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セカンド・クエスト  作者: 桜片 凪
序章 追憶
2/3

2

そこには、願いがあった。

はじめにあったのは、そう、純粋な祈り。

願いは、ガラスの糸を弾くように奏で。

祈りは、あたかも歌うように響く。

高く低く、何より切なく。

昔から聞こえる、目を背けたくなる「穢れ」を纏わず。


暇を持て余していたのもあった。

気紛れを起こしたとも、言っていいだろう。

他には何もなく、だから、会ってみたくなった。

言葉を交わしてみたいと、初めて思ったのはこの時だ。


一身に祈るその前に現れた自分に、物怖じなく誰何してきた事にまず驚いた。

誰何せずとも、分かるだろうに。

妙な奴だとは思ったが、それ以上に気になった。

質素な神殿の片隅で、偶然と必然により結び付けられた邂逅。


バカがつく程真面目。

朴念仁で、そのくせ情け深い。

何より頑固者。


気付けば、共にある事を当然と思うようになっていた。

心地良かった、陽だまりのような場所だった。


だが、失念していた。

人は脆く、そして儚い。

ちょっとした事で死に、あっと言うまに死ぬ。

老いは待ったをかける間もなく、時間を削っていった。

幼さを残した横顔が、凛々しさを湛えた横顔が、成熟し思慮深い横顔が。

好々爺とした横顔になって、はじめて、恐れた。

近い未来で喪われる日常に。

奴は子を成し、血脈は続くと笑いながら語ったが。



そこに、お前はいないだろう?

血は残っても、お前という存在は消えるだろう?



問いかけに、奴はカラカラと笑った。

まるで置いてきぼりを食らった幼子のようだと。

出逢って何度目かわからない、あやすように頭を撫でる優しい手。

いつ間にかシワにまみれ、時を刻んだその手。

答えは、くれなかった。

ただ、優しく撫でた。

それだけだった。

だが、それは「唯一」となった。

見えぬ呪縛は一族を繁栄させ、王家へと押し上げた。

呪縛はいつの間にか、確固とした呪いとなり、知らぬ間に歪み出す。

そしてー・・・




遠い、遠すぎる記憶だ。

あやつも、もう居ない。

止め置かれ、壊され、癒され。

繰り返し、繰り返し。

うたかたの夢は、少女の見えざる手に慰められ。

同時に、悔恨が、毒のように澱凝る。

ああ、濁ってゆく。

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