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そこには、願いがあった。
はじめにあったのは、そう、純粋な祈り。
願いは、ガラスの糸を弾くように奏で。
祈りは、あたかも歌うように響く。
高く低く、何より切なく。
昔から聞こえる、目を背けたくなる「穢れ」を纏わず。
暇を持て余していたのもあった。
気紛れを起こしたとも、言っていいだろう。
他には何もなく、だから、会ってみたくなった。
言葉を交わしてみたいと、初めて思ったのはこの時だ。
一身に祈るその前に現れた自分に、物怖じなく誰何してきた事にまず驚いた。
誰何せずとも、分かるだろうに。
妙な奴だとは思ったが、それ以上に気になった。
質素な神殿の片隅で、偶然と必然により結び付けられた邂逅。
バカがつく程真面目。
朴念仁で、そのくせ情け深い。
何より頑固者。
気付けば、共にある事を当然と思うようになっていた。
心地良かった、陽だまりのような場所だった。
だが、失念していた。
人は脆く、そして儚い。
ちょっとした事で死に、あっと言うまに死ぬ。
老いは待ったをかける間もなく、時間を削っていった。
幼さを残した横顔が、凛々しさを湛えた横顔が、成熟し思慮深い横顔が。
好々爺とした横顔になって、はじめて、恐れた。
近い未来で喪われる日常に。
奴は子を成し、血脈は続くと笑いながら語ったが。
そこに、お前はいないだろう?
血は残っても、お前という存在は消えるだろう?
問いかけに、奴はカラカラと笑った。
まるで置いてきぼりを食らった幼子のようだと。
出逢って何度目かわからない、あやすように頭を撫でる優しい手。
いつ間にかシワにまみれ、時を刻んだその手。
答えは、くれなかった。
ただ、優しく撫でた。
それだけだった。
だが、それは「唯一」となった。
見えぬ呪縛は一族を繁栄させ、王家へと押し上げた。
呪縛はいつの間にか、確固とした呪いとなり、知らぬ間に歪み出す。
そしてー・・・
遠い、遠すぎる記憶だ。
あやつも、もう居ない。
止め置かれ、壊され、癒され。
繰り返し、繰り返し。
うたかたの夢は、少女の見えざる手に慰められ。
同時に、悔恨が、毒のように澱凝る。
ああ、濁ってゆく。