奥の教室で、着替えを済ませてきた。バイクスーツを着て、教室には顔を出せないからね。登校後に葉月とは、別行動になっただけだよ。」

 「ふうん、そうなんだ。それで裏口の方から、入って来たのかあ…」


夕月達が葉月に無事合流し、4人揃って教室の方に歩き出す。夕月が真っ先に歩み出せば、萌々花はごく自然に夕月の横を、陣取る形を取った。そうなると残りの2人も自然と、横に並んで歩く形となる。


 「…いいのか?…菅さん(あの子)に、夕月(ゆづ)が盗られた形になっても…」

 「…ええ、別に…問題ありませんわ。萌々花さんは別クラスですし、部活でも会えませんからね。夕月(ゆづ)とはゆっくりお話することも、できませんもの…」


夕月達の後ろを歩いていると、葉月がこそっと未香子に耳打ちした。ついピクリと身体を強張せるも、葉月は大丈夫だと思うぐらいには、安心できるようになっていた。しかし振り向く勇気はなく、ぎこちない動作でありながらも、何とか普段通り会話はできている。但し、夕月と思えば大丈夫…と念じる、条件付きだが。


 「…ふうん。未香子も随分と菅さんには、寛大なようだね?…箏音とはちょっとしたいざこざがあったと、聞いているのに…」

 「実は…萌々花さんとも、そういう時もございましたわ。ですが今は綺麗さっぱりと、蟠りが消えましたのよ。萌々花さんは裏表もなく馬鹿正直で、裏の駆け引きもされない人だと、分かりましたので…」


葉月の口から箏音の話が出て、未香子の胸に小さな痛みが走る。注射針で刺す程度のチクリとした、僅かな痛みではあるけれども、ジワジワと周りが少しずつ汚染されていく、そういう不愉快な痛みでもある、と感じるもので。


それに気付かぬフリをして、萌々花との間でも揉め事があったと、未香子は淡々と要点だけを説明していく。今は萌々花とも仲良くしているが、当初は夕月を盗られるかもしれないと、恐怖すら抱いていたと言える。それも、今では単なる笑い話であるとして、未香子は知らず知らずのうちに、頬を緩めた。


 「…そうだな。確かに、裏はなさそうだね。夕月(ゆづ)が気に入ったのも、分かる気はするかな…」


彼女の柔らかな笑顔が眩しくて、逸らした視線を萌々花の後姿に向けつつ、葉月は納得していた。もしかして…葉月も気に入ったの?…と、未香子は頬を引き攣らせながらも、萌々花の後姿をジッと見つめる、彼を凝視した。


 「…ん?……っ!……な、何?…()()()()()()()()…あるの?」


真横から見上げてくる視線に、何気無しに横を振り向けば、凝視する未香子の真っ直ぐな瞳に、葉月は飛び下がる勢いで驚いた。穴が開くほどに見られては、只管困惑するばかりである。何か言いたいことでもあるのかと、葉月がそのように捉えていたとしても、それが普通の反応と言えよう。


 「…あ、あの、葉月は最近も…箏音さんと、お会いされてまして?…」

 「…………えっ?………」


心の中でどれだけ動揺しようとも、顏にも行動にも一切出さず、葉月はいつも通り平静を装う。流石に、今の未香子からの問いには、彼も呆然となった。一瞬何を尋ねられたかさえ、理解できずにいたぐらいだ。夕月に問うような類の質問を態々、自分に向けるのが信じられない、と…。


驚いた所為でつい立ち止まった、葉月に釣られる形で未香子も、廊下の真ん中で立ち止まる。固まったように動かなくなった彼を、彼女は真剣な顔つきで見上げた。数秒の間固まった後、葉月は視線を逸らすように、遥か先の空を見遣る。


 「…夕月(ゆづ)に頼まれたとしても、僕なりに箏音の力になりたかった。正式な婚約ではなくとも、箏音は昔から彼一筋だったから。箏音とは月に数回会っていたけど、昔の明るい彼女に戻ってきたばかりで…」


夕月から頼まれ会いに行ったら、明るくお転婆な彼女は何処にもおらず、それを寂しく思いもした。それでも漸く、昔の彼女に戻りかけたというのに、たった1日の出来事が全てを変えた。そして自ら幸せを諦め、それが唯一の幸せになる方法と、信じているようだ。


真面目な彼は却って誰かを、窮地に追い遣ることになろうと、正直に話してくれるような人だ。だから箏音も未香子も、彼を責めたりはできない。だってそれこそ、彼らしいと思うから。


 「…ふふっ。責任感のお強い、葉月らしいですわね…」

 「…………」


夕月らしいと燥ぐと思いきや、自分に返された言葉が意外過ぎて、逆に何も言い返せない。満面の笑顔の中に、何故か()()()()()()感じた。暗い影を落とす笑みに、薔薇の棘が心の奥底で根深く、突き刺さるかのようだと……

 やっと萌々花が葉月を、認識した場面です。また葉月も萌々花を、認識した場面でもありますが。今回は、夕月が萌々花を、振り回していますね。また葉月も未香子に、振り回されていないでも、ないような…?


今回でキリがつかなかったので、次回に続きます。

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