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君の騎士 ~君を守るために~  作者: 無乃海
第一幕 名栄森学苑1年生編【3部 秋の巻 編】
117/199

番外 私のもう1人の幼馴染

 今回は、夕月と箏音の出会いを、夕月視点で書いてみました。

ほんの少しですが、学苑祭の裏話が隠されていますよ。


※虐待などの言葉が出て来ます。ご気分がなられない様、ご注意ください。

 これは、私の()()()()()()()()のお話である。


私こと、北城夕月(きたしろゆづき)は、実は、未香子(みかこ)以外にも日本人の幼馴染が存在する。未香子と同い年の少女である。彼女とは、私達家族が欧米に暮らしていた頃に、初めて出会うこととなる。彼女の一家も、父親の仕事の関係で、一時的に欧米に住むことになり、その間の付き合いである。だから、幼馴染と言っても、ほんの短い間であったのだが…。


欧米で生まれた私達は、まだ日本に一度も帰国したことがなかった。私の母は子供の躾にとても厳しく、私と弟の葉月(はづき)は、男女の双子だということもあり、ある頃からは一緒に遊ぶのを禁止されていた。女の子が男の子と遊ぶのは、はしたないという理由で。その頃からの私は、外で遊ぶのは男の子だけでいいと言われ、外出することさえ(まま)ならない様子であったのだ。


その頃に出会ったのが、『箏音(ことね)』である。元々は、四条家(しじょうけ)と同じくする一族の分家である、高遠家(たかとおけ)の長女であり、丁度欧米に来たばかりで、まだ此方(こちら)には知り合いがいなかった。母親同士が知り合いであった為、その縁で私達は引き合わされた。

同じ年頃の女の子同士の、お友達候補として。その頃の箏音は、天真爛漫な元気な少女で、いつもにこにこと笑っていた。私と箏音は、すぐに仲良くなる。

初めての日本人のお友達として。


私がまだ4歳になる前の頃、女の子の友達が殆どいなかった。何しろ、簡単には外に出られなくなっていた。外国人のお友達もいたのだが、母にはその子達のお行儀が気に入らないらしく、女の子らしくないと遊ぶのを禁止されてしまったのだ。

そういう環境の中で、母が()()()()()()()()()お友達は、箏音だけである。


ところが、箏音が両親と一緒に、長期休暇に一時帰国する度に、箏音の性格が変化していく。あんなに無邪気であった彼女が、こちらに戻って来る度に、性格が暗く沈み込むような雰囲気となっていた。それでも、私と一緒に暫く遊ぶうちに、数日後にはいつもの彼女に戻っていた。帰国した時に何かあるのだとは、私にも理解出来たが、まだ幼い子供である私には、結局…何も出来なかったし、何も…事情を知ることが出来なかった。


箏音は、私達双子とは違い、実に子供らしい元気な子供である。彼女は、私達より1つ年下の3歳で、年相応の子供だと思われたが、3歳と言えども…言葉の端々や態度に、聡明さが表れている女の子である。但し、彼女は、少し不器用なところがあった。お辞儀などがまだ上手に出来なかったり、舌足らずで上手く話せなかったり…と。それでも、本人は余り気にしていなくて、前向きな性格であったのに。


帰国する前頃には、段々と元気がなくなりかけ、此方に戻って来た後にも、更に元気をなくしており、私達にもぎこちなく他人行儀に振舞って。私は…ある時、私の母と彼女の母親が話している内容を、偶然聞いてしまう。その話の内容では、彼女の祖母に問題があるようで…。彼女の祖母は、高遠家の家柄の為にと、箏音に厳し過ぎる程の躾をしていた、という事実であった。


箏音は、充分にお嬢様の素質がある。ただ単に、彼女はまだ舌が回らず、上手くお嬢様言葉などが話せないだけである。お辞儀やお嬢様らしい作法も、これ以上は…まだ年齢的に難しいだろう。にも拘らず、「お前は駄目な子供だ。」とか「高遠家には、お前は必要ない。」などと罵倒されているらしい。要するに、箏音は…言葉の虐待というものを、日本に帰国する度に受けていたようだ。…あまりにも…酷な仕打ちであろう。


箏音は、まだ3歳になったばかりの幼い子供である。箏音の祖母は、一体何を考えられているのか?…幼い子供にとって言葉の虐待は、一生のトラウマになるかもしれない。確かに…私の母も厳しい躾を行うし、子供本人の意志を無視されているように見えるが、母が私達の為にしていると、これでもよく理解している。

母は、私達子供を愛しているし、少し不器用なお人なので。


箏音の祖母は、全く違うように見える。母達が話す内容には、他にも…酷い言葉の羅列があったらしい。聞く限りでは、箏音に対して…愛情の欠片も感じられない。

彼女の祖母は、自分の娘である箏音の母親に、政略結婚をさせていた。但し、箏音の両親は仲が睦まじくて、幸せだと感じてはいらしたが…。政略結婚の相手が、偶然にも当たりであった、という運の良さであろうか…。


箏音は、その両親から愛されて育っている、とても愛らしい子供だと言うのに。

それなのに…祖母が、()()()()()()()()感じがする。彼女の性格が歪んでも、仕方がないと言うほどに…。






     ****************************






 箏音が4歳になってから数か月後に、私達一家は、突然の帰国が決まった。

私が5歳になる少し前である。当初は一時帰国の予定であったが、クリスマスの時期からお正月を日本で過ごし、初めて四条家の祖母と会い、その時に私達双子は、四条家の祖母に習い事を教わると、約束されていたからである。


箏音とは、私を通じて葉月とも交流がある。実は…3人で一緒に遊んだのも、何回かあったりする。母には…内緒である。私も葉月も「箏音」と呼び捨てにしていたが、彼女は私達のことは「夕月様、葉月様」と呼んでくれていた。私達の方が1つ年上だからという理由で。やはり、彼女は聡明な少女である。


クリスマスの時期やお正月の頃は、彼女も日本に帰国するので、帰国した時も会う約束をしたけれど、一度も会うことが叶わなかった。箏音の祖母が会わせてくれなくて。私達が『四条家の孫』だという、それだけの理由で。四条の祖母にも仲介してもらっても、余計に拗れてしまう。彼女の祖母は、頑なに『四条家』を敵視していた。『四条家』を拒む理由が、四条の祖母にも理解出来なくて、四条の祖母が下手に出れば尚更に、高遠の祖母が怒るような態度になり…。何とか…箏音の母を通して、やっと()()()()()()()()()()()と…。


先祖代々、高遠家は何かにつけて、四条家と対のような扱いをされた上、日常的に両家は比較されて来たようである。当初の頃は各々の役割も異なり、切磋琢磨して両家は同等に扱われて来た。それは、元々両家が、ある大きな家柄の同じくする分家であったからでもある。先祖代々とはいうものの、分家となった当初は、明治時代以降の話であるが。


そんな両家が、ある頃から徐々に差が付き始めていく。四条家の名が大きくなると共に、高遠家は事業の拡大による失敗などから、名が落ちぶれる寸前まで下がってしまったそうで、何代か前からは持ち直しているものの、未だに四条家とは比べられてしまうようであった。同じ分家ならば、四条家の方に価値がある、と…そう言われることもあったらしく、お陰で…すっかりと、高遠家と四条家は仲違なかたがいをする関係となった。まあ、どちらかと言えば、高遠家が勝手に敵視しているだけ、という関係なのだが。


四条家では、高遠家と仲違いしている認識はない。今はもう、分家とは名ばかりであるし、何か都合の良い時には、寧ろ…その分家としての立場を利用するぐらいである。今では、本家とすら思っていない関係であり。その為、高遠家との関係ですら、同じくする分家と言っても、もう赤の他人だと思っている。既に、四条家ですら分家が存在しているというのに、両家の本家などは、親戚としての付き合いさえ最早(もはや)ないのである。もう、縁を切っているも同然であった。


だと言うのに、高遠家はまだその存在に囚われている。両家の祖母同士が同じぐらいの年頃の為、よく比べられたらしいが、所詮は他人の言い分であり、気にする必要はなかったのに。四条の祖母と比べられた高遠家の祖母は、その子供達も比べられ、そして、そのまた孫達まで比べられるかもしれない、と…躍起になっているのかもしれない。それでも、()()()()()()()()()には…ならない。


日本に帰国した私達は、箏音とお別れをした時に手紙を出す約束をし、彼女も帰国してからも、時々手紙を出してくれる。四条家の人間としてバレれば、彼女の祖母が取り上げてしまうことも考慮し、幸いにも、北城家(きたしろけ)の名は知られていないので、四条家の名は一切出さずに、祖母に習い事を教えてもらっている、と濁して書いていた。中身も、バレないようにと細心の注意を払い、気を配って。


箏音からの手紙には、()()()()()()()と書かれていた時など、胸が苦しくなったものである。『ショウちゃん』という人物の婚約者候補になったと、嬉しそうに報告が来た時には、私も心から安心した。その『ショウちゃん』は、彼女の日本での幼馴染でもあり、初恋の相手であり、婚約者候補でも嬉しそうであった。但し、年をるとともに、その彼について書かれた内容には、私達も心を痛めていた。


 「最近の彼は、素っ気ない態度が多く、私には、彼が何を考えていらっしゃるのか、よく分からなくなりました。私の事がお嫌いになられたのでしょうか?…其れとも、他に好きな方がいらっしょるのかしら?…私は今後、どうすれば…よいのでしょう?…私が身を退くのが一番良いとは知っております。ですが、お祖母様が…お許しにならないでしょう。」


私はこの手紙を読んだ時、相手の婚約者候補を殴ってやりたい、という衝動に駆られたものだ。こんなにも彼のことを慕う箏音を、大切にしないとは…。私はすぐに彼女に会いに行ったけれども、案の定会わせてもらえなかった。仕方なく、近くの寮に住んでいて融通が利く葉月に頼み、彼女への伝言や励ましを、弟に託すことにした。そう言う理由で箏音と葉月は、つい最近も会っていた筈である。


まさか箏音の初恋の相手が…飛野(ひの)だったとは。知らなかったとは言えど、飛野は…結構良い奴だと思っていたから、裏切られた気分だったんだよね…。

()()()…殴らなかった私を、誰か褒めて欲しいぐらいだよ。……本当に。

 夕月視点の番外編です。学苑祭で初登場した『箏音』ですが、かなり印象が悪いと思いますので、名誉挽回の機会として、夕月と箏音が出会った当初の頃も含め、夕月から見た箏音を書いています。序でに、四条家と高遠家の確執についてもですが。(学苑祭直後に、夕月が未香子に語っています。今回は、その理由も述べられています。)


こうやって見ると、箏音は思ったよりも…可哀そうですね。

どんな形でもいいので、報われるといいのですが…。


夕月が、晶麻に対して其れなりにお怒りモードです。……晶麻くん、ファイト!

葉月は、箏音と時々会っていた為、箏音は…夕月の完璧男装姿を見て、葉月と間違えました。これも、学苑祭での裏話なんですよ。


※『夕月』を『ゆづき』読みする場合は、最初だけ『ゆづき』と振った後、その後

 にはルビを振っていません。その場合は、全てこの読み方でお願い致します。

 『ゆづ』読みの場合は、必ず振っておりますが、稀にルビを振るのを忘れている

 かもしれません。

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