番外 誰かにとっては別格な…
さて、今回は……。どのキャラの視点になる…?
「…何しに来たんだ、北城 姉弟? …普段は話し掛けようとしても、そうさせない空気を醸し出し、完全無視を決め込むくせに…。こうしてお呼びじゃない時に限り、邪魔をしに来るんだからな。特に…北城姉!…お前は裏表がなさそうな人畜無害な顔で、男女問わず新人メンバー達を惑わせ、非常に厄介な奴だ…」
『鬼賀隊』の頭である糸賀は、僕達姉弟の待ち伏せに特に驚きもせず、見たくもない奴に会ったという顔で、眉を顰めた。大きな溜息を吐きつつ、諦めた調子で告げてくる。夕月を厄介者扱いする糸賀の口調に、僕はイラついた。何故か当人はふんわりのほほんとした口調で、上手く躱したが。その事に調子に乗った糸賀は、今度は僕に話を振ろうとする。
「…いいや、お前は絶対に確信犯だろ。北城弟も、そう思わないか?」
流石にムッとし、お前は何を言っているのかと、言い返したくなった。夕月に喧嘩を売るつもりかと、つい冷静さを欠きそうになる。姉が冷静でいる以上、僕に怒る権利はないけれど。だからと言って、此奴に同意するつもりは、微塵もない。
僕からの予期せぬ反論に、糸賀はぐうの音も出ない様子で、睨んでくる。常識のある僕に話を振るつもりが、此奴に聞くんじゃなかったと、すっかり当てが外れたようである。夕月のことは何でも全部、僕にとっては別格なんだよ。
「俺は他に成す術もないまま、お前達双子姉弟2人から、子分同然の扱いを受けてはいるが、だからと言って俺は別に、後悔してないぞ。俺は今まで誰にも負けずにいたけど、それはあまりに平凡で退屈な人生だ。そんな時、不良ですらない生真面目な中坊に、真剣勝負で初めて負けた。寧ろ、本気で悔しいと思う傍ら、心のどこかで楽しく感じるとは、な……」
それでも、此奴の見る目は確かだ。こうして夕月の欲しい言葉を、本心から告げてくれるのだから。本人は愚痴ったつもりだろうが、僕らには誉め言葉にも感じる。曲がった正義を振り翳す者より、どれほど信頼するに値するかと思えた。
暫し夕月は静観した後、本題に入るとして手厳しくバサリ、諫めた。…否、警告と見做すべきかもしれない。それほど強い口調でありながら、単に忠告程度のやんわりした口ぶりで。これが、夕月お得意の話術だ。自分の方が上だと相手を牽制し、一方で配慮する気配も見せつつ、一切反論させず精神的に追い込む。
話術に嵌まらなくとも、反論はできぬよう封じられるのも、僕達姉弟に勝てない理由だろうが、態と反論しないことも、一理あるだろう。また他にも、全く別の理由があるかもしれないな…。
「さて…そろそろ良いかな?…君達の頭のお許しが漸く下りたし、鬼賀隊の君達とも、じっくり話し合うとしようか?」
「「「「「「………………」」」」」」
「「「「「「……?!……」」」」」」
夕月は主導権を取り戻し、本題に入ると声高らかに宣告した。自分達のトップが下出に接する様子を見て、僕達姉弟に逆らうべきではないと、この場の半数以上の者達は既に、悟っているだろう。如何にでもなれという態度の糸賀や、息を殺すように様子を窺う古株たちに、今年入会したばかりと思われる、新入りメンバー達だけが理由も分からず、呆けた顔をしていた。
「君達の頭は、弱き者を助け強き者を挫く、常識のある者だ。にも拘らず一般人に迷惑を掛ける行為は、君達側に問題があるということだ。鬼賀隊は自らの居場所を求め、単に同類と心の隙間を埋める場では、ないんだ。糸賀は常に自らの信念を掲げ、法を犯し他人を害す行為は、絶対に行わないと誓った。それを破るメンバーがいるのなら、糸賀の信念に賛同する我々も、黙っていないだろうね…」
夕月は飽くまでも、糸賀を持ち上げる。そうして悪意を持たせず、彼らのリーダーが尊敬するに値する人物だと、丸め込む。確かに糸賀は法を守り、一般人を巻き込まないようにしており、1人の人間として良い奴だ。しかし、奴がどれだけいい奴だとしても、部下達が糸賀の全てを受け入れるとは、限らない。実際に毎年問題が起きるのは、そういうことである。
「夕月の言う通り、自分の存在を示した時代は、もう流行遅れだな。今は糸賀のようにさり気なく、迷惑を掛けない範囲で活動するのが、格好つけるということだよ。今の君らは糸賀に、恥を掻かせているだけだ。」
当然の如く僕は、姉の味方である。例え、雨が降ろうと槍が振ろうと、何があろうとも、絶対に……
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「…な、何でお前らのような奴が、偉そうにするんだ!…糸賀さんが下出に出てるうちに、帰りやがれっ!!…糸賀さんは優しいから、あんたらの顔を立てているだけなんだぞ!…それを…いい気に、なりやがって…」
どう見ても新入りと思われる者が、夕月に飛びかかろうとした。実際には詰め寄って来るなり、手を伸ばし掛けてきたのを、夕月は軽く躱したけれど。後輩として糸賀に憧れを抱くものの、糸賀の本意を酌み取れぬまま、何れ犯罪に手を染める輩となる、そんな可能性を秘めていた。
夕月の忠告が憧れの先輩を馬鹿にした、とでも受け取ったらしい。喧嘩腰で大声で怒鳴りながら、今にも夕月に掴みかかろうとした。どれほど喧嘩が強く、体の大きな屈強な相手だろうと、自らの軽さを生かしつつ、相手の力をも利用する夕月の戦法は、自らの力に自惚れて過信し、他者を見下し油断した者には、通用するはずもなく…。
新入りの動きを瞬時に読み、スッと体を後ろに逸らすと、上半身を屈めてクルリ回転しつつ、相手の攻撃を避ける夕月。胸元を掴もうとした若い男の手は、スカッと掴み損ねて空を切る形で、一気にバランスを崩した。前のめり態勢となる一瞬を狙い澄まし、前から見えるようになった背中に、激しい動きで勢いよく強烈な拳を、一撃として叩き込む。
「……っ!?……ぐっ!!…………ぐわぁは、がはっ………」
「…馬鹿だな、新入りは…。鬼賀隊を束ねる俺ともあろう者が、何もできぬ一般人をこうも安易に、此処に招き入れるはずもないだろう?…此奴ら姉弟が待ち伏せているのは、分かり切ったことだしな…」
僕以上に姉を見下し、夕月の一撃を諸に受けた結果、呻き声を上げながら前のめり状態で、床へと倒れ込む。その時、ゴツンという鈍い音もしたけど、当人に痛みはない様子だし、気付かぬフリでもしよう……
その後、新入りは今にも吐きそうな声を出し、咳き込んだ。彼の背中には、夕月の拳の跡がくっきりと、残されただろう。糸賀に憧れながら、糸賀の本質を見ない者に、糸賀の口調は優しげであれども、向けられる視線は氷の如く、冷ややかだ。
「……(はくはくはく)…」
「…ん?…何だ?…恐怖で声が出ないのか?…根性のない奴だな。北城姉弟が本気で洗礼していたら、こんな程度じゃ終わらないぞ。」
「…ふふっ、そうだね。先程の私の忠告が、理解できないようだ。私はこういう中途半端な輩が、一番許せないんだよ…。何なら今後一切、誰とも喧嘩できぬ程度に、調教しておこうかな?」
「……っ!!………(ガチガチガチ)…」
新入りは口をパクパク動せど、息がはくはく出るだけだ。半分は単に脅し、残り半分は本心を込め、糸賀の脅しに夕月も便乗する形で、追い詰めていく。実際に圧倒的な強さを見せつけられ、2人の脅しに本気で恐怖を感じたらしい。ガチガチという音がするほど、唇を震わせて。
「夕月も僕もこうした場では、嘘を吐かないよ。冗談半分・音半分でも、実行に移さないという保証も、ないんだからね?」
「…ああ、分かってる。新入りのしたことは、安易には許されない。まだ仲間になったばかりだし、一度ぐらいは見逃してやるが、二度目はないと思え。」
一応僕も、脅しをかけておく。糸賀も一度はチャンスをやると、新入りを制約させることにしたようだ。本来、僕達が口を挟む余地はないが、糸賀は僕達姉弟の意志を尊重してくれる。僕達姉弟と拳を交えたあの時も、飽くまで強い者との勝負に、糸賀が興味を持っただけであり、女子供に手を出すような奴ではない。
「私も、二度目はないよ。それほどのお人好しでも、ないからね。」
「此奴には、良い薬になっただろう。一度はチャンスを与えねば、此奴は更に堕ちていくからな。」
夕月がこうも怒るのは、非常に珍しい。糸賀もそれは理解しており、だからこそ放り出さずに面倒を見ると、受け入れたのだろう。こうして駄目になっていく人間達を、地獄に堕ちていく仲間達を、身近で見てきたからこそ。
「糸賀が鬼賀隊を辞めたら、鬼賀隊も解散になるかもな?」
「…できれば俺も、そうしたくないが…。俺が抜けることで、鬼賀隊が犯罪集団に堕ちるぐらいなら、ケジメを付けさせるためにも、解散させるつもりだ。俺の意志を継ぐ者がいれば、俺はいつでも辞めてもいいんだが…」
僕が放った冗談にも、糸賀は真面目に答えてくる。不良行為をする者が、全て悪だと考えられている世の中で、奴は真剣にケジメをつけようとした。そんな糸賀を慕う部下達も多く、それでも…糸賀の意思を継ぐ者は、いなかった。そのお陰で辞めたくとも、辞められないのだろう。
「…す、すいませんでした、糸賀さん!…俺、間違っていました、姐さん!」
「…君の目は、節穴のようだね?……誰が、姐さんだって?」
「……ひっ?!……ヒイイ~~~!!……すいません、義兄さん!!」
「……年上から、義兄さん呼ばわりされる理由は、ないんだけど…?」
「……ヒ~~~!!……す、すいませんでしたぁ~~」
性懲りもなく、姉を姐さん扱いした新入りに、僕の何かがプツンと切れる。怒りから凄まじい冷気を放ち、新入りを震え上がらせた。糸賀が夕月をどう見ているか、明確な理由を知るからこそ、怒りが増していく。
夕月も僕も糸賀とは、友達以上恋人未満の単なる友人だ。鬼賀隊の姐さん&義兄さんと、死んでも呼ばれてなるものかっ!!
今回は、夕月の弟・葉月視点です。新キャラの糸賀は、引き続き登場。糸賀が所属する鬼賀隊を巡って、夕月が制裁&粛清モードに…。途中で軽い乱闘シーンも起きたけど、出血などのないソフト系喧嘩だし、ギリセーフかな…?
今後の糸賀くんの登場は、殆どないと思われますが、乱闘など騒動に巻き込まれた時に、モブ程度に登場するかどうか、というところでしょうか。要するに、不良の頂点も敵わない強さを、強調する為に生み出されたのが、彼でして……
次回からはまた、舞台は学苑に戻る予定です。
※今回は葉月の語り口調の為、『夕月』は全て『ゆづ』読みとなります。
※会話の中の( )内は、周りの人達に微かに聞こえた音として、敢えて会話中の言葉にして表現しました。




