116話 北城家でのお正月
前回、新年の続き、となります。いつも通りの未香子視点です。
今の私はお兄様と一緒に、北城家の玄関前に立っていた。毎年のように新年の夕方には、こうして北城家を訪れることが、恒例行事のようになっている。北城家でも、今日が元旦ということもあり、毎年新年の挨拶には、四条家へのご挨拶の為に出掛けられている。現在は車庫に小父様の車があるので、北城家一家も帰宅していると思われた。
「は~い。あらっ、朔斗君に未香子ちゃん。いらっしゃいませ。」
「「明けましておめでとうございます。北城の小母様、本年もよろしくお願い致します。」」
「はい。明けましておめでとうございます。こちらこそ、よろしくお願い致しますね?…さあさあ、中に入ってくださいませ。」
玄関のチャイムの音で対応されたのは、北城家の小母様である。小母様は、今日挨拶に行かれたままの和服姿であり、その上に上品な感じの割烹着を着られている。着物は毎年柄が異なっておられますが、割烹着は何年かに一度新調されるぐらい、愛用されておられますわ。今年の割烹着は、新調されたものでした。小母様は四条家のご出身ですから、とてもお洒落な方ですわね。うちの母よりも。
例年と同じように恒例的なご挨拶をして、北城家のリビングに通されると、既にリビングには、夕月と葉月と北城の小父様もいらっしゃいましたわ。もうそろそろ、私達兄妹が来ることが分かっていたというように、小母様の作られたお料理が、ズラッとテーブルに並んでいて。夕月も葉月も手伝っていた最中で、私達がリビングに入ると、台所の方から顔を出され…。
「やあ、いらっしゃい。明けましておめでとう。朔斗君は大学生になっただね。未香子ちゃんも…もう高校生かあ。子供が大きくなるのは、早いものだなあ。」
「あらっ、朔斗さん、未香子。明けましておめでとうございます。本年度も、よろしくお願い致します。もう少しで全てのお料理が完成致しますから、もう暫く…お待ちくださいませ。」
「やあ、朔兄、未香子。明けましておめでとう。本年も、よろしくお願い致します。僕も手伝っているんだけど、もう少し掛かるから、そこで寛いで待ってて。」
ソファに座って寛いでみえた、北城の小父様がご挨拶された後、夕月と葉月も挨拶をしに来てくれましたわ。今日は、小父様も和装姿でして、相変わらず纏われる雰囲気が…超カッコいいですわね。夕月も葉月も、対照的な和服姿でして。
夕月は小母様同様に、艶やかな着物の上に、割烹着を着用していた。着物を汚さないようにと、着用されている割烹着は、着物姿の夕月にとても合っておりますわ。葉月も小父様同様に、男性用の和服を着られ、その上に普通のエプロンをつけていまして。決してヒラヒラのエプロンではなく、今流行りの男性向けのエプロンでしたが、葉月も…案外と似合っておられます。
実家におられた頃は、由緒あるお嬢様として育った為に、結婚するまで全く料理をされることがなかったという、小母様なのですわ。それでも、結婚してすぐに海外に住まれて、それから徐々に料理を覚えていかれたそうでして。庶民的な料理を作る機会が多かった為に、そういう一般的なお料理がお得意なのですわ。夕月や葉月が作る料理もお菓子も、小母様の影響もあり、庶民的な物が多いのでしてよ。
うちの母とは…大違いですのよ。母は私と同じで、料理が苦手なのですわ。元々、ご実家でも作られたことがない、というのもございますけれど。もしかして…そういう事実から考えますと、私の不器用さは…母親似なのでしょうか…。
よく考えましたら、うちの父は案外と器用なお人でしたわ。お兄様も、とても器用なお人ですもの。私だけ…母に似ましたのかしら?…いえいえ、そういう部分は、似なくても良かったですのに。…なんて母にお話致しましたら、本気で怒られそうですわね。母は、喜怒哀楽がはっきりした、激しいお人ですからね…。そういう性格は、私とは異なりますので、不器用な部分だけ…似ましたのね。
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私達兄妹は今現在、北城一家の4人とご一緒に、北城家でのお食事をいただいておりました。小母様も夕月も葉月も、各々の割烹着やエプロンを取り払い、本来の着物姿に戻っておられます。小母様は、落ち着いた雰囲気の和柄と色合いで、既婚者らしい衣装である。それに対して夕月は、未婚者だとはっきりさせるような、艶やかな色合いと柄の着物を着用している。そして葉月は、女性の着物ほどではないものの、明るい色合いの男性用の着物を着用している。三者三様ではありますが、本当に皆様…よくお似合いです。羨ましい…。
私も兄も同様に着物姿ではありますが、私達兄妹は外国系の容姿である上に、年齢よりも年上に見られることが多くて、着物の色合いも柄も、其れなりに落ち着いた着物しか…似合いませんのよ。小物も、大人っぽい雰囲気の物ばかり…ですのよ。双子姉弟のように、明るくて可愛い雰囲気の着物は、似合いませんのよね…。
本当は、食事中にお話しながらのお食事は、この日本ではお行儀が悪い、と思われておりますけれども、我が家では食事の合間には、今日の出来事をお話するのが、家族での対話となっておりますの。北城家でも、そういう九条家の都合に合わせていただき、食事の合間にお話をしてくださいますのよ。
小母様が作られたお料理は、平凡な庶民の料理と…ご謙遜されますけれど、素朴な味付けでとても美味しいのでしてよ。九条家では普段から、洋食のお料理が多いのですが、今日のような純日本風のお料理は、久しぶりですし懐かしい感じなのですのよ。それに、日本食は世界でも注目されてますように、ヘルシーで栄養が十分摂れるそうですわ。私もお兄様も、和食は大好物なのですのよ。
それに、夕月も手伝って作られた…お料理ですもの!…うふふふっ。お料理上手なお2人が作られたお料理が、美味しくない訳がないのでしてよ。最近知った事実ですけれど、葉月も…お料理上手だそうですわ…。蛇足ですが、私のお兄様は、不器用ではないですが、お料理はされません。
「今日の未香子のお着物は、とても素敵ですわね?…毎年素敵だと思っておりますけれど、今年は格別に、似合っておられましてよ?」
「あ、ありがとうございます。…私よりも夕月の方が、とても似合っておられましてよ?…今年のお着物は…、特に素晴らしいですわ。」
「ふふっ。お褒めていただき、ありがとうございますわ。」
北城一家との食事会が終了し、小父様と小母様がお部屋に移動されると、リビングには私達4人だけになっていた。私達は夕月達が入れてくれた、コーヒーや紅茶を各々飲んでいる。私のお隣に座ったばかりの夕月が、私の着物姿を褒めてくれて。これも、毎年の恒例になりつつありますが…、夕月が言ってくれますと、毎年同じセリフだとしても、嬉しいものですわ…。
私も同様に、夕月の着物を着物姿を褒め称えれば、とてもいい笑顔を返されます。通常モードとは異なり、今日は完璧なお嬢様言葉ですけれど、私にはどのような夕月の姿であっても、笑顔が眩しいのでして…。…ほお~。思わず見とれてしまうような…魅惑の笑顔、なんですよね…。
「僕のことは、似合っているとは、言ってくれないのかな?」
そんな女子同士の会話に、お兄様が割り込んで来られます。どうやら兄は、夕月に褒めてもらいたいようですのよ。お兄様は一心に、夕月のお顔を…見つめておられますもの。私は今朝のうちに、お兄様にご挨拶した折に、「とても似合っていらっしゃいますわ。」と、お伝えして置きましたもの。
「勿論、朔斗さんも、とてもお似合いでいらっしゃいますわ。そのお着物も、去年とはまた違って、とても素敵ですわ。」
「ありがとう。夕月も、よく着物が似合っているね。とても愛らしいよ。3日の日は、一緒に初詣に出掛けられるのかな?…3日の日にも出来れば、その着物姿を見せてほしいな?」
「ええ。私も葉月も、大丈夫ですわ。」
「良かった…。明後日を…楽しみにしているよ。」
お兄様の言葉に対し、夕月は満面の笑顔で、お兄様の着物姿を褒め…。お兄様も夕月の着物姿をサラッと褒められまして。相変わらず…そつが無いお兄様ですわね。満面の笑顔を返しながら、夕月を3日の初詣に、お誘いをされますのよ。去年までは、3日間はお互いの家の事情で、ご一緒に初詣することは出来ない年も、ありましたたけれど、今年は大丈夫のご様子ですわね。
そのこともあり、お兄様がお誘いされたのですが…。男性の大人のお色気を醸し出されて、只管に…夕月だけを見つめながら、女性がウットリしそうな雰囲気を放って、お誘いされましたのよ。これは…無意識なのでしょうか?…それとも………。そんなお兄様に対しての夕月の反応は、満面の笑みを崩さないまま、淡々と…お出掛けをOKされましたわ…。流石、夕月ですわ。お兄様のあのお色気に、屈されませんのは。
葉月もこの場におられるというのに、会話には一切割り込まれず、唯お1人…黙って、コーヒーを飲まれていて。…あらっ?…どうされたのかしら?…いつもでしたならば、ここで…葉月が割り込んで来られます、というのに…。お兄様に、この場を譲っていらっしゃるのかしら…。
そう…不思議に思っておりましたら、葉月と…目がバチリと合ってしまいまして。私は慌てて、目を逸らしましたのよ。どうしても、何となく…恥ずかしかったのですもの。最近の葉月は、ご様子が違って来られていて、私も…葉月を気にし過ぎておりますわね…。私は今後、葉月に…どう接していきましたら、良いのでしょう?
元旦の日の夕方、北城家を訪問した九条兄妹です。4人が着物姿で集まる…という話にしたくて、書いています。次は、4人の初詣も書きたいなあ。




