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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第一幕 名栄森学苑1年生編【4部 冬の巻 編】
133/199

番外 晶麻の事情 【後編】

 副タイトル通り、今回は番外編・晶麻視点となります。前後編の後編です。


後編では、晶麻と夕月の出会いのお話も、含まれます。

また、晶麻側からの学苑祭編の意外な裏話も、見られます。

 俺には、今現在、好きな人がいる。それは、婚約者候補になっている…箏音ではない。俺は、周りの婚約者候補に選ばれそうな人とは、別の人物を好きになってしまったのだ。この学園に通ったからこそ、知り合えたと言ってもいい。


俺は、この学苑の小学部には通うようになって、正直言って…退屈で仕方がなかった。何故ならば、今まで一緒に遊んでいた仲の良い友達は、この学苑には…誰1人としていなかったからである。俺は本当は、この家から歩いて通える、地元の公立小学校に入学したかったのだ。しかし、何故だか…祖父母も両親も、猛反対して来たのである。今考えれば、それはそうかも知れないと、自分でも色々と納得出来る事情があり…。


俺には表向き、既に婚約者候補が何人か決められている。地元の公立学校に行くような子供には、婚約者とか候補とか、決まっている生徒なんて、無縁であることだろう。それなのに、俺が無理して通っていたら、きっと…揶揄われたり意地悪されたり、お金持ちの人間扱いされたりと、嫌な思いもしたかもしれない。俺の場合、正統の理由があるとしても、何人も候補がいるなんて、女好きだと揶揄(やゆ)されても、仕方がないことだろう。しかし…この学苑ならば、婚約者が居ても当たり前の扱いでもあるし、全くおかしくないのであった。


何も()()()()()()()()()()、男子校でも良かった。そう思う時も、実は屡々(しばしば)あったのだが。しかし、今になって考えれば、この学苑に通って正解だったのだと思う。それは、北城に出会えたことも…その1つである。北城は入学当初から、おかしな奴…と言うか、男子みたいな言動の女子で。いつも、九条とピッタリくっ付いて、どこに行くのも一緒という感じで、いつどこで見ても、2人で一緒に居た。何となく…特に男子は、近寄れない雰囲気があったのだった。


ある学年で、北城と九条と同じクラスになった俺。最初に思ったのは、男みたいなヤツだなあ、という感想だった。服装は辛うじて、女子にも見えそうな衣服であったのだが、口調は完全に男言葉である。髪も長く伸ばして、顔もそれなりに可愛いのに、何でこんなにガサツなんだろう、と不思議に思う程に。しかしヤツは、ガサツとは…無縁であったのである。


北城は本当に、何でも良く出来た。運動も抜群だし、勉強も常にクラスのトップ…いや、学年でトップだったようだし、男っぽい見掛けに騙されがちだが、家庭科の実技の授業も全て完璧である。そして…礼儀作法も。よくよく観察すれば、何かをする仕草も、歩いている時の姿勢も、その…どの動作をとっても、とても綺麗な動きであり…。何もかも…()()()()()()()()()、あったのだ。


俺はヤツに興味を持ち、話し掛けてみたのだ。何で男みたいな言動をするのかを。そうすれば、あいつは…迷いもせずに、言い切ったのだ。「私が絶対に、未香子を守るんだよ。それは、誰にも…任せられないんだ。」と、そう言った北城は、満面の笑顔で自信満々で。その時、俺は…彼女に惹かれたんだと思う。…北城のこういう裏表のない明るい笑顔に。男っぽくても、何でも(こな)してそつが無いところに。


その後の俺は、学園の他の生徒とも仲良くなって行った。木島や田尾とは、特に…仲良くなったのだ。あの2人とは、何でも話せる間柄でもある。北城とも、同じ演劇部に入ったお陰で、仲良くなれたと思う。…()()()()()()だが。それでも、彼女からも色々と話し掛けられるようになり、距離が縮まった気がしていたのである。まあ…彼女は、木島や田尾とも…友達として仲が良いのだが…。取り敢えず、木島や田尾が、北城に好意を持っていないと理解出来るので、まだ…安心出来るのだ。他の男子には近寄らないように、一応…睨みを効かしておこう…。


俺は、どうやら態度に直ぐ出るタイプらしく、北城に気があるのが丸分かりだと、木島も田尾も言うのだが、それにしては…北城には、気付かれてないようだが…。おかしいだろ…。お前らが知っているから、そう思うんじゃないのか?






     ****************************






 俺は、初めての学苑祭に浮かれていた。中等部でもあるにはあるが、大した規模ではない。所詮、中学生の発表会のようなものだ。しかし、高等部の学苑祭では、外部の人間も見に来るのである。外からお客が来れば、俺達も大盛り上がりすることになって。俺は、こういう皆でワイワイするような行事も、大好きである。


しかし、ちょっと困ったことが起きている。俺の婚約者候補の箏音が、この学院の学苑祭を見に来たいと、言い出したのだ。いつもは大人しい箏音だが、今回ばかりは…彼女の意志が強くて。…う~ん。北城には、会わせたくないんだよ…。俺は、箏音が北城にケンカを売るよりも、北城に惚れそうだなとか、呑気なことを考えていた。いや、一応…箏音は俺の婚約者候補だし、俺とライバルになるとか、ややこしい関係になりそうだなあ…と。なんて()()()()()()()()、俺は……。


俺は…学苑祭の時、箏音のあんな嬉しそうな顔を、初めて見た…と思う。俺と一緒に居る箏音はいつも、どちらかと言えば、嬉しそうというよりも、ツンと澄ました顔をして、いつでも冷静な態度の生粋のお嬢様である。だから、目の前にいる彼女には、物凄く…戸惑ってしまって。…お前、本当に箏音なのか…。まるで…別人みたいだよ。そんな顔も…出来たんだな……と。


それに、目の前での出来事が、夢の中の出来事ではないか…と思う程に、信じられない光景が広がっていて。何で…北城と箏音が、知り合いなんだよ…。然も、幼馴染って…。俺…全く聞かされていない。俺と箏音も、幼馴染だというのに…。俺と北岡には…学苑に入学するまで、接点なんて何も…なかったというのに。俺達の自宅も、ある程度離れている為、歩いて行ける距離ではなかった。この学園に入学したからこそ、北城と…出会えたんだよ。


それなのに、北城と箏音が、俺を差し置いて…幼馴染なんて。有り得ない…と思っていた。後で聞かされた話では、俺と箏音が出会う前の知り合い、という事実であり。俺と箏音が正式に知り合ったのは、俺が1歳頃と聞いている。彼女の一家が、俺の自宅近辺にある、彼女の祖母宅に戻って来てから…である。


彼女は両親と共に、我が家にも初めて挨拶に来て、そのから俺の家が経営する病院に、家族で通院してくれていた。以前から、うちの祖父母と懇意にしていた、彼女の祖母が…俺と彼女の婚約を、迫って来たらしい。俺の祖父母や両親は、俺の意志で決定したいと伝えてくれても、彼女の祖母は決して諦めてくれなくて。これ以上断れば…角が立つという話となり、彼女を俺の何人かの婚約者候補の1人、という嘘で固めて。


実際には、他の婚約者候補とは面識がない。こちらから、名前だけ貸してもらう形で、婚約者候補とした人物なので、会う必要もなくて。しかし、中には…箏音の祖母同様、うちの家柄を目当てで、新たな婚約者候補に…名乗り出ようとする者もおり、「うちの娘とも会ってくれ。」と、五月蠅く付き纏う連中もいる。無論、俺には…会う気など更々ないが。


箏音とは幼馴染でもあり、一応は婚約者候補として、全く会わない訳には…いかなくて。彼女が別の女学校を選んだことに、安心していたんだよ。本当は…彼女の意志ではなく、彼女の祖母が女学校に決めたらしいけど。彼女が名栄森学苑に通うことになれば、実質的な婚約者として扱われたことだろう。勝手に親が決めた婚約者なんて、真っ平御免だったんだよ…。


別に…箏音の事が、嫌いとかでは…ない。何と言うか、箏音を長年見ていて、あまりにも自分の意思がない彼女に、お人形みたいだと、自分の意見がないんだと、()()()()()()()()()…思っていた。祖母の言いなりのお嬢様。そう思っていた俺は、彼女のことを…妹みたいにしか、見ていなかった。


俺は如何やら、意思の強い人間が好きなんだと思う。男女限らずに。ハッキリと自分の意思が出せる人物に。だから、箏音は…そういう意味でも、好きになれなかったんだと思う。俺には弟と妹がいるけど、年が離れていることもあり、一緒に遊んだことはない。仲が悪い訳ではないけれど。その点で言えば、箏音は…妹みたいな存在だったのだろう。


だからかもしれないけど、俺はあまり、箏音のことを…1人の女の子としては、全く見ていなかったんだろう。婚約者候補である為、全く箏音に会わない訳にはいかず、時折…機会を設けては、箏音と遊んではいた。…とは言っても、カードゲームのような室内で遊べる物以外は、箏音は…唯見ていただけだったけど。俺の頭の中には、いつも大人しく遊ぶ彼女しか…思い浮かばない。


だからなのか…今回のように、箏音の言動が…あまりにも俺との時と違っていて、俺は驚いたというよりも、ショックの方が大きかったような気が…する。つまり、北岡に対してはそれだけ、箏音が多大な信頼を置いている、ということなんだろうか…。俺は、彼女の幼馴染だというのに、何も…知らなかった。本当に…何も…。


学苑祭で箏音達と別れた俺は、暫くの間…呆然としていた。あまりにも楽しそうに明るく笑う箏音が、眩しくて。俺は…直視出来なかったくらいで。箏音のことは、俺が…1番知っているつもりだったのに。それどころか…俺は…何も知らなくて。不甲斐ない自分に、俺は…初めて後悔している。何故、俺は…箏音を()()()()()()()()()のか…と。


俺は、彼女の何を見ていたんだ…と。彼女の上辺だけしか、俺は見ていなかったんだ…と。然も今頃になって、そのことに…今更ながら気付いた俺は…。今後…どうしたいのか…。自分で自分の気持ちが分からない。


俺が箏音に、何を求めたいのだろうか…。

 晶麻視点での番外編・後編になります。


前半では、昌磨と箏音の出会い、婚約者候補となった理由などを含めた、お話でした。後半では、晶麻と夕月との出会いと、好きになった切っ掛けなどを含めた、お話となります。また、学苑祭編の意外な裏話も、含まれます。


実は、学苑祭後の晶麻と箏音の遣り取りも、書くつもりでしたが、出会い等の話で長くなりましたので、それはまたの機会に…書きたいです。


晶麻は多少、天然系のタイプかも…しれません。

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