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彼女のdiary  作者: 水谷一志
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五 たった1人の君だから

「もし、俺の考えが正しければ、明日、史香に会えるかもしれない。」


夕方家に帰った優であったが、いろいろ考えているうちに、その日は夜になってしまっていた。そして、優ははやる気持ちを抑えながら、その日、眠りについた。





 次の日は、少し雲はあるものの、晴れた1日となった。そして優は、夕方、史香に会うために、とある場所へと向かった。


 「やっぱりここにいたんだね。久しぶり、史香。」


「…久しぶり、優。」


そこは、優と史香が以前デートで訪れた、遊園地の観覧車の前であった。


「…どうしてここが分かったの?」


史香は、優に質問した。


 「史香の日記帳だよ。


 その前に、史香に謝っておかないといけないね。」


優は、遊園地まで持って来ていた史香の日記帳を出しながら、言った。


「俺、この日記帳、大学の講義室で発見して、ちょっと気になっちゃって、中身、読んじゃったんだ。


 勝手なことしてごめんね、史香。」


「ううん、いいよ。」


史香は答えた。


「それで、のりづけされた部分も、史香の伝言通りに、カッターで切って読んだよ。


 その話は後だね。それで、どうしてこの場所が、分かったかだけど…。


 俺、気づいたんだ。この日記、よく考えてみると不自然だよね?」


「どういう所が?」


「この日記の文面によると、史香が俺と付き合い始めてから、この日記を書き始めた、ってことになってるよね?」


「うん、そうだよ。」


「それで、史香は日記を書くのが苦手、ってことも書いてあった。


 でも、それにしても不自然なんだ。だって、この日記の中にある内容、6日分しかないよね?


 一応、俺たち付き合い始めてから、1年以上経つじゃん?それでその間、2人でいろんな所へ行ったよね?それにも関わらず、今までの日記のエピソードが、6日分だけだなんて、よく考えると不自然だよ。いくら、史香が日記を書くのが苦手だ、って言ってもね。」


「それで?」


 「それで俺、考えたんだ。この日記帳は、前から書いてあった史香の日記帳の、大事な所だけを抜き出して、書き写したものなんじゃないか、ってね。


 もちろんその目的は、俺に読んでもらうため。


 それでわざと、史香は誰かに頼んで、講義室に日記、置いてもらったんじゃない?その誰かは…、多分だけど、俺の考えでは真紀ちゃんかな。だって、史香の伝言をくれたのも、真紀ちゃんだったからね。」


 史香は、真剣に優の話を聴いていた。


「それで、どうしてこの場所が分かったか、だけど…。


 『ラッキーカラー』だよ。


 これは推測だけど、占いが好きな史香のことだから、史香の、書き写す前の方の日記帳には、ラッキーカラーについて触れた部分が、もっとたくさんあると思うんだ。でも、今回俺が読んだ日記帳の中には、ラッキーカラーの記述は、1カ所だけだった。それは、…情熱の赤。そしてその時の日記の時間帯と場所は、夕方の、この遊園地で、そこでの1番の思い出が、この、観覧車。


 どうしてラッキーカラーで場所が分かったか、っていうと、それはのりづけされた日記帳のページと、関係してるかな。あそこには占いのことが書いてあったんだけど、のりづけして隠す、ってことは、そこが重要な意味を持つ、ってことだよね?


それで、そこをのりづけした理由の1つは、そこが場所を指し示す、暗号になっている、ってこと。それで、日記の占いの所を見たんだけど、さっきも言ったように、占いの記述は、ラッキーカラーの赤の部分、この遊園地の部分しかなかった。だから、この場所が分かった。


どう、合ってるかな?」


「話、続けてくれる?」


「ごめん、そうだね。


 それで、のりづけされた部分には、占いのことが、書いてあった。これは、多分、元の方の日記帳にも、書いたことだと思う。占い好きの史香は、その評判の占い師の所へ、ドキドキしながら向かった。


 それで、そこのドアを開けると…、中にいた占い師を見て、驚いたんじゃないかな?」


「うん、驚いたよ。だって、前に優と一緒に、荷物を運んであげたおばあさんだったんだもん。」


「それで、そのページをのりづけした、もう1つの理由だけど、それは俺を、その占い師のおばあさんの所へ行かせるためだった。だって、のりづけされたページを見せられて、それで、


『その部分、読んでもいいよ。』


って言われて読んだら、占い師の場所が書いてあった。…これなら、誰でも、その占い師が何か知ってるんじゃないかって、思うもんね。


その後すぐに、俺もその占い師の所へ行ったんだ。それで、俺も驚いたよ。」


 優の説明は続いた。


「でも、それ以上に驚いたのは、占い師のおばあさんの、力量だった。俺もちょっと見てもらったんだけど、すごいよね、あのおばあさん。誰も知らないような、最近起こった俺の出来事とか、簡単に当てちゃうんだもんね。」


「うん、確かに。私も、いろいろ当てられて、びっくりしちゃった。」


「なるほどね。


 それで、史香はその占い師のおばあさんを、信用した。


『この人の占い師としての力は、本物だ。』


そう思ったんじゃない?」


「うん。」


 「それで、史香は、これからの運勢を、占ってもらうことにした。


 内容は…、俺と史香の、相性、運勢について。」


優は、説明を続けた。


 「それで、相性とかを占ってもらったんだけど…、結果は、最悪だった。


『えっ、私たち、こんなに仲がいいのに、何がいけないんですか?』


そんな内容のことを、史香はおばあさんに質問したんじゃないかな?


 それで史香は、こう言われた。


『お2人さん、仲がいいみたいだねえ。それは、結構なことだ。もちろん、2人の相性は、全然問題ないよ。ただ…、


 相手の男の子の実家、町工場だそうだねえ。そこの経営、うまくいっていないみたいだね。このままの形で2人が付き合っていくと、運気が逃げて、その男の子の実家の町工場、これからもっと業績が悪くなるよ。』


ってね。」


そう語る優の肩には、少しばかり力が入っていた。


 「それで、史香はびっくりした。確かに、俺は以前史香に、うちの実家の町工場の経営が、うまくいっていないことは話してあった。だから、史香もそのことは知っていた。でも、この占い師のおばあさんには、そんなこと、一言も言っていない。それを、俺の実家が町工場、ってだけでなく、業績が悪いことも当ててしまうなんて…、史香は、やっぱりこのおばあさんは、ただものではない、そう思った。


 それで、史香はこんなことを言われたんだ。


『あんたたち、今すぐ別れた方がいいよ。そうしないと、運気が逃げる一方だ。そのうち、男の子の実家、倒産してしまうかもしれないよ。』


ってね。」


優の語りは続いた。


 「でも、史香は、俺とは別れたくなかった。…って、俺が言うのも変だけどね。まあそれはさておき、史香は迷った。


『確かに、このおばあさんの占いは当たる。だから、運気が逃げる、っていうのも、的外れではないだろう。でも、ここで優と会えなくなるのは、嫌だ…。』


 史香はそう思ったんじゃないかな。それで、そのおばあさんに、


『何とかならないですか?』


って、質問した。」


優は、少し照れながら、この部分の説明をした。


 「それで、史香はおばあさんに、こんなことを言われたんだ。


 『何とかする方法なら、1つだけあるよ。今からそれを説明するからね。


 まず、やっぱりどうしても、あんたたち2人は、別れないといけないね。そうしないと、運気をリセットできない。だから、一旦は別れるんだ。


 そしてその後、しばらくは、自分からその男の子に会っちゃいけないよ。ちょっと辛いかもしれないけど、我慢するんだよ。


 それで、あんた、日記をつけてるよね?』


『はい、つけてます。』


『その日記帳の、大事な所だけを抜粋して、書き写して、新たな日記帳を作るんだ。それで、その新たな日記帳、友達か誰かに頼んで、その男の子が行きそうな所に、置いてもらう。それで、その男の子が、あんたの日記帳に気づいて、読んでもらえるようにするんだ。』


 その後、史香はおばあさんから、日記帳のアドバイスや、さっき言った居場所の暗号のアドバイスを受けた。もちろん、真紀ちゃんに伝言を頼んだのも、その関係だね。それで、史香は、大学の講義やサークルを休んで、俺が、そのことに気づいて、ここへやって来るまで、毎日、この時間に、この場所で俺を待っていた…。


 これが俺が昨日の晩、ない知恵を絞って考えた推理。


 …どう、合ってるかな?」


優は、説明を終えた。


 「すごいね優。名推理。


 …じゃあ、私からも話、させてね。


優がさっき言ってくれたこと、ほぼ正解です。確かに、私は占い師の、おばあさんの所へ行きました。それで、占いをしてもらった。そこでは、こんなやりとりがあったんだ。


 『でも、もし優、…私の彼氏の大野優が、書いた日記帳を見つけられなかったり、そこまで考えることができなかったりしたら、どうすればいいんですか?』


『それは仕方ないさ。その時は、諦めるんだね。』


『そんな…。』


『ところでお嬢さん、運命、って信じるかい?』


『運命、ですか…。私は本当に占いとかの類が好きなので、運命、あればいいなと思います。


 でも、今はこうも思います。運命、っていうのは、元からあるものじゃなくて、自分たちで作っていくものでもある、みたいな…。うまく言えないけど、私は優と出会って、運命を感じています。でも、その運命は、単に与えられたものだけではなくて、これから、2人で築き上げていくものだ、とも思います。そうやって、2人の絆が深まって、『運命』なるものも、深くなっていくんじゃないか、私は、そう思います。』


『立派な考えだね。じゃあ、私からもう1つ、アドバイスを送るよ。


 あんたがそれだけ、運命を感じる人なら、相手の男の子のこと、信じてみたらどうだい?もちろん、この計画は失敗するかもしれない。あんたがさっき言った通り、日記帳を、男の子が見つけるとは限らない。それに、日記帳を見つけても、男の子がそれに隠されたメッセージに、気づくとは限らない。 


 でも、あんたがそこまで好きな男の子なら、信じてみる方がいい。男の子の運を、それと、男の子の頭を。それを信じることができないなら、端からそんな縁、運命だなんて言えないと、あたしゃ思うけどね。


 ちなみに、さっきも言ったけど、あんたと男の子、相性はばっちりだよ。あたしゃ今まで何人も、人を見てきたけど、これほど強い絆、そうはなかったよ。だから、私はあんたと男の子の絆、信じていいと思うよ。


 これで、あたしからのアドバイスは終了だ。もちろん、この計画も含めて、今日あたしが言ったこと、聞かなかったことにしてもいいんだよ?どうしても男の子と別れたくないなら、それも1つの手だ。


 また何かあれば、いつでもここにおいで。』


 それで、私は迷ったんだけど、やっぱりおばあさんのいうこと、正しい、って思った。それで、おばあさんの提案してくれた計画を、実行することにしたんだ。


 もちろん、私は、優のこと信じてた。優との絆、優との運命、優との全部を信じてた。…信じてたんだけど、本当は、優がここに来てくれるか、不安で、優が、他の女の子の所に行っちゃわないか、不安で、不安で、本当は、ホントは…。」


史香は、泣きながらこう言った。そして、優はそんな史香を、優しく抱き締めた。


 「泣かないで、史香。俺も、史香との運命を、信じてる。俺、史香と別れて、こう思ったんだ。


 『やっぱり俺には、史香しかいない。史香こそ、俺の運命の人だ。たった1人の史香だから、たった1人の君だから、愛してる。』


ってね。」


 優は、史香の耳元で、こう囁いた。そして、史香を優しく引き離した後、こう言った。


 「それに、俺、夢ができたんだ。俺、将来は、俺の実家の町工場みたいな、中小企業を支える、銀行員になりたい!それで、経営の苦しい企業を助ける、そんな仕事がしてみたいんだ。


もちろん、銀行員になるためには、もっともっと勉強しないといけない。特に何も考えず、たまたま経済学部に入った俺だけど、これからは、経済の勉強をもっとして、大学を卒業したら、きっと、銀行員になるんだ!」


 「いいじゃん優!そっか、夢ができたんだね。私も音楽の教師になることが夢だから、お互い、頑張らなきゃね!」


史香は少し、泣きやみながら言った。


「ありがとう史香。


 実は、今日、前に史香が書いてくれた手紙も、持って来たんだ。確か、ドラマの影響で、チョコレートケーキに入れたやつ、だったよね?手紙、ありがとう史香。本当に、嬉しかった。それで、俺も手紙を書いて来たんだけど…、恥ずかしいから、また後で読んでくれない?」


「ありがとう優。いいよ。」


そして、優は手紙を渡す前に、こう言った。


 「その前に、新川史香さん、大事な話があります。


 俺、いや僕と、もう一度付き合ってください。」


「はい、こんな私でよければ。」


こうして、2人はもう1度、付き合うことになった。そして2人は、改めて、約束の口づけをした。





   ※ ※ ※ ※


 「ねえ史香、もう1度、観覧車乗らない?」


「え~。私、高所恐怖症だって、日記にも手紙にも書いてたでしょ?嫌だよ~。」


「でも、2人の思い出の場所だから、乗っておきたいんだ。


 …ダメかな?」


「う~ん分かった。まあ、こうやって、優の腕にくっついてれば、怖くないかな。」


史香は照れながら、こう言った。そして、2人はもう1度、観覧車に乗った。観覧車から外を見てみると、初めてキスをした、あの時と同じ、綺麗な夕日を、見ることができた。





 そして、観覧車から降りた後、優は史香に話しかけた。


「ね、怖くなかったでしょ?」


「う、うん。まあね…。


 あと、名探偵の大野優くんに、言っておきたいことがあります!さっきは、名推理ありがとうございます!


実は、優くんのさっきの発言のなかで、1つだけ、間違いがあります。さてそれは、何でしょう?


また、よく考えて、答えを教えてください!」


「えっ、そうなの?何かな…。分かった。家に帰ってから、じっくり考えるよ。」


「まあ、大したことじゃないんだけどね。今日は本当にありがとう優!久しぶりのデート、楽しかったよ~。じゃあまた、よろしくね!手紙も、後で読むからね!」


「うん、分かった!じゃあまたね、史香!」


こうして、その日2人は別れた。





 家に帰った優は、史香ともう1度付き合える、という喜びで、胸がいっぱいであった。しかし、


「史香が言っていた、間違いって何だろう?我ながら自分の推理、いい線いってると思ったんだけどな…。


 まあ、ゆっくり考えるとするか。」


優は心の中でそう呟きながら、自分の部屋へと向かった。


 そして、その日の夜遅くに、史香の方から、メールが来た。


 「優へ


 今日は、私に会いに来てくれて、ありがとう。あと、手紙もありがとう。さっき、全部読みました。私、本当に愛されてるなって、心の底から思いました。これからもよろしくね、優。


 それで、帰り際に言った、間違いのことだけど、先に答え、言っておきます。


 実は、例の手紙を、チョコレートケーキに入れるアイデアなんだけど、あれ、実はドラマが始まる前に、私が自分で『したい!』って思ってたことでした。でも、何か、食べ物に手紙を入れて、ひかれちゃったらどうしよう、とか思うと、なかなかできなくて…。


 それで、ドラマを見たら、似たようなことをしていたので、


『ドラマから拝借しました。』


ってことにして、やってみようって、思ったんだ~。だから、まずドラマありきじゃなくて、自分のアイデアで、やってみました!


 どうでもいいことでごめんね。でもそれ以外は、優の言った通りです。優の名推理、かっこ良かったよ。だからちょっと悔しくて、最後にちょっとだけ、意地悪しちゃいました。


 今日は本当にありがとう。そして、これからもよろしくお願いします。少しだけ空白ができた分、これからいっぱい、埋め合わせしようね。


 優のことが世界で1番大好きな


 新川史香より。」 (終)


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