112話 詰問する少女
110話からの続きとなる、お話です。クリスマス会の内容となります。
今回は、あの人が暴走しています。
「ねえ、北岡君。ぜひとも、訊きたいことがあるんだけど…。」
今日は、初めての女子友だけでのクリスマス会として、仲の良い女子数人で集まっていた。所謂、クリスマス会と言う名の女子会ですのよ。私こと…九条未香子の他には、夕月、萌々花さん、ケイちゃん、よっちゃん、せっちん、鳴美さん、郁さんの以上8名の女子が、この場に集っておりますわ。
そのクリスマス会の宴もたけなわの頃、萌々花さんが声を張り上げるようにして、とある人物に話し掛けたのである。その…とある人物とは、夕月のことであった。萌々花さんは、まるで…夕月に問い詰めるような勢いで、声を掛けて来たけれど。はい…?当然、何を言い出されますの…萌々花さん?
萌々花さんの問い詰めるような勢いに、逆に夕月は目をぱちくりさせ、何事かという雰囲気で彼女を見つめ返している。それに対する萌々花さんは、そのような夕月の態度にも、無言で責め立てるようにして、ジトっとした目で見つめ返していて。流石の夕月も、萌々花さんの身体から出ておられる、圧力のようなものに、僅かに動揺されておられるご様子…ですね。…う~ん。夕月を動揺させるなどとは、中々遣りますわね…。萌々花さんも…。
「ねえ、北岡君。この前の学苑祭の時、中等部の女子生徒に…抱き着かれていた、という話は、本当なの?」
「……はっ?………。」
……はうっ !!… 萌々花さんが、行き成り爆弾を落とされ…ましたわ!…この萌々花さんの言葉に、このクリスマス会場という、個室に集まられた全員が、一斉に固まります…。そういう私も、目を見開いて驚いた状態で、見事に固まっておりまして。問い詰められた本人である、夕月も…。目を大きく見開いて、萌々花さんを見つめ返しておられます。暫し…無言で固まる夕月なんて、私…初めてお見かけしたかもしれませんね…。
皆が固まる中で、萌々花さんだけが、キッと夕月を睨むように見つめており、まるで…『浮気をした彼氏を、問い詰めている彼女』の如く…ですね。抱き着いた中等部の生徒とは、間違いなく…礼奈のことでしょうね?…え~と、それに関しましては、悪いのは…完全に礼奈の方なのですが…。萌々花さん、もしかして…見られていましたの?…これは…焼きもちなのですか?
「…それは、『礼』のことかな?…彼女は、Cクラスの田尾の婚約者であり、この学苑の中等部・演劇部所属で、僕達の後輩に当たる人物なんだよ。当時から、僕のことを…とても慕ってくれていた。勿論、先輩としてだよ。唯の先輩・後輩の関係で、一応、田尾も納得してくれる間柄なんだよね。」
「…それじゃあ、どうして彼女に…抱き着かれたのよ?」
「彼女はいつも、あんな感じだよ。僕を驚かそうとして、中等部の時から頻繁に突然、突進して来るんだよ。その度に、婚約者の田尾からは、怒られていたかな。彼女は…田尾の忠告には、素直に従っているからね。」
「でも、あの時は…北岡君が、親切に接待していたと…聞いてるよ?」
「そりゃあね。彼女は、僕にとっても可愛い後輩だからね。我が儘で気が強そうな子に見えるだろうけど、ああ見えて、とても素直な優しい良い子だ。彼女は性格が悪いと、よく勘違いされる子だけど。未香子とも頻繁に張り合っていたから、よく僕に絡んで来てね…。ただ、彼女は自分の後輩には、面倒見が良い先輩だと評判がいいんだよ。」
…うわあ~。萌々花さんって、直球過ぎますわ…。やり方が…目茶苦茶ですもの。夕月に直接聞いて確かめるなんて、何という荒業なのでしょうか…。礼奈が抱き着いていた、その理由まで…訊くとは…。萌々花さん、あなた、以外と…何にでも物怖じしない人、なんですのね?…私には絶対に、無理なことですわね…。私はそういう風には、振舞えませんわね…。
夕月は…自分が、問い詰められているのを理解されているのか、それとも…全く理解されていないのか?…夕月のことですから、全く分からないとは…思えないのですが。夕月はいつの間にやら、いつもの調子に戻っており、彼女は自分の後輩なのだと、礼奈のことを熱心に語っていて。それは、単に…誤解を解こうとして、気にしている雰囲気ではないように…感じられます。…う~む。相変わらず、マイペースな夕月です…。
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「うん。分かったよ、北岡君。詳しい解説、ありがとう。…でもね、私ね、まだもう1つ、訊きたいことがあるんだよね?…それも、訊いてもいいかなあ?…この際、スッキリハッキリと…させたいんだよねえ?」
「…う~ん。萌々は、何を…訊きたいの?」
やっと夕月の疑いが晴れて、萌々花さんが納得したと、私は胸を撫で下ろしたのである。この場に居る女子全員も、ホッと息を吐いた途端に…。またしても、萌々花さんが、不穏な雰囲気を出して来たのであった。…ええ~。また…なのですの?…萌々花さん。貴方には一体、どれだけの問い質したい質問が、ございますのよ…。再び、緊張ムードに突入することとなり、皆様が再度…凍り付きましたよ…。
動きかけていた全員が、萌々花さんの言葉で、ピタリと動きを止めることになりました。そして、ギギギという機械音でもしそうな程、不自然な動きでのろのろと、萌々花さんの方を見て。また動きが止まるのです。仕方ありません。これは、夕月に頑張ってもらうしか、ありませんわ。言い訳と言いますか、説明と言いますか…を。夕月、頑張ってくださいな。私…応援しております。
萌々花さんの言葉には、不穏な空気を感じ取っているご様子で、夕月も少々…タジタジになられておられます。他の人には分からない程度ですが、眉が僅かにピクピク動いていますもの。ふう~。やはり、萌々花さんは、規格外の心臓の強い人だと思いますわ。鳴美さんも郁さんさえも、ギョッとしているのですから…。
「同じく学苑祭の時、今度は他校の生徒と、デートしてたでしょ?…すっごく楽しそうに話したり、笑ったりしていたよね?…あれは、どういうことなの?…今の話以上に、しっかりとした理由を聞かせてね?」
……うっ。折角、忘れようとしていましたのに…。まさか、萌々花さんから、この話を切り出して来るとは、思いも寄らなかった…ですわ。箏音さんのことは…出来れば、そおっとして置いてほしい、出来事…なのですのよ。私にとっては…。
「…それは、箏音のこと…だね。…う~ん。これは、未香子にも…話した事実だけれど…。彼女には、かなり複雑な事情があるんだよね…。この場に居る…君達だけの秘密に、してもらえるのならば…話してもいいよ。」
夕月が珍しく、歯切れの悪い話し方で、渋々というような返答をする。そうですわよね…。確かに…箏音さんの事情は、誰にでも話せるようなお話では、ありませんものね…。夕月が一言、注文を付けられるのも、当然のことでしょうね。内容が…内容だけに、そうなりますわよね…。
夕月の話し方から、萌々花さんも漸く、不穏な雰囲気を感じ取られたようだった。彼女は眉を顰められて、「それは…どういう事?」と、先程の怒涛の勢いを消していて。他の皆さん達も、戸惑ったような表情を浮かべておられて。意味あり気な事情を、聞いていいものだろうか…と、そういう雰囲気を感じますわね…。まあ…そうですわよね。何となく…重そうなお話だと、分かりますものね?
その後は、箏音さんに関する事情を、夕月が…話し始めていた。話の内容は、私に語ってくれた内容と、全く同じですけれど。ですから、内容を把握している私は、他の皆さん達の反応が…気になりまして、そおっと…観察していたのである。箏音さんのお話は、内容が…重過ぎますので、私は…これ以上聞きたくないのですもの。そうでもしませんと、今度彼女にお会いした時に、私は…同情心から、夕月を貸し出してしまいそうなのですもの…。
郁さんも…誰もが、黙々と…唯々聞かれていた。このお話に対して、お話の途中で口を挟める者は、誰もおられない…ということでしょうね。お話の途中から、どなたかのすすり泣くような音が、聞こえて参りましたけれども。まあ…そうなりますよね…。
夕月の話を黙々と聞かれていた面々も、誰もが…次第に悲しそうな、若しくは、やり切れないと言うような、或いは…実際に何人かが、泣きだしてしまわれたのだった。皆さん…話を聞かれる内に、感情を移入されてしまったようで…。私も…そうでしたので、皆様の感情は…十二分に、理解出来ましてよ。
ところが、萌々花さんの態度だけは、他の皆さんとは…明らかに、異なっていた。箏音さんの事情が進んで行く内に、萌々花は…自分の両手を強く握り締め、何かに耐えているようなお顔をされて、俯いておられて。…どう…されたのでしょうか?いつでも前向きな彼女には、こういう重いお話には…耐えられなかったのでしょうか?…彼女のお顔が何となく、赤くなっていらっしゃる気が、するのです。気の所為では…ないでしょう…。
夕月の話が終わった後、暫くの間は…誰も何もお話されず、シ~ンと静まり返っていた。女子会の皆さんは言葉を失くし、誰もが重い話だと再認識している最中に。唐突に、萌々花さんが、ガタンと大きな音を立てて、椅子を倒しそうな勢いで立ち上がられましたのよ…。……えっ?…今度は…何ですの?…皆さん…間違いなく、この場の全員が…そう思われたことでしょうね…。
「………。私…初めて、こんなにも怒りが…湧いて来たんだよっ!…本当に…何なのよ、もう!…本気で、頭に来た!!」
クリスマス会(女子会)の続き part3となります。
副タイトル通り、萌々花が夕月を問い詰めています。以前に、萌々花が詰問すると決意していましたが、実行に移しましたね。いつもと異なる夕月が、チラッと見られたのかも?
最後のセリフは…誰が誰になのでしょうか…。




