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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第一幕 名栄森学苑1年生編【4部 冬の巻 編】
141/199

120話 3学期早々の騒動

 3学期の始業式当日、登校直後のお話となります。前回からの続きとなります。


いつも通りの未香子視点です。

 朝の登校時、校舎内の廊下を教室に向かって、夕月(ゆづ)と共に歩いておりましたら、後ろから大きな声で呼び止められましたのよ。私達が振り返れば、此方(こちら)にバタバタと走って来られるお人が…。大きな声で私を呼ばれた(ぬし)は、私の目の前でピタリと止まり、今まで全速力で掛けて来られたようで、はあはあ…と荒い息をされて。


私を呼ばれたのは、萌々花さんでした。自分の名を呼ばれた時から、振り返らずとも…何方(どなた)なのかは、私達も見当がついていましたが。それに、声で間違いなく彼女だと気付きますもの。この令息令嬢が通う学苑で、こういう下品と思われるような行動は、彼女しか思い至らないのも、()()()()()()()()()()()が。この学苑の小学部では、お作法がかなり厳しいのですわ。今更、このようなお下品な行動をされるお人は、1人も…おられませんのよ。


何をそれほど急いで、追い掛けられて来られたのか…。後で、私のクラスに顔を出されれば、済みますでしょうに…。私がそう疑問に思い、首を傾げている傍らで、夕月(ゆづ)がクスクス笑っておられて。如何(どう)やら…彼女の髪型を見られて、大受けされているようですわ。


…ちょっと、貴方…。そのようなピコピコはねた寝癖で、電車やバスに乗って来られましたの?…女性として、恥ずかしくは…ありませんでしたの?


 「あっ!…北岡君も、おはよう!」

 「うん、おはよう。…今日の萌々の髪型、凄く斬新だね?」

 「…えっ?!……ああっ!!…寝癖直すの、すっかり忘れてたっ!」


…いや、普通は忘れないでしょうに…。何故、今まで忘れていたのかを、突っ込みたい気分ですわ…。彼女曰く、今日の始業式前の早朝に、部活の大事な会合があったというのに、寝坊してしまったそうで、慌てて着替えて登校して来た…と。


会合に遅刻しそうだったので、寝癖は学苑で直そうと思っていたそうで。その会合も、もう…終わっていますよね?…つまり、その寝癖のままで、会合に出席されましたの?…何方も、何も…注意されませんでしたの?…もしかして、部員からシカトされてます?


 「え~と…。部員全員が参加ではなくて、数人だけなんだよね、出席したのは。女子は私だけだったし、誰も…教えてくれなかったかな。あはは…。」


……あはは、ではないでしょうが。なるほど…。男子生徒も…気付いていたでしょうに、流石に…女子に寝癖だと指摘するのは、()()()()()()()ね…。中々、勇気が要りますわよ…。


それでも、部長ぐらいは教えてくださっても、良いでしょうに…。ところが…萌々花さん曰く、「今度の部長さんは、本人もよく寝癖ついてる人だから、あまり気にしないと思うよ?」とのことで。…ああ、そういう人なのですね…。それでは、気付きませんね…。


 「萌々。ちょっと、こっちに来てごらん。」


夕月(ゆづ)が彼女にそう話し掛け、萌々花さんの手を掴んで引っ張って行くので、私も後ろから付いて行った。萌々花さんは、前触れなく夕月(ゆづ)に手を繋がれたものだから、もう真っ赤になって、口をパクパクしながら引っ張られて行く。何か言おうとしているようですが、声にならないようである。ふふっ。まるで金魚のようですわね。


少し前の私でしたら、このような状況を見たら、呆然として1人立ち尽くしていたことでしょうね。今は、夕月(ゆづ)が萌々花さんに恋愛感情もなく、何より1番に私を大事に思ってくれていて、萌々花さんも私を邪険にしないのだと分かりましたから、私も平然としていられるのですわ。それでも…箏音さんが相手の場合は、平静ではいられないかもしれません…。


夕月(ゆづ)は、萌々花さんを間近のドレッサールームに連れて行き、自分のバックから櫛を取り出して、彼女の髪を丁寧に梳かし始めた。その仕草は、女性の繊細な動きであり、例え葉月が夕月(ゆづ)にそっくりでも、彼の大きな堅い手の動きとは全然違うと、思ってしまいましたわ。今日は始業式ですから、夕月(ゆづ)の服装も女子の制服姿である為、余計に女性らしい行動だと、私には映って見えましたのよ。


萌々花さんは夕月(ゆづ)に髪を弄られ、完全に困惑しているご様子で。まだ顔を真っ赤に染めたまま、椅子に座った状態で、鏡の中に移る夕月(ゆづ)をチラチラで見つめていて。私も時折、夕月(ゆづ)に髪を整えてもらったり、結ってもらったりしますのよ。とても器用に、複雑な髪型も結ってくれますの。そういう意味では、()()()()()()()()()と言える夕月(ゆづ)なのですわ。






     ****************************






 暫く夕月(ゆづ)は、萌々花さんの髪を丁寧に梳き、それから髪を縛ることにしたようですわ。萌々花さんの髪は、肩より少し長いぐらいのショートで、普段はそのまま下ろしておられます。彼女は陸上部なので、部活に参加する時だけは、軽く1つに纏めていて、本当にただ纏めただけ…という感じですわね。今日はその髪を、夕月(ゆづ)が綺麗に纏めておられまして。私は後ろから見つめていただけですが、とても可愛らしくなっていますわね。


 「…ん、これで、良しっと!これで、寝癖も分からないよ。この髪型なら、寝癖が直っていなくても、今日ぐらいは誤魔化せると思うよ。」

 「えっ………。これが…私?…凄い。…何だか、自分じゃないみたいに可愛い!

こんなに髪型1つで、違うものなの?!」

 「そうだね。萌々は、元々が良いからね。普段は、髪の手入れも何もしていないよね?…勿体ないなあ。折角、顔も髪も綺麗なのに。」

 「「………。」」


…いやいや、夕月(ゆづき)さん。寝癖を誤魔化す髪型をして差し上げた、までは良いのですが…。元が良いと褒めたり、髪も綺麗だと褒めたりするのも、良いですけれど…。彼女の顔が綺麗だと、シレっと…褒められるのは、ちょっと……。私、モヤっとしてしてしまいますわ…。萌々花さんなんて、真っ赤っ赤の完熟トマトみたいになられて、モジモジされておられますけれど…。……むう~。


私と萌々花さんの無言は、全く意味が違う意味のようでした。萌々花さんは、頬を染めて恥らい気味で。私は、夕月(ゆづ)が彼女を褒めたことに、ムッとして。()()()()()()()()沈黙でしたのよ。それでも、夕月(ゆづ)は全く動じておられません。


…もうっ!…ここは、動揺ぐらいはしてくださいなっ!…このくらいでムカついております私が、何となく…虚しいではないですか…。


 「北岡君は、物凄~く器用だね。私、こんな可愛い髪型にしたこと、一度もないなあ~。私みたいに短い髪でも、こんなに可愛い髪型が出来るんだね…。ここまで可愛く結ってもらえて、嬉しいなあ~。後でクラスの皆にも、自慢しちゃって…いいかな?…北岡君に結ってもらったって。」

 「まあ、別にいいけれど…。私も一応、これでも女子の端くれなんだからね。このぐらいならば、誰でも出来ると思うよ?…そう()()()()()()()()()…と、思うけれどね。」

 「「………。」」


…再び、私と萌々花さんは無言となった。…いや…ね。萌々花さんが自慢したいという気持ちは、私にも十分伝わっておりますわ。このように可愛く結ってもらえたならば、自慢したいお気持ちは…よく分かりましてよ。然も、好きな相手からされたこととなれば、特に…。


ですが…その言葉の正しい意味は、夕月(ゆづ)には全く伝わっておりません。誰でも出来る…の一言で片づけられた夕月(ゆづ)は、自分が何でも出来過ぎて、平凡な人間の悩みがないのですのね…。ある意味、羨ましいです…。


絶対に、誰でも出来ませんから…。少なくとも、私は…出来ません。萌々花さんが返答に困られたようで、無言で私の顔を見つめて来られるのですが。そう言いましたら、貴方も…色々と不器用なご様子ですものね。でも、貴方はまだ料理がお得意みたいですし、私よりもマシなのでは…。私はお嬢様という立場もあり、何もしておりませんもの。女性らしい事は、何も出来そうにありませんわ。


萌々花さんは、立ち直りが大層早いですわね…。「誰でも出来る」と言われた時には、困惑されたご様子でしたのに、今はもう…それは、どうでもいいのでしょう。自慢しても良い…と許可を得たとばかりに、嬉しそうに微笑んで。トロンとした眼差しで、夕月(ゆづ)だけを見つめておられます萌々花さん。「何でも出来る北岡君って、最高ねっ!」と呟き、ピンクのオーラを放っておられるのですもの。


あれっ?…そう言えば、呼び止められた理由は、何だったのかしら?…と、今更のように思い出したばかりのことを、彼女に訊いてみましたのよ。彼女の意識をこちらに向ける為、コホンと咳ばらいをしてまで…。


 「萌々花さん。今朝は、何をそのように慌てておられましたの?…私に、何かご用事でもありましたの?」

 「……あっ!…そうだったっ!…忘れてたっ!…あのね、未香子さん。2日の日にお店の前で偶然、初詣の後で会ったでしょう?…覚えてる?」

 「…勿論、覚えておりますわよ?…私そのほど、物忘れは酷くありませんわよ。幾ら何でも、つい先日のことを、そう簡単に忘れたりしませんわ。」

 「あっ、ごめんね。そういう意味じゃ…ないんだよ。あの日、未香子さんと一緒にいた男の子がいたでしょ?…私が、北岡君と間違えた……。」

 「……そのお人が、どうか…しましたの?」


彼女は私の方を向き、興奮したご様子で、逆に質問をされて来て。先日の初詣の日に、偶然お会いした時のことを。いくら何でも、まだ忘れる年齢でもない、と匂わせて返答をすれば、彼女は…どうも、葉月を気にされていて……。


私の疑問には、意外なお言葉を返される萌々花さんに。私は…返す言葉を完全に失い、呆然自失の状態となりましたのよ。私は時を忘れ、ただただ…興味津々の彼女を、見つめ返して……。


まさか……萌々花さんは、夕月(ゆづ)の代わりに…葉月に、感心を持たれたのですの?…それとも、本気で…葉月を()()()()()()()()()()()の?

 3学期始業式当日のお話 part2です。


今回は、萌々花が騒いで…というだけの、ほのぼのとした騒動でした。ドレッサールームがある学校、見てみたいですね…。


萌々花が初詣で出会った、葉月の話題が出て来ます。今回で終了しませんでした。あと少しこの内容が続きそうです。

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