32 もしも自分が
ここで一区切りという感じです。
しっかりとアフタヌーンティーまで過ごしてから、天は海智留を送ることになった。
「すみません、あんなにご馳走していただいて」
「気にしないで。あれは、うちの両親がはしゃいでただけだから……」
食卓に出た、見覚えのない料理の数々を思いだして、ため息を吐く。
我が家のティータイムは、いつもならば煎茶だというのに、今日は紅茶が出てきた。
「ですが、きちんとご両親にご挨拶できました。これで、公認ということですよね?」
「えっ、そこ話進むの?」
「冗談です。残念ですが」
それでも、と続き、
「……ご迷惑をおかけした立場なのに、歓迎して頂けるとは思いませんでした」
「ああ、うん。まあ、それはもう解決したってことにしようよ」
「天さんは、もう気にしてないのですか? 死ぬところだったかもしれないのに」
それは、と口ごもる。確かにあれは、命がけだった。
だが、天もまた、それでも、と続け、
「俺はなんとか生きてるし。海智留さんには、その、迷惑だったのかもしれないけど」
また思いだす。海智留の泣き顔を。そして、邪魔しないで、という言葉を。
「迷惑でした、あの時は」
しばしの無言の後、海智留は言う。
「捨てることを決心したのに。皆さんには、ご迷惑をおかけしたでしょうけど。でも、私には、あの時、人生なんていらないものだったんです」
天は自分の中から言葉を選ぼうと思った。海智留の告白を受け止めるつもりで。
だが、天には良い言葉が思いつかなかった。自分とて、人生を謳歌しているわけではない。
「……そう」
拒絶ではなく、受け入れるつもりで、返事をする。
「天さんは、事情を聞かないんですね」
「聞きたくないわけじゃ、ないけどね。でも、今の俺じゃ、聞いても気の利いたこと、言えそうにないから」
「恨んだり怒ったり、普通はすると思うんですけど」
「そう、なのかな。俺には、その普通っていうのが分からないや。別に、海智留さんに嫌な気持ちはしない。最初は驚かされたけど」
出会った翌日を思いだす。助けた責任を取れ、などと言われるとは思っていなかった。
「なら、まだ驚いているだけなのかもしれません。落ち着いたら、私のことが嫌になるかもしれませんよ」
意地悪な言葉に苦笑する。
「どうかなあ。むしろ、海智留さんが俺のことを嫌うんじゃないかって思ってるけど。だって、俺が学校でなんて呼ばれてるか知ってるでしょ?」
「生徒会長って、普通はなれないものだと思うんですけど。すごいじゃないですか」
「でも、ただのお飾りだ。仕事は何もしてないし。しようと思ってた時もあったけど、出番はなかったから」
天がいなくても、生徒会は回る。有能な副会長が、全て取り仕切っている。
「謙遜しなくていいと思います。天さんは、人の命を救ったんです。そんな人に、何もできないはずがありません」
「そうかなあ?」
「そうですよ」
海智留の言葉を聞いて、もし、と天は思う。
もし自分が、もっと生徒会と向き合っていれば何かが変わっていたのだろうかと。
二人の足が止まる。話込んでいたら、いつの間にか海智留の家に着いてしまった。
「もう着いてしまいました」
もっと話していたかったのに。そう言われた気がする。
「今日もありがとうございました。上がって行かれますか?」
「いや、今日は遠慮しておくよ」
素直に別れるのが惜しいと思いつつ、天は本を預け、
「またね、海智留さん」
「はい、また明日、天さん」
家の中に入る海智留を見届けてから、天は歩いた。
もし、と湧いた疑問を考えながら、家に帰った。
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