新しい主
「…な、なあ澪。
あ、あれ、なんだ…?」
震える指で指し示す先には二人の目の前に現れた妖をいとも簡単に祓った、3匹の妖。
それが2匹は無表情のままで、またもう一匹は興味津々顔で近づいてくるもんだから当然だろう。
だが、その前に。
「お前、“あれ”が視えるのか!?」
さっきまで澪を食らおうとしていた妖は視えていなかったはずなのに。
「え…?あれ…
そういえばなんで視えるんだろう…俺に“妖視”の力はないはずなのに」
混乱して黙り込む二人に、白弧が自慢げに口を開いた。
「そ~れ~はっ
僕らが君にも見えるように妖気を強めてるからだよっ」
「よ、妖気…?」
「妖気も知らぬのか
あの主様の弟である貴様が」
「…っ」
奥から放たれる鋭く、突き刺さるような冷たい視線に夕真は思わず視線を逸らした。
「やめろ、鳳。
それに白弧、君と呼ぶな
主、とお呼びしろ」
「主ではない。
わが主は“あのお方”だけだ」
そう言い放つと鳳は巨大な翼を広げ、姿を消した。
「ごめんね?
鳳は悪い奴じゃないんだけど頑なでさ」
「お許しください、主」
「あ、い、いや、そ、そんなに気にしなくていいから!」
右足を下げ、深々と頭を下げる夜狩に、夕真はあわてて両手を振って見せた。
「僕らの新しい主は君だから。
用があったらすぐ呼んでね
名前を呼ぶだけでいいから」
「あと、こちらを」
そういって夜狩が差し出したのは、数多の用具。
「これは?」
「陰陽用具です。
それをお使いください
まだまだ数多の妖たちがこの町に潜んでおりますから」
そういって夜狩は空を見上げた。
厚い雲のかかった空からは何も読めない。
「では、これにて失礼いたします」
「またね、主」
はっ、と空から視線を移したときにはもう二匹の姿はなかった。