番外 秋祭りの裏話
秋祭りのお話の裏話となっています。
ある人物からの裏側のお話として、語られています。
秋祭り中にあった暴力シーンとかは、ここでは語られていません。
ご安心くださいませ。
僕は今回の帰省でも、一計を案じている。前回の夏休み中の帰省では、未香はだいぶ葉月と打ち解けたようである。これならば、未香も、漸くあの事件から乗り越えられるのではないか、と僕は確信を持っていた。このまま未香が彼女と一緒に居たとしても、友達としてならば特に問題はない。但し、彼女に恋をしているのならば、2人が幸せになることはないだろう、と思っている。彼女は優しい子だから、未香が求め続ける限り、それを叶えようと無理をすることだろう。けれど、僕はそんな2人を見続けたくなかった。2人には…幸せになってもらいたい。
しかし、未香はあの幼少時の事件以降、完全に男性恐怖症になっていた。
最近はだいぶマシになっているのだが、それでも、家族や家族同様の付き合のがある男性にしか、心を許せないみたいだった。到底1対1では、話をすることさえ出来ないようである。その点、葉月に対しては当時から、あまり怖いという印象がないらしく、葉月自身も未香のことを心配しているし、ある程度の好意は持っているようなんだよね。これほど好都合な相手は、他にいないだろう。つまり、僕は、未香と葉月をくっ付けようと、真剣に考えているのであった。勿論であるが、恋人としてである。
その為、秋祭りの計画に関しては1人で立てており、実行に移そうと考えていた。
いつもは葉月と、色々と計画を練っているのだけど、今回は葉月は当人である。
葉月には適当に誤魔化して、計画を伝える。葉月は根が真面目だから、僕が何か策を練っていると気付いていても、自分が利用されていることには気づかない。
流石に…彼女は気が付くだろうから、この際、彼女には計画に協力してもらおう。彼女は未香が葉月を選ぶことには、元々反対しない筈だし…。
「君には是非とも協力してもらいたい。秋祭りではなるべく、葉月と妹を2人っきりにしようと思っている。それには、君の協力が絶対に必要なんだよ。お願い出来るかな?」
「朔斗さんの仰っておられることは、理解出来ますわ。でも、少し強引なのではないでしょうか?」
「確かに、少々強引かも知れないね。それでも、未香には多少の強引さも必要だと、思うよ。未香が幸せにならないと、僕らは誰も…幸せには、なれないだろうからね。葉月だったら…未香を任せられるよ。」
僕は正直に話し、彼女に協力を仰いでみる。彼女は、僕の話を黙って聞いていた。最後まで話を聞いた後、僕の計画には理解出来るけど、協力するのは難しいと言いたげであり、難色を示して来たのである。思った通り、未香に甘い彼女は、全面的には賛成してくれない。しかしながら、僕も、そう簡単に諦める訳にはいかない。このままでは暗に未香が幸せになれない、と伝えることで彼女を揺さぶれば、彼女は眉を顰めて黙り込む。
彼女も、いつまでもこのままではいけないことを、本当は知っているのである。
未香にとっても良くないことである、と。全ては妹の為である、と彼女に言い聞かせるようにして、無理やり実行したのであった。
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葉月は上手く、未香のエスコートをしているようである。何か遭ったとしても、葉月が一緒に居るのであれば、全く心配はしていない。それは、彼女も同じである筈なのに、偶に未香を探すように視線が彷徨っている。そんなに…何を心配をしているのかな?
「何をそんなに心配しているの?…葉月と2人にしたのが、そんなに心配なのかな?…それとも、違う心配なのかい?」
「それは……。葉月は…真面目過ぎて、融通が利かないところが少々ございますのよ。未香子が不安になっていないかと、心配…なのですわ。」
水族館に4人で遊びに行った時も、彼女は妹の心配をしてばかりで、2人の姿が見えなくなる度に、妹達を目で追っていたっけ。僕だって…妹達のことは心配なんだよ。しかし、相手は…あの葉月なんだよ。未香の嫌がることは、絶対にしない。
そういう点でも安心しているんだよ。彼女もそういう点では、全く心配していないようだけどね。
要するに、彼女の心配は、弟の気が利かない態度を、気にしているということだ。真面目過ぎて気が利かないと、未香子を不安にさせたり怒らせたり、若しくは、悲しませるかもしれない、と。まだ2人が近くに居れば、フォローも可能なのにと、離れている所為で憶測しか出来ないのが、彼女の不安を煽っているようだ。
心配するなと言葉を重ねても、頭では理解は出来ても、そう簡単にはその通りだと思うことは出来ないし、心配事が全てなくなる訳でもない。人間である以上、頭で理解する事柄と行動しようとする事柄とは、同一にならないものである。
彼女の不安を取り除く為には、後は…僕が行動を起こせばいいのだ。彼女の不安要素が、少しでも軽くなるように。
屋台で食べ物を買っては食べ歩き、夜店で金魚すくいや射的は勿論、風船つりや輪投げなどのゲームも、一緒に挑戦してみたんだよ。彼女は、とても器用だから、どれに挑戦しても、僕の出番がないほどである。それでも、僕も挑戦しては、2人で勝ち取った物を交換して、後で更にこの戦利品を、妹にも分けてあげようと思っている。未香は、彼女が取った物だと言えば、喜んで貰ってくれるだろうね。
「朔斗さん。わたくし、そんなにも沢山は…いただけませんわ。もう、わたくしの分は…十分でしてよ。」
「うん。そうだよね。ごめんね?…僕が沢山食べるから、無理につき合わせてしまったよね?…しかし、君はもう少し食べた方が良いとは、思うけどね。」
「…いえ。もう、これ以上は…。これが、限界なのですわ。」
「そうか…。余りにも身体の線が細いから、もっと食べた方が良いと、思ってしまうんだよ。僕が、一方的に思い込んでいたようだ。…許してくれる?」
「…はぁ。まぁ…。別に、本気で怒ってなど…おりませんわ。ただわたくしは、これでも標準的なのですわ。朔斗さんこそ、そんなにも沢山召し上がられて、全く太らない体質で羨ましいというよりも、不思議でしてよ?」
「うん。僕の場合は、病気みたいなものだからね。」
暫く2人で食べ歩きをしていたら、彼女がこれ以上は食べられないと、心底困ったような表情をして僕を見上げてくる。彼女は標準の体型だというけれど、僕から見れば細過ぎだと思うんだよね…。僕はごく普通の人よりも、沢山食べれる体質でもあるからか、余計にそう思ってしまうのかもしれないが…。許しく欲しいと言いながら、眉を思い切り下げて悲し気に謝れば、彼女は別に怒っていないようだった。どちらかと言えば、僕の食欲を不思議に思っているのだと。僕も自分の食欲がおかしいとは、気付いている。一種の病気のようなものだと、僕も最近になって知った事実ではあるのだが。
学校の寮に入ってからは、将来の為に少しでも色々な情報を得たくて、テレビの番組もニュースだけではなく、お笑い番組やドラマなども、種類を問わずなるべく目を通している。そうして得た情報の中に、実は僕と同様の人達が、テレビで見かけるようになっていた。所謂、大食い関連の番組である。その番組に登場する、大食いの人達と、僕の症状はよく似ていたのである。
但し、正式に病院に通院して、診断を受けた訳でもなく、検査をした訳でもない。
症状がよく似ているというだけだ。別に、満腹を感じにくいと言うだけのことで、そう不便もない。僕の場合、それほど大食いという程でもなく、他の人よりは沢山食べるというだけである。昔から甘いものも割と平気であり、お腹に溜まるものならば、何でも食べてしまうぐらいである。そのぐらいは、見逃して欲しい。
自宅ではこれまでも何も言われたことがなく、自分でも全く気が付かなかった。
しかし、寮に入ってからは驚かれることが増え、「この量は普通じゃないよね?」と葉月にも言われてしまった。しかし、テレビで大食いと言われている人物達は、何キロも食べているようだけど、見た感じ…僕は半分ぐらいだよ。但し…甘いお菓子を沢山食べるから、そう言われたのだと思っている。正直言えば、自分だけかと不安に思うこともあったけど、他にも同様の人達がいると知って、救われたかな?
彼女は…どう思ったのだろうか?…僕が病気かもしれないと聞いて、普段は冷静な彼女も少しは…動揺してくれているのかな?…そうだったら…嬉しいな。
僕の方をジッと見つめるその瞳には、不安げな色が時々、見え隠れしているように感じた。普段は何をどう思っているのかでさえ、態度に殆ど出さない彼女。
この時ばかりは、ホンの僅かに感情を出しているようで。
彼女の瞳に映った自分を、僕は見つめ返して。彼女に心配されることに、心から嬉しいとさえ感じている。彼女がそういう素振りをすることに、喜んでしまっている自分は、何て不謹慎な人間なのだろうか。心配されている状況を、好ましく思っているなんて。それでも、誰が何と言おうとも、自分の心に素直で居る僕は、後悔だけはしていない。いや、本気で後悔するぐらいならば、僕は…嘘を平気でつくのだろう。僕は…腹黒い人間なんだと思う。
その純粋な瞳が誰かの姿を映すのを、不満に思ってしまっている自分が居る。
例え、それが妹であったとしても、彼女の弟だったとしても。
願わくは、その瞳に僕の姿を留めてほしい、と。
秋祭り中の裏側のお話で、朔斗視点で語られているものです。
朔斗達の方はこんな感じでした、という出来事も語られています。
朔斗の策略で、秋祭りに行ったという内容でしたね。彼は自分でも言っておりますが、腹黒い部分も持ち合わせているので、夕月とは違う面での策略家ですね。
『君の騎士』に登場する人物では一番、表と裏がある人間だと思われます。




