9 二通の手紙
靴箱に手紙。絶滅危惧現象では?
陸野家に呼ばれた翌日。天はいつもの日常に戻っていた。
戻る、といっても、たった一日おかしな日があっただけだ。そもそも、戻って嬉しいものではない。
ただ、昨日の今日ということで、クラスメイト達は天のことを噂しているようだった。こちらを見ては、こそこそと何か話している。
どうでもいいと思った。いつものことだ、と。
授業を終えて、放課後。今日は生徒会で仕事があることを思いだした。
もっとも、仕事といっても、天にできることは何もない。きっと、斉藤あたりが上手くやってくれるだろう。
呼ばれていない会議に出るのも億劫だった。なので、まっすぐに下駄箱へ。
いつもならそこで靴を履き替えて、馴染みのパン屋に寄るのだが、今日はまたおかしなことがあった。
靴箱の中に、手紙が入っていた。それも、二通。
嫌がらせの類ではないかと、まず疑う。以前、一度この手の手紙に呼び出されたら、夜まで待っても誰も来なかったことがある。あの時は、自分の惨めさを痛感した。
なので、二つを開封しつつも大して読む気もなく目を通した。
「ん?」
内容を見比べていると、思わず声を上げてしまった。
どちらも綺麗な封筒、便せんに同じことが書いてあった。文章の詳細こそ違うものの、結末が二つとも同じなのだ。
「体育館横の、倉庫前で待つ……?」
素人目に見ても、筆跡が違う。書いたのは、おそらく別々の人物だ。だが、どちらも同じ文で締められているのは何故だろうか。
手の込んだ嫌がらせ、というのが一番確率が高い。そして、最も低確率なところに、ラブレターというものが位置付く。
無視してもよかった。どうせ、また不愉快なことが起こるのだろうと。
そこで、天はふと思い出してしまった。昨日の出来事を。
いきなり教室へ押しかけてきたと思ったら、結婚を強要した少女。紆余曲折あって、話が終わった別れ際。
うつむいたまま動かなかった様子は、巻き込まれた天から見ても、痛ましかった。
だからだろうか、自然と体育館まで足を運んでしまったのは。
誰かがいるだろう可能性などないのに。笑いものにされるだけなのに。
もしも待っている人がいたら、と思ってしまった。
横の倉庫といっても、別に人目に付かない場所というわけではない。
体育館からは簡単に見られるし、人の有無くらいは校舎からでも分かる。
ゆっくりとした足取りで、半ば怯えるようにもなりながら、天は体育館横へ着いた。
そこで、手紙よりもさらに不可思議なものを見た。
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