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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第二幕 名栄森学苑2年生編【波乱の幕開け】
188/199

35話 会話はパフォーマンスで

 前回からの続きです。夕月達を待ち伏せた葉月は、一緒に帰れるのかな?


果たして、夕月はどう出るのか…

 葉月は未香子達と共に帰宅しようと、此処で待っていたらしい。夕月がバイク通学していることは、葉月も知っていることから、夕月に合わせたようである。あまりに用意周到な葉月に、夕月は呆れつつも苦笑しただけだったが、未香子は目を丸くし呆然となる。


葉月がバイクを運転することは、以前から未香子も知っている。兄である朔斗も普通二輪免許を持っているし、彼ら2人はバイクで帰省していたから。その後に夕月が免許を取り、弟とはお揃いのバイクで色違いにしたとも、知っていたけれど。


夕月はバイクは赤がメイン、葉月のバイクは黒がメインとなっている。同じ車種なのに、外観は全く別物であった。車の同じ車種にも色違いがあり、ランクにも上下の差があるように、バイクも色々あるらしい。未香子にはさっぱり分からないが、バイク好きには判別できるのだろう。


 「…それで葉月も、バイク通学されたんですの?…あれが、貴方のバイクでしたかしら?」


彼の所有物と思われるバイクに視線を向け、未香子が問う。白や赤など様々な色の文字が入る以外は、全体的に黒いシンプルなデザインだと、思い込んでいたけれども、今までシンプルに見えたボディも、今は日光を浴びたお陰でキラキラ、眩しく輝いているように見える。


 「そうだよ、僕のバイクだ。君は暗い時にしか見ていなくて、気付かなかったのかも…。ボディには含まれていないが、色の付いた文字の部分には、ラメが混じっているんだよ。」

 「あれっ?…未香子は知らなかったっけ?…夜は闇に紛れつつも、光が当たるとその存在感を現し、昼間はシンプル且つ上品に、光線の加減で存在感をアピールするという、カメレオンみたいに存在感を与える、バイクなんだよ!」

 「………」


彼女の問いに葉月はコクンと頷き、正直に教えてくれる。ラメが含まれているのならば、本来は昼間も光っているはずだが、所詮彼女は葉月のバイクに興味はなく、夕月のバイクしか目に入っていなかったらしい。


弟をフォローするかのように、夕月は弟のバイクについて、説明し始めた。少年のように瞳を輝かせ、大袈裟な比喩表現をする夕月に、未香子も初めて見る姿だと驚く。まるで自らのバイクを褒めるように、自慢げな夕月に目を瞬かせた。弟を自慢に思えど()()()()()()()()()夕月が、これほど情熱的に饒舌に語ることに。


…滅多に本心を見せない夕月(ゆづ)が、こうも無邪気に燥いでおられるなんて。それほどにバイクが、大切なのですね?…ふふっ、子供みたいでお可愛らしい。…ですが、夕月(ゆづ)のバイクはキラキラしておりませんが、どうしてなのかしら?


葉月のバイクとは違って、今もジッと観察してみても、夕月のバイクは特に光り輝く様子もなく、未香子は疑問に思う。一応はこれでも毎日同乗してるので、ラメで光っているようならば、直ぐに気付くことだろう。どう見てもそういう状況ではなくて、単なる色違いではないように思えた。


 「夕月(ゆづ)のバイクには、ラメは一切含まれていない。何故ならば夕月(ゆづ)が、ラメ入りを選ばなかったからだよ。僕には『これが良い』と勧めておきながら、自分は選ばないと宣言していたのだからね…」

 「………えっ?……」


未香子の疑問に気付いたようで、葉月はそれをどう思ったのか知らないが、仏頂面とまではいかないものの、不機嫌丸出しという口調で、意外な事実を告げてくる。葉月のバイクは如何やら、夕月が勧めたものであるらしい。それ自体は何も、おかしなことでも何でもないけれども…。


未香子は思わず、自分の耳を疑う。聞き間違いかと、思ったぐらいである。自ら弟に勧めておきながら、自分は選ばないという態度で、夕月はラメ入りのバイクを、態と避けていたらしい。


未香子が戸惑ったのは、無理からぬことだった。夕月自身が嫌うこと、また嫌う要素のある物を、他の()()()()()()()()は有り得ない。そういう言動を、彼女の溺愛する双子の弟相手に、するはずもなかったから。偶に冗談で揶揄うことはあれど、弟を傷つける言動を取るはずもない。抑々そういう人物ですら、ないのだから。


 「…くくくっ。未香子は正直だなあ。葉月は嫌そうにしてるけど、抑々本当に嫌であるなら、購入していないだろうね。どうせ…誰かさんの好みそうなデザインだし、誰かを牽制するには打ってつけだし、絶対に姉とは被らないだろうし、というのが理由かなあ。私が勧めたら、案外と()()()()()()()、我が弟は…」






    ****************************






 チラリと夕月を盗み見る未香子に、夕月はつい噴き出した。自ら空気と()してまで見守ろうと、弟と親友とのやり取りにも口を挟まず、なるべく傍観しようとしていたのに……


弟は姉を表舞台に引っ張り出し、親友は逐一同意を求めようとする。バイクで気を引きたいくせに、ラメ入りとしか解説しないなんて、あれでは…相手の気を引く以前の問題だ。ラメ好きの派手好みにしか思えないと、つい余計な心配をし過ぎて、結果的に弟を煽るだけで。


弟は姉を意識するあまり、また姉を意識すればするほど、無意識に姉を立てようとしているようだ。自らは姉の影に隠れても、裏から補佐するのが自らの役割だと、思っている節がある。


……ふう~。それでなくとも未香子は、色々と鈍いというのにね。私が目立ち過ぎる所為で、葉月の立場が明確にならないようだ。折角、未香子も男性恐怖症が治りかけてきたというのに、あと一歩が踏み出せないんだろう。一々()()()()()()奴らだよ、本当に…。


夕月は心の中で悪態を()くものの、その瞳に宿る眼差しには、優しさも含まれていると分かる。見るに見かねたように助け舟を出し、その場の空気を冗談で和らげては、適度に弟をフェローする。


 「…うっ。元々僕を誘導するよう、夕月(ゆづ)が仕向けたんだろ。私はこの赤のバイクを選ぶから、同じ系統の色違いでお揃いにしようと、勧めて。そうなると、僕はこれを選ぶしかなかったよ…」

 「何、言ってるの?…葉月も私とお揃いが良い、と賛同していたよ。葉月は黒系を選ぶと思ったから、私は赤系にしたんだよ。黒系は元々ラメ入りだけで、葉月も悩んだ上で購入したはずだよね?」

 「……うっ。今考えればあれは、夕月(ゆづ)の誘導に近かったじゃないか…」


私が告げる『誰かさん』と『誰か』は、同一人物ではなく別人である。弟はピクリと眉を動かしていたけど、『誰かさん』に心当たりがあるのだろう。思惑通りとなった夕月は、にんまり意味ありげに微笑んだ。


ジト目を向け反論してくる弟を、心中では微笑ましく思いつつも、姉は上手く躱して追い詰めていく。双子の性質は似る部分もあれば、異なる部分もある。結果となる思考は同じでも、そこに至るまでの道のりは、同じ道を歩むとは限らない。少なくとも姉は腹黒くなくとも、策略に向くタイプであると言える。


弟である葉月は本来、真面目で実直な人物だ。遠回りになると知っても、冒険しようとは敢えて思わない、慎重なタイプだと言えるだろう。しかし、姉はどれだけ困難だと知ろうとも、有言実行し敢えて挑戦するタイプ、だと言えた。


夕月が勧めてきたというのは、嘘ではなかった。黒を選ぶと見当を付けた、夕月の言い分もまた正しい、ということである。双子という立場上、互いの好みは熟知していることだろう。お揃いを強調すれば、結果的にそうなると予測できたはずだ。夕月が葉月を誘導したというのも、また間違いとは言えないことである。


要するに、姉の方が一枚上手だった、ということになる。弟を思いのまま誘導することで、弟が納得して選んだと思わせられる、常套手段を取っているようだ。実はこれが、如何(いか)にも簡単そうでいて、其れなりに難しいことだった。双子同士なら容易に思えるだろうが、双子だからこそ難易度も高くなる。彼らは似て非なる存在であり、常に互いの意思を汲み取り、尊重し合ってきたのだから。


 「赤にラメ入りはなく、黒はラメ入りしかなかったし、何処をどう重視するかで変わるのは、仕方がないことだよ。葉月が其れを選んだ理由には、私が其れを選ぶ理由も、含まれていたっけ?」

 「……うん、そうだね。最終的に選択したのは、夕月(ゆづ)じゃなくて僕だ…」


夕月は『選ぶ理由』を、葉月に突き付けた。彼も納得できたのか、最後に決めたのは自分だと、すんなり受け入れる。双子同士が互いの本音に気付かぬのは、有り得ないだろう。誘導されることを気付きつつ、自らの想いを優先し選択したのだと。例え無意識であったとしても、自らの選択を拒む気は更々なかった。


…そうだ。僕達双子には、互いを理解できないことなど、皆無なんだよ。僕達の意思疎通は、僕達2人っきりの世界で可能なこと。現実の僕達の想いは、既に別々のところにある。夕月(ゆづ)はもう決めたのに、僕が()()()()()()()()いるのは……


双子としての人生で、葉月も別の歩む道を進み始めた。夕月はそれを気付かせただけで、葉月の行く手を阻んではいない。特に会話もなく相手の心境を汲み、今までは言い合うことさえなかった。実際は言い合うわけではなく、第三者に分かりやすく伝える為の一手段であって、双子の間では何の意味も持たなくて。


本人達にとってはどれも全てが、パフォーマンスに近いもの。しかし、最近の彼らには、会話のない時には容易な双子の意思疎通が、会話した途端に別の想いに遮られるかの如く、上手く意思疎通が出来ない状況に、陥っている。


世界全てを受け入れたかのような、彼の瞳の中には何らかの覚悟を決めた、そういう強い意思が犇々感じられるほど、伝わってくる。一度瞼を閉じ再び瞳を開いた彼は、彼女に向けて微笑んだ。その姿が、夕月と()()()()()()()()……


 「未香子は通学時、夕月(ゆづ)のバイクに同乗してるよね。それならば、僕のバイクにも同乗してみる?…僕のバイクに興味持った様子だったし、夕月(ゆづ)も偶には1人で乗りたいよね?…どうかな?」

 前半部分は未香子の気持ちを、後半部分は夕月と葉月の気持ちを、メインにおいています。


夕月とピタリと重なった姿は、夕月のモノマネをする気はなく、夕月のように成り切る演技でもなく、性格の異なるはずの双子姉弟が、ちょっとしたことでそっくりになる、そういう状況を表現してみました。


残念ながら帰宅するところまで、進みませんでした。続きは次回へ……



※今回、会話と心の声に『ゆづ』の振り仮名が、ついています。特に振り仮名のない『夕月』は、そのまま『ゆづき』読みとなります。

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