12話 4月、クラス対抗試合 その2
今回の話は、前回の続き「その2」です。今回は、新しい人物は登場しません。本日は2話投稿していますが、作品の都合上、1話を途中に割り込みました。
元々そのつもりでいたのに、投稿し忘れていたので、本日の投稿となりました。
内容的には少なめの物ですが、そちらもぜひご覧頂けると嬉しいです。
※現在、見直しの為、改稿しております。当初より750文字程度を追加しております。内容も分かりやすくなるように、心掛けました。
改めて、よろしくお願い致します。
私達が離れた場所で休憩していると、1人の女子が近づいて来た。私達が手を伸ばせば、辛うじて届かない程度の距離まで、近づいて来て止まる。
顔を上げてその子の顔をよく見ると、先程、夕月が最後の最後で仕留めた、E組の女子生徒である。一体、何をしに来たのだろう?
「この前は、ハンカチを拾って下さって、ありがとうございます。今日の試合は白熱して凄かったです。こんな試合初めてで、対戦出来て凄く楽しかったです。」
夕月の目を真っ直ぐ見て、話し掛けてくる。うん、体育会系の会話だわ。心底楽しかったという雰囲気が、伝わる良い笑顔だ。本当に、いい笑顔なのだけれど…。
物凄く可愛い子だけれど、何か残念系の感じがするわ。
「あぁ、この前の。萌々香ちゃんだっけ?君、いい反射神経だよね。ハンカチ落としても気が付かないから、もっとそそっかしい子かと思ってたよ。」
どうやら入学式で、夕月が例のハンカチを届けた生徒だったみたい。夕月がこのような反応をするなんて、かなり珍しい。というか、かなり気に入ったみたいな?
あの時が初対面だと話していたから、まだ知り会ったばかりの女の子を、揶揄ったりするなんて、夕月にしては本当に珍しいことである。
しかし、この『ももか』という少女は、違った反応を返してくる。
「っ!!あの時は緊張していたからで…。そんなにそそっかしくありません!」
流石に揶揄われたと分かって、真っ赤な顔で否定している。夕月はそんな表情を見て、ご機嫌の様子でくつくつ笑う。反対に私の顔は、多分…青ざめていることだろう。余りに、夕月が親し気に接するものだから、不安になったのだ。
…こんな夕月、初めて見たわ。
夕月が立ち上がると、夕月の方が背が高いようだ。『ももか』さんの目線は、ほんの少し見上げる形となっていた。すぐ側に私が居るにも関わらず、全く気が付いていないような感じである。まるで、2人の世界にいるようで、私の心の中は漣立っている。途轍もなく、不安で仕方がない。
「折角、いい試合だったのに…。」
「ごめんね?君みたいな子を見ていると、つい揶揄いたくなるんだよね。」
「なっ!どういう意味ですか?」
彼女は、試合の好敵手として見ていた相手が、ふざけているのを残念に思ったようである。上目遣いに、恨めし気な表情で、言葉の端に文句ありげな口調で話す。
それに対して、夕月は本音を漏らす。そう、これは本音なのである。
…昔、私にも、同じようなこと、言ったよね?でも、これは、夕月が気に入っている証拠でもあるのだ。当然、言われた彼女は、目を大きく見開いて、何を言われたかのか分からない、と言う感じである。そうだよね。行き成り、自分を揶揄いたいタイプだと言われても、理解出来ないに違いない。
『ももか』さんって、人一倍真面目で、ちょっと抜けたところがある人みたいね。
夕月はそういう、ちょっと抜けた感じの人が、好みみたいなのよね。
夕月は首を傾げて、質問の答えを探す。夕月が考えている時によくする癖だ。
5秒ほど考えてから、話し出す。
「ん?特に意味はないよ。あぁ、それと同期生なんだから、敬語は要らないよ。私は、北城 夕月。『北岡』と呼ばれているんだけど、出来ればそう呼んでくれるかな?」
「え、はい。…あっ、うん。私は、菅 萌々花です。」
「うん、知ってる。今時、ハンカチに名前を書くのが珍しいから、覚えてるよ。いい名前だね。」
流石に恥ずかしいのか、萌々香さんの顔が再び赤くなった。ブランド物のハンカチに書いてあったらしいから、指摘されると恥ずかしいのだろう。それとも、いい名前だと面と向かって褒められた方が、恥ずかしくなったのかなぁ。
「あの…。何で、『北岡君』と呼ばれているんです、か……いるの?苗字も違うよね?」
「中等部で、演劇部に所属していてね。その時に、よく男装する役があってね。その役柄の名前なんだ。最初は、担任教師が洒落で呼んだのが切っ掛け。いつの間にか、この名前が、あだ名のように呼ばれることに、なったんだよ。」
「そうなんだ。じゃあ、高等部でも演劇部に入るの?」
「あぁ、そうだよ。ただ、高等部では映像部に変わったのだけどね。君は、部活決めたの?」
「うん。私は陸上部に入部するつもり。中学で陸上やっていたから。」
「そうなんだ。案外、お転婆なんだね。」
私を置いてけぼりにして、2人の会話が弾む。私も居ると、文句言いたいけれど、まだ頭も働かないのか、ボ~としていたようである。
突然、夕月が此方を向いて背中を丸めたかと思うと、私の背に片手を回し、反対の手で腕を引っ張りながら、体をゆっくり起こしてくれた。実は、私1人では立ち上がれなかったの。夕月って、本当に気が利くわ~。
彼女は、先程の夕月の言葉に、何か言いたそうな、多分文句を言おうとして。
この時になって、やっと私の存在に気が付いたように、萌々香さんが私を見た。
そして、とても驚いた顔になる。
何?何で驚くの?そんなに驚くほど、私って存在感なかったの?
「あ、ごめんなさい。2人で休憩していたんだよね?邪魔してごめんね。」
「いえ、大丈夫。そろそろ、皆の所に戻らないといけないし…。」
「あっ!私も戻らないと。私、菅 萌々花。よろしくね。」
「私は、九条 未香子。夕月とは幼馴染なの。…こちらこそ、よろしく。」
まさか、私に話し掛けてくるとは…。自己紹介までしてくるとは、正直思っていなかったの。だから、少し戸惑ってしまった。
私が名乗ると、にっこり微笑んで、「じゃあね。」と、今度は私達2人に向けて言った後、自分のクラスの方へ走り去って行った。何となく、嵐が去ったみたいだと思っていた。
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あれから、何とか教室に戻ったけれど、夕月の支えがないと、歩くのも動くのも大変なの。こんなに、1人で歩けなくなるとは…。
今日は金曜日だから、明日と日曜は学苑がお休みでよかったわ。だって、絶対明日は筋肉痛なんだもの。
学苑のバスに乗って駅までは来れたけれど、駅の階段がどうしても上がれないし、降りれない。本格的に、もう筋肉痛がやって来たんだもの。夕月が心配して、ここからならいいだろうからと、我が家に電話して迎えに来てもらう。
私はその間、駅裏にある小さな公園のベンチに座って、待っていた。声を出しても、情けないことに「痛い、痛い。」しか言えないぐらい、意気消沈状態である。
「もう直ぐ、篠田さんが迎えに来てくれるよ。それまでだから、頑張って。」
「うん…。誰が迎えに来るって?」
「ん?電話出たのは、真姫さんだったけど。多分、真姫さんが来てくれるんじゃないかな?」
そうか、真姫さんも心配性だから、こういう時は多分都合付けて、私を優先してくれるはずだわ。とっても有り難い。
真姫さんが来てくれるのなら、少しぐらいだらけても、大丈夫そうね。私にとっては、年の離れたお姉さんみたいな存在なの。同性でもあるし、この際、恥ずかしさは捨てるわ。
20分ぐらい待っただろうか?やはり、真姫さんが来てくれた。どうやら慌てて駆け付けてくれたようで、エプロンをしたままであった。
私が余りにも痛がるものだから、夕月と2人で連携して、車に乗せてくれる。
本当に申し訳ないです…。今後は、2人に足を向けて眠れないわね。
自宅に着いてからも、2人で協力して降ろしてくれる。そして、私の部屋まで連れて行ってくれたの。私が、ベットに横になるのを確認してから、夕月は隣の自宅に帰って行く。真姫さん、お世話掛けます。そして、いつもありがとう。
それから、夕月、本当にありがとう!大好きよ!!
余りにも痛くて眠れそうにないので、三千さんが、筋肉痛によく効く湿布薬を貼ってくれた。如何にか、日曜には痛みが少なくなっていたけれど、湿布を取る時も痛かったのには、…勘弁して下さいませ(泣)。
次回より1話づつの投稿にしようと思います。番外のように短めのものは、もう他の1話と一緒に投稿予定にしています。代わりに、なるべく早めの投稿出来るよう頑張ります。今後もよろしくお願いします。
今回のお話は、副主人公のライバル的な人物の接近です。しかも、ライバル的な存在は複数いますが、友人枠の女子との違いは、未香子の態度で分かるようになっています。今後、そういう目線で見て頂くと、より内容が分かりやすいと思います。




