番外 箏音の事情 【前編】
副タイトル通り、今回は番外編・箏音視点です。前後編での前編に当たります。
夕月と箏音の出会いを含めて、箏音側からの目線でも書いてみました。
※語り口調は、生粋のお嬢様らしい言葉となりましたので、非常に読みにくくて、申し訳ありません。
※手直し前の他の番外を、投稿してしまいました。本来のものに差し替えました。申し訳ありませんでした。
わたくしには、幼馴染が3人おります。そのうちのお2人には、海外で出会いましたのよ。まだ私が2歳になった頃かと、存じますわ。わたくしの父の仕事の都合で、海外に転勤となったのでございます。
わたくしの家族の他にも、日本からいらっしゃっていたご家族がおられまして、その中でも、同じ年頃の子供がいるご家庭こそ、北城家の皆さんでしたのよ。
北城家には、双子のお子さんがいらして、とてもお可愛らしいよく似た双子さんでしたわ。わたくしは人懐こい性質でしたから、すぐにお友達になりましたのよ。
お2人もとても天真爛漫で、稀に見る聡明な方達でしたわ。
お2人の名を『夕月様』と『葉月様』と、わたくしは呼ばせていただいておりました。様付けは要らないと仰っておられましたが、それではご無礼ですもの。
お2人は、わたくしより1歳年上の方達なのですからね。お母様に、「そうお呼びするのが妥当よ。」と、教えていただきましたの。ですから、お2人には、逆にわたくしのことは、呼び捨てにしていただくようお願い致しましたの。私達のような家柄のある子供達にとっては、まだ幼い子供と言えども、お友達と言えども、対等ではございませんのよ。
お2人とも流石、あの四条家に連なるご家庭にお生まれだけあり、礼儀作法がとてもきちんとされておりましたわ。わたくしより1歳年上と言えども、わたくしなんて、まだまだだと思い知らされましたの。礼儀正しく、所作も綺麗な振る舞いで、礼儀作法の出来ていないわたしくは、お2人のご様子は、とても参考になりましたのよ。ですから、お手本とさせて頂くことにしましたのよ。
日本に一時帰国する度に、わたくしは、礼儀作法にお厳しいお祖母さまに、毎日のようにお顔を合わせる度に、叱られておりましたの。お母様の躾とは異なり、お祖母さまの躾というものは、幼いわたくしには厳し過ぎるものがございました。
ですが、お祖母さまの礼儀作法は、正に完璧でしたのよ。わたくしが辛いとか苦しいとか、言えるような立場ではありませんことよ。
お母様は、わたくしにも、そのようにお厳しいお祖母さまをご覧になられては、時折、悲し気に目を伏せておられましたわね。お母様はお優し過ぎますから、わたくしに厳しく躾けることが出来兼ねましたのね?…それでも…嬉しゅうございます。
わたくし、夕月様のような立派なレディになりたいとは、常々思っておりますが、例えそうであっても、お母様もお厳しかったのなら、わたくしも流石に耐えられなかったことでしょう。お母様には、最後まで見守っていただきたいと存じます。
お父様とお母様は、世にいうところの政略結婚をなさったのだとか。一般的に政略結婚されたお方々は、幸せになれないのだとか、よくお聞き致します。ですから、わたくしの両親が大変仲睦まじく、子煩悩ということは、滅多にないことだとは、わたくしも十分に承知している次第なのです。
これでも、わたくしも一人の夢見る女の子なのですわ。現実を知っていましても、目の前に仲の良い男女⦅両親のことですわ⦆を、毎日のように拝見しておりましたら、やはり夢を見てしまってもおかしくないのです。わたくしも、あのような仲の良い夫婦になりたいと…。
実はわたくしには、初恋のお方がおりますのよ。その方は、わたくしのもう一人の幼馴染でもあるのですわ。日本に一時帰国した時に、初めてお会いしましたのよ。わたくしのお祖母さまのお家の近くに住んでいらっしゃって、大病院を経営なさっている院長先生のお孫さんなのですわ。お祖母さまと院長先生が懇意になさっていおられまして、わたくしにもご紹介してくださったのです。同じ年だから、仲良く慣れるだろうから、と。
その子は『晶麻』様というお名前で、わたくしは『晶麻』様とお呼びしたかったのですが、肝心のご本人に嫌がられてしまいまして…。一応、お祖母さまの同意も得られましたので、『ショウちゃん』とお呼びすることになりましたのよ。
…うふふっ。何でしょうか、こそばゆい感じが致しますわ。ですが…特別な呼び名のように感じされまして、大変嬉しゅうございますわね…。
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夕月様と葉月様の突然の帰国で、わたくしの心には、ポッカリと穴が開いたような気が致しました。お手紙の交換はさせていただいておりますが、それでもお顔を拝見出来ないのは、寂しゅうごさいます…。その後、わたくしも両親と共に、日本に帰国することとなり、お祖母さまのお家で暮らすことに…。
日本で暮らし始めてすぐ、わたくしに妹が出来ましたわ。お母様が妹に掛かり切りになる中で、わたくしは、お祖母さまに厳しく育てていただいたのです。お祖母さまのお陰で、わたくしは何とか夕月様に近づけましたでしょうか?…まだ自信が持てませんのよ…。それでも、今通っている女学校では、わたくしが一番に、礼儀作法が綺麗だとは…自信を持っておりましてよ。
日本で暮らし始めてから数年が経ち、わたしくはやっと『ショウちゃん』の幼馴染から婚約者候補へと昇格致したのです。婚約者ではないのは残念に存じますが、それでも候補という名誉を頂けて、天にも昇るような気持ちでしたわ。
実際に『ショウちゃん』は、他の候補者の方よりも、わたくしを大切に扱ってくださるから、わたくしは身の程も弁えず、『ショウちゃん』に自分だけが大切だと思われていると、勘違いしてしまっていたようなのです。ああ…。わたくしは、やはり駄目な子でしたのね…。お祖母さまが仰っていた通りなのです…。
わたくし達が年頃になるにつれ、『ショウちゃん』はわたくしに、あまり構って下さらなくなりました。それどころか、最近は、わたくしへの態度が冷たくなられた気がして…。わたくしは、ついその事を泣き言として、手紙に…書いてしまいまして…。…ああ、わたくしとしたことが…。お優しい夕月様に、わたくしは何と言うことを、書いてしまったのでしょう…。
夕月様は、何とお休みの日に態々、わたくしの自宅にまで、飛んで来てくださったのです。運悪く、その日はお祖母さまが…家にいらっしゃいまして。夕月様は、四条家の車を使って来られていたものですから、お祖母さまに四条家の関係者とバレてしまい、面会を遮断されてしまったのでございます。ああ…。わたくしの所為ですわね?…わたくし、夕月様のご好意を無駄にしてしまい、申し訳ありません。
妹が生まれてから、後に跡取りとなる弟も生まれまして、お祖母さまは…妹と弟にも、礼儀作法を教えようとされましたのよ。妹と弟は全くという程、お祖母さまの仰ることに従いませんでしたわ。そして、両親が一大決心をしまして、今のように別の家で暮らしております。『ショウちゃん』と離れ離れになるのは、辛く悲しいことでございましたが、彼が「また、いつでも遊びに来いよ。」と仰ってくださるから、寂しくはありませんでしたの。…その時は。
今現在は、お祖母さまとは、ある程度の距離が離れた場所に住んでおりますのよ。このように時折、お祖母様が、わたくしの礼儀作法をチェックされに、来られるのです。ですから、この日は運が悪いとしか言えませんわ。お祖母さまがわたくしに何も言わずに、夕月様を追い返されたと知りまして、わたくしもこの時ばかりは、お祖母さまに逆らいましたの。生まれて初めて…。流石に、お祖母さまも、わたくしが逆らうとは思ってもみなかったご様子で、気まずそうなお顔をされて、お帰りになりましたわ。
わたくし、もう…夕月様に合わせるお顔がございません…。生まれて初めて、お祖母様に逆うほどの怒りが爆発しまして、自分の部屋に戻った後は、…もう涙が溢れて来て止まりませんでした。…ああ。元々、わたくしが愚痴を書いてしまったが為に、このようなことになってしまった、というのに…。お祖母さまにまで八つ当たりをしてしまい…、わたくしは…、何て愚かな人間なのでしょう。
その日は泣きつかれてしまって、そのまま眠ってしまったようです。お母様が連絡をしてくださろうとしたのですが、わたくしの愚かの行為が招いた結果なのですから、お断り致しましたの。夕月様に何と思われているかと、想像するだけで、わたくしは絶望してしまいそうなのです。…初めてのお友達でしたのに…。
ところが、夕月様がいらした次の日の午後に、わたくしにお客様がいらしたと、妹達が呼びに来ました。もしかしてと思い、急いでリビングに向かいますと、そのお客様は…何と葉月様だったのです。
「箏音、お久しぶり。急に訪ねて来て、ごめんね?…僕が誰だか分かる?」
「もしかして…葉月様なのですか?…本当に、お久ぶりですわ。」
「うん。正解。…昨日、夕月が会いに来たのは、知ってる?」
「…はい。勿論ですわ。それなのに…お祖母さまが……。」
わたくしは、葉月様のお口から夕月様のお名前が出たことで、動揺してしまい…。
思わず、泣きそうになってしまいました…。葉月様は、このようなわたくしにも、優しいお声を掛けてくださるのです。
「大丈夫だよ。昨日の話は聞いているから。夕月は全く怒っていないからね。寧ろ、君のお祖母様に怒っているよ。夕月はね、君の手紙を見て心配になったから、会いに来たのに、君のことを心配する必要はない、と言われたみたいでね…。それでも、夕月は箏音が心配だったから、今度は僕に様子を見に行ってほしい、と頼んで来てね…。それで今回、僕が来たんだよ。」
箏音視点での番外編・前編です。夕月と箏音そして葉月が出会った、当初の頃も含めたお話となっています。また、晶麻との関係も語られています。
箏音が哀れに思えますね…。彼女は純粋過ぎて、お祖母さまが間違っているとは、実は…思っていません。ある意味、洗脳されているのかも…。




