95話 秋祭りのその後に
秋祭りのお話、part8ですが、副タイトルは変えました。
やっと秋祭りのお話は、これで完全終了です。
前回は、暴力シーンがチラッとありましたが、今回はその結末程度です。ご安心くださいませ。
秋祭りの終了直後に、知らない男達に絡まれた私達。お兄様と葉月の2人だけで、呆気なく…ケンカに勝ってしまわれましたわ。いつの間にか、葉月は、この会場の警備員を、スマホの電話を使って呼ばれておりました。本当に、いつの間に…されたのでしょうね?…わたくし、呆然としていたつもりはありませんのに。
男達は、葉月が呼んだ警備員達や会場の大人の人達に、肩を掴まれたり固まれたりして、逃げられないようにして連行されて去って行く。男達の後ろ姿が見えなくなると、改めて…ホッと致しますわ。安全になったことを確かめてから、夕月は私から離れ、私達4人は帰る為の片付けをしていた。
秋祭りに来た時と同様に、葉月が私の手を引いて歩いている。人混みはまばらで、それほど混んでいないというのに、手を繋いで歩くのは…おかしいのでは…?
ふと前を歩く兄と夕月を見れば、2人も同様に手を繋いでいる。夕月は苦笑しておりますけれども。…もう!…本当に…お兄様も葉月も、心配性過ぎますわよ。
このぐらいの人混みでしたら、迷子にも危ない目にも遭わない筈ですわ。
お2人共、私達を…子供扱いし過ぎなのですわ!…ぷんぷん!
私はむっとしてぷくっと頬を膨らませては、黙って歩いていた。何となく気恥ずかしくて、前を歩いている夕月とお兄様には、見えないでしょうけれど、このぐらいは許される筈ですわ。しかし、葉月には…しっかりと見られてしまった、模様ですわね。葉月は歩きながら、私にしか聞こえない程の小声で、私に話し掛けて来て。
「もしかして…怒ってるの?…そんなに…夕月と手を繋ぎたかった?…ごめん。今日は朔兄が夕月をエスコートしたいと言うから、僕は…譲ったんだよ。代わりに僕が、未香子のエスコートすることになったんだけど、未香子は…嫌だったよね?この会場を出て車までだから、あと少し我慢してほしい。今日は夕月があの着物姿だから、朔兄にはいざとなったら、守ってもらう必要もあったんだよ。そうでなければ、夕月は女性の浴衣姿であっても、君を守る為にケンカしそうだからね。夕月を本気で止めるつもりならば、朔兄の方が適役なんだよ。僕では…姉を止められそうにないから…。」
…ああ。そうなのですね。葉月とお兄様は、私達の安全を何よりも気に掛けてくださっていたのですね。私が怒っている理由を、勘違いしている葉月は、悲し気な表情でしたわ。葉月の言っている言葉がよく理解出来るだけに、私は返答に詰まってしまって。確かに、この組み合わせならば、女性姿の夕月が無理する必要はない。葉月が止められないというのも、双子と言えども葉月は弟であり、夕月には逆らえないぐらいに弱いのが理由ですわよね。(力関係ではなくて、姉を溺愛していると意味で、ですわよ。)
そもそも…私が怒っている理由は、違っておりますのよ。私が怒っている理由を、夕月と引き離されたから、と葉月は考えているようですが。葉月とお兄様が、私を子供扱いしていること、私が迷子になること、これらを危惧されているのだと思っておりましたのよ。他に…手を繋ぐ理由なんて、あるのかしら?
「ねえ…葉月。私と手を繋ぐのは…私が迷子になると思っているからですの?…それとも…違う理由からですの?」
「…えっ!?……いや。流石に…もうそんなに人が混んでないし、迷子になるとは…思っていないけど?…寧ろ…転んだりするかな、っとは…チラッと思ったりしたけどね。それよりも…手を繋ぐ理由が必要なの?…普段からいつも…夕月と繋いでいるよね?」
「………えっ?!…もしかして…夕月といつも繋いでいるからなの?!…他には理由が…ないんですの?」
恥ずかしい気持ちを我慢して、手を繋ぐ理由を訊きましたのに…。意外な言葉が…返って来まして……。私はギョッとして、歩く足を止めたてしまう。目をこれ以上開けられないくらいに大きく見開き、返す言葉もないほどに絶句する。
まさか、このような理由が返って来るとは。私が何もない所でよく転ぶとは、よく夕月が揶揄う言葉でもあり、葉月も揶揄っているのかと思いきや、手を繋ぐ理由が他にいるのかと、逆に言われましても…。それは…普通は繋がないでしょう?
…としか、言えませんわね。葉月は…私(=女子)と抵抗なく、手を繋げるということですの?
私が動揺した様子で立ち止まったのを、葉月は心底不思議そうに見つめて来る。
これは…何がいけないのか、分かっていないご様子ですわね…。
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葉月は物凄く真面目で、勘違いされるようなことは、絶対しないような気がしていましたのに、案外と無自覚なところが…あるのでしょうか?…夕月と繋いでることと葉月と繋ぐことは、全く別問題だと思うのですが、これを正直に葉月に伝えても良いのかどうか…。元々夕月と葉月では性別が異なりますし、そもそも夕月だから手を繋いでいたのです。私は、男子とは手を繋ぐことはありませんわ。
だって…あの時の恐怖が蘇って来て、怖いのですもの。ただ…葉月とは平気みたいなのですよね?…そのことが余計に、私を混乱させているようですわ。
私は、暫く呆然と葉月を見つめ返した後、ハッと我に返って。葉月に何でもないからと伝え、再び手を繋いだまま2人で歩き出す。夕月とお兄様は会話されており、2人はこちらに全く気が付いていない。ホッと、内心で溜息を吐く私。
最近、私と葉月の仲が良好なのが、夕月は嬉しい様子でして、時折…何か企んでいる顔をしていることもあったりする。だから…夕月には知られたくなかった。
特に理由がある訳ではなく、何となく…。
それにしても…葉月の言葉には、衝撃的過ぎましたわ…。私が葉月を嫌っていると思って、今までは近づかないようにしていた様ですし、それが思い違いだと分かった途端に、手を繋ぐ理由もないのに繋いでいた、という意味不明な行動を取られますし、これでは…私の方が、葉月に振り回されているような…。でも、これ以上何かを伝えて、それがまた誤解されるのも困ります。ですから、葉月と手が繋ぐのが嫌ではない以上、私から告げるのは…黙っておきましょうか。
私は、これ以上深く考えるのを放棄して、この問題に蓋をすることにした。
葉月が相手ですと、私がドンドンと混乱する事象になりそうですもの。自分の都合が良いように、前向きに考えることに致しましょう。幸運にも、葉月はこれ以上は何も聞き返して来なかったのですから。黙々と歩くのは気分が重いけれども、今はその方が…都合が良かったのですわ。
駐車場まで戻って来て兄の車に乗った後、そのまま自宅に帰宅することになった。夕月達も帰って行き、私も兄もそれぞれの自分の部屋に入った後に、暫くの間今日の戦利品を1人見つめていた。その戦利品を見つめていると、嬉しいような悲しいようなモヤモヤするような、今まで感じた事のない気持ちまで吹き出して来て。
言葉には出来ないけれど、何となく夕月に感じていた時とは、異なるものであり。
自分でも…どうしていいのか、理解すら出来ていない。
葉月に射的で取ってもらったぬいぐるみは、お部屋の中の机の上や棚の上に飾り、夜店で買って貰った小物入れは、机の引き出しに大事にしまうことにしたのです。そして…この小物入れの中には、遊園地で夕月が買ってくれたペア・アクセを、収納致しましょう。昼間に夕月が買ってくれた髪飾りは、このドレッサーに収納しましょうか。…そうそう。金魚すくいで葉月が取った金魚は、帰宅時に真姫さんに手渡して、後のことはお願いしましたのよ。庭の池で飼うことになるでしょうね。
金魚のお世話ぐらいでしたら、私もお手伝いしようかしら?…餌をあげるくらい、私でも出来ますもの。そう言いましたら、お兄様と夕月の2人共、金魚を持っていましたわね。あれは…お2人で沢山取ったご様子ですわね?…金魚すくいのお店の方が、赤字になっているかもしれません。お兄様も、変なところで負けず嫌いなのですから。夕月に負けないように…と、取ったような気が致します。
明日の午後には、兄も葉月も学生寮に帰ってしまう。そう思っているうちに、何だか…途轍もなく寂しい気持ちになって来て。確かに、毎回兄が帰省する度に、寂しいとは思っている。しかし…今回に限っては、いつもの倍ぐらいは、寂しく感じている私…。今日の秋祭りが楽しかった分、余計に。私は…どうしてしまったのだろうか?…心に棘が刺さったなモヤモヤした気分で、気持ちが悪くなりそうである。
自分の心なのに、自分の思うようにならなくて。原因をハッキリさせたいと思えば思う程、更にモヤモヤしてどんよりと重くなってしまう。
私は眠ることで、その嫌な気分を全てを忘れることにする。疲れていたのもあり、横になった途端にそのまま眠ってしまったいたのである。目が覚めると、次の日の朝になっていた。疲れも取れていて、昨日の私のモヤモヤもすっかり消えていた。昨日は…何をあんなに悩んでいたのかしら?…そう、思えるぐらいには。
明日からは、また元通りの日常が始まるのですわ。深く考えるだけ無駄ですわね。また明日からは、学苑祭の準備で忙しくなりますのよ。余計なことは…考えている暇はありませんわ。そう思えば、気分もすっかり晴れていたのです。
私はまだ…この関係を、崩したくなかったのでしょう。私にとって今の関係は、居心地の良いものなのですから、何時かは変わらなければいけないと思いながらも、それまでは…、と。
秋祭りの最後のお話、part8となります。
いつも通り、未香子視点となります。
この秋祭りで、また葉月に振り回されている、未香子です。葉月も未香子も、トンデモなく鈍い分野の人達かも?…遂に、未香子は先延ばしした模様ですが、これがこれから先に、どう影響するのか、といったところですね。




