幕間4 ある人物達の想い②
第1幕終後の幕間です。ある人物達の視点となりました。
内容的には、前半がある日の出来事で、幕間に相応しい雑談ですね。後半が、夏休み中のプライベート内容がメインです。
※『夕月』の部分は、全て『ゆづ』読みでお願いします。
私は1人、映像部の部室に来ています。因みに、夕月は急用が出来たようですので、用事が終わり次第、後から来ることになっていますわ。私が1人で居るのに気付いてくれたケーちゃん達3人が、いつものように私に話し掛けてくれますのよ。
よっちゃん「ねえ、未香子ちゃん。今日はお1人なの?…彼女はどうされたの?」
未香子 「…えっ?…彼女とは?…どなたのことなのでしょうか?」
せっちん 「いやですね~。この場合の彼女と言えば、北岡君のことですよ。それよりもこの場合は、普通は北岡君のことだと直ぐ分かるでしょうに…。」
未香子 「……ふぇっ?…彼女って、夕月のことを…仰ってましたの?」
よっちゃん「そうですよ。未香子ちゃんは、誰のことだと思われたの?」
未香子 「ええ~と、別に…。それよりも夕月のことだとは、思いもしませんでしたもの。どなたのことなのか、全く想像も出来ませんわ。」
ケーちゃん「そう言えば、未香子ちゃん。北岡君のことを、そういう表現で言ったことがないよね?…それには、意味があるとか何か拘りとか、そういうことなのかなあ…。」
未香子 「ええ、そうなのですわ。夕月は夕月ですもの。そういうことでして、夕月のことを『彼女』と表現することは、何が起こりましても…絶対に呼ばないことに、しておりますのよ。」
ケーちゃん「…ふ~ん。そうなのかあ。それがどう違うのか…よく分からないけれど、『彼女』と呼ぶのと呼ばないのは、どう違っているの?」
未香子 「特には、意味はないのです。けれど、私の中では全く違うのですの。ですから、これは私の気持ち上の問題でもありまして、皆さまに押し付ける気は、毛頭ありません。あまり…気になさらないで、くださいませ。」
この日の話題は、夕月に対しての名前以外でどう呼ぶか…についてが、メインのようになりましたわね。担任教師の本田先生に急遽呼び出された夕月を、『彼女』と表現されましたので、私には違和感が半端なくて…。私には、夕月=『彼女』だとは、どうしても解釈が出来ませんでしたのよ…。ですから、彼女とは、どなたのことなのかしら?…と、思ってしまいましたわ。実際に私は、夕月を『彼女』と表現することなど、一切しておりませんものね。
これには明確な理由がある訳でも、夕月や夕月の家族、特に葉月からそう表現しないようにと、言われた訳でもありません。しかし、わたくし的には、仕方がありませんのよ…。夕月は昔から、そして普段から…ああいう感じでしたので、どうしても『彼女』という言葉が相応しいと、思えませんでしたのよ。
それに夕月は私の前では何かにつけて、よく完璧男装をしてくれるものですから、そういう時に『彼女』と表現するのは、どうしても変だと思いますし、特に不思議なことでもありませんよね…。そういう時こそ『彼女』よりも『彼』と表現する方が、相応しいと…思いませんか?
そういう理由から、私は夕月のことを『彼女』とは絶対に表現せず、夕月と愛称呼びしておりますのよ。夕月という存在は私にとっては、『彼女』という存在でもあると同時に、『彼』という存在でもありますからね。女子でも男子でもある存在、なのですわ。
どちらかであって欲しい…と、望む時もありましたけれども、特に『彼』の存在を希望していましたけれども、今は…両方である存在こそが夕月という存在、なのでして…。私の乙女心は、本当に複雑な心境なのです……。
よっちゃん「そう言えば、未香子ちゃんは北岡君を「ゆづ」と呼んでいるけど、どういう経緯から、そう呼ぶことになったの?」
せっちん 「あっ…。それは私も、知りたいですわ~。」
ケーちゃん「私もっ!…ぜひ、経緯を知りたいですねっ!」
未香子 「…ふふふっ。別に、特別の意味はありませんのよ。夕月のご家族が、そう呼ばれていたので、私も…そう呼ばせてもらっていますの。夕月本人からも「そう呼びたいのならば、好きにして良いよ。」とお墨付きをもらいました。」
ケーちゃん「それ…やっぱり、幼馴染の特権とかいうヤツだよね…。仲が良くて、羨ましいなあ~。」
よっちゃん「…本当ですね。羨ましい過ぎるわ~。」
せっちん 「…ええ、ええ…。微笑ましいですわよね…。」
ふふふふっ…。やはり、そうですのね?…幼馴染の特権なのですのね?…私もそう思いましてよ。ケーちゃんとよっちゃんとせっちんのお3人から、羨ましいとか微笑ましいとかという、嬉しいお言葉を頂きましたわ。今の私は、有頂天になりそうな勢いでしてよ。萌々花さんにも、自慢したいくらいなのですもの。…ホホホッ。
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先日4人で出掛けた水族館で、僕はペア・アクセを購入した。後で知った話なのだが、何故か妹の未香は、僕とのペア・アクセは買わなかったにも拘らず、葉月にはペア・アクセをプレゼントしたらしい。夕月とのペア・アクセに…と。夕月は既に別の場所で買った、ペア・アクセの片方を妹にプレゼントしたらしい。
これらを整理すると要するに、僕だけが誰ともペア・アクセがない、という状態になるのである。あれれっ……。僕だけ、仲間外れなのかな。未香も夕月も、冷たいなあ…。かと言っても、葉月とのペア・アクセは要らないけれどね…。葉月も同意するだろうけど、男同士のペアアクセサリーなんて、流石に気持ち悪いよね…。
兎に角そういう寂しい気分になったので、僕はある人物とのペア・アクセを夢想して、誰にも内緒で購入したのである。折角遊びに来たのだし、此処でのお土産として買いたいよね、記念になりそうだし。水族館なのでイルカとかクジラとか海の生物の小物が多く、ペア・アクセもそういう海の生き物が、メインとなっているようだ。ペンギンも可愛いが、敢えて定番のイルカにして。
未香とペア・アクセも良いけれど、葉月が何か買っているようなので、敢えて止めて置こうかな。兄の僕がプレゼントするよりも、葉月がプレゼントした方が良い。何しろ僕の妹は、恋愛要素は鈍すぎるくらいだからね。葉月のそういう言動も、この前の妹の言動に対して、お礼的な意味合いであるかも知れないが、妹は全く違う解釈をして暴走するだろう。まあ、葉月も…そういう意味では、似た者同士?
先程未香が買おうした小物を、葉月が電子マネーでさっと会計した時、未香は暫く呆然としてからハッと気付き、慌てて葉月に礼を言って、それから……。
「私がモタモタしていたので、代わりに支払ってくださったの?…後で、両替して代金はお返ししますわ。」
「……はあっ?!…い、いや、その…返してくれなくて、良いから…。」
なるほど、そう来たのか。流石は、我が妹だな…。自分の代わりに、葉月が支払ってくれた…と思っているのか。未香はお金を支払うことに慣れておらず、バックから取り出そうとモタモタしていた。こういう時には、男性に支払ってもらうことも大事なのだが。葉月も、そのつもりでいたようだ。
但し、葉月も葉月だと思う。もっとハッキリした態度を取らなければ、我が妹は気付きもしないだろう。夕月は、妹のことを十分に理解しているから、葉月もそうだと思っていた。男女の違いとかも、色々と問題がありそうだ。双子だからと、2人のことを同じだと思うことこそが、間違いなんだろうな。それに夕月は妹と同性でもあるし、元々そういうことも恥ずかしがらないタイプだし、抑々そういう行為自体にも慣れているんだろうね。う~ん、兄的な立場の僕は、複雑な心境だよ…。
それに対して葉月は、長年男子校で過ごしており、女子との接点が殆どなかった。葉月も、知らない女子から声を掛けられるほど、モテる。但し、他の女子には目もくれず、女子の気持ちに気付かないフリをしていた。そういう時の態度は、恥ずかしがらずに上手く躱し、清々堂々としているというのに…。
未香に対しての態度は、色々と挙動不審だ。葉月の普段の態度を知らない奴には、分からない程度ではあるが。唯…僕や夕月には、丸分かりなのだが。葉月が、未香を異性として気にしているのが…。例えそれが、今は恋愛ではなくとも。そして、未香も同様に葉月のことを、異性として意識し始めているようだ。今までは全く、無反応だったというのに…。急にこの夏休みから、2人共変化して。何があったのかを、先程から夕月に問い質しても、特に何もない…と言われ。
高校生になり、外部生とも一悶着があったそうで、未香の周りも色々と環境が変化している、というのが夕月談である。意識も少しずつ、変わって来たようだ…と。
如何やらライバル的な人物が現れたことが、未香に新たな刺激を与えたらしいね。但しそれが、同性だと聞いた時には、頭が痛くなりそうだったけど。夕月、まだ同性を攻略しているんだね…。そちらの世界に目覚めた訳では、ないよね…。
かと言って、異性を堕とすのは…駄目だよ。男というものは、直ぐに不埒な気持ちを持つ輩だからね…。男には、気持ちが移ろいやすい輩も多いからね。未香も夕月も可愛い過ぎるのだから、十分に気を付けてもらわないとね…。
夕月が、男子みたいな言動をしてまで、妹を守ってくれている事実には、とても感謝してもしきれない…と思う。夕月が守ってくれているから、妹にはそういう輩が寄り付かないのだと、僕も僕達の両親もよく理解している。
夕月には本当に、悪いことをした。何年もの間、女性らしくするのを我慢させて。
未香だけではなく、夕月にも幸せになってもらいたい。だからその為には、どんなことをしてでもどんな手を使ってでも、未香も夕月も…僕が守りたい。
勿論、犯罪にならない程度には、加減するよ。だけれど、どのような理由があろうとも、2人に手を出すというならば、僕も葉月も許さないだろう。絶対に……。
前半は妹・未香子視点で、後半は兄・朔斗視点です。前半は、未香子視点と一部を会話形式としました。4人で掛け合う形式に、したかったので。
後半は、朔斗が淡々と自分の気持ちを語ります。ペア・アクセの片方を、誰にプレゼントするのでしょうね…。
※第1幕及び幕間までお付き合いくださり、誠にありがとうございます。
愈々、第2幕が次回より始まりますが、暫く小休憩とさせていただきます。
(5月より開始予定です。)




