第五話
〜第五話〜
「なぁ……中学生が運転はヤバイって……」
「早いから良いの。それに中学生が運転はダメって差別だよっ」
「差別と言うか常識だろぅ?」
「常識に囚われてたら人間は何も出来なくなっちゃうよ。常識を打破してこそ新技術とかが発展するのっ」
状況が違ってたら良い事を言ってるんだがなぁ……人命が関わってるから止めない訳にもいかないのである。が、夕紀はどこで学んだか知らんが、素晴らしいドライビングテクですいすいと運転している。ってか、これってワガママじゃ無いのですかね……
「うまいな……」
「でしょ? これなら免許が無くてもOKだよねぇ〜」
「そこは全力で否定させてもらおう……まず間違ってるのは中学生が車乗ってる事は違法だからな? 捕まっても知らんぞ」
「警察なんかに捕まらないもんねぇ〜」
「まぁ窓にスモーク張ってるから外からは見えないだろうがな……しかし検問にでも引っかかったらどうするんだ……」
「Uターンで一発だよ」
「マジ?」
そんな事を言ってる間に車はいつもの店に付いた。それと、車にスモークを張るのは違法ですからヤメましょう。
「ふぅ……やっと買い物が出来るな……」
「そうだねぇ〜何を作りたい?」
「料理かぁ……どうせなら自分の好きな物が作りたいよな……」
「好きな物? じゃあ……ハンバーグとか好きだったよね?」
「それは昔の話だな……ガキじゃ無いんだ」
「じゃあ何が好きなのさぁ〜」
「夕紀が作ってくれたご飯」
「自分で作る気無いでしょ?」
「あ、判った?」
「まったく……仕方無いなぁ〜やっぱり夕紀が側にいてあげないと何も出来ない人なんだからぁ〜」
「ははは、悪いね」
「笑い事じゃ無いよぉ〜それに食材買う必要も無くなったじゃん……」
「じゃあ帰るか?」
「そだねぇ〜あ、秘密のプレゼント買わなきゃ」
夕紀が走って車道の向こうの店に行こうとした。そこには車が走りこんで来ていた。
「危ないっ!」
俺は夢中で夕紀を追いかけて夕紀を突き飛ばした。が、俺は思いっきり車と正面衝突をかまして吹っ飛んだ。
「透弥さんっ!?」
「泣いてんのか……? ったく……子供じゃ無いんだから泣くなって言ってるだろぅ……?」
「透弥さん真っ赤だよ……大丈夫じゃないよね……?」
「俺を誰だと思ってやがる……お前の兄ちゃんだぞ……? これくらいじゃ死なねぇよ……」
「本当に?」
「本当だ……まだ死ぬ訳にはいかないな……車道を渡る時は右と左を見てから渡るなんて常識もなってない妹を残したままじゃ死ぬわけにはいかない……まだまだ色々と教えてやらなきゃな……」
「うん……死んだらダメだよ?」
「…………」
「ねぇ……何とか言いなよ。死なないんでしょ? 死んだらダメだよ……ねぇ起きてよ……嫌だ……どうして冷たくなるの……? 夕紀の……所為?」
夕紀はその場に倒れこみ、俺と夕紀はどうやら救急隊の人達に病院まで運ばれた様だ。
話は進み俺のベッドの上……
「ここは……どこだ?」
見慣れない部屋のベッドで俺は寝ていた。少し起き上がろうとすると腹部に強烈な痛みが襲い、全てを思い出した。
「あぁ……確か夕紀をかばって……夕紀も見舞いにくらい来ても良いんじゃ無いかなぁ……」
俺が一人でブツブツ言っていると、俺の病室のドアがノックされて看護士の人が入って来た。
「あら、もう意識が戻ったの?」
「あ、はい……お陰さまでどうやらまだ生きている様です……一つお願いしても良いですか?」
「何かしら?」
「この紙に書いた番号に電話をして、名倉夕紀って女の子を俺の病室まで呼んでくれませんか? 意識が戻ったって言ったら喜んで来ると思うので」
「あの子……アナタの妹さん?」
「あの子って……知ってるんですか?」
「えぇ……でも、今はちょっと会えないわ」
「どうしてですか? 夕紀は別に大した外傷も無かったはずです……俺が守ったんだから……」
「えぇ……外傷は無いけど精神的に……ね。取り合えず今のアナタは会ったら傷の治癒が遅れると思うから……もう少し経ったら……ね?」
どう言う事か意味が判らなかった。夕紀には今、会う事が出来ない? どうして……夕紀に何か会ったのだろうか……
「夕紀って入院してるんですか?」
「えぇ……この病院の501号室に……」
「そうなんですか……じゃあ、俺の傷が治ったら会わせてくれますよね?」
「えぇ……もちろんよ」
俺は看護士が部屋を出て行ったのを見計らって、強烈な痛みを我慢し夕紀の病室まで行く事にした。自分の恋人が入院している理由くらい知っても問題あるまいよ……
「夕紀……入るぞ?」
夕紀の病室から返事は無かった。俺はそのまま夕紀の病室のドアを開けて中に入った。
「夕紀……元気そうじゃ無いか……」
「うわぁ……大きな怪我だ……大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ……お前の為だったらこのくらいの怪我……」
「この怪我……私の所為なんですか? 初めての人に優しいんですね……お見舞いまでしてくれて」
「何を言ってるんだ?」
「何をって……どこかでお会いしましたっけ?」
「お前……自分の名前が判るか?」
「私の名前……私の名前は……あれ? 何だっけ……」
俺は愕然とした。これが看護士が夕紀に俺を会わせたがらない理由。夕紀は記憶喪失になっていた。あの血まみれの俺を見たからか……
俺は夕紀のベッドの近くにあった椅子に腰をかけた。
「良いか、今からお前に俺が色々と教えてやる。別に信じろとは言わないが全部事実だ……」
「そうなんですか……?」
「俺の名前は名倉透弥、お前の名前は名倉夕紀って言うんだ。俺が兄ちゃんで、お前は妹だった。そして、俺はお前の恋人だ」
「そうなんですか……? でも、どうしてだろう……私、何も思い出せない……何も思い出せないのに……アナタの言う事だけは信用出来る……」
「そっか……夕紀、お前は記憶を取り戻したいか?」
「はい……私は本当の記憶が欲しい……こんな何も覚えて無いなんて嫌です……アナタは私の恋人なんですよね?」
「そうだ……」
「それだったら……なおさら取り戻したい……アナタは初めて会ったと思っていても一緒にいたら何だか幸せな気分にさせてくれる……そんなアナタと一緒にいた時の記憶が欲しい……」
「そうか……俺が教えてやるよ……お前の失った記憶を全部……全部だ。俺も今は療養中でな……毎日は無理かも知れないけど……傷が治ったら教えてやる。それともお前が俺の病室に来てくれたら教えてやるよ……」
「ありがとうございます……」
「そんな敬語になるなってっ。いつもお前は自分の事を夕紀って呼んで、俺の事を透弥さんって呼んでたんだぞ?」
「そうなんですか……」
「だから敬語はやめろって。あ、俺はそろそろ帰るな」
「うん、今日はありがとう透弥さん……こんな感じで良いのかなぁ……?」
「そんな感じだ」
俺は夕紀の病室を後にして、自分の病室に戻って行った。記憶喪失か……最初はショックだったけど、今はそれ程ショックでは無い。何故なら、俺に夕紀の記憶喪失を治せる自信があったからだ……いや、俺にしか治せない……
看護士の話によると、俺が夕紀の病室に行った日から夕紀は積極的に外に出ようとしていた様だ。もちろん俺と違って看護士の許可を取ってからだ。
〜続く〜




