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幸せになりたい!!!

作者: 御菓子司

ふられた。


クリスマス目前なのに。

年に一度の、女子にとって大切なイベントを控えた、このタイミングにひとりぼっちにさせられるなんて信じられない!


う~。寒さが身に染みる。

街のクリスマスイルミネーションが虚しい気持ちに拍車をかける。

ふとした拍子に、私は彼のことを思い出してばかりいる。


彼は豪快で、とても楽しい人だった。

一緒にいると、私の気持ちも大きくなって、東京が、世界が、まるですべて自分のモノみたいに感じられた。

今は賃貸のワンルームマンションで暮らしている彼だけれど、数年後には、彼ならきっと東京の一等地にそびえるタワーマンションの最上階に住まうような成功を収めるに違いないって思ってた。そして、私は彼にプロポーズされるって信じていた。青年実業家として大成する彼の姿を夢見ていた私。


でも最近、私は薄々、感付いてもいた。

彼は良くないって。

派手で、金使いの荒い、虚栄心が人一倍強いだけの薄っぺらな男だってことを、なんとなく気付き始めていた。

でもね。気付いた時には遅かったの。

私にとって、彼は空気みたいに、なくてはならない存在になっていたし、ペテン師みたいに嘘ばかりの彼の言葉に、その場限りで私は充分に楽しめたし、夢も描けた。

それに、もしかしたら、彼は将来、世間から認められる存在に化けるかもしれないって。万にひとつの「ひょっとしたら」という淡い期待を捨て切れずにいた。

それなのに、よもや彼から捨てられるなんて夢にも思わなかった。


きっかけは些細なこと。

彼から百万円借してくれと言われて、私は断った。

だって、その前に貸した五十万円も、まだ返して貰っていなかったから。

「前に貸した分を返して貰っていないけど?」

そう答えた私に、彼の顔が急に険しくなった。

そして、「いくら貸したの?」って、まるで貸した私の方が悪いみたいな、自分には関係ないことのような口振りで彼は聞き返してきた。

私にとって、お金を借りるという行為は、一刻も早く返さなければならない重大な事だ。かつ、貸してくれた相手には感謝の気持ちと誠意を忘れてはならない。よもや、借りたことも金額も忘れてしまうなんて絶対にありえない。

それを、彼は心底うんざりしたような顔で、ただ不機嫌になって、プイと怒って帰ってしまった。

それは決して借りた人の取る態度ではないと、私は憤った。

砂を噛んだようなジャリジャリとした嫌な後味だけが残った。

どうして、貸してやった方がこんなに嫌な気持ちにさせられるのだろう?

私には全然理解できなかった。


数日後、彼は私が貸した五十万円きっちりを持ってやって来た。

そして、まるで私に恵んでやるかのごとく、お金を私にくれてやると、君とはもう無理だとかなんとか、そんな捨て台詞を吐いて去って行った。

それで終わり。以降、連絡もない。

なんともすっきりしない嫌な気持ちだけが残り、そのザラリとした感覚が、じわじわと寂しさに変わって行った。


ただ、私の中の焦燥感を伴う寂しさは、どうしても彼じゃなきゃダメというのとは少し違う。ただ、今まで彼に捧げた年月だとか、大切に育んできたモノがゼロになってしまう虚しさって言うのかな?親友たちがどんどん結婚している今は殊更、失った時間がもったいなく感じられる。

そう、私は彼など愛していなかった。私が愛していたのは彼と育んだ時間なのだ。

女性の一番いい時を、彼みたいな男に費やしてしまったことが口惜しい。

その気持ちに偽りはない。


けれども、そんな男でも、いざ失ってしまうと、言いようもなく寂しいのだ。

心にぽっかり開いた大きな穴に北風がピューピュー吹き抜ける。

幸せそうなカップルを見ると傷口からドロドロと膿が滲み出てくる。

惨めな気持ちで私は凍え死にそうだ。

何度も彼の電話番号を途中までプッシュして切る私。

彼の行きつけの店に、ちょっと行ってみようかと考えている私。

そんな自分が大嫌い。


ダメ、ダメ、ダメ。

ちゃんと吹っ切らなきゃ。

今日は、新しいコートを買いに行ってみよう。帰りにケーキを買って、花なんかも買って帰ろう。赤い花がいいな。

奮発して腕時計なんかを買っちゃうのもいいかもしれない。

そうやって自分を上げて行こう。でないと、どんどん沈んで行く。

さあ、化粧をして、髪をブローして、おしゃれをして街に繰り出すのだ。

たっぷりショッピングをして、街の巨大なクリスマスツリーを見上げてやろう。

そして、ツリーの頂点で輝く星に願いをかけるのだ。「幸せになりたい!」って。


見てろよ、サンタ。

来年は女を磨いて、ハッピーなクリスマスにしてみせるから!


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