107話 女子友 その2
副タイトル名は緩いですが、衝撃の出来事が起こっています。
女子友達と集まっていることと、女子友達のことについて語っていることから、
この副タイトルにしています。
今回も、萌々花視点続きます。
萌々花「今回も、未香子さんの代わりに、私が語っています。次回も、未香子さん
が復活出来ないようなら、私がお話ししますね。」
※今回は、前回と同じ部分の暴力行為を、少し表現を変えて描写しています。
気分が悪くならないよう、お気を付けくださいませ。
まるで、冷気が漂うほどの冷たさである。北岡君が本気で怒っているだけで…。私に向けられている訳でもないのに、身体がブルっと震えてしまうぐらい、この空間の空気が冷えていくのを、感じていた。誰も彼もが…無言であったほどである。急激に冷えた空気に、この場にいる全員が圧倒されている。殴られた張本人である男性客でさえ、只管痛みに耐えながらも、この冷ややかな空気に、気まずそうに冷や汗を掻いているようであった。何故、こんなことになっているのよ…。
女子8人でクリスマス会を開くことになったので、今日はその打ち合わせをする為に、私のお気に入りの軽食店に来ていた。そこで、男性客が突然大声を出し、ここのお店の息子さんが、バイトの女性を助けようとして、お客と揉めているのだ。
どうも…この男性客は、バイトの女性を口説いていたみたいなのよね…。
そして、バイトのお姉さんはそれを断り、男性客がそれに逆上したようなのよね。
今回の件は、完全に男性客に非があるわよ!…何なの、あのお客の態度は!
その時、北岡君が何も言わずに出て行ったので、最初は仲裁を買って出たのかと、私は…思っていたんだよね…。ところが、北岡君は相手を振り向かせる為に、男性客の肩をトントンと軽く叩いたまでは…良いけれど、振り向いた男性客に対して、何と…行き成り、相手のお腹目掛けて鉄拳を飛ばしたのである。……へっ?!
何…今の…?…もしかして……北岡君が殴ったの?
もう、ただただ…ビックリである。こんなにも…北岡君が喧嘩っ早いとは、知らなかったわ…。う~ん…。これで以前に、電車の中での痴漢男への制裁も、すんなり納得出来たかな……。北岡君の突然の暴挙に、このお店の中にいるお客を含めた全員が、目を見張り固まった。但し…目線だけが、この男性客と北岡君の間を、行ったり来たりしているけれど…。この時の北岡君は、何事もなかったかのように、顔色一つ…変えていなかった。冷たい彫刻のような表情であった。
北岡君の表情は、何の感情もない…というような無表情で、物凄く冷たい雰囲気を放っていた。氷のような鋭い瞳で相手を射貫き、射貫いた相手を凍えさせていたのだ。こんなにも…冷たい雰囲気の北岡君を見るのは、勿論のこと…初めてである。間違いなく、北岡君は怒り心頭に、発しているのだろう。しかし、何でここまで…怒っているのだろうか?…私には、正直分からなかったのだが。
私はふと気になって、未香子さんの方を振り返って。……えっ?!…何…何?!
一体…どうしたの?…彼女は…真っ青な顔をしていたのである。今にもぶっ倒れてしまいそうなほどに、顔色が悪かった。これは…尋常ではないよね?…今の北岡君の態度を見ていて、顔色が悪くなった…という感じではないわね…。そうすると、これは…もしかして、男性客の罵声を聞いてから、若しくは…見てから、顔色が悪くなったのではないだろうか?…そう考えると、北岡君の怒り心頭具合に、納得が行くのだ。……ああ、そうなんだね…。北岡君が…怒る筈だよね…。
「ナンパ失敗したぐらいで、五月蠅いんだよ。他のお客さん達にも、迷惑を掛けてまで。警察を呼ばれたくないのなら、サッサと去れ!お前の遣っていることは、犯罪行為でもある。まだ理解出来ないようならば、分からせてやるが…?」
シ~ンと静まり返った店内で、北岡君が静かに穏やかな口調だけが、妙に狭い店内に響いていた。怒っているからこその低音である。これって、男装バージョンの時の声だよね?…あの時、私を助けてくれた時も、こんな低い声だったもの…。
目の前で蹲る男性客に、冷ややかな視線を向けながら、言葉を発する北岡君は。
確かに、口調自体は一見穏やかに感じるが、普段なんかより数段も低い声だし、怒気を含んだものだとよく分かるセリフだった。それは、この場に居る全員が、北岡君のことを知らない人でも、分かる程のものだと思われた。だから、誰も未だに…言葉を発する者はいなかった。
北岡君の怒気を含む声を向けられた、相手の男性客も、お腹を抱えたままの状態ではあるが、ビクッと身体を竦ませたのが、私にも見て取れて…。…うわあ~。
私達でも冷気を感じているぐらいだから、これを浴びせられる相手は、耐えられないぐらいに恐ろしく、感じているだろうなあ。…でも、この人は…自業自得だけから、仕方ないよね?…未香子さんを、こんなにも…怯えさせたのだもん…。
こんなにも…青くなって、震えている未香子さんは。私も…初めて見たと思う…。北岡君が本気で怒るのは、当然の権利だと思ったよ…。
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私は、周りを見渡せるようになり、少しは心に余裕が出来たようである。
自分のテーブルの方を振り返ってみると、私と未香子さん以外は皆、まだ…北岡君に釘付けになっていて、未だに固まっている様子であった。いつもは、2次元の世界の話で賑やかな郁ちゃんも、ごくりと息を呑み込むようにして、ジッとあちらを見つめているようだし…。流石の郁ちゃんにも、想像以上のことが起こっているのだろうなあ…。いつもと違って、興味津々の目線ではないようだ。驚愕していて動けなくなっている、という様子であったから。
常に皆を和ませているケーちゃんさえも、前を見つめたままジッと動かないし…。
実はこの中では、一番冷静な様子が見られた。当初は驚いていたのだろうが、今はただ…見守っている、という感じがしている。もしかしたら、彼女は、北岡君のこういうシーンに、何度か出くわしたことがあるのかもしれない。この中で唯一、免疫がありそうな様子が見て取れたのだ。…そう言えば、未香子さんと初めて衝突した時、北岡君を呼びに行ったのは、ケーちゃんだったのよね?…割と冷静な判断が出来る人なのかも、知れないなあ。
ナルちゃん・よっちゃん・せっちんは、唯々呆然と見つめている。この3人は、私と同じで、北岡君の乱闘シーンを、実際には初めて見たのかもしれないなあ…。
初めて見た人には、今の北岡君は…強烈過ぎるよ…。余りにも…普段の彼女、う~ん…彼と言った方が、いいのかな?…とは、違っているんだよねえ。…うんうん。今の制裁は、いくら何でも…無茶苦茶だったよね。…まあ、皆が驚くのは、仕様がないと思うよ?
それでもなあ…。普段は、朗らかで軽い感じの態度で、常に面白いことが大好きな北岡君。いつもいつも、私や未香子さんを揶揄っては、大笑いしている北岡君。
北岡君のファンクラブ会員が、私を虐めるかもしれないという時も、冷静にただ見守っていたというのに。どんな時でも冷静に対処している、そんな人だと思っていたのに。今日は…全てが正反対だったよね?
こうした私達に対し、未香子さんは、北岡君に視線を向けながらも、青い顔のままである。握り込んだ右手を左手で包み込むようにして、成り行きを見守っている。彼女をよくよく観察してみれば、その握り込んだ両手が、小刻みに…震えていた。パッと見た感じでは、気にならない程だったが。ギュッと強く自分の手を握りしめては、まるで…震える手を抑え込んでいるみたいだった。これ以上震えないようにと、我慢している風にも、私には感じられたのだ。
未香子さんのこの怖がりようは、普通じゃないレベルだと思う。この前の電車の中での痴漢は、彼女自身がされそうになったらしいし、被害者だったんだから、怖いのは当然だと思うけど。しかし今日は、彼女は…被害者でも何でもないのに、だ。
被害に遭っていたのは、彼女とは無縁のバイトの女性であって、彼女には関わりのないことなんだよね。実際に、彼女とは知り合いでも何でもないだろうし。
この怖がり方は異常である、と私は考えていた。
ならば…この怖がり方は、一体どうしたことなんだろう?…まるで、以前にも同様のことがあった、と言っているみたいだよね…。そう言えば、未香子さんと北岡君とは、昔から2人だけの何か…特別な約束をしているとか、内部生の生徒達が話していたっけ?……それとこれとは、何か…関わりがあるのだろうか?…北岡君が、こんなにも怒っているということは、もしかしたら…過去に、未香子さんに…何かが起こったことがある、ということだったりして…。その事実を知っている北岡君は、彼女を庇うことに…必死なのかもしれないよね?
もしかしたら、北岡君の男装自体にも…何かの意味が、あるのかもしれない…。
彼女との約束も、そういうことなのだとしたら、私の出る幕は…もう、無いんだと思う。…まあ、いいかあ。未香子さんが相手ならば、私は…きっと…諦められる。彼女と北岡君ならば、私は笑って…祝福出来るだろう。
未香子さんが、余りにも心細そうに見えてしまって、私は思わず…という感じで、彼女の背をゆっくりと撫でながら、彼女にそっと声を掛ける。「北岡君なら、絶対に大丈夫だよ。」と。そうだよ、喧嘩している訳じゃないんだから。すると未香子さんは、のろのろとした動作で私の顔を見上げると、声を出さずに…同意するように、こくんと小さく頷いた。普段の気が強い感じと異なって、何だか守ってあげたくなる程のか弱さが、滲み出ていたんだよね…。これが、彼女の本当の姿なのかもしれないなあ…。
…ああ。きっと…こんな未香子さんを、ずっと見続けて来たからこそ、北岡君は…放って置けないんだよね?…だから、あんな完璧な男装までして、彼女を守っているんだよね?……これも全て、未香子さんの為なんだよね…?
もうすぐクリスマスということで、女子会ならぬ、クリスマス会を実行することになった…の続きのお話 part3です。
前回の終わりごろに、暴力行為がありましたが、その辺を詳しく書き足す為に、再び表現を変えて、書いています。苦手な方には、申し訳ないです。
前回からの続きなのに、殆どお話が進んでいません。周りの人達の状況を見回してしたら、こうなりました。ですので、萌々花視点が、もう少し続く予定です。




