俺はただ……
どうして?
ねぇ……どうして?
あぁ……またかと思いつつ俺はパソコンのワードを立ち上げた。
いつもそうだ。俺が少しでも怒りを他の物にぶつけているとこいつは僕にしか聞こえない声で囁いてくる。
家族にも友人にも他人にも自分にさえ見えない怪物。男だが女だが知らないがいつもいつも人が気分の悪い時に限って問いかけてくる。
「今日は何に怒っている?」
「別に」
「じゃあ……どうしてそんなにイライラしている?」
「知らねーよ」
そう答えながら俺はいつも通りストレス発散とばかりに罵詈雑言をパソコンのワードに書いていく。
「今日の内容は友人の話?」
「ほっとけよ。お前には関係ない話だろ」
「まぁそうだけど」
俺は言い表せない感情にイライラしつつ思いのまま書き込んでいく。
「ここに書いている友達が何かしたの?」
「した」
「どんなこと?」
「俺を仲間はずれにした」
「それだけのことでよくもまぁこんなにかけるね?」
「根暗だと思ってるんだろ?そうだよ。根暗だよ?悪いか?」
「ぜんぜん」
俺がさらに書き込んでいくとぴたりと手が止まる。
「どうしたの?今日は文章で発散してるんでしょう?」
「……書きたくない」
「なにか思い当たる節があったの?」
「わかんねぇ。でも――」
「じゃあいつものように私と話してまとめてみる?」
俺は内心舌打ちしていたが、いつものことなのでワードを閉じて腕を組みながら目を瞑る。
「今回の怒りの原因は何だったの?」
「……あるグループで連絡取り合ってたんだけど急に連絡が減ってきたからなんでだろ?って思ったら俺だけ外されたグループが作られてたんだよ」
「うわぁ……それはきついね」
「でも正直俺なんかとしばらく話してくれていただけでもありがたかったからそこにはおこってねぇよ」
「そうなんだ?」
「実際小さいころからそうだったしな。仲良くなってもしばらくするとギクシャクしてくるんだよ。なんでかわかんねぇけどな。何とかそうならないように努力したらむしろいじめられるようになったこともあったからもうあきらめてるけど」
「いろいろあったんだねぇ……」
「別にいいけどな」
「じゃあなんで今回はイライラしてんの?」
「……わかんね」
「なにそれ?」
「わかんねぇんだよ。ただ……仲良くなれたと思ってたやつがいつの間にか俺の連絡先消しててさ。なんで消してんだよって聞いたらそいつ笑って『あー……すまん。お前のだったっけ?』っていうんだよ」
「……」
「笑っちゃうよな?今更1人や2人離れようが別に大差ないくせに今更こんなことでイライラしてるんだぜ?だから友達できないんだっつーの」
「君は本当にそう思ってるの?」
「あ?あー……そうだな。ネットでの友人だってそうだろ?しばらく仲良くしていててもどうせそのうち掌を返したように消えるんだ。友達なんていていないようなもんだぜ」
「じゃあなぜその人が消えた時、君はイライラしたんだい?」
「……」
「それはきみがその人のことを――」
「そんなわけねぇ」
「でも――」
「俺はあいつを友人なんて思ってない。あいつはただの知り合いだ。今までだってこれからだって友人なんて――」
「思っていたんでしょう?」
俺は言い返せなかった。なぜかはわからない。ただ自分で否定すればするほど胸が苦しくなった。
「思っていたからこそ裏切られたと感じて苦しいんでしょう?」
「違う……」
「君はその人と話していてすごく楽しそうだったじゃないか?たわいない馬鹿な話なんかしたり友人の失敗談なんか聞いて馬鹿みたいに笑ってさ。君にとって彼はまた作ることが出来た友人だったんじゃないのかい?」
「違う」
「そんな彼だからこそその行為が許せなかったんじゃ――」
「違う!!!」
俺は思わず声を張り上げていた。はっと気づいた時にはすでに遅く、しまったと思いながら下の階に耳をすませるが何も聞こえてこなかった。どうやら家族は買い物にでも出かけたらしい。
「否定しすぎだよ」
「お前が的外れな事ばかり言うからだろ」
「そうでもないとおもうけどな~」
「俺はあいつの事なんて――」
「嘘つくのをやめたら?」
「嘘?」
「うん。心に嘘ばっかりついてたらいつか壊れちゃうよ?」
「何がだよ?」
「心がだよ」
「はぁ?心が壊れる?」
「うん。だから素直になった方がいいと思うよ?」
「……」
「ワードにかいてた内容読んでたらすぐにわかるよ」
「どういうことだよ」
「君ってばいつも文章に書きだすとだいたいが自分への罵詈雑言になっているけど今日の文章の中に君じゃない相手に残していた文章があったじゃない。『裏切られた』ってさ」
「そんなこと書いて――」
「その文章こそきみがイライラしている答えだよ」
「……」
「君は友人だと思っていた人に裏切られたから怒っていたんだよ。そしてあの時怒れなかった自分に対してイライラしてたんだよ」
「俺は――」
「君の心がいくら慣れているといってもね。辛いものは辛いんだよ」
「……しかたねぇじゃんか」
「……」
「あいつには俺より大切な友人が出来たってことだろ?それを責めたら――」
「怖い?縁を切られるのが」
「……」
「でもそれは――」
「わかってるよ。俺が責めようが責めまいがあいつと俺は終わったんだって……でもみとめなくねぇじゃんか。だって久しぶりに出来た友人だったんだぜ?あいつの周りにはいつもたくさんの友人がいて俺もそこに入れてもらてたんだ。でもある日突然みんなして俺と話さなくなっていってあいつまでも俺から遠ざかっていったんだ」
いつの間にか俺の目には涙が溜まっていた。その時初めて理解できた。あぁこれが俺の素直な気持ちなんだって。
「俺はあいつと友達でいたかったんだよ。もっといろいろ話したかったし、笑いたかった。好きなゲームやスポーツなんかして楽しんだりもしてみたかった。大人になってからも飲みに行ったりして愚痴を言い合えるような仲間になりたかった。でも……でも……」
「でも?」
「やっぱり俺は独りぼっちになったんだよ……」
俺は気づいた。気づいてしまった。
俺はただ……あいつと友達でいたかったからこんなにも苦しかったんだと。
「やっぱりお前は――」
「はい?」
「お前は……俺の怪物なんだな」