124話 1年生が終わる時
主人公達が1年生最後の…というお話です。3学期最後のお話でもあります。
いつも通りの未香子視点です。
今月2月に、夕月と葉月はまた1つ年を取り、私より先に17歳となりました。本来なら今年、お2人は3年生になる筈です。葉月は、年齢通りの学年で通っておられますけれど、夕月は私と同じ学年で通っている為、私同様に2年生となる予定です。お2人の誕生日は2月10日ですので、干支で言えば私と同じですのよ。
2月までは、お別れ会やお別れ上演会の準備等で、忙しく過ごしておりましたわ。夕月達の誕生日のお祝いも、ありましたので。私は張り切って、誕生日ケーキを手作り致しましたのよ。ただ殆どが、三千さん作のものですが…。私は、ケーキに苺やチョコを乗せたり、チョコにメッセージを書いたり、というぐらいのものでしょうか。私が全部作ると、台無しになってしまう可能性が…。仕方がありませんわよね…。不器用で、ごめん遊ばせ…。
お2人の誕生日の日が平日でも祭日でも、何故か…私のお兄様と葉月は誕生日に合わせて、毎年自宅に戻って来られます。ですから今年も、何時ものように4人で誕生日をお祝い致しましたのよ。そして、誕生日会が終われば兄と葉月は、兄の運転する車でサッサと返って行かれます。そこまでして戻って来られなくとも、良いですのにね…。
そう言いましたら、毎年誰の誕生日であろうと、お兄様達は戻って来ておられましたわね…。そんなにも、私達とご一緒にお祝いしたいのかしら?…それとも…反対に、お祝いされたい側なのでしょうか?
ケーキでのお祝いは当日しか無理でしょうが、プレゼントは届けて差し上げますのに…。勿論、手渡し出来れば、それに越したことはないでしょうが。夕月と葉月は双子姉弟ですから、別々にお祝いするというのは、寂しいのかも…しれませんわ。
ですが…お兄様は、どういうお気持ちなのでしょうね。葉月が自宅に帰省する時、ご自分1人取り残されるのは、やはり…お寂しいのかもしれません。案外と寂しがりやさん、なのかもしれませんわね、お兄様も…。それとも、葉月がバイクで帰省するのが心配で…と、ご一緒に来られていたりして。お兄様は、お優しい人です。葉月のことも、実の弟のように、面倒を見られておられますもの。…ふふふふっ。いいですわね、男同士の友情って。
2月には、バレンタインデーもありましたわね。勿論、私は夕月に手渡しましたわよ?…何時ものように、夕月からも手作りチョコを貰いましたわ。葉月と兄にも、バレンタインデーに届くように、届けて差し上げましたし…。夕月の手作りチョコと共に。お2人共、喜んでくださったようでしたわ。葉月はお兄様とは異なり、甘みを抑えたビターチョコを、お兄様には普通のチョコをと、お2人とも好みが異なりますのよ。葉月は…甘いのが苦手なのですわ、お兄様と違って。
また、今年のバレンタインデーでは、映像部の方でも趣向を凝らし、お芝居の後に直接本人に手渡し出来るようにと、配慮されましたわ。毎年、沢山のチョコを貰う側の夕月は、困っておられたのでしょう。今年は暴走されましたもの…。チョコをくれた女子生徒にも一口、「あ~ん」して食べさせたのですわ。あれは…私だけがしてもらえる、特権でしたのに……。勿論、大好評だったのですが…。大ショックでしたのよ、私は……。
突然の夕月の暴走に、映像部の部員達もイケメン男子3人組も、各々で並んでいた女子生徒達も皆が、目が点にして固まっておられましたわね…。当然ですわっ!…これと同様のことを男子生徒がすれば、違う意味で問題になってしまいましたわ。
夕月は元々女性でしたので、許容範囲として理解されて、大目に見てもらえておられるのですもの。ですが…女子生徒には、相当にウケたようですわ。もう、皆さん自分の番が来ることを、非常に楽しみにしていらっしゃるご様子が、見られましたもの。…ううっ、私の特権なのに……。
夕月が舞台から戻って来られた頃には、私はそれはもう、プンプンと怒りモードでしたのよっ!…初めて本気で、私から夕月へのお説教を、致しましたわよ。夕月は普段とは異なりシュンとされ、捨てられた子犬のような表情で、私のお説教を素直に聞かれておりました。私の普段とは違う雰囲気に、他の部員の皆さんは退いていらしたご様子でしたわね…。私の気は、それぐらいでは収まりませんでしたのよ。夕月の悄気るご様子を可愛いと思いながらも、怒りが収まらなくて…。
私のお説教が終了した後、夕月は…何を思われたのか、私の目の前に夕月の手作りチョコを差し出され、「未香子、あ~ん。」と言いながら、私の口元にそのチョコを近づけて来られたのでして…。ええっ…!!
な、何の…マネ、ですの?!…他の部員達が大勢おられる前で、何故…今、それをされようと…するのでしょう?…私は、ボンと音がしそうなくらいに真っ赤になって、後ろにジリジリと後退して、逃げようと試みましたわ。ところが、状況を全く把握されておられない(?)夕月は、にこにこと満面の笑顔で微笑まれながらも、「未香子。これで、赦してもられるかな?」と告げられて。
いや、いや…。何故に…今、それをされますのよ……。どうして、此処で…しなければ、なりませんの?!……恥ずかし過ぎますっ!……夕月。どうか、止めてくださいませ~~~。
…というような攻防が、暫く続きました。結果的に、私が完全降伏することによって、「あ~ん」は強行されましたわ…。顔から火が噴くかと思う程に、恥ずかしい状況でしたわ…。夕月ったら、手加減してくれないんですもの…。あれは絶対に、ワザと…ではなくて、分かっておられませんのね?!
他の女子部員達からは、「いいなあ。」とニマニマとされました…。恥ずかし過ぎて、当分は…要らないですよね……。「あ~ん」は…暫く、厳禁でしてよっ!
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3年生の卒業式も終了し、今はもう3月になりました。私達在校生ももうすぐ、上の学年に上がることとなりますね。1年生でいられるのも、あと少しの間ですわね…。高校受験の話題があちらこちらで囁かれますが、名栄森学苑では私学の受験となりますので、もう既に受験は終了しておりました。この時期には、3学期のテスト以外に特に他の行事もありませんし、3年生が在籍されていない分、寂しく感じます。
2月が忙し過ぎて3月は変化もなく、退屈に感じますわね。バレンタインデーの出来事では、自宅に帰ってからの私は再び、夕月にお説教を致しましたわ。夕月は心から反省して「ごめんね?」と謝ってくださったと思いきや、「そんなに…怒ることかなあ。」と呟いておられるのが、バッチリ聞こえましたわよ…。頭痛が……。
3月に入った今は、時間がゆっくり流れて行くようでした。1年生の授業分を全部終えるべく、テストに出る出ないは関係なしに、どうでも良さそうな勉強は簡単に済ませ、急ピッチで進んで行きました。授業によっては、色々な行事で潰れた科目もありましたので、仕方ないこととは言え…。選択科目によっては、2年生からは無くなる授業もあるようで、教師にも決まったノルマがあるのでしょうね。
2学年になったとしても、クラスメイトが変わることもありませんし、担任も変わりません。私達Aクラスは、2年生になってもAクラスです。それは、別のクラスでも同じことで。毎年、あの自己紹介がないだけでも、私にはお気楽でしてよ。
この1年間は、長いようで短かった気も致します。例え、クラスも担任教師もお友達も何も変わらなくとも、それでも新1年生が入学してくれば、また代わり映えがすることでしょう。今年の4月からは、田尾君の婚約者でもある『礼奈』が、高校に進学されますもの。彼女が来られますと、また賑やかな学苑生活が戻ってくることでしょうね。寧ろ、夕月を巡って再び戦いが生じ、忙しい毎日を送ることとなるでしょうね…。
礼奈のことは、特に好きとか嫌いとかでは、ありませんわ。彼女は案外と素直ですし、田尾君や夕月の諫言には聞く耳を持たれます。但し、私に対しては対抗的な態度を取られますものの、あれはあれで…正々堂々と勝負されておられます。陰でこそこそ言う 輩とは、彼女は相いれない仲なのでしてよ。
私と彼女との関係が、ライバル的なものでないのならば、私は彼女の態度に好意的だったことでしょう。しかし、彼女は萌々花さんとは異なり、好き嫌いをハッキリと出されますのよ。それでも、私は…嫌いにはなりきれないのです。本心からは。
この高等部に入学された後、萌々花さん達外部生と礼奈が、どういうご関係になられるのかは、とても気になりますわね…。萌々花さんと礼奈は、ライバル関係になられますけれども、萌々花さんはお友達と認められるのかしら?…それとも、礼奈から…敵扱いされたりするのかしら?
もし、私がどちらか一方だけを、応援しなければならないのでしたら、萌々花さんを応援したいですわね、友人として。礼奈も悪い子ではないですけれども、やはり此処は…お友達をプッシュするところではないでしょうか。
…ふふふっ。そう考えたりしておりますと、何となく4月からの出来事が、楽しみになって参りましたわね。早くその時が来ないかな?…なんて、その頃は…呑気に構えておりましたのよ、私は。
思い返せば、もう既にこの頃から、私は…巻き込まれていたのかもしれませんね。これからの1年間が、これほどのドタバタ騒動になるとは、この時は全く気付くことが出来ずに……。
到頭、夕月達が1年生最後という、内容のお話になりました。
前半の2月のバレンタインについては、以前に投稿した番外編『夕月のバレンタイン』の裏側のお話となっております。未香子側から見たバレンタインは、簡単に流しています。但し、夕月が実行しようとしていた件は、こちらで実行させました。
終業式のお話はありませんので、これで1年生編は、終わりとなります。
ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。ここまで来れたのは、ひとえに読んでくださっている皆さまのお陰だと、感謝しております。
『君の騎士』も早いもので、第1幕でもある、夕月達の1年生時代が、本日を以って終了致しました。次回からは、第2幕が始まると言いたいところですが、その前に『幕間』のお話をいくつか予定しております。
第2幕が始まるまで、今しばらくお待ちくださいませ。




