08「テストプレーの代償」
さて、彼らの返答はといえば。
「さあ、し、知らねえな。奴隷商の知り合いなんていねえよ」
役に立たない。やはり、村にうろついているチンピラなどこの程度だろう。
どうやらシュトーレを救うためにはもう少し深いところまで、この村の闇を見通す必要がありそうだ。
「よかろう、では次の質問だ。この村で一番の悪人は誰だ?」
私はそんな質問をした。これは有効だろう。
『エギナ』では始まりの村にそれほど深い設定をつけていない。普通の村である。狭いコミュニティであると思われるが、それでも5歳児の目には見通すことのできない部分が多い。
そこで、霧の力を借りて大人たちの口から聞くのだ。
「そりゃ村長だ。息子には甘くてやりたい放題させてやがる。
まあそんな悪党がいるおかげで俺たちも仕事がしやすいんだが」
村長と、その息子か。
重要な情報を入手した気がする。私は村長について少し質問を重ねた後、彼らを解放してやった。
別に十分な情報が手に入って満足したわけではない。眠くなってきたのだ。
子供の体が恨めしい。
私はあくびをしながら孤児院に戻り、ゆっくり眠りについた。
翌朝の水汲みは非常に大儀だった。
それでも草むしりをさっさと午前中に終えて、私はすばやく昼寝の態勢に入った。毛布をかぶって、部屋の隅で座って寝る。
日がな一日、石のように眠り続けた。その日、クオードは隣の村まで出かける用事があったはずなので、誰に何を言われるということもない。睡眠時間をたっぷり確保した。
そして深夜になると同時に、私は村を再び霧で覆った。
霧に包まれた始まりの村を、孤児院の屋根から見下ろす。
私は、いまや気づいていた。霧の魔法は確かに強力で研鑽を重ねた魔法であるが、村を覆うほどのものを作り出せば、普通なら魔法力が枯渇してしまうはずだということを。
しかし、私はまったく平気である。枯渇するはずもない。無限に近いほど、魔力が私の中に満ちている。
私は火の魔法を体内で練り上げて、力いっぱいに夜空を指差した。
瞬間、天を焦がすような強烈な火柱が私の指先から吹き上がった。最下級の火魔法とは思えない、すさまじい力である。
これほどの集中力、魔力は普通なら到底ありえない。また、私はいささかも疲れていない。
屋根に上ることができるほどの筋力、蹴られてもまるで痛くない耐久力、信じがたいほどの魔法力。
これらを考えた結果、私がだした結論はひとつだ。
すでに、私のレベルはカンストしている。これだ。
私はテストプレー状態で剣士、盗賊、僧侶のエンディングチェックを行っていた。魔法使いに関しても、同じ状態でプレーを行おうとしていた。当然、そのままスタートすれば最初からレベルは最大である。
『エギナ』におけるプレイヤーキャラクターの最大レベルは4000だ。通常プレイなら50もあればクリアできるので、このカンスト状態のプレイヤーキャラクターを倒すことのできるNPCなど存在するはずもない。
この状態でなら、パワーロッドを握るまでもなくNPCを倒せるだろう。
レベルがカンストしていると考えれば、何の苦もなく霧の魔法が覚えられたことや、脆弱の魔法が異常な効果を発揮したことも説明がつく。
やろうと思えば、シュトーレを力づくで助け出すということも簡単にできる。
全てを滅ぼしてしまえばいいのだ。霧の魔法など必要なく、魔法で全部破壊して懲らしめてやるだけですむ。
だが、今の私はそれをやる気にはなれなかった。そんなことをしてしまえば、5歳児の居場所はなくなってしまうだろう。ほかの多くの孤児院にいる子供たちも同じだ。
ゆえに、力押しで全部解決するのは最後の手段にしたい。
今はただ、霧の夜に町へ出て、情報を集めるのだ。そして、最善の手段を考えるのだ。
シュトーレやクオードを、そしてあの孤児院を守るためだ。
しかし、今夜はなかなかうまいターゲットが見つからなかった。平和な夜なのかもしれない。
レベルカンスト状態だと意識してからは、身体能力の高さを信じて色々と試している。
この体重の軽さを利用し、屋根から屋根へ飛び移ることも可能だった。
まるでどこかの超能力者のようだ。やろうと思えばテレキネシスも使えるだろうし、テレポーテーションに似た魔法も使える。今の私には簡単なことだ。
まさしくもって無敵だが、それでも私はある欲求を抑えられない。
この状態でパワーロッドを握ったらどれだけ馬鹿げた威力になるだろうか。
もうそれが楽しみで仕方がなかった。城壁など一撃で砕けたりしないだろうか。楽しみである。本当に楽しみだった。
霧に覆われたこの村で、私は無敵。なんでもできる。
だが、今はシュトーレを救うことができずにいる。彼女を探して、何とか助け出したい。
村長の屋敷に行くしかないかもしれない。まあ、例え見つかったところで適当な言い訳は可能だ。いざとなれば全てぶち壊して逃げればよい。
私は、村長の屋敷へと向かった。村の中でもひときわ大きいのですぐに発見できる。
三階建ての屋敷に到着した。孤児院からは数百メートル程度の距離しか離れていない。
門は大きいが、門番はいなかった。押し開こうとしたが、鍵がかかっている。
テレキネシスで押し開いてもいいが、飛び越えるほうが早そうだ。私は屋敷の中に忍び込んだ。