8話 球技大会での本気対決
今回は、5月の球技大会の風景となります。
副タイトル通りの内容です。
さて、こうして映像部に入部して来た礼奈は、未香子に対する態度は結論から言えば、未香子にだけは…全く変わっていなかった。未香子にはやたらと反抗心を持ちつつ、相変わらず夕月にはベタベタとくっつきに来ていた。礼奈の婚約者である光輝も未香子に気遣い、偶に礼奈を注意をしてくれているものの、一向に未香子にだけ態度を入れ替える気は、なさそうだ。未香子が怒るのも、無理はない……。
…本気で、ムカつきますわっ!!…わたくしのことを何だと、思われているのかしらねっ!
今はもう5月に入っていた。あの部活紹介以降は、やはり…夕月を見た1年生達が映像部への入部を希望し、入部希望者が過去最高に殺到してしまい、選別にはかなりの時間が掛かっている。去年の赤羽根部長の時と同様、諒部長自らも審査しているし、また裏方希望などは各担当係の責任者が審査しており、そして部員達も全員で意見を出し合ったりしていた。赤羽根部長ほどの眼力のある人物は中々いないので、全部員で協力し決定していた。
既に新1年生でも礼奈は決定済みで、内部生のことでは彼女にも意見を訊いたりしていた。ああ見えて、彼女は顔が広いので…。友達も沢山いる彼女に、人柄を訊いては参考にし、中等部演劇部員の後輩も全員は受け入れなかった。努力の足りない生徒や裏方兼用を嫌がる生徒もおり、結果的に半分しか採用していない。
演技や裏方係だけならば2・3年生にも沢山おり、特に必要はない。足りない部員数は、外部生を多めに採ることになった。外部生の中には、専門分野に通じる人物もいて、そういう人物は優先される形だ。
但し、来年は全体的に多めに入部させ、3年生となった未香子達の手で指導して置かなければ、彼女達が一斉に卒業した後は、一気に衰退してしまう可能性が高かった。それは流石に、この部活を立ち上げた赤羽根元部長に、顔向けが出来なくなると…今から未香子達の間では、そういう話も出ていたりする。
礼奈の話では今の中等部には、未香子達が卒業した後も今も、赤羽根部長が頼まれた専門の指導者が付いている為、お芝居の質はそう悪くないらしい。しかし、高等部にはそういう指導者はおらず、顧問も演劇素人の教師しか存在せず、然も…普段は何も関わりのない唯の顧問だ。
そういうことで、映像部部員の生徒が協力し合っていかなければならない。その為には、何の係に関わることになろうとも、いざという時に裏方を手伝う気がない部員では、入部の許可を与えない…と判断した。中等部でもそうだった筈なのに、礼奈から話を聞く限りでは、お芝居のメインとなった一部の生徒達は、全くというほど裏方を手伝わなかったという。
そういう気持ちでは、この映像部では通用致しませんのよ。実際に私達演技組が、裏方を手伝うことは確かにありませんけれども、これでも舞台が忙しい時には、手の空いているものは皆、助け合っていますのよ。中等部で鼻が高くなった者は、きっと協力できないでしょうから、遠慮なく部員候補から落としましたわ。自分が落ちるとは思っていなくて、驚いていたようですけれども…。その点では、礼奈は…働き者ですわよね。
未香子はそう思いながら、礼奈の方をそっと観察する。彼女はよく気も付くし、年下の後輩の面倒もきちんと見るし、自分への態度が良ければ満点なのに…と、溜息を吐きたくなる。
夕月に抱き着く…とか、ベタベタとくっつく…とか、そういう態度も一切見られなければ、礼儀正しいお嬢様に見えなくもないのですけれど…。内部生では有名な話でしたので、皆苦笑する程度なのですけれども、外部生達は初めて見る風景なので、礼奈の変わりようには目を点にされ、驚いていらっしゃいますわ…。
礼奈と同じ学年の新入生部員達は、未香子と礼奈の対立には、毎回オロオロしている様子だ。外部生の新1年生達は、2人の関係を何とかしたいと思うけれども、どうしたらいいのか分からない…という雰囲気が見られ、心の底から心配しているようだ。
…ふふふふっ。そういうご心配してくださる態度を取っていただけるのは、とても新鮮に感じますわね…。今まではずっと、内部生ばかりでしたので、驚かれるのは皆さんが当初のうちだけで、その後は…自分が巻き込まれないようにと、遠巻きにされますものね…。
礼奈が本気で悪気がないのは、未香子も何となくわかっているものの、ライバル視するあまりにああいう分かりやすい挑発をしている、とも思っている。未香子も真正面から受け止めようと、思いながら。
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今日は、球技大会の日だ。未香子は体育が苦手で、大嫌いな行事の1つだ。今年は密かに、萌々花と礼奈が対決するのを楽しみにしていた。
今のところ新1年生は何かと忙しく、まだ萌々花とは出会っていないようだ。中等部では夕月の教室まで会いに来た礼奈も、現状では全くそういう行動が見られなくて。もしかして、少しは大人になったのかな…とか、単に忙しいだけかも…とか、真剣に悩む未香子だったりする。
さて今年も、バスケ、バレーボール、サッカーの3つのチームに分かれ、試合をすることになる。Aクラスでは去年に出場した種目を、若干の生徒が入れ替わり、メインメンバーは去年と同じ種目とした。他のクラスも同様の状況で、特に入れ替わりはないようだ。
未香子も消去法から、去年同様にバスケに参加した。今年も夕月との必殺技が、いい按排に相手チームを混乱させ、バスケでは彼女達のチームが学年優勝し、2連覇達成である。そして結果的に彼女達のチームは、総合試合の方でも2連覇を成功させた。
萌々花も去年同様に、バレーに出場していた。今年は萌々花のチームが、学年優勝していた。Bクラスの晶麻は去年同様にバレーで、最近は…スランプのご様子だ。試合中も何度か、ミスを連発していた。婚約者候補とのことが、後を引いているのかもしれない…。
学年優勝したチームは、他の学年の優勝チームとも対戦する。バスケでは他の学年には、特に未香子達が知っている生徒はいなかった。てっきり…礼奈が出て来るのかもと、未香子は思っていたようで。
礼奈は、バスケにはご出場されませんでしたのね?…それでしたら、バレーにご出場されるのかしら?…流石にサッカーには、ご出場されませんわよね…。
未香子達のチームは早めに終了したので、萌々花のチームが優勝したと聞き、夕月と急ぎ応援しに行く。萌々花チームは苦戦しているのか、まだ前半戦だ。相手チームのメンバーを見れば、未香子が睨んだ通りに礼奈が出場していた。礼奈がバレーに強いのは当然で、小学校では元バレーボール部員なのだ。味方になれば頼もしい人選だろうが、敵となれば…相当の強敵であろう。
礼奈は夕月に負けないぐらい、運動神経が良かった。小学部では演劇部がない代わりに、バレーボール部が存在していた。礼奈はその頃に所属しており、本来ならば中等部も入部すると思われていたのに、中等部で新入生歓迎のお芝居を演劇部が披露した途端、彼女はバレーボール部ではなく演劇部に興味を持ち、入部して来た。
光輝が演劇部に入部を誘ったことも、理由の1つだ。彼女本人はバレーボールを続ける気は、元々なかった。男装の麗人に嵌っている彼女は、夕月の男装に一目惚れ状態だったようだ。小学部の時から夕月は有名で、未香子の存在も知っており、入学当初は礼奈も、未香子にも丁寧な態度だったが、何時からか…ああいう反抗的な態度に、変わっていく。態度が急変した礼奈に、未香子が暫く呆然として。礼奈が未香子を、ライバル視した頃だ。しかし、礼奈は元々本気ではなくて…。
萌々花のチームと礼奈のチームは、どちらが勝ってもおかしくない、接戦の勝負である。萌々花チームがサーブ権を取り返しても、礼奈チームがレシーブで打ち返して来て。礼奈チームがサーブしたとしても、萌々花チームがレシーブを打ち込んで来る。その間はサーブ権が入れ替わるのみで、点数は全く入らない。
これは…勝負がつきますまで、まだまだ時間が掛かりそうです…。夕月がどちらかのチームに所属されておられれば、そのチームが優位になったことでしょう。夕月は体育全般が何でも得意ですし、バレーでも活躍してくれることでしょう。
2種目までは、どちらかの試合を優先して出場することも、一応可能だ。但し一度でもその試合を退出すれば、もう戻ることも出来ないし、途中出場は可能ではあっても間に合わなかったり、その試合の点数差によっては既に挽回できないかもしれない。また自分が去ることにより、勝っていた試合が不利となり、負けてしまうかもしれない。そういう全てのリスクを背負い、采配する必要もあって運次第とも言える。
この長くなった状態の試合に、1年生は途中から疲れた様子を見せ、礼奈もサーブやレシーブの切れが落ちていた。最終的には1年生全体のミスが増え、そうなれば点数に差が付き始め、最後に2年生のサーブが取れず終了した。Eクラスの萌々花チームが、総合優勝した瞬間だった。
去年、萌々花は晶麻チームに負けており、学年優勝も総合試合の優勝も全てが初めてだ。苦戦の末の優勝だけに、喜びも一入だろう。萌々花はチームメンバーと飛び上がって喜び、未香子と夕月を見つけて飛んで来る。
「萌々花さん、優勝おめでとうっ!」
「萌々、よく頑張ったね。」
「未香子さん、北岡君…。応援してくれて、ありがとうっ!」
夕月と未香子が祝いの言葉を伝えれば、元気な声が返って来る。3人は笑い合いながら、言葉を交わしていた。突然、そこへ飛び込んで来た人物が泣きながら、夕月に抱き着き…。礼奈は本気の勝負に負け、相当なショックを受けたようで……。
…ですが、これは…不味いですわ…。上級生も下級生も外部生も…沢山おられるという、この場では………
2年生の球技大会は、さらっと流しまして、萌々花と礼奈が出会う接点を作りました。ということで、球技大会の対決で知り合うこととなりました。
礼奈が負けたショックで、夕月に泣きつく形で終了となっています。今後は、どうなる?萌々花の反応は?……それは、次回へ続きます。




