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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第二幕 名栄森学苑2年生編【波乱の幕開け】
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26話 例えこれが…真の姿でも

 今回も女子3人の話、続きです。箏音は2人に、ついていけるかな?

 「………く、くく……くくくっ………ぷっ…あははははっ…………」


シ~ンと静まる店内で、夕月の笑い声だけが響く。晶麻に悪態を()く萌々花の発言に対し、頭が痛いという 風体(ふうてい) にも見える夕月だが、実際にはこの状況を楽しんでいるようだ。頬に片手を添え顔を覆う形で、目前に座る箏音や立ち上がった萌々花には、夕月の顔がはっきり見えない。萌々花が1人熱演する中、次第にプルプルと小刻みに震え出した夕月が、「く、くっ…」と掠れた声を漏らしたことで、萌々花達は漸く異変に気付く。


 「…うん?……どうしたの、北岡君?」


萌々花が不思議そうに首を傾げつつ、夕月を振り返り問う。萌々花の豹変で未だ固まったままの箏音は、無意識に彼女の視線を追った。既に我慢の限界を迎えた夕月が、唐突に大爆笑し始めたことで、箏音は驚いてビクッと肩を揺らす。箏音の前で夕月が大爆笑すること自体、皆無であった。初めて見る光景に口をポカンと開け、箏音は呆然とする。令嬢らしい夕月を見慣れていた箏音には、見てはいけないものを見た気分なのかもしれない。


数年の間にほぼ別人となった夕月に、箏音は酷く混乱しているものの、今の夕月と葉月がどれほど似ていても、今後は2人を(たが)えることはないだろう。夕月が葉月そっくりに振る舞えど、どれだけ似た言動だろうと、また今のような外見的な違いがあろうとなかろうと。


夕月の言動が葉月に似ていたとしても、葉月()()()()()()()。双子には各々の異なる本音も見え隠れしているし、2人が別人だとはっきり言える部分を、付き合いの長い未香子同様に、箏音も知っている。


…夕月様がわたくしのことを、心から大切に思ってくださるお気持ちが、伝わって参ります。わたくしが傷つく度に慰めてくださいますが、葉月様にとってのわたくしとは、単なる幼馴染の1人なのでしょうね…。夕月様に頼まれたというご心境なのが、手に取るように分かりましてよ。先日 あの方と 相見(あいまみ)えまして、わたくしの中に()()()()()()()()を、初めて感じましたのよ。全ての憎しみがあの方へと向かうことが、葉月様に嫌悪される原因となりそうで、怖いですわ。ですが、夕月様に嫌悪されるのはそれ以上に、恐怖を感じますのよ……


最近、箏音の心境は風で揺れたかの如く、グラグラ揺れている。初恋だと信じていた晶麻への想いが、今になって純粋ではなかったような気がしていた。祖母の強要だったとは彼女自身は思わずとも、未だマインドコントロールに近い状態だとは、夕月達双子も確信を持っている。


長年に渡り彼に向けていた純粋な恋心が、単なる祖母の言いなりだったのではないかと、箏音はすっかり自信を失くしているようだ。自らの本心ではなかったかもしれないと、今更ながらに不安に陥っているけれど。


 「飛野家との婚約は、絶対に成立させなければならない。」


分かっているね?…祖母からそう強く念押しされた所為で、自分は思い込んでいただけではないか?…また葉月から優しくされたことで、すっかり舞い上がっていたのではないか?…などと、葉月にも夕月にも申し訳ないことをしたと、反省したい気分である。葉月を通して、夕月を重ねて見ていたのではないか、とも…。


夕月に対して、憎しみは湧かない。今日もこうして会いに来てくれて、嬉しいとさえ思う。晶麻の片想いの相手が夕月だと知った後も、彼を諦めても良いと思えたぐらいだ。長年彼を思い続けていたものの、苦しくなかったと言えば嘘になる。婚約候補という不安定な立場から身を引き、彼との関係を断ち切りたいと思うことも、なかった訳ではなく。


また晶麻にはとある理由から、ちょっと幻滅もしていた。婚約を辞退すると告げた途端、彼の中の箏音に対する想いが、これまでと違うものに変化したのか、彼女に未練を持つかの如く感じた。


彼女の意思を確認しに来た晶麻に、彼女は少なからず衝撃であった。夕月に恋する彼にとって、自分という存在は()()()()()()()()…。彼女が慕う夕月に、不誠実な行動だという気持ちが強く、同じ土俵で天秤にかけられては、夕月に失礼だという想いに至る。彼女にとっての夕月は、実の姉のような存在でもあり、他の誰よりも尊敬できる相手だったから。


男装姿や男子っぽい言葉遣いの現状の夕月は、箏音にも想定外だった。学苑祭を盛り上げる為に演技中なのだと、彼女は理解していたから。今日再会した夕月は彼女の知る姿ではなく、中性的な外見と態度であり、他に何か理由があると箏音も感じても、理解は追い付かず……


……夕月様があのように大笑いなさるとは、想定外でございます…。ですが…格好良いお姿に見えますのは、わたくしの欲目でしょうか…?






    ****************************






 「…き、北岡君!?……何でそんなに、笑うの?…私は真面目に話をしてるんだから、笑わないでっ!」

 「……ごめんね?…飛野に悪態を吐く萌々の姿が、笑いのツボに入ってね。ごめんよ……くくっ……あはははっ………」

 「もう!…北岡君ったら!!…私は物凄~く、真面目なの!…ほらね、箏音さんも驚いてるよ。其れとも…呆れてるよねえ?…箏音さんも北岡君に、真面目に聞いてくれるように、言ってくれない?」

 「……………」


夕月が大爆笑する合間にも、夕月と萌々花が遣り取りする様子が、まるで息の合う漫才のようにも見える。そこへ萌々花から急に話を振られては、どう切り返すのが正解かは、今の箏音では難しい。


驚いたとか呆れてるとか、萌々花に勝手に解釈されても、箏音にはどう反応すべきか困惑する様子を見せていた。無言を貫き続ける彼女の様子が、生粋のお嬢様であることも相まれば、2人に対し呆れながらも冷静沈着な人物だと、周りに思われていることだろう。


 「…急に笑い出したりして、ごめん。萌々(この子)は普段から真面目だけれど、偶に私でも()()()()()()()()()()、ちょっとズレたところもあるんだよ。私もつい揶揄いたくなってね。箏音も萌々ともっと仲良くなれば、私の気持ちが分かるかもね?」


漸く笑いを収めつつ、夕月はこう告げて微笑んだ。そこはかとなく相手に失礼な内容だけど、それだけ萌々花の存在を認めている、そういう意味合いにも聞こえる。つまりは…それほどに夕月も心を開く相手、とも言えることになるだろう。未香子に対する思いとは別の意味で、萌々花を羨ましいと思いつつ……


 「……むう~。箏音さんは北岡君とは違うわよ。そうよね、箏音さん…?」


口調とは反対にちょっと自信なさげな顔で、夕月に反発しつつも箏音に同意を求めてくる、萌々花。今日初めて会ったばかりの相手に、同意を求められたとしても、自分にどうしろと言うのか、と…。


……萌々花さんのことはまだ、何も存じあげませんわ。今わたくしに求められた同意は、どういう期待をされておられるのかしら?…それに、先程から萌々花さんの仰る『北岡君』とは、夕月様のことで間違いないのかしら?


学苑祭のあの日、晶麻は夕月のことを『北城』と呼んでいた。それは夕月の本当の苗字でもあり、箏音も知る事実だ。それに対し、未香子は『ゆづ』と呼んでいた。それも夕月の本名から取った、あだ名として不思議なことではない。気軽にそう呼べる未香子に、箏音は何故か無性に腹が立っていた。同じく()()()()()()()()()、気軽に呼ぶ間柄に複雑な想いが湧く。


学苑祭の時、夕月が『北岡君』と呼ばれていたとしても、夕月とまだ再会を果たす前であり、晶麻や葉月以外の他の男子の名前など、彼女が全く気にも留めていなかったことから、これまで知る機会もなく。


夕月と再会した学苑祭では、夕月が完璧男装だった所為で、『北岡』だと他の生徒達に認識されない状態であった。その上他校の男子生徒だと認識されており、その名で呼ばれることもない状況で、たった今知ることとなる。夕月が『北岡』と呼ばれている理由も、男装し男子のように振る舞う理由も、今までそれらの真相を知らされぬままで……


理由は分からずとも、夕月が『北岡』と呼ばれる事情に、違和感はない。本名に響きが似ていることで、経緯もある程度は憶測できた。萌々花を揶揄う様子を見せる夕月と、それに抗議の声を上げる萌々花を、意識は全く別へ向けつつも、箏音は自然と目で追っていた。


 「箏音には、まだ告げていなかったね?…実は私は名栄森学苑で、『北岡』と呼ばれている。私が中等部から所属する演劇部は、学苑生徒達向けのお芝居を、定期的に披露している。当時の演劇部部長が名付けてくれた、本名『北城』を『北岡』に捩った名で、演技上の役名として使用したんだよ。初めて演じた役が男子生徒役だったことから、私は自分が()()()()()()()()()()ところ、どういうワケだか異常な人気となってねえ…。それ以降、自分が演技する人物が変わったとしても、演劇部では部員全員が同じ役名を名乗ると、統一されたんだよ。」

 「「…………」」


今の役名となった由来を、夕月が端的に語ってくれた。萌々花と箏音はその話に耳を傾けつつ、その光景を想像していた。異常な人気が出たという理由は、何となく2人にも理解できる。箏音が学苑祭の時の様子を思い出せば、萌々花は以前助けてもらった頃を思い出し、容姿・口調・態度もあれほど男子っぽく振る舞えば、当然そうなると納得して。完璧に近い男装姿の夕月は、イケメン寄りの可愛らしい容姿でもあり、また中世的な魅力を持っているとも、言えるだろうから。


それでなくとも少女達は想像豊かで、色々と危うい魅力に惹かれつつ、色々と憧れる少女達の恰好の的でもあった。BL・GL要素も然り、男女の一般的な恋愛も然り。この2人も同じ年頃の少女達同様、心中では色々と妄想している筈だ。


……当時の北岡君、私も見たかったあ~~!!


……夕月様の初舞台のお姿を、是非ともわたくしもこの目で、堪能しとうございました。非常に残念です……

 夕月の大爆笑で、結果的には箏音も話の輪に…。結局彼女も、普通の少女だったと言えるかな…?


この話は後もう少し、続くかと思います。



※更新が非常に遅れ、『君騎士』の応援をしてくださる方々には、大変申し訳ありません。諸々の事情から、2週間ほど体調を崩していました。体調が元通りとは未だ言えない状況もあり、全体的に更新が遅れ気味になりそうです。また、今月終了予定の『宮ラブ』を優先とすることとなりますので、ご容赦願います。

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