手
「走れ!」
澪の声で地を思いっきり蹴った夕真。
耳元で風がうなる。
走ることは好きだ。
特に親友で、いいライバルでもある澪と走るのは格別だ。
そんな夕真の脳裏に浮かんでいた幸せな光景は一瞬でかき消された。
空を裂くような鋭い悲鳴で。
「…!?」
思わず足を止め、夕真は振り返った。
その夕真の瞳が大きく見開かれた。
自分の後ろにいたはずの澪の姿はなかった。
そのかわり、何かに強引に押し倒されたかのように、地に倒れていた。
顔面蒼白で伸ばした両手は何かをつかもうとしているかのように、宙をさまよっている。
「れ、澪・・・?」
自分の目はおかしくなってしまったのだろうか。
いや、違う
何度目をこすってみても、固くつむってみてもその光景は変わらない。
むしろ澪の姿がどんどん離れていく。
まるで、何かに引きずられているかのように。
何が起こっているのかわからず、固まったままの夕真の瞳は、瞠目している澪とぶつかった。
「!?夕真!?
なんでそこに!?にげたんじゃ!?」
「っ、澪!」
何かが起こってる
そう判断した夕真は澪に向かって駆け出した。
が。
「っ、ばか!くんな!
早く逃げろよ!」
「何言ってんだよ、逃げられるわけねえだろ!
早く手え伸ばせ!」
「いいから逃げろ!
視えもしないくせにどうやって戦う気なんだよ!」
「は!?何言って・・・」
「・・・視えもしない癖に?
じゃあ今お前を引きずってんのは…妖?」
「・・・!
なんで気づくんだよ・・・
お前を逃がした意味・・・なくなるだろ・・・」
「ばか!余計逃げられねえよ!
早く・・・」
その時、突然強い光が舞い降り、二人を包んだ。