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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第二幕 名栄森学苑2年生編【波乱の幕開け】
172/199

番外 親友の為に出来ること

 今回は、番外編です。とある人物の視点となっています。


会話も何時もより、多めでしょうか。

 「北岡、ちょっといいか?…話があるんだが。」

 「君が単独で私に話し掛けて来るとは、珍しいね?…込み入った話かな?」


担任教師から手伝いを頼まれた私は、その手伝いを丁度終えたところで、1人廊下を歩いていた。他の教室の前を幾つか通り過ぎ、自分の教室に向かっていた途中、突然後ろから誰かに声を掛けられる。


その声と話し方で、誰なのかは直ぐに分かったものの、歩く足を止め後ろを振り返ることにする。やはり、想像通りの人物である。私1人の時を狙い、彼が態々話し掛けて来るとは、本当に珍しいことだ。今迄に、一度もなかったことだよ。どうやら誰にも聞かれたくない、そういうことだろうと見当をつけて。


 「…ああ。出来れば、2人で話がしたい…。良いか?」

 「別に、こっちは良いよ。でも、そっちは困らない?」

 「…いや、大丈夫だろう。彼女ならば…俺もこともお前のことも、信用しているからな。噂を簡単に信じることは、ないだろう。何方と言えば、お前の方が色々と困ると思うのだが……」


…なるほど。婚約者を、よく理解しているようだね。君は婚約者一筋だと、有名だからね。私も別に、何の問題はないよ。但し…誰が相手でも不安がる若干1名に、心辺りがあるけれど。何方にしろ、その人物には()()()()()()()()()()()()から、これも仕方がなさそうだ。


 「では、空き教室にでも行こうか?」

 「…何処に行くんだ?…この辺の教室でも、何処でも良くないか?」


…サッサと片づけてしまおう。そう決めた私は、自分の教室とは別の方向へと足早に歩き出す。彼は慌てて私を追い掛けながらも、目線でチラッと付近の教室を指したのだが、此処で内緒話など…とんでもないことだ。


誰に聞かれても、文句は言えないよね…。私は彼の言葉に答えず、完全無視の状態で前を歩いて行けば、肩を竦めて仕方がないとでも言うような顔で、彼は私の後から付いて来る。暫く歩いた私は、とある部屋の前で足を止めた。懐から素早く鍵を取り出し、勝手に開けて入って行く。


当然の如く彼は驚き、そのまま立ち止まって固まった。…今は、早く入ってくれ…という視線を送れば、彼は眉を顰めて従ってくれる。私が扉を閉め内鍵を掛けた途端、彼が疑問をぶつけてきて。


 「…おい、北岡。…此処は、資料室のようだが…。何でお前が、学校の教室の鍵を持ち歩いているんだ…。此処は、一般生徒が入れない教室だろうが……」

 「教師も、一部の者だけだよ。此処は、私が隠れる場所の1つとして、理事長自らから鍵を預かっている。」

 「…理事長から?…どういうことだ?…理事長とは、知り合いなのか?」

 「知り合いと訊かれれば、知り合いかな。理事長は、九条家の親族でね。私が男装する理由も未香子を守る理由も、理事長は私達のそういう事情も含めて、全てご存じなんだよ。何か問題が生じた時にと、幾つか空き教室の鍵を預かっていてね。現状は()()()()()()()()()()()、していない状態だけどね…。」

 「…………」


彼は何方かと言えば、生真面目タイプだ。小学部から通うといっても、一般庶民である筈の私が教室の鍵を持つことに、疑問を感じたようだった。彼は当然、私の祖母が四条家の娘であることも、知らないだろう。祖母は名栄森学苑の理事長とも、知り合いである。私がこういう特別扱いされているのは、当然のことだった。本来の四条家本家は、九条家より上位の家柄なのだから。


 「…君達に何かあるとは知っていたが、複雑な事情があるようだな…。今回のことには関係ないし、無理に聞こうとは思わないが…。僕が話したい話は、晶麻のことだからな…。北岡は、晶麻のことをどう思っている?」

 「……飛野のことを?……どう思っているとは?」

 「晶麻の気持ちを、北岡は…知っている筈だ。晶麻の気持ちに応える気がないならば、何故…ハッキリと答えてやらないのか、そう思ったんだ……」


飛野のこと…ね。確かに、飛野の気持ちに気付いているよ。あれだけ私にアピールしてくれば、流石に分かっている。恋愛ごとに鈍い未香子でさえ、気付くぐらいだからね。私は其処まで恋愛ごとに疎くはなく、自分の気持ちもハッキリ定まっているからね…。彼が今問い掛けた通り、私は飛野の気持ちに応える気はない。飛野を振るなら早く振れ、そういう意味なのかな。


飛野に応じるも何も、答えを出せば良いとは思わない。今も昔も飛野は、私だけを見ているようでいて、()()()()()()()()()。その状態の飛野に、私の本心を語るつもりはない。私には未香子との約束事が、一番大切なのだからね……。






    ****************************






 「それが、何なのかな?…飛野は、私の大事な幼馴染を傷つけた。飛野の婚約者候補が、その幼馴染だと知った以上は、飛野に応じることはない。それが理解出来ていない飛野に、一々説明してやるつもりもないよ。私はこれでも、はっきりとした拒絶の態度を取っている。この先は、飛野自身がどうするかの問題だよ。私はこれ以上、彼と関わる気はないからね。彼奴(あいつ)が彼女を悲しませるつもりならば、奪う気でいるけれど…。」

 「……奪う?……君は、本気で言っているのか?」

 「さてね?…何も私が奪うとは、言ってないよ。彼女の心が、飛野から離れていこうとしているのは、知っているからね。だから誰かを焚き付けることで、飛野が後悔する未来が来るかもしれないよ。悪いけれど、今の飛野には嫌悪感しかないんだよ。彼奴に優しく出来そうにない。」

 「…………」


私の言いたいことが伝わらない雰囲気を感じ取り、つい強い口調で告げる。丁寧に説明してやる義理は、ないのだという風に。私が彼奴から奪うと言えば、生真面目男はその文面通りに受け取った。…もう少し、含む意味を考えなよ。不本意だと思いつつ含みを持たせれば、漸く理解してくれたようだ。


まさか、婚約者候補の彼女の方が飛野を見捨てるかもしれないとは、思いも寄らなかったのだろうな。確かに飛野は、恋愛に関しては一途だとしても、私から見れば鈍感男子にしか見えないが。


 「晶麻に対し怒る気持ちはよく分かるが、彼奴なりに真剣なんだ。彼奴は他人の好意に、鈍い部分もあるとは思うよ。もう少しだけ、彼女には待ってもらいたい。婚約者候補の彼女まで離れたら、彼奴は何もかも見失うかもしれない…。」

 「…矛盾してるよ。私にはハッキリさせろと言いながら、彼女には待つように言うとは、彼奴に都合が良過ぎるかな…。彼奴が答えを出せば、ハッキリする。」

 「君の言いたいことは、分かっている。確かに、北岡にだけそういう事情を望む僕が、間違いだとは思っているが…。そうだよな…。今の状態で北岡にも振られたら、彼奴はもっと落ち込むだろうしな…。しかし、彼奴のあんな顔を見たのは初めてで、僕らもどうしたらいいのか、分からない……。」

 「それで私に、どうにかしてほしいと?…都合が良いよね?…別に飛野から正式に告白された訳でもないのに、先に断るのはどうかな?…飛野の意思を確認しないままで、周りがヤイヤイ言うのは違うよね?…私は常に、自分の意思で動きたい。君らにはその行動がどう映るのか知らないが、少なくとも飛野の好きな私は、近い将来居なくなる幻想だろうね。」

 「……幻想?…どういう…意味なんだ?」

 「その言葉通りだよ。今の私は決められた期間限定の、作られた人物だ。そういう約束を、私に関係する人達と交わした。元から一生続けるつもりはないし、私はそれで良いと考えていたからね。私を知る人間は、私が一生今の状況に縛られないようにと、先に約束という理由を作ったんだよ。()()()()()()()()()ね…。」

 「………まさか、全てが演技…なのか?」


生真面目な彼も漸く、私の言いたい理屈が分かってくれたのかな。私が約束した相手は、未香子だけではない。自分の両親とも約束させられたし、弟である葉月や朔斗さんとも、別の約束をしている。そして、北城の祖父と四条の祖母にも、各々の約束を交わしている。


私と未香子を過剰に心配する人達は、私の我が儘を許す代わりに…。約束というよりは、そうして欲しいとの願望であるようだ。私がこのままでは居られない、束縛解除の約束を。


それでも私は、後悔はしていないよ。寧ろ、私でなくてはならない。少なくとも学苑の生徒達の中に、本当の私に気付く者も居ない。以前、私という存在を開放してあげてと、萌々が未香子に話していたけれど、私は解放されたいとは思わないよ。寧ろ…私の方が、未香子を開放する立場で…。私が彼女の手をいつまでも握っているから、私が誰よりも彼女の傍にいる所為で、()()()()()()()()()()のだから。


 「飛野は私を見ているようで、見ていない。そのことに気付く時、彼が誰を選ぶのかは本人にしか分からない。君達から見れば、親友としてじれったい状況なんだろうが、彼自身がそれに気付かない限り、意味はないよ。私がバラすのは簡単なことだけれど、それで彼が無意識に壁を作れば、余計に状況は悪化するよ。今後、誰も好きになれなくなる可能性もね。」

 「…分かった。君が言う通りかもしれない。僕達も暫くは、見守ることに徹するかな。…悪かったな。僕らの事情を、押し付けるようなことを言って……」

 「まあ、分かってもらえたなら、良いよ。」


漸く自分達の役割が分かったように、納得してくれた。親友と言えども、やるべきことは少ない。私みたいにある程度以上の覚悟を持つならば、他にも出来ることがあるかもしれないが、普通は何も出来なくて当然であった。私の言動は、例外過ぎるようだからね。私自身が決意した以上は、覚悟だけではなく、色々と努力も必要であった。昔も今も、後悔はしていない。私にしか出来ないことを実践するには、楽しむことも含まれているのだからね。


あと少し、もう少し、()()()()()()()()()感じ取り、逆に寂しく思う私がいる。

 とある人物達の正体はバレバレですが、筆者側からは敢えて言わないように表現しました。


飛野にとっては、ショックな内容でしょうか……。

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